まあ、挨拶はさておき。
長く開けてしまってすみません。
二つほど連絡があります。いいのと悪いの、二つあります。
まず、悪い方。
結果から言いますと、GA文庫の応募期限には間に合いませんでした。
趣味で書いているのと、『本』を意識して書くのではかなり気持ちやらなんやらで大きく変わるんだなというのを実感した一月でした。
今回前期には間に合いませんでしたが、後期の方には間に合うように、作家になるべく日々勉強して執筆に励んでいきたいと思います。
良い方は、たくさんあります。
なんと、『幼馴染が根源の姫だった件』のUAが100万を突破しました!
ありがとうございます!
めでたい!
それだけでなく、連載開始から一年を過ぎたという事や、この話で第二部も終わりということもあります。
ここまで皆さんに応援していただいたこと、感謝してもしきれません。
ここまでお付き合いくださった皆さんに感謝の気持ちを伝えたいと思います。
ですが私に出来るお礼なんて、話を書く、ということしかない……ということで!
リクエストで何かやります。
こいついっつもリクエストやってんな、って思われたと思うのですが、今回は違います。
いつもなら一話程度ですが、今回はもっと長めに、5話くらいの間章をどどんとプレゼントする形でどうかなーと考えています。
別にもっと他の何か要望があれば全然そちらでも構いませんので、どしどしこういうの読みたい、やってほしいというのを送ってください。
先着順ということで、後で活動報告のほうにアンケート用の記事を作っておきます。
それから、TwitterのほうでもP226 @FROM_tachankaという垢で活動していますが、そちらの方でも募集しておきたいと思います。
走る。
走る。
走る。
考えは纏まらない。
今にでも叫びだしたいくらい胸の中で想いが荒れ狂っている。
けれど、それでも。
ここで逃げだしたら、
――どうせ、今回も無理。
どこからともなく、誰かの声が聞こえてくる。
その声からは、どうしようもないくらいの羨望と嫉妬が感じられた。
ひたひたと這いよるような声を無視して走っていくと――いた!
「待って……!」
逃げられた。
ズキリ、と胸に痛みが走って思わず動きを止めてしまう。
予想以上の健脚を見せる彼がどんどん遠ざかっていく。
――ね? やっぱり
違う。
絶対に違う。
私はそんな
だって――だって、ようやく巡り合えた、私の、私だけの王子様なのだから。
本気で恋をして、心の底から欲しいと願える、たった一人。
どこの沙条愛歌だって、ここまで来ることが出来なかった存在――
「……あ、れ?」
そう。そうだ。
私は酷い思い違いをしていたのかもしれない。
この『声』は。
私のものだけれど、私自身のものでは、ないのかも。
これは、この『声』は――
「並行世界の
きっと、そう。
そのどうしようもないくらいの悲しみと、羨望と、嫉妬とを滲ませるその『声』は。
「――彼を、殺してしまった
返事はない。
夜街の喧騒も遠く、静寂が広がっている。
彼はまだ廃ビルの階段を転びながら駆け上がっている。
「最初に出会ったとき、未来についての考えを聞いたとき、それから成長してから出会ったとき。敵として、異物として、愛する人として――殺してしまった、私」
未来視を使えなくする敵として殺し、理解出来ない考えを持つ異物として殺し、もう手に入らない愛する人として殺す。
そうして殺してしまった沙条愛歌の末路も、私は見ていた。
「ええ、辛いでしょう。苦しいでしょう。けれど、
――あっ
虚空に向けて腕を振るう。
ただそれだけで
あれは、ありえたかもしれない私だ。
私と繋がったことでありえたかもしれない未来を視てしまった、終わった後の私だ。
だから羨ましくて、妬ましくて、それでいて悲しい。
けれど。
間違ってしまったのは、『私』なのだから。
こちらの様子を見せてしまったことはちょっと申し訳なく思うけれど、うん。
自業自得よね。
「……ええ。私はまだ、間違えていないもの。ううん。これからも、ずっと。何度繰り返したって、
まずは捕まえに行かないと、ね。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
廃ビルの屋上まで一気に移動すると、彼は全身傷だらけで仰向けになっていた。
どしゃ降りの雨に打たれながら、疲れた顔で空を見上げている。
そんなになるまで思いつめていたということが棘のように私の心を突き刺す。
けれど、そんなことよりも彼の顔を見て酷く安心する気持ちの方が大きかった。
本当に、心の底から安心した。
いえ、まさか彼の身に何か起こるなんてことはありえないのだけど。
間違えてしまった『私』のことを考えていたせいか、ナーバスになっているのかもしれない。
「……っ、すんっ……」
「けほっ、こふっ……流石に、根源接続者は違うな。ル〇ラでひとっ飛びか」
だめ。
今は、この瞬間は、少しでも彼から意識を逸らしてはいけない。
多分ここが分岐点だから。
ちゃんと、彼のことを見なくては。
躊躇ったのは一瞬。
今まで意識的にかけていた能力の制限を、取り払う。
(っ……!)
濁流のように流れ込んでくる、彼の感情。
表面的な感情しか見てこなかった私の知らない、本音の彼。
マグマみたいに煮えたぎっているのに、氷のように冷たい。そんな不思議な感覚。
この冷たさは、きっと私が奥へと押し込んだせいだ。
色々な想いが流れ込んでくる中で、一際強いもの。
『
「……どうして? わたしはあなたなら、いつだって……!」
瞬間。
ぶわりと膨れ上がった彼の感情が私を飲み込む。
凡そ人間が持ちうる悪感情の全て。
何年も何年も隠してきた彼のそれは、それでも真っすぐだった。
「……出来るわけないだろ、そんなこと……! ずっと怖かったんだよ! いつかお前がセイバーを召喚して離れていくんじゃないかって、本編の時間を通り過ぎたことなんてなんの気休めにもならない! いつ聖杯戦争に参加するのか、セイバーを呼びだすのか、そして――そして、恋をするのかって気が気じゃなかったんだ! 手に入らないなら、離れていくなら、深入りしないほうがいいじゃないか!」
――私は最低だ。
結局どこまでも自分の思いばかりを優先して、傷ついた彼のことを思いやれてなんてなかった。
表面的な感情しか見ないのは、怖かったから。
色々理由をつけて誤魔化していたけれど、結局私は怖がっていただけなのだ。
正面から向き合うことを、自分からぶつかっていくことを。
だって、フラれたりなんかしたら辛くて、悲しくて、どうすればいいのか分からないから。
だから彼の方から告白してくるのを待って、私の方から告白することのないように、必死で逃げ回って。
ぐるぐると自責の念が駆け巡る私の耳に、彼の声が届く。
「――ああ、認めるよ。俺は沙条愛歌が大好きだ、愛してる! この世の誰よりも、何よりも大事だ! 高々ブリテンのトップ張ってた程度のやつに奪われるなんて認められない!」
呼吸が止まった。
驚きのあまり二つ先のビルを消滅させて再生させた。
夢、ではないのよね。
本当に今、私のことを好きだって。
……いえ。
私は、頷けない。
頷いては、いけない。
「あの、その。すごく嬉しいのだけど……どうしても、頷けないわ」
「……っ、は。いや、うん。分かってたことだから、いいよ」
「ああ待って誤解しないで! 違うの!」
彼の深い絶望と、悲しみが伝わってくる。
違うのに、分かってほしいのに。
このままでは彼がどこかに行ってしまいそうで、それを繋ぎとめておきたくて、その手を握りしめた。
「愛歌……?」
「違うの。本当は、あなたが思っているほど私は完璧じゃない。あなたが知っているような『
怖い。
これから言うことを聞いた後の反応を想像して、身体が震える。
それでもこれは、これだけは分かってほしくて。
どうしても伝えておきたいことが、あった。
「ずっと、ずっと怖かったの。本当の私を知ったら離れてしまうんじゃないかって、怖くて怖くて堪らなかった」
「愛歌……」
「ごめんなさい。私、あなたに酷いことをしたわ。色々と言い訳して、隠してきたけれど、本当は怖かっただけなの。あなたがセイバーのように、離れていくのが怖かったの」
あの、中学生の時も。
いつだってそう。
私は誰よりも臆病だった。
気を抜けばすぐに倒れてしまいそうな緊張感の中、震える唇を何とか動かす。
「でも、これだけは知っていてほしいの。私は――沙条愛歌は、あなたのことを心から愛してる」
言った。
言ってしまった。
私にとってはただの
きっとフラれるだろう、という予感があった。
こんなにボロボロと涙を零しながら告白する姿は彼の思い描く沙条愛歌とかけ離れている。
幻滅しただろう。
「愛歌、顔あげて」
優しい声。
ゆっくりと顔をあげると、いつの間にか空は晴れていた。
彼は今まで見たことがない笑顔を浮かべている。
「さっきも言ったけど、もう一度言うよ。俺は沙条愛歌が大好きだ。この世の何よりも、誰よりも、愛してる。それは今更愛歌の新しい面が出てきた所で変わりはしない。だから愛歌がそのことをどう思っていようと、俺は気にしてないから」
「でも、私は……!」
「そんなのどうだっていいんだ」
私にとっては重大だったことを、そんなの、で片づけられたことで言葉を失ってしまう。
「俺と付き合ってほしい」
シンプルなその言葉が、思考まで奪っていく。
半ば夢見心地で、彼の言葉を反芻する。
……私で本当にいいのかな。
「というか、愛歌じゃないと駄目だ。他の誰かじゃ駄目なんだよ」
「本当に?」
「なんなら、証明して見せようか」
抱き締められた。
二度と離れないというように、強く、強く。
「……ね、お願い。一つだけ我儘を聞いてもらってもいい?」
「いいけど」
「もう一回だけ、告白して?」
目に見えて彼の顔が歪む。
安請け負いしたことを後悔している表情。
そんな表情でさえも、愛おしい。
「……愛歌、俺と付き合ってほしい」
返事の代わりに、長く、深く、唇を重ね合わせて。
彼が事態を理解するのに数秒。
息継ぎのために唇を離すと同時にようやく何をしていたか理解した彼が、鼻血を吹きながら意識を失う。
それでも、私の手はぎゅっと握りしめたままでいてくれて。
これ以上ないと思っていた彼を好きな気持ちが、また一つ増える。
――こうして、ようやく私たちは恋人同士になったのだった。
エピローグに続く。
トゥルーの条件は愛歌様が色々と吐き出すこと。
バッドは諦めてやり直したり、二人きりでいいやってなること。
グッドは気絶王の告白を受け入れること。
一番の強敵は自分自身だったんだよ!()
そんな感じです。
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