なんだかんだで二章長いですね
それもこれも愛歌様が可愛いせい……ということで。
もうすぐ今年も終わりますが、この作品の終わりはまだ来そうにありませんね……
なんだかんだとお付き合いいただいている皆様には感謝の思いばかりです。いつもありがとうございます。
基本的に一章の流れに沿ってここからは進むのでみんなが期待しているところまではまだまだかかるぞ!
しゅるしゅると、皮を剥く。淀みなく、変わりなく、ただ元からそういうものだったかのように見えるくらい、綺麗に。これくらいの作業ならそんなに集中することもないのだけど……あんまり彼の方に意識を向けるとまた思い出してギクシャクしてしまうし、リンゴに意識を集中させる。
ちら、と彼の方に視線を向けると、いつもよりも三割り増しくらいの優しい表情でこっちを見ていた。恥ずかしいというよりはこそばゆいような感覚。思わず口元が緩む。
しゅるしゅると、皮を剥く。淀みなく、変わりなく。綺麗な一本の紐状になった皮がきちんとお皿の上でとぐろを巻いたのを確認しながら、今度はツルツルの黄色い球となったリンゴを食べやすいサイズに切り分ける。
八分割していると、不意に彼の声が投げかけられる。
「あー……よく血が落ちたな。真っ白だし、ただでさえ落ちにくいのに」
『毎度毎度、血の付いたシャツとかの処分任せてる形だし……やっぱ申し訳ないな』
「ううん、それは新しいシャツで、前のはわたしの宝物に――あっ、剝けたわ」
彼のシャツは勿体ないと思ってわたしが使用するためにそのまましまってある。昔からそうだけど、彼が鼻血を噴いて倒れた時の服なんかは換えを用意した上で拝借している。――考えてもみてほしい。好きな人の体液が染み込んだ服。それが目の前に、しかも合法的にもらえるという状況! 誰だってそうするに決まっているでしょう?
『……少なくとも、宝物にするようなものじゃないのは確かだと思うんだけどなぁ』
おかしくってつい、笑ってしまう。彼にはわたしの心を読む力はないのに、まるで心を読んだみたいにちょうどのタイミングでそんなことを考えるんだもの。
「……いきなり笑いだすと不気味に思われるぞ」
「そうね。……でも、あなたはわたしが何をしても受け入れてくれるでしょう?」
少し首を傾げるようにして聞くと、彼が顔を赤くしながら背けてしまう。後頭部を掻くように添えられた手が忙しなく動いて、やがて力なく下ろされた。
そんな様子を愛おしく思いながら、皿の上に並べたリンゴを一切れ差し出す。ここは気をつけないといけない。他の人に食べさせてもらったり、食べさせるというのは想像以上に難しい。わたしと彼は何年も一緒に過ごして、お互いの食事のペースとかそういったものが把握できている。とはいえ、それは気をつけない理由にはならないし、なによりわたしが許せない。
だからこそ、慎重に――ともすれば魔術の勉強のときよりも――ことを運ばなければ。
一切れ、二切れと食べさせていると、不意に彼の声がする。いえ、これは……心の声というか、思考ね。
『……流石に、東京を滅ぼしたりしたら考えるけど』
それだけのことをしても、拒絶することを考えるだけで嫌うと言わないのはそういうことだ、って考えていいのかな。……そういえば、こうして二人でゆっくり話すのは久しぶりのような気がする。今日はあんな感じだったし、しばらくラブレターのせいでギクシャクしてたから、こうしてちゃんと面と向かって話せるだけでも、なんだかすごく嬉しく思える。
「で、いきなり笑いだした理由は?」
「……ええ。それはね――」
そう、ね。笑ったのは彼の心の声が原因なのだけど、それを言えるわけもないし、少しだけ誤魔化しておこう。うん。
一度リンゴやフォークを台に乗せて身を乗り出し、頬が触れ合う距離、お互いの吐息を感じられるほどに寄って、そっと一言。
「久しぶりに二人っきりで過ごせてるから」
「っ……」
『なっ、あっ、ほぁぁ!!?』
一瞬で顔が真っ赤に染まり、ばっ、と距離を取られる。いつもの無表情が今は崩れて、驚愕の色をあらわにしている。わたしが囁いた右耳を守るように押さえて、プルプルと震えている。
わたし以外の誰も見たことがないであろう、
……その代償にわたしも大きなダメージを負っているのだけど。む、胸がどきどきしすぎて痛い……どうしよう、わたしまで結構なダメージだこれ。
ばくばくと異常に早いペースで刻まれる鼓動を抑え、彼にもう一度リンゴを差し出そうとすると、彼はこちらに背中を向けるようにして寝てしまっている。まだいくつか残っているけれど、仕方ない。
「……寝る。血が無くなってるし、疲れてるみたいだ」
『主に疲れたのは愛歌のせいだけどな……』
「そう。……ふふ、おやすみなさい」
未だに子供っぽいところの残る彼の様子にクスリと笑いながら、残ったリンゴにフォークを刺して、口に運ぶ。
(……ん、そういえば)
これは間接キスと呼ばれる行為なのでは。
彼の口に入ったフォークを、わたしが……知らず、喉が鳴る。そのまま導かれるように何も刺さっていないフォークを口に運ぼうとして――
『……愛歌』
一瞬で正気に戻った。危ない危ない。あのままだと大変なことになっていた。わたしを正気に戻した彼はというと、大分意識が朦朧として、今にも眠りに落ちそうな感じだった。
「……うん。おやすみなさい。何よりも愛おしいあなた」
静かに、彼が眠りに落ちていく。風邪をひかないように、とタオルケットをかけて部屋を後にする。
オレンジ色だった空はもう、紫色に変わっていた。
最近胃痛に悩まされるマン
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