幼馴染が根源の姫だった件   作:ななせせせ

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最近何故か小説界隈の方からフォローされることが多く、我が身を振り返って悲しくなったので帰ってきました。
今年こそ小説応募して来年には「僕もラノベ作家の仲間入りですありがとうございます」って言えるようにするんだ……

あと今回は待ちに待ったキャットファイトだぞ。喜べ?


5

 飛沫が舞う。

 月明かりに照らされたそれがきらきらと散っていく様はまるで宝石箱をひっくり返したみたいで、今いるのが人気のない工場跡であることを忘れそうなほどだった。

 チリチリと肌を刺す殺気も、魔力のうねりも、交差の度に散る血も、そのどれもが幻想的に映る。

 

 ――ああ、恋をすると世界が変わって見えるというのはこのことだったんだ。

 

 

「それで……そろそろ諦めてくれない? 私も友達を傷付けるのは本意じゃないの」

「……っ、ほんとに苛つかせてくれるわね」

「こんな意味のないこと、もうやめましょう?」

 

 

 互いに魔術をぶつけ合い、命を削る戦い。

 けれどそれは数度の交錯を経て一方的な様相を呈していた。

 

 美沙夜ちゃんは満身創痍――とはいかないまでも、その身体はぼろぼろ。

 特に多いのは裂傷で、その次に擦り傷と火傷。息も上がっている。

 

 対して私は無傷。体力だってまだまだ十分にある。

 力の差は歴然。

 美沙夜ちゃんの勝ち目なんてありはしない。

 

 命を削る戦い、にしてはあまりにも差がありすぎる。

 

 

「はっ……道化もここまでくると憐れね」

「まだ勝てると思っているの?」

「本気であの女(沙条愛歌)になろうとしている割には――手緩い戦い方していること、気付いていないでしょう?」

 

 

 ぴきり、と。

 張り付けていた笑みに罅が入ったのを感じる。

 

 違う。

 

 

「貴女が思っている以上にあの女は冷酷で、残酷で、非道で、魔術師らしい魔術師だった。あの人の前ではおくびにも出さなかったけれど……あの女の本性は獣ね。ヒトの皮を被った悍ましい獣」

「……るさい」

「私もそれなりに冷酷だという自覚はあるつもりだけど、あれはそもそもそういう発想もないのでしょうね。目的のためなら何だってやる。貴女の姉(沙条愛歌)はそういうものよ」

「うるさいうるさいうるさい……!!」

 

 

 感情任せに放った魔術はその身体を掠めることすらなく虚空へと消えていく。

 ボロボロと崩れていくのは鍍金の自分。

 『こうあってほしい』『こうだったはずだ』という姉の姿。

 

 

「――沙条綾香。貴女が本当にあの女になるつもりなら、私を殺していたはず」

「うるさいっ!! 私……私は沙条愛歌なの! そうじゃないといけないの!」

「ほんと、苛々させる……いいわ。貴女が本当にあの女になるつもりなら仮にも友人だったもの、ライバルだったものとして――」

 

 

 その紅眼が、煌いて。

 

 

「この手で貴女を殺してあげる」

「っぅ……⁉」

 

 

 瞬間、先程までとは比べ物にならない程の殺気が全身を突き刺した。

 ぶわりと総毛立った肌が、自然と震えだす身体が、乱れた呼吸が――否が応でも教えてくる。

 

 先程まで本気を出していなかったのは玲瓏館美沙夜だった、と――

 

 

「今までのはただのお遊び。今の貴女がどんなものかを知るための確認」

 

 

 犬の遠吠えが聞こえる。

 一匹だけじゃない。

 二、三、四――まだ増えている。

 

 やがて薄ぼんやりとした月明りでは見通せない暗闇の奥からのそりと姿を現したのは狼――違う。これは、犬だ。

 

 

「今の私は、玲瓏館ではないけれど――その教えは残っている。あの女の真似をして背伸びをしているだけの貴女が敵うと思う?」

「それは……」

「……ねえ綾香。こうしましょうか。貴女があの人から手を引いて諦めるというのなら、見逃してあげる。貴女は家に帰ってその無様な姿で閉じこもっていればいいわ」

 

 

 完全に見下されている。

 玲瓏館美沙夜という人間は確かにそういう人間だった。

 良くも悪くも、お兄ちゃんのせいで分からなくなっていただけで。

 

 月光に照らされながら酷薄に笑う姿はまさに女帝染みていて、色んな意味で敵わないという弱気な心が湧き上がってくる。

 

 ……。

 

 

「……だ」

「聞こえないわ」

「……い、いやだ」

 

 

 本当は分かっていた。

 きっと、お姉ちゃんにとって私はよく懐いている野良猫程度の存在なのだろうと。

 美沙夜ちゃんにとってもただの恋敵でしかないのだろうと。

 そして、お兄ちゃんにとっては……よく、分からない。

 

 ――それでも。

 

 どれだけ無様でも、惨めでも、みっともなくても。

 この恋だけは、諦めたくない。

 

 

「――そう」

「うん」

「まあ、諦めるなんて言ったのならその瞬間に殺していたけれど」

 

 

 ……そうだと思った。

 玲瓏館美沙夜は、そういう女だから。

 

 

「そのみっともなさに免じてこれ()は使わないでおいてあげるわ」

 

 

 その言葉通りにすっ……とどこかに消えていく犬たち。

 けれどそれが終戦を意味するわけではない。

 

 

 これは、生きるか死ぬかの戦争()なのだから。




美沙夜ちゃんはいい女。
なんというか書いているうちに美沙夜と綾香がすっごいドロドロした友情を築いていた感じになっちゃいましたね。


ついでに今後の予定についてちらりと。

今作「幼馴染が根源の姫だった件」についてはあと2、3話で終わります。
前にも言っていたように第三部の終了をもって本編更新を終了し、以降は閑話の更新はあるかもしれませんが、基本的に更新しないものとなります。

で、そこからですね。
二次創作の小説については一旦後回しにして、僕がオリジナルで書いていた小説の更新・完結を優先的にやらせていただきたいと思います。
自作小説の練習も兼ねて、という形です。
出来ればさささっと全部完結まで書き上げて風呂敷を畳んでしまいたいんですが、おじさんお絵描きも好きだからさ……中々難しいんだこれが(遠い目)

第三部のメインヒロインは?

  • 沙条愛歌
  • 愛歌ちゃん様
  • 根源接続ラスボス系お姉ちゃん
  • 半ゾンビファブリーズ

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