幼馴染が根源の姫だった件   作:ななせせせ

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いつの間にかすっごい感想溜まっちゃってた……

そしていつになく難産だった……幾度となく心が折れかけたけど、蒼銀読んだりデーモンハントしたりしてたら復活したよ!

今回ちょっとえっちぃです……
えっちなのはだめって言ってましたがギリギリセーフなようなアウトなような……
なんか問題があれば修正しますね

10/12 修整




 彼の腕を枕にしながらベッドに寝ている、というのはかなり気持ちいい。精神的にも、身体的にも。決して彼の腕は柔らかくはないのだけど、頭を乗せるのにちょうどいい高さにある。

 

 

「……ちょっと、頑張らせ過ぎてしまったかしら」

 

 

 ずっと、胸の奥がキュンキュンするようなことを言うものだからつい、やりすぎてしまったらしく……事が終わったらぱたりとベッドに倒れこんでしまった。色々大変なことになっているベッドを片付けて、わたしも寝転んで、勝手に腕を枕にしている、というのが今の状況。

 

 

「……えへへへ」

 

 

 男の子らしく筋肉のついている――とはいえ彼は筋トレなどはしないのでムキムキではない――上半身。

 その左肩にある、古い傷痕。犬に噛まれたような歯型の、深く、深く刻まれたそれは成長しても消えずに残り続けている。

 絶対に残っているとは思っていたけれど。こうして、残っているということをこの目で見るとなんだかむず痒いような気持ちになる。

 

 

「――わたしがつけた傷痕だもの、ね」

 

 

 小学生の頃のわたしがつけた、消えない傷痕。彼の想いの証明。

 ――わたしの恋の始まりの、甘美な記憶。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 痛い。痛い。痛い。

 胸の奥(こころ)が――痛い。

 

 彼が誰かと話しているところを見るだけで、胸の奥がきゅう、と締め付けられるような痛みに襲われる。

 彼が誰かに笑いかけているのを見るだけで、行き場のない感情が吹き荒れて、痛みが全身に回る。

 彼が――彼が、わたしを見ていないことが、どうしようもなく不安になる。ずっと一緒だったのに、と悲しくなる。

 

 ……知らない。こんな感情は、知らない。

 苦しい。辛い。悲しい。――でも、心地いい。楽しい。嬉しい。彼がその瞳にわたしを映した時、話しかけてきた時、笑ってくれた時、どうしようもなく顔が熱くなって、舞い上がりたくなるほど嬉しくなって。

 

 ――けれど、手に入らないかもしれないなら。

 永遠にわたしだけのものにしてしまうしか、ないでしょう?

 

 目の前でベッドに倒れこんでいる彼。優しく仰向けにすれば、真っ赤になって熱に浮かされたような――というか実際そうしたのだけど――顔がよく見られる。

 熱で正常な思考を奪われ、ぐずぐずに蕩けたその瞳がわたしをまっすぐに見つめてくる。

 

 ああ、なんて。

 なんて――心地いいのかしら。彼の世界の全てを占めるのがわたしだけというのは!

 

 

「まな、か……?」

「……ごめんなさい。でも……あなたが悪いのよ?」

「そう、なのか……」

 

 

 彼の胸板に指をつ、と這わせて頬に手を添える。

 ……熱い。この熱こそ、彼が生きていることの証明。

 

 ずるり、と触手を出して彼の首に押し当てる。少し擦るように動かすと、首筋が切れて一筋の血が伝った。

 

 

「ふふ。美味しそう……」

「う、ぁ……」

 

 

 浮かんできた感情に逆らうことなく、首筋を伝うその血を舐める。すごく、甘い。わたしの先祖に吸血鬼なんていなかったと思うけど、それでも彼から流れ出た血液(いのち)はこの世の何よりも甘く感じる。

 

 やがて首筋からその甘さが消えてしまったので、舐めるところを上に移動していき……お互いの息がかかるくらいの距離で彼と見つめあう。

 

 

「多分、言っても分からないだろうけれど……安心して? あなたの心臓を貫くのと同時にわたしの心臓も貫くから。二人で一緒に……溶け合いましょ?」

 

 

 そう一方的に告げて、返事も聞かずに唇を奪った。

 熱く、唾液に濡れたその口内を侵略して蹂躙する。力の入っていない彼の舌を捕まえて、お互いの唾液を混じり合わせ、『わたし』を刻み付ける。初めての相手はどこかの雌猫ではなく、この沙条愛歌なのだと教え込むように激しく、深く。

 息が続かなくなって顔を離した時にはお互いの口の周りが唾液でべとべとになっていた。

 

 胸板に這わせていた指を彼の左胸に突き刺すようにおいて、その心臓の鼓動をかすかに指先で感じる。

 

 

「……じゃあ、行くね?」

「ぅぁ……ま、なか……」

「へ?」

 

 

 熱に魘された彼がゆっくりと両腕を持ち上げ、わたしの手を掴んだ。

 けれどそれはわたしの行動を止めようとか、そういうわけではなく。それどころか、掴んだ手を自分の首に誘導した。そのまま自分の首に弱く押し付けて、どうしてほしいのかを伝えてきた。

 

 

「首を、絞めてほしいの……? そんな、どうして。だって、首なんて絞めたら苦しいのに。心臓を一瞬で破壊する方が痛くも苦しくもないのよ?」

「……だから、こそだよ。長くて、苦しい、なら……その間は、ずっと、愛歌を感じられる。……愛歌にも、長く、俺という人間の、記憶を、焼きつけられる、だろう……?」

「あ、うう……」

「――俺は、沙条愛歌の全てを受け入れるよ。何よりも、誰よりも、大好き、だから」

「~~~~っ!!」

 

 

 ――恥ずかしながら。その一言はわたしの心の奥深いところにまで突き刺さって、一気に見ないふりをしていたような、大切に隠してあったような、感情をあふれさせた。彼の言葉は本心だったのだということも、今ようやく分かった。

 なんて、無様な姿。理解が遅すぎたけれど……ああ。

 

 

「……ごめんなさい。やっぱり……不安なの。あなたがふと目を離した隙に逃げてしまいそうで」

 

 

 おもむろに、彼の着ている服をずらして左肩を露出させる。

 

 

「だから、ね? 本当だってこと、証明してほしいな」

「ぐぁ……っ!」

 

 

 そのまま、左肩に噛みついた。否、噛みつくなんて易しいものじゃない。皮膚を割き、肉を割き、血管を割き、溢れる血を啜り、深く、深く、歯を突き立てる。

 流石に熱で意識を朦朧とさせていても激痛で戻ってきたらしく、痛みに悶えている。それでも、わたしを突き放すどころかむしろ強く抱きしめてくれた。

 

 永遠にも感じられるような時間が過ぎて、ようやく口を離した。左肩の傷口はもう塞いであるから血を流すことはない。少し、垂れてしまった血がシーツを汚してしまっているけれど、そんなことがどうでもいいと思えるくらいにわたしは幸福を感じていた。

 

 

「ぷ、は……えへへ。わたしね、今すごく、すっごく嬉しいの! ありがとう!」

「……はは、どういたしまして」

 

 

 

 

 ――ずっと、気になってはいたけれど。

 今になってようやく、わたしはこの胸に渦巻く感情が『恋』、なんだと気付いた。




ほんと更新長くあいちゃったにゃあ……

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