一時期百件ほど溜まっていた感想返しもほぼ終わり、ほっと一息ついていたり。
流石に気付いている方もいると思いますが、基本的に返信するっていうのがポリシーです。
だから百件も溜まってた時は目が死にましたね。うん。
と、余談はここまで。
とりあえず、一度今回で閑話を区切り、第二部:愛歌潮流に入りたいと思います。
それに伴って活動報告の方で取らせていただいていたアンケートの方も、締め切らせていただきたいと思います
……だいぶ溜まってるからネ
今回長くなりました。いつもの二倍くらいです
晴れて付き合うことになった二人だが、その関係の進展の裏には愛歌の並々ならぬアピールと努力があったのである。
中学時代から疎遠になり始めたことに、沙条愛歌は実に危機感を覚えていた。心を読むことをしていなかったこの頃の愛歌は至って純粋な恋する乙女であり、このままではどこの馬の骨とも知れぬ輩に奪われてしまうかも分からない、と一念発起したのである。
……これは、そんな沙条愛歌の努力の数々の記録だ。
パート1:良妻アピール
さて、一念発起したはいいものの、具体的にどうやって男の心を奪うかという方法までは考えていなかった愛歌は悩んだ。いかな全能の叡智とて分からぬことはあるのである。
そうして思いついたのが、良妻アピール――すなわち、お弁当を作ってあげるというものだ。
とある日の昼下がり、二人の姿は沙条家一階にあった。小学校卒業を果たし、この春から中学生になり、それが原因の一部となって疎遠……とまではいかずとも、一緒にいる時間が圧倒的に減るのだが、それはまた別の話である。
「――それで、あなたってあまり自分のことを語りたがらないじゃない? 好きな食べ物とか、味付けとか、分からなかったものだから、とりあえず色々作ってみたのだけど……ちょっと、多かったかしら」
「いや、別にそれは問題ないんだが……いきなり弁当? なんで?」
「ええと、その……花嫁修業の一環で、お義母様に教えていただいているの。お義母様からは高評価をもらったけれど、やっぱり実際に食べてもらわないと分からないことってあると思うの。その、思ったままのことを言ってもらえると、嬉しいな」
「なんか悪い気もするが……ありがたい。中学から弁当なんで少し困ってたんだ」
少し困ったように笑いながら、男は目の前の弁当――五段重ねの重箱を開いた。
和洋問わず様々な料理が所狭しと詰め込まれていながら、見た目の美しさもこだわられたもはや弁当というのかすら怪しい、一種の芸術作品となっている。
男が少し躊躇いながらも口に運び、静かに顔を緩めた。
「……その、どう、かしら?」
「うん、美味い。本当、毎日食べたいくらい美味いよ」
「そう……!」
……余談だが、このあと良妻アピールをしようとしていたことを結局忘れ、食べてもらうことに夢中になる。
それから毎日弁当を作っては良妻アピールすることになるのだが、それもまた別の話である。
パート2:色仕掛け
良妻アピールだけでは、件の鈍感王を落とすには至らないと感じた愛歌はさらなる一手を講じた。
ずばり――色仕掛け、である。
曲がりなりにも年頃の乙女である愛歌としては恥ずかしいが、それでもやらずに彼の心がふらついてしまっては危険である、と思い立った。
計画は単純。風呂に入っている最中に乱入するというものだ。
「……ええ。落ち着きなさい、わたし。身体は全然問題ないはず……!」
いざ。恋する乙女が覚悟を決めて風呂に入った――!
「うん? ……って、ああ。愛歌か。なんでこっち来てるのかは知らないけど、一緒に風呂に入るのは久しぶりだな。……? そこで固まってないで入ってくればいいじゃないか。寒いだろ?」
「……え、ええ。そうね」
中学に上がったばかりの愛歌嬢の身体は形容するならば、つるっすべっすとーん、という感じであり、男の方の精神年齢が老人に入りかけていることもあってか
というか見られたら犯罪なのだが、そうとは知らない愛歌嬢の心に少し傷が入った。大人になった時に見返すことを誓いながら同じ湯船に浸かるのみとなるのであった。
パート3:当たって砕けろ
心に決して浅くはない傷を負い、半分自棄になった愛歌はキレた。あの男を何としても照れ、もといデレさせんと決意し、策も何もなく、正面突破することにした。
すなわち――告白である。
もちろん恋する乙女愛歌嬢にとって多大な覚悟を必要とする行動なことは言うまでもないのだが、先日の一件で傷ついた愛歌様はご乱心なのだ。
荒ぶった心を表すように、扉を荒々しく押し開けた。完全に正気を失った状態である。
勉強をしていたらしき男の様子に構うことなく、堂々と言い放つ。
「好きよ、結婚しましょう!!」
「ん、そうだな。俺も好きだよ、愛歌。結婚しようか」
「……え、あ、はい」
愛歌様完全敗北の瞬間である。
これにも実は裏があり、男がこの年頃の少女の言うことをほとんど信用していなかったということがこの冷静な対応を引き出したのだった。
とはいえ、そんな裏を知らない愛歌嬢は完全に照れ、顔を真っ赤にして逃げ帰ることとなった。
無論、愛歌のアピールはこれだけではないのだが、高校生になるまではまるで効かないのであった。
逆に言えば、高校生になる頃には完全に意識し始め、照れるというかデレるというか、そういう感じになるのだが……
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Side気絶王
付き合い始めたところで、学校生活なんてものに変化があるはずもない。
相変わらず俺は勉強し続けなければならないし、愛歌だってそれを分かっているからイチャつくなんてそんなことはない。
「ごめんね、待った?」
「いや、全然。行こうか」
手を差し出し、愛歌の小さな手を握りしめて駅へと向かう。
……ふむ。
「髪、大分長くなったな」
「ええ、そうね。もう少しで、あなたの好きなポニーテールも出来そうよ」
「いや、俺が好きってわけじゃ……ないこともないけど」
「ふふっ」
見透かされている。
気恥ずかしさを隠すように顔を逸らした。……付き合い始めてもなお、俺は愛歌に敵わないようだ。いや、分かり切ってるんだけどね?
駅に着き、電車に乗ったら流石に周りに迷惑がかかるので会話は無くなる。ただ静かに手を握って立ってるだけだ。
三駅ほど移動し、降りて駅から高校までは歩いて向かう。
「結婚、いつしよっか」
「ぶっ」
「わわっ」
唐突にそんなことを言われたら噴き出すだろう。
「……とりあえず、二人で生活できるようになるまではお預けだ」
「えー」
「俺だって、早く愛歌と結婚したいけど。まだ大学にも行ってないし、仕事なんてどうなるかも分かってないんだ。子供だって二人は欲しいって言ってたからお金はかかるわけだし。……そう考えたらまだ俺が定職にもついてない今から結婚するのは危険すぎるだろう」
「え、えと、その、うん」
よく分からないが、突然顔を赤くして俯いた愛歌と一緒に校舎内に入る。流石に不純異性交遊とか疑われるのは困るので手は放したが。
そのまま教室に入って適当に挨拶をしつつ、席に着く。これまで三回の席替えがあったが、くじ引きで手に入れた席は全て愛歌の隣だった。……これまで俺の運がすごいのかとか思ってたんだが、今思えば愛歌が何かしていたのかもしれない。
そこからは授業なので何かあるはずもない。ただ、周りが砂糖でも吐きそうな表情をしていたのがちょっと気になったくらいか。
というか、昼休みだって変わったことはない。飯を食べるだけだし、午後の授業が変わったことがあるはずもない。
「……あ、愛歌。帰りスーパー寄っていこう。牛乳が切れてたはずだ」
「え? ああ、そうね。それなら、夕食の材料も買っていきましょう?」
そんな会話をしつつ、帰宅する。
まあ、今日の学校も変わるはずもない。日常なんて、こんなもんだ。
Side愛歌
晴れて付き合い始めて、変わったことは驚く程に少ない。
けれど、その少ない変わったことが大きい。
「ごめんね、待った?」
「いや、全然。行こうか」
差し出された手を握って学校に向かう。
思考は読まない。偶に気になって見てしまう時もあるけれど、それはそれ。
「髪、大分長くなったな」
「ええ、そうね。もう少しで、あなたの好きなポニーテールも出来そうよ」
「いや、俺が好きってわけじゃ……ないこともないけど」
「ふふっ」
今の気持ちくらいは覗かなくても分かる。
気まずくなったり恥ずかしくなったときに顔を逸らしているところは前から変わらない。それから、わたしに合わせて歩く速度を遅くしてくれているところとか、さりげなく車道側に立っているところとか。
時折手を弄びながら駅まで歩いて、到着したら前と同じように黙って電車に乗る。
三駅の距離だけど、ずっと顔を見つめていられるのは楽しい。
駅から出たところで、ふと思いついた。
「結婚、いつしよっか」
「ぶっ」
「わわっ」
突然噴き出したことでわたしも驚く。
しばらくしてから気恥ずかし気に頬を掻きながら、それでも誠実に答えてくれた。
「……とりあえず、二人で生活できるようになるまではお預けだ」
「えー」
「俺だって、早く愛歌と結婚したいけど。まだ大学にも行ってないし、仕事なんてどうなるかも分かってないんだ。子供だって二人は欲しいって言ってたからお金はかかるわけだし。……そう考えたらまだ俺が定職にもついてない今から結婚するのは危険すぎるだろう」
「え、えと、その、うん」
……前に言っていた子供のこと、覚えていてくれたんだ。
些細な日常会話で言っていた程度のことだけれど、それでも覚えていてくれたことに胸が温かくなる。
校門まで来ると手を放されてしまう。
学校の規則もあるから仕方がないのだけど、少し残念。
教室に入って彼の隣に
授業は聞く必要がないので、頬杖をついて彼の横顔を眺める。……まつげ長いな。
昼休みはいつも通り屋上で弁当を食べてもらう。今ではほぼ完全に彼の好みを把握して、初めて作る料理でも好みの味付けで作れるくらいになった。
午後の授業も基本的に彼の横顔を眺めて過ごし、放課後になったらまた一緒に帰る。
帰ろうと荷物を纏めていたところで、彼が声を上げた。
「……あ、愛歌。帰りスーパー寄っていこう。牛乳が切れてたはずだ」
「え? ああ、そうね。それなら、夕食の材料も買っていきましょう?」
今晩もこっちに寄って食べていくのは聞いてるから四人分ね。
その後は……ふふ。
なんて想像をしながら手を繋いで一緒に帰宅する。
もう離れないように、離さないように、強く、強く握って。
――もう逃げられるとは思わないことね? ……なんてね。
作業BGMに橋本みゆきさんの『初恋パラシュート』『夢見るままに恋をして』を流しつつ書いてます
ところでキアラなんてアルターエゴはうちのFGOにはまだ実装されてないみたいです
……デミヤは宝具4になりましたが
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