とりあえず夜を廻ろうか   作:ミシシ

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今回はちょっと長くなりました。
終わりも近づいてきていつの間にか評価バーに色が。
本当にありがとうございます。ありがとうございます!



とりあえず人間もやばい

ゆっくりと目を開くとどこかの廃工場が目に入る。

 

諦めかけていたがどうやらまだ生きているようだ。

 

冷たい地面に手を付け、ゆっくりと立ち上がろうとする。

だが体に力が入らずすぐに元の位置に戻るように倒れてしまった。

 

よまわりさんの仕業か、それとも今までの無理がきたのか意識がふわふわするような不思議な感覚が体を襲う。

それを歯を食いしばり、近くに落ちていた鉄パイプを杖代わりに立ち上がる。

 

こんなところで寝ていたらいつ『ナニカ』に襲われるかわかったもんじゃない。

せめて安全そうな身を隠せる場所で休みたい。

 

鉄パイプを杖代わりに、倒れないようにゆっくりと隠れられる場所を探す。

もし今見つかったら逃げ切れる自信なんかこれっぽっちも思っていない。

 

 

少しふらつきながら歩いていると何処かから小さな話声が聞こえた。

本来ならそのまま逃げてしまおうと思ったがその声に聞き覚えがあり、微かな希望を胸にゆっくりと歩いていく。

 

近づくにつれてその声は大きくなり希望が確信えと変わった。

走りたかったが体が言うことを聞かずもどかしい気持ちを飲み込みゆっくりと近づいていく。

 

ある程度近づき少女の姉が誰かと話しているのがわかった。

もしかしたら『ナニカ』の可能性も無いとは言い切れないので近くの物陰に隠れて少し申し訳なく思いながら聞き耳を立てる。

 

「私にもまだできることがあるんでしょうか」

「それを判断するためにも、行動しなきゃ」

 

よくわからないが男の人は少女の姉をコンテナから出そうと説得しているようだ。

 

悪い人じゃないな…

 

そう思いその男の人に近づく。

 

男の人は俺の存在に気づいたのか、俺がいる方へと目を向ける。

 

目があった瞬間喉の奥がひきつる。

 

目の前の男を見ると目は胡乱げで視線は定まっておらず服装もよく見れば所々ヨレヨレで泥まみれだった。

 

「おや?、君……」

 

男の声を遮りコンテナの中にいる少女の姉に向かって叫ぶ。

 

「早く扉閉めろ!!」

 

「え?」

 

少女の姉は状況を確かめようとしたのか少しだけコンテナの扉を開けてしまった。

すかさず男はその隙間に手を捻り込み中にいる少女の姉の手首を掴む。

 

ただでさえ意識がどひそうな体でその男に体当たりをする。

男は少女の姉に意識を向けていたからか簡単に突き飛ばすことができた。

しかし踏ん張りが聞かず俺自身も重力に逆らうことなく地面に体を強く打ち付ける。

 

二の腕を擦り剥き血が滲む。

立ち上がろうとすると横腹に衝撃と激痛が走った。

その場から吹っ飛ばされ地面を転がる。頭はクラクラして横たわっているのか浮いているのかわからない。

 

横腹を抑えながら地面に手を付け立ち上がる。

すぐ目の前には横腹をぶっ蹴った男が頬を掻きむしりながらゆっくりと近づいてくる。

 

「あと少しで手に入ったのに…あと少しで手に入ったのに…」

 

同じ言葉を呟き視線は左右上下に不規則に動き。ゆっくりと俺に近づいてくる。

 

こんな狂った男に言葉が通じるかわからないが少しでもと意思疎通を試す。

 

「何を、欲しがってるんだ…?」

 

「……何って?…あぁ…あの子が手に持ってるものだよ…」

 

男は焦点が合わないめでコンテナを見る。

 

コンテナの扉を開けてこちらを涙目で見ている少女の姉と目があった。そしてその手に握られているものを見る。

少し紐が手からはみ出ていたから分かったがあれはお守りだ。

 

「…お守りがほしいのか?」

 

なるべく刺激しないように尋ねる。

 

「ほしいんじゃない、あれが邪魔なんだ、だからあいつみたいに…」

 

「あいつ?」

 

「あいつも苦労はしたんだ、でも…まだ見つかってないはずだし、なんとかなる、何とかなるさ」

 

言葉のキャッチボールができない。それにあいつって誰だ?苦労した?

 

考えれば考えるほどじっとりと嫌な汗が出る。

 

「たくさん刺したし、あの高さだし、確認もした、うん、大丈夫だ、きっと」

 

モヤがかかっていた記憶が晴れた。その時、息が止まるかと思った。

もし俺の思っていることがあってるならこいつは…

 

覚悟を決めて上擦りそうなのを我慢して声を出す。

 

「もしかして、あいつってさ…崖下にいた死体?」

 

「……そうだよ」

 

目の前の男は人殺しだった。ゲームでは確か田んぼの方で襲われる白いワンピースを着たナニカがいて、その何かは落とし物を返してほしくて襲ってきた。

 

「いつの間にかさ、恋人になってさ、正直重くて、勝手に死んでくれないかなって…」

 

目の前の男は聞いてもいない事を話し始める。最初は嫌悪感しかなかったが今ではその一言一言が恐ろしく怖い。

 

チラリとコンテナを見る。

少女の姉は顔を青ざめて口元を抑えている。真面目そうな男の人が実は人殺しだなんて…考えただけでも背筋が凍る。

 

「その時さ、『声』が聞こえたんだ」

 

「こ…声?」

 

恐怖と目眩で倒れそうになるのを後ろにある少女の姉とは離れているコンテナを背にして体を支え、聞き返す。

 

「うん。『殺していい』って。大丈夫だから、って…だから殺した。」

 

目の前の男が…俺には化物に見えた。


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