金木研はヒーローになりたかったのだ   作:ゆきん子

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パソコンが調子悪くなってしまったので、急遽ノートPCで書いてます。
キーボードの配置というかキー同士の間隔やタイピングの感覚などが全然違うので戸惑います。


27話 波乱の休憩時間

 

 

無事に騎馬戦も一位通過した僕は、焦凍を探して目を動かす。

直ぐに見つかった紅白頭は、何かを思いつめるようにして握りしめた左の拳を見つめていた。

エンデヴァーと何かあったのか?もしくは、最後まで戦った緑谷君と何かあり、左側を使わざるを得ない状況に追い込まれたとか。

焦凍に声を掛けようと一歩足を踏み出すと、プレゼントマイクの声に中断させられた。

 

『1時間程昼休憩挟んでから午後の部だぜ!じゃあな!!』

 

そうか、休憩か。

プレゼントマイクが相澤先生を昼に誘って断られているのがマイクに入ってしまっているのを聞きつつ、僕もいつものように焦凍を昼に誘おうと生徒の波に従って歩くと、肩をそっと叩かれた。

 

「金木さん。よろしければ、お昼をご一緒しませんか?」

「ん…と、塩崎さんと僕で?」

 

振り返って少し下を見ると、塩崎さんがこちらを窺うように両の手を祈りの形に組んで見上げていた。

誘われた事に困惑していると、彼女は曖昧に首を振る。

 

「それが、先程の私達の戦いを見て、クラスの方がぜひ金木さんとお話ししてみたいと……。私も、一緒に戦った貴方とこれきりというのはどうにも冷めたものに感じていましたし、プロになったら他のヒーローと協力することもあるでしょうから」

「なるほど、確かにね。勿論僕はいいけど…」

「私も同意見ですわ」

 

にゅっと会話に入って来たのは百ちゃんだ。

 

「失礼、申し遅れましたわ。私は八百万百です」

「塩崎茨です」

 

女の子二人は暫くお互いを探るようにじっと見詰め合うと何事か話し、やがて頷き合って先を歩く。

んーと。巻き込むだけ巻き込んで放置なのはどうしろと。……女の子の話に男の僕が入るものではない、か?

 

「行きますわよ、金木さん!」

「あ、うん」

 

とのことらしいので、僕はついていくことにする。

焦凍の方を見ると丁度目が合ったが、手を上げて緑谷君と連れ立ってどこかへ歩いていった。彼は彼で用事があるらしいとあまり干渉せずに、楽しげに話す女性陣を微笑ましく見て歩いた。やはり真面目な者同士気が合うのだろうか。

 

荷物を持ってスマホの画面をつけると、店長からメールが来ていた。

どうやらお弁当を持ってきてくれたらしい。

彼女等に断って先に店長の方へ弁当を受け取りに行く事にした。

 

 

「店長!」

 

呼びかけると彼は重箱を持たない方の手を上げて応えた。

近くに寄ると差し出されるそれを、お礼を言って受け取る。

彼は目を細めて僕を見た。何を考えているのか読めないが、久々に会った孫が様変わりした様子に困惑しているようにも見えた。

 

「遠路はるばる……今日はどこも混んでたでしょう?ありがとうございます。いただきます」

「いいんだ。金銭面で気を遣う孫を甘やかすには、老人が押しかけるしかないだろう」

 

そんな意味合いの事を手話で言われて思わず苦笑が滲む。

 

「あはは、いつも助かってます。それじゃあ、友達が待っているんで…」

「ああ、待ちなさい」

 

踵を返す直前に呼び止められ、首を傾げる。

だが一向に動かない手を疑問に思って表情を見ると、気遣わしげな視線とかち合った。

―――"あの話"か。

 

「見舞いの件なんだが……」

「…はい。落ち着いたら……そうですね、明日にでも会いに行こうと思ってました」

「そうかい、なら良かった。彼女も君に会いたがっていたよ」

()()じゃないでしょう」

 

 

沈黙が場を包み込む。

思わず要らない事を言ってしまった。どうにも世話になった期間が長いせいか、彼の前では態度を取り繕うのが難しい。

 

「すいません。こんなこと言うつもりじゃあ」

「いいんだ。私こそすまなかった。この後も競技が待っているのに。それじゃあ、この後も応援してるよ」

「はい、ありがとうございます。……」

 

僕は頭を下げると足早にその場を去った。

今は彼女の……母さんの事を考えている場合ではない。

折角の休憩時間なんだ。体だけでなく気持ちも休めないと。

 

 

 

 

百ちゃんたちが先に向かっていると言っていた食堂に向かう道すがら俯き歩いていると、曲がり角からぬっと人が現れると同時に、気温が一気に上がった気がした。

 

「あ、失礼しました」

「む、こちらこそ……ん?お前は」

「え?……あっ」

 

僕の前に立ち塞がったのはエンデヴァー。

他でもない、かつて僕が焦凍を庇って突っかかったNo.2ヒーロー、そして焦凍の父であるその人だった。

 

「お、お久しぶりですね」

「ああ。お前も雄英に合格したのか」

 

今にも副音声で"するわけ無いと思っていた"と聞こえてきそうな口ぶりだが、僕も(中身は)大人だ。他人に多少失礼な事を言われた程度では怒らない。

それに生憎不躾な物言いは焦凍で慣れていた。

 

「はい、おかげさまで」

「"あれ"はまだ下らん反抗期で右だけで行くなどと意固地になっているらしいな」

「……そのようですね」

「全く下らん。そのうち無くなるだろうが……いや、直ぐにでも直すべきか」

 

眉間に皺が寄るのを感じる。

 

「焦凍君が貴方を否定する理由が、そんな"下らない反抗期"だと、本当に思っているんですか?」

「何だと」

 

さも言う事を聞かない息子で困るといわんばかりのそれが、地を這うような低い声になる。

他人の家の事情に首を突っ込みすぎるのはよくないと思っていた。――だがよく考えてみれば、僕にとって焦凍は親友であって、他人ではない。

少しくらいなら、親友に肩入れしてしまうのも仕方ないだろう。少しくらいは、ね。

 

「ショートが貴方を否定するのは、貴方がショートを、もしくは彼の大切なものを否定したからなのでは?…彼が貴方を認めないのは、貴方が彼を認めないからなのでは?」

「……」

「子供はどんな形であれ、親を見て育ちます。貴方がショートに背を向けるから、彼も頑なに背を向けるのではないですか」

 

人一人殺せそうな目をしたエンデヴァーを下から見つめ返す。多少目つきが悪く、睨むようだったのはご愛嬌だ。

だが、最近めっきり声を聞くことも無かった"僕"が必死で止めているようなので、彼の精神安定の為にもこの辺で止めておこうか。

 

「それでは、失礼します」

「待て。お前、名前は」

 

以前にも名乗ったと思うが、息子の同級生の名前など覚えていないのだろう。真っ直ぐ炎に見え隠れする目を見て再び名を名乗った。

 

「金木研です」

「覚えたぞ、金木研」

 

威圧するように火力を増した炎を合図に互いに踵を返す。

僕が嫌いなものは、人の大切なものを奪おうとするクズ豆と、妻を…家庭を顧みない父親だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、ショート。用事はもう済んだの」

「ああ。……カネキ、悪ぃがやっぱりお前に構ってる余裕が無くなった」

「―――そっか…」

 

ピリピリした様子の彼に、大体の事情を察した。

緑谷君本人はまだその強すぎる個性に振り回されているが、焦凍としてはあまりにもオールマイトに似たその個性に"右だけで"勝つことで父に見せつけようとしているのだろう。

彼らが何を話したのかは分からないが、険しい表情の彼を見れば予想はつく。

――いずれにせよ、いつまでも抱え込んでいたってしょうがないだろう。

僕はいつかの仕返しも込めつつ、彼の背をバシッと叩いた。

 

「お昼まだだろ?折角だから一緒に食べよう。百ちゃんたちも居ることだし」

「いや、俺は…」

「いいからいいから」

 

焦凍を追い立てるように連れ立って食堂に入ると、百ちゃんがこちらに気付いて手を振った。どうやら席を取っておいてくれたらしい。中々に混んでいるが、彼女たちの机はいくつか席が余っていた。

その時、かさりと指先をくすぐる物を感じて、重箱を包む風呂敷に見慣れたメモ用紙が四つ折りになって挟まっているのを見つけた。

 

「……!」

「じゃあ俺は飯取ってくる」

「いや、待って」

「?」

 

耐え切れずに笑みが零れる。

本当に…敵わないな。

 

"間違えてお肉以外の具も入れてしまったから、お友達と一緒に食べなさい。"

 

「店長が肉以外の具を()()()()入れちゃったらしいから、一緒に食べよう」

「?おう。それにしても、お前の弁当なのに肉以外を入れるなんて。……もしかしてもうボケが始まっちまったのか?」

 

はっと何かを察した顔で失礼なことを真剣に言う焦凍に、笑って首を横に振る。

 

「いいや。…どうだろうね」

 

 

二人で席に着くと、百ちゃんが口を開いた。

 

「遅かったですわね。何かありましたの?」

 

その質問に僕らは目配せしあって、首を振った。

お互いに何かがあったことは察している。だが、お互いに詮索しようとも思っていない。少なくとも今は。

 

「特に何も。待たせてごめんね」

 

百ちゃんの隣に重箱を置くと、彼女はその大きな目を少し瞠った。

 

「金木さんはずいぶん沢山食べるんですのね」

「ああいや、張り切ってつくりすぎちゃったみたいで」

「ではそれを一人で食べるんですか?」

 

会話に入って来たのは塩崎さんだ。

彼女の他にも数人B組の女子が居て、今更ながらにここに居てもよいものかと感じる。

 

「ううん。僕の食べれないものが入ってるらしいから、ショートと分けるよ。…あ、こちら僕の友人の轟焦凍。何も言わずに連れて来ちゃってごめんね」

「いいえ、大丈夫です」

「私も勿論歓迎いたしますわ。それにしても金木さんは好き嫌いがあるんですのね。少々意外でしたわ」

「好き嫌い……うーん、そういうことになるのかな」

 

話もそこそこに、準備よく()()用意されていた箸の片方を焦凍に手渡す。

 

「お。…予備か?」

 

めんどくさいので反応しない。

中身は分かりやすく僕用だと思われる肉料理ゾーンと、他のおかずやご飯ものゾーンに分かれていた。

互いに好みの物をつまんでいると、B組のサイドテールの女の子が意外そうな顔でこちらを見ていた。

 

「A組も意外と仲がいいんだね…。百もいい子だし」

「君は……」

「金木さん、こちらは塩崎さんのお友達で、拳藤(けんどう)一佳(いつか)さんですわ」

 

褒められた百ちゃんが照れた様子で頬に手を当てつつ紹介してくれる。女の子達ってやっぱり男子が集まるのとは違う感じの空気が出るな。

彼女の可愛らしい様子にその場が微笑ましい空気に包まれた。…焦凍は相変わらずだが。

 

「さっき会ったよね。もう知ってるかもしれないけど、金木研だよ。よろしく」

「覚えてたんか!正直茨を連れてった時は心配だったんだけど、まさかあの中で守り切るとはね。あそだ、二人とも一位おめでとう」

「あ、ありがとう」

「ありがとうございます」

 

焦凍が眉をしかめる。僕は話を変えることにした。

 

「そう言えば、誘った僕が言うのもおかしいけど君たちは組むつもりだったんでしょ?急に塩崎さんを誘って少し申し訳なく思ってたんだ」

「いえ。私はもともと鉄哲さんと組む予定だったんです」

「へえ?」

 

僕が誘ったときに彼女たちが固まっていたから、てっきりもうチームを組む流れになっていたのかと思った。

 

「私の個性…"ツル"で傷の付かない人は滅多におりませんから。チーム戦で仲間を傷つけるだなんて万が一にでもあってはいけませんから」

「そうですわね。私たちの無差別放電作戦のときも、それについては対策は怠りませんでしたから。そうですわよね、轟さん」

「ああ……結局お前には防がれたけどな」

「はは。まあ僕は"前"にもっと強い電撃を……」

「前?」

 

しまった。という一言に一瞬脳内が埋め尽くされた。

すぐに首を振って何とか取り繕うも、隣の焦凍の視線は鋭い。

女の子たちはいつの間にか違う話題で盛り上がっていて助けを求められそうもない。僕は冷や汗を流しつつ話を戻した。

 

「あの作戦考えたの君だろ、ショート」

 

露骨に話をそらした僕に不服そうにしながらも頷く焦凍。どうやら今回は聞かなかったことにしてくれるらしい。

 

「いい案だよね。大規模な電撃で一瞬でも足止めできれば、次に控えている君の氷結から逃れられる騎馬はいないだろう。君らしいよ」

「……肝心の騎馬は足止めされなかったけどな」

「それはまあ…。でもあの作戦はそもそも僕と一対一に持ち込むためのものだったんだろ?」

「ああ」

 

逃げられたが。

そんな視線を感じて頬をかく。

 

……でも、よかった。さっき会った時はひどく思いつめたような顔をしていたから、この後の競技にまで響くんじゃないのかと心配していたが、無理を言って連れてきて正解だったようだ。僕も焦凍も、いらないことに悩んでいる暇はない。今日はそれほどに大切な日なのだ。

 

「……ん」

「あっ」

 

最後に食べようと取って置いたハンバーグを、腹いせ代わりに焦凍に奪われた。

ご丁寧に味付けのされていないそれを違う料理のソースにディップしてから、満足そうに咀嚼している。

 

「うまい」

「だろうね」

 

じろりと見るが、どこ吹く風だ。

はあと溜息を吐いてもダメージを負った様子が見られない鋼メンタル。

 

「ほんじゃ、時間もいいとこだしそろそろ終わりにしよっか?」

「そうだね」

 

拳藤さんの声で僕らはそれぞれ片づけをする。

風呂敷の角を縛りつつ、やはり我が儘も言ってられないので週末は地元に帰ろうと思う。

彼女の見舞いには、雄英に入学してからだから――もうふた月以上行けていない。

会ったら何と言われるのかと考えて、(かぶり)を振る。考えないとさっき決めたばかりだ。

 

ひとまず、落ち着けるところへ行こうと彼らと別れてひとり歩き出した。

 

 

 

 

 

ブツブツと何事か呟く声がする。

邪魔をしては悪いかと思ったものの、その声に聞き覚えがあった上に相手が今友人に宣戦布告された存在であるので、悩みつつ声を掛けた。

 

「やあ、緑谷君」

「ひぇあっ!か、金木君?」

 

気付いていなかったのか、跳び上がって驚いた彼に苦笑が漏れる。

 

「考え事?次の競技の準備かな、それとも…僕の友達について?」

「いやあのその……うん。そうなんだ」

 

緑谷君は誤魔化そうときょろきょろ丸い目を泳がせた挙句、観念したようにうなずいた。

……詮索はしないと言った。だが、年上として少しおせっかいを焼くくらいはいいだろう。

 

「やっぱり。ごめんね、あいつはあれで天然なところがあるから、もしかしたら緑谷君に変なこと言ったでしょ?例えば…"実はオールマイトの息子なのか?"とか」

「え゛っ!聞いてたの?」

「いいや」

 

勘違いされないようにきっぱりと否定する。

 

「ただ、これでもショートとは付き合いが長いからね。あいつの背景とか、君の個性の特徴とかを考えての予想だけど。当たってたみたいだね」

 

僕が微笑むと彼は困ったように頭をかいた。

 

「"あいつ"って」

「ん?」

「アッ、いや……金木君がそういう言葉選びをするのは珍しい気がして…。いつも物腰柔らかいというか、言葉遣いがマイルドだから少し意外で」

 

焦凍のことだろうか。僕、今あいつって言ったか?

まあおかしなことでは無いだろう。仲良くなれば自然と言葉遣いが砕けるのは普通のことだ。ただ、それをやったのが僕なだけで。

今まで彼に――ヒデにしか、そう言う風に接したことが無かった。無意識の内に、同じように接していたのだろか。

 

いいや、違う。誰かを、誰かの代わりに見るなんてこと、他でもない僕はしない。

 

「ん、そうかな…。別に、普通だと思うけど」

「そっそうだよね!急にゴメンね!!」

「あぁ、ううん。いいんだ、別に」

「……」

 

訪れる沈黙に深く息を吐いて前髪をかき上げた。

 

「君にはもしかしたら失礼なことを言ったかもしれないけど、ショートは本当は優しいし、いい奴なんだよ。不器用だし天然だし、僕よりも人付き合い下手だけど」

「あはは…」

「だから、君には申し訳ないけどショートの中で納得が出来るまで、今日は付き合ってやってくれないかな」

 

眉尻を下げて苦笑すると、緑谷君は虚をつかれたかのように目を見開いた。

そして一度顔を下げると、拳を握って勢いよく頭を持ち上げた。

 

「当たり前じゃないか!」

 

その笑顔が、一瞬オールマイトに似ていただなんて。

似ても似つかない顔立ちの緑谷君が、しかし本当に()()()()と言った様子で歯を見せて笑うので、一瞬呆気に取られた僕もつられて笑った。

 

「ありがとう」

 

 

 

 

 

 




みなさん、今年のコ〇ンの映画、見ましたか?
好きなキャラが主人公だと聞いて、あまり映画館には行かない私も友人が「あんたは絶対行った方がいい」というので渋々身に行ったら、無事執行、送検されました。
ついでに私達の席にカップルが座っていて、心を荒ませつつ話しかけたら私の方が列を間違えていた恥。アルファベット一つも読めないポンコツだと思われたと思います。あの時の二人、お邪魔して本当にごめんなさい。

そしてこの小説に全く関係ないことをあとがきに書いてごめんなさい。

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