ギリギリとした胃痛もなくなり、心も安定してきたので軽めのものを投稿。
――生まれ変わり、というものが存在する。
それは古来から宗教の中で信じられてきた概念であり、また近年に至っては創作の対象とされるほどに浸透しているある種の常識染みたものだ。
そして、かくいう私も。畜生に生まれ変わるという作品も多い中では幸運なことに、また人間に生まれ変わることが出来た一人だ。欲をいえば、前世において男としての人生を全うしたために、今生においてもまた男として生まれていたかったものだが、それはそれで仕方ない。私が私としてここに存在していることを喜ぶべきだろう。うん。
けれども、この状況は確実に望んでいなかった。例え私が死ぬ間際に生まれ変わりを望んだとしても――夢が毎回理想郷に繋がるなどという超常現象は望んでいない。
花が咲き乱れる中に、
地上の花々を眺めながらどうしてこうなったのかと自問し続ける。……答えは出ない。けれど、答えを知っていそうなやつの声が聞こえてきた。
「おや? また来たのかい? 物好きだね、君も」
「自分の意思で来ているみたいに言わないで欲しい。気付いたら来ている、というのが私の感覚だ」
「そんな……私に会いに来たわけじゃないのかい?」
「……まあ、貴方に会えたらいいなとは思っていたけどね」
振り向くと、まるで眼下の花畑のような髪色をした不思議な男――マーリンがいる。実を言うと私は前世から彼のことを
彼、マーリンはとある作品の登場人物だった――と私の認識ではなっている――はずの存在だ。最高のキングメイカーにして半夢魔。アーサー王を育て、導いた親のような存在である。問題は彼にとって人間がどうでもいい存在であるということか。人間が好きなのではなく、人間の描くハッピーエンドが好きという理由で、人間にちょっかいをかけている迷惑な奴。
「とはいえ、毎日毎日呼ばれると身体が持たないだろう」
「それはあれかい? 疲れが取れないせいで学校で寝てしまうとか、そもそも疲れていて学校にいけないとか、そういう理由かい?」
「そうだよ。身体的な疲れは取れていても精神的な疲れまではマッサージとかでは取れないし」
「ううむ、それは困ったな。君が来てくれなくなるのは本当に困る」
この世界から隔絶されたはずの空間に一人、ずっと引きこもっていた男。……絶対に口に出したりはしないが、実のところ、私はこの男のことが好きだ。もういっそ愛しているといってもいいかもしれない。私が元男であったこととか、そのあたりの葛藤はもちろんある。しかも相手が相手だし。
でもどうしようもなかった。なんでか分からないけど好きになってしまって、どうしても会いたくなる。前世では経験のないほど激しい感情。本当の恋というやつがこれなのかもしれない。
「……どうせ、話し相手がいないとつまらないとか、女の子をいじり倒すのが出来なくなるとか、そんなことだろ。それなら、ここに籠っていないで外に出てくればいいじゃないか。好きなだけ出来るようになるぞ」
「酷いな、君!? 私がそんなことしか考えていないとでも思っているのかい?」
「むしろ今までの自分の言動を顧みて、それでもそんなことが言えるなら私はお前をクズ以下のウジだと認識しなおすよ」
はぁ、やれやれ。なんでこんなやつを好きになってしまったんだか。恋人の一人でもできればこのナチュラル畜生のこともなんとも思わなくなるんだろうか。……いや、ないだろうな。きっと私は死ぬまでこいつのことを好きでいる。あー、いや、どうだろう?
なんて一人悶々としていると、ふわ、と花の香りが強くなった。いや、訂正。これは……抱きしめられている――!?
「ちょっ、はぁっ!? なん、なんでやねん!」
「おお、いい動揺っぷりだ。まるで好きな人に突然抱きしめられた人のような反応だね?」
「どどど、動揺してないわ! これはあれだ、そう、あれだよ!」
「どれのことなんだ、というツッコミ待ちと捉えていいのかな、それは。それにしても、ああ――やっぱり、君は柔らかいなぁ。特にここなんて、ほら」
「おまっ、やめろって! 揺らすなやーめーろー!?」
あばばばば。なんだこれなんだこれ。どうすればいいんだ。なんでこんな、いきなりこんなことを。
「どうしてこんなことをしているのか、不思議かい?」
「不思議だよ世界ふしぎ発見だよ! お前正直人間に興味ないとかほざいてただろうがぁぁぁぁ!? 揉むな!」
「簡単さ。つまりだ――私も、君が好きになってしまったのさ」
……んん? どうやら疲れがたまりすぎてたみたいだな。もうちゃんと寝たほうがいい。
「好きになることに理由はいらない――とよく言うけれど、君は恐ろしく自分への評価が低くて、自分への好意に理由を求めてしまう
「あ、ええ。お願いします」
「そうだねぇ、まず、私が君に興味を持ったのは、初めて会ったあの日だったかな。ほら、ここって隔離されているだろう? なのに君はここへやってきた。今は私が君の夢に繋げているからいいんだけどね」
初めて会ったのは――5歳の時か。確かあの時は創作の登場人物に出会ったという衝撃で喀血して気絶した気がする。
「でも、重要なのはそこじゃない。いや、初めて会ったあの日が全てのきっかけだったことは間違いないのだけどね。君は――君は、本質として誰とでも何とでも対等であろうとする。どんな聖人も、どんな畜生も、君は理解し、受け入れ、寄り添い、果てはその全てを肯定するだろう。その生き方に、私は惚れたんだよ」
「いやいやいや、どんな化け物だよ、それ。私がそんな神みたいな本質を持っているわけがないだろう」
そんな存在、人間として破綻している。
「そうは言うけれどね。実際、君は私の在り方を、全てを知りながら、それでも受け入れているじゃないか」
「お前なんてただのニートみたいなもんだろ。そんな大層なことじゃない」
「――私が本質的に人間を愛していないことを
「うぁ?」
は? 嘘だろ、え、なに? 気付かれていた――!?
「ななな何言ってんのお前!? そっ、そそそ、そんなわけないだろー!? 誰がお前みたいなナチュラルボーン畜生の真性のクズでニートでずっと一人ぼっちで優しくてかっこいいやつなんか好きですごめんなさい」
「あああ、泣かないでくれ! 何も君を泣かせようと思っていたわけじゃない。ただ君に分かってほしいだけなんだよ。そんな君だから、私が好きになったということをさ」
絶対嘘だ。この男、絶対からかって遊んでいるだけだ。
逆に一周回って頭が冷え、冷静になる。
「お前自身が言ってることだろ。
まさか気付かれていたとは思っていなかった。しかし気付かれてしまっていたなら、下手にごねたって仕方のないことだ。
「けど、お前のその言葉は信じられない。どうして人間が虫を好きになれる? いや、好きになることはあるかもしれない。でもそれは、あくまでも虫という生物を好きになるだけだ。その個体を好きになるわけじゃない。……お前のその感情も、そういうことだろ。ずっと塔に引きこもってるから私に対する好意だなんて勘違いをするんだ」
「……ああ、うん。確かに私は緊張感や責任感というものがないと考えられがちなのはそうだから、あまり強く言えないけれどね。それにしたってもうちょっとこう、少しは信じてみようという気にはならないかい?」
「お前のことは信用しているし、信頼もしているが、それとこれとは別の話だな」
「これは厳しいね……」
なんか変なもんでも食ったか、新手の遊びを思いついて試しているだけか。新手の遊びの方だな。
「――嬉しかったのさ」
「……?」
「ほら、私は夢魔との混血児だろう? それだけじゃなくて、こんな性格だし。だから、人間社会にとって私は異物であるということは理解しているつもりだ」
「それで?」
「アーサーは私に親愛の情を向けてはくれていたけれどね。こんな私を心の底から
……ここまで言われては流石に信じ、いや、でも。どうだろう。私を好きになるなんてありえるのか? だめだ、分からない。信じたいような、信じたくないような。
「まったく。強情だねぇ君も」
「うるさい」
「じゃあ、逆にどうしたら本当だと信じてくれるんだい?」
「え、ええ……?」
どうしたら? ええと、そうだな。
「……なら、抱きしめろ」
「こうかい?」
ふわり、と正面から抱きしめられる。花のような、甘い香りが強くなる。
「もっと強く」
「こう?」
「もっと」
「……これぐらいかい?」
「もっと、モア!」
「……君、なんだかんだで楽しんでいないかい?」
潰れるくらいにぎゅう、と抱きしめられるのは実に気分が良かった。それにしても……私という人間はこんなにも面倒くさい奴だっただろうか? 自分ではもっとストレートな、真っすぐ単純な人間だと思っていたのに。ああ、もしかしたら。女として生きてきたからだろうか。だとしたら、もし男で生まれていたらストレートに、文章にしたら一行で終わるくらいの恋愛をしていたであろう。きっと。
「それから……ちゃんと、言え」
「何を? って聞くのは野暮というものだね」
「……む」
「分かったから、そう睨まないでおくれ」
うるせぇ。お前が悪い。
「――好きだ」
「そうか。もう一度だ」
「ええ? またやるのかい?」
「出来ない?」
「そのいかにもあざとい感じの上目遣いはどこで覚えたんだい? ああ、うん。分かったよ――好きだ」
「もう一回」
「――好きだ」
「農作業や土木工事に使用された、地面を掘ったり、土砂などをかき寄せたり、土の中の雑草の根を切るのに使用される道具、農具は?」
「
「……うーん」
これだけされれば流石に私でも信じ……ううう。
いや待てよ? 踏み絵染みた究極の好意判定法があるじゃないか?
「ふふふ……次が最後だ。マーリン、お前に出来るかな?」
「ここまで来たら何が来ても動揺しないよ」
ククク……その余裕ぶった態度もこの一言で崩れ去るだろう。お前の遊びもここまでだ。喰らえ――必殺の一撃を!
「じゃあ――結婚、しよう?」
「……」
ポイントは上目遣いと、しよう? のあたりで首を少し傾けること。あくまでも普段通りの声で言うのもあるか。
さあ――言え、言うんだ。負けた、と。さあ!
「――ああ。結婚しようか」
「えっ」
……えっ?
正気度ロール 1D100→97 失敗
減少値 3D5→15 90-15=75
アイデアロール 1D100→78 失敗
「う、ごふっ!」
「ええええ!?」
驚愕のあまり脳内でダイスロールをしながら喀血し、塔の床を真っ赤に染め上げながら、意識を失う。
最後に思ったのは、どこかで嗅いだことがあるような匂いだと思ったらファ〇リーズの「楽園の香り」に似てるんだな、というくだらないことだった。
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――結局。その後の二人がどうなったのかは分からない。花の魔術師が塔から出てきたのか、ずっと夢だけで出会う関係だったのか。子供は? 孫は? ……そこについては触れないでおこう。
けれども、一つだけ確かに言えることがある。酷く仲睦まじい夫婦が一組、最期まで愛し合っていたことだった。
なんだこれはたまげたなぁ()
少女漫画を読みながら書くもんじゃないねっていう。書いちゃったからもうあれなんですが
私だったら櫻井孝宏さんの声で耳元で好きだ、とか言って来たらしめやかに爆散する自信があります
ちなみに気絶王が女の子になって驚くようなことに遭遇すると鼻血&気絶ではなくSANチェック&喀血&気絶するようになります。
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