悠々と、とまでは行かなかったが何とか一位でゴールした僕は、温まった筋肉が急激に冷めないようにほぐしつつゲートを潜る後続の生徒の顔ぶれをそれとなく見る。
三位四位に焦凍と爆豪君が悔しげにゴールし、次も顔見知りかと思った僕は少なからず驚いた。
五位はB組の女の子だった。
髪が植物の茨のようになる個性だろうか。さっきの競技に有利かと言われれば微妙なところだが、それだけ他の面でも優秀だという事だろう。
じっと観察していると目が合ってしまう。僕は思わず肩を揺らすが、彼女は気にする事も無く会釈をしてくれたので僕も同じように返した。
僕はまた目をゲートに向けると、丁度百ちゃんがゴールしたところだった。
不自然に頬を赤らめる彼女を訝しげに見ていると、百ちゃんは体を捻って自分の背後に怒っていた。
そして彼女が体を捻った事で、僕にも彼女に引っ付いている"それ"が見えた。
「一石二鳥よ、オイラ天才!」
「サイッテーですわ!」
峰田君は、百ちゃんの…お尻に、個性で張り付いてゴールしたらしい。
鼠か。いや、そうなったら百ちゃんが牛になるのか?……十二支に例えるのはやめよう。
この競技は確かに"なんでもあり"だ。
だが、未だに張り付いて「ひょおおお」と喜ぶ峰田君が何となく気に入らず、僕は彼らに近付いて引き剥がすのを手伝った。
「くっそ、金木ィ!裏切りやがったな!」
「いつ仲間になったの、僕ら…」
「か、金木さん」
「……」
不甲斐なさに涙目でこちらを見上げる百ちゃんと何となく目を合わせにくく、僕は峰田君を早急にペイッと引き剥がした。
そうこうしているうちに最後の一人が到着したのか、ミッドナイト先生が会場の巨大画面を指し示した。
「ようやく終了ね、それじゃあ結果を御覧なさい!」
ちらほらと見知った顔が画面に映る。
一位の僕がやけに大きく割り振られているが、目立つのに慣れていないのでなんだか照れ臭かった。
ミッドナイト先生によると、予選通過は上位42名らしい。
「次からはいよいよ本選よ!ここからは取材陣も白熱してくるよ!キバリなさい!!」
そしてまた画面が高速回転を始める。
第二種目は……
「コレよ!!」
バーン!と表示されたのは騎馬戦だった。
騎馬戦はどうやったって個人では出来ない。
「個人競技じゃないけどどうやるのかしら」
思っていたら梅雨ちゃんが代わりに言ってくれた。
それに答えるようにミッドナイト先生がルールの説明をする。
「参加者は2~4人のチームを自由に組んで、騎馬を作ってもらうわ!」
なるほど。基本は普通の騎馬戦と同じらしい。
ただ、先程の順位に従って配られるポイントを、組み合わせたチームで合計にし、それを奪い合うという事らしい。
そして与えられるポイントは下から5ずつ増え、42位が5P、41位が10Pとなるようだ。
じゃあ僕のポイントは…にひゃく――
「そして…一位に与えられるポイントは、―――1000万!!」
ん?……はい?
「上位の奴ほど狙われちゃう…下克上サバイバルよ!!」
そういうことか……。
考えてみれば雄英がそんな"おりこうさん"なルールを作る訳がないのだ。
そう考えれば、著しすぎるインフレにも納得が――いく訳ない。ないのだが、こうなったらやるしかないだろう。
どうやら騎馬が崩れても、ポイントの合計である鉢巻を取られても時間までは失格にならないらしい。
つまり、1000万Pを持つ僕は、10~12組の騎馬にずっと狙われる事になるらしい。
「個性発動アリの残虐ファイト!でも……あくまで騎馬戦!悪質な崩し目的での攻撃等はレッドカード!一発で退場とします!……それじゃ、これより15分!チーム決めの交渉タイムスタートよ!」
限られた15分だ。早速作戦を考える。
―――よし、良いだろう。
「1000万ポイントじゃ使えないな……」
「?」
すれ違う時に呟かれて振り向く。
彼は、確か普通科の子だったはず。この間教室に来ていた隈の濃い男子生徒だった。
随分な事をいうなと僕は尾白君に話しかけている彼から視線を外した。
そして僕は真っ直ぐに、先程目が合った…塩崎さんと言ったか。彼女に歩み寄った。
「塩崎さん」
「あ、貴方は」
「金木です、よろしく」
手を差し出すと、この状況で話しかけられる意味を分かっているだろうに嫌な顔一つせず応えてくれた。
どうやら気持ちの良い性格をした女の子のようだ。
「君の個性は、その茨状の髪の毛でいいんだよね」
「はい。それで、私を誘いたいんですね?」
「……あ、うん。そうなんだけど。……正直僕のポイントは、諸刃の剣だ。だけど、君の個性とそれからあと一人、揃えば守りきれる。このポイントさえ守りきれば、必然的に次に進める。受けて、くれるかな」
彼女の目を見て、真摯な態度でたずねた。
塩崎さんは僕の目をじっと覗き込むと、やがて頷いた。
「分かりました。お受けします」
「ええ?茨、いいの!?」
「はい。これも私に与えられたチャンスでしょう」
「チャンスって言うか…」
髪をサイドテールに結んだ活発そうな少女が気まずそうに僕を見た。
それもしかたないだろうと僕は苦笑すると口を開く。
「それじゃ、塩崎さんを借りるね」
「あ、うん…」
"もう一人"を探して歩いていると、塩崎さんが口を開いた。
「金木さん、質問が」
「うん、何?」
そう聞きながらも、僕は次にされる質問に察しがついていた。
「あの、私を借りるとはどういうことでしょうか?」
「はい?」
……あ、さっきの女の子に言ったやつか?
僕はてっきりもう一人について聞いてくるかと思った。
「ご、ごめんね。言葉の綾というか……塩崎さんを物として見ているわけじゃないよ。勿論」
「ならばいいのです」
「…そっか」
分かりやすいようで予想以上に不思議な子だった。
大丈夫だろうか?破天荒とか反抗的とか、そんなんじゃないから大丈夫か。
「それと、"もう一人"とは、どなたでしょうか」
「ああ、確か名前は――」
「
「ああ!そうだ。お前が金木か」
シンプルながらこちらを噛ませにかかる、凄い名前だ。
声を掛けると、彼もどうやら僕のことを知っているらしい。……なにせ1000万点だ、当たり前だろう。
「察しているとは思うけど、君の個性が必要なんだ。僕と組んでください」
「!!」
率直に頼むと、一度目を瞠った後、面白そうにニッと笑った。
自然、同じように僕の口もつりあがる。
彼はどこか切島君と似た匂いがしたのだ。
だから正面きってまどろっこしい説明を後回しにして頼み込んだのだが、どうやら正解だったらしい。
「いいぜ、やってやる!それで、作戦はあるんだろうな」
僕は鉄と茨でできた、まるで座るものを選ぶように荒々しくそして刺々しい玉座に腰掛ける。
鉄哲君の肩に腰を据えると、すぐに塩崎さんの茨が僕を覆う。
鉄哲君は肩周りを鋼のようにし、茨に傷つく事はない。言わずもがな僕の肌にもちくちくするだけで傷はできない。
僕の視覚と聴覚を邪魔しないように覆うと、塩崎さんは巻きつけた茨を切り離し、また腰辺りまで伸ばした。
「鉄哲君、いけそう?」
「こんくらい楽勝だ!むしろ軽いくらいだぜ」
「それはよかった」
女子じゃないので全く嬉しくないが、のろい"馬"では生き抜けない。
塩崎さんが申し訳程度に僕の腰に手を当てて支えると、騎馬が完成した。
僕の個性的に、大人数で囲われると却って動きにくい。
2~4人のチームと聞いた時に、すぐに肩車が浮かんだ。そして不安定さと守りを補うために、一人目は個性を使っても手が空いたままになる塩崎さんを。
そして二人目は彼女の茨に巻きつかれても支障のない個性で実力もある人。
何人か浮かんだが、切島君は…。
うーんと僕は顎をさする。
特に理由は無いけど、切島君はやめておいた。すぐに爆豪君のところへ行っていたというのもあるけど。
焦凍が体を氷で覆えば大丈夫だろうが、お互いに今回は協力する気がないので除外。
残ったのが鉄哲君だったが、多分彼でよかった。
爆豪君の宣誓に苛立ってはいたが、それでA組を一くくりにするのは男じゃないとか何とか……。
まあとりあえず彼に断られずに済んでよかった。
位置についた僕らを狙ういくつもの目。
後ろの塩崎さんが気圧されたように呟いた。
「覚悟はしていたつもりですが、改めて集中的に狙われると……」
「二人とも、今日が初対面なのに僕と組んでくれてありがとう。責任を持って、この鉢巻は守るよ」
「気にすんな、この方が寧ろ燃えるってやつだ!」
「ええ、貴方と組むと決めたのは私ですから。私も勿論一緒に守りきります」
後ろと真下から言われて、見えないだろうが頷く。
開始合図のカウントスリーが始まった。
この場に居る全ての騎馬が敵だ。僕は茨の隙間から敵を睨みつけ、額の鉢巻をぎゅっと締めた。
左目が熱を持つ。
戦いを前に、高揚しているらしかった。もしくは、いつでも赫子が出せる状態だ。
短いですが、キリのいいところで。
※ゆきん子さん、投稿時間10分間違えてますよ。
……ほんとにすみません。