金木研はヒーローになりたかったのだ   作:ゆきん子

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ちょっと遅くなりました。ごめんなさい。
どっさりとレポートを出されて、消化してました。


10話 王になるはずだった少年

 

 

 

爆豪勝己は、酷く苛立った様子で帰路へつこうとしていた。

 

入試1位という、王にのみ与えられる王冠。

それが、自分のものではないと知ったとき、爆豪のプライドは折れそうになった。

追い討ちのように知った幼馴染の――ナードと、"無個性"とバカにしていた緑谷の雄英合格にも衝撃を受けた彼は、入学後、いつもの様に突っかかるのではなく、自分の玉座を奪った相手である金木研を、静かに観察していた。

 

自分を引きずり下ろして入試1位になったのは、何処からどう見ても地味な文学少年といった出で立ちで、中学の頃の奴らと何ら変わりなく見えた。

個性把握テストの時だってそうだ。そのときもじっと様子を見ていた爆豪には、金木の何処に自分に勝ち得る要素があるのか分からなかった。

奴の個性だって見たところ単純な強化系のように見える。それは、爆豪自身が今まで下に見ていた"没個性"達にも何人かいた。

金木研も、そんな端役の没個性達の一人…の、はずだった。

 

だが、入試の結果が何かの間違いだとは思わなかった。

他でもない自分の選んだ雄英高校に、間違いなんてあってたまるかと。

 

今日の戦闘訓練を思い出した爆豪は、つり上がった眦を更にきつくする。

轟と金木の試合を見て、圧倒されてしまった。この自分が。

敵わないのではないかと、一瞬でも自分の能力を疑ってしまった。

八百万の言う事、そしてその後の…金木の意見に納得してしまった。

普段ならば、怒りを感じたとしてもどこか冷静な部分で周りを見て、センス、個性、自身の持つもの全てを使っているはずだった。

しかし、自分の目の前をうるさく飛び回る蝿のような不快な人物が二人も出てきたのだ。

 

自分が一番だ。

自分こそが、その場に立つのに相応しい。

それを今日の戦闘訓練で証明するはずが、自分より下の奴らが偉そうに意見を言い、爆豪を否定した。

筋の通った、道理にかなう意見は正しく、説得力を持って爆豪のプライドを傷つける。

 

そんな事は露知らず、こちらを窺うように見てきた金木を思い出した爆豪は、盛大に顔をしかめる。

爆豪は軋んだ音を出すほどに歯を食いしばり、短く、大きな舌打ちを零す。

 

気分は最悪だった。

いつの間にか止まっていた歩みにまた苛ついて舌を打つと、歩き出そうとして―――あろうことか、それは他の誰でもない、緑谷出久によって止められた。

 

爆豪は振り返り、愚かにも手負いの獅子に話しかけた緑谷を血走った目でにらみつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

並んで歩く轟と金木の間に、会話らしい会話は無かった。

轟は横目で少し下にある金木の顔を見る。

 

戦闘訓練中の金木は、普段とは違った印象を轟に抱かせた。

敵役としての演技だとしても、妙に慣れたというのか…どうすれば相手にプレッシャーを与える事ができるのか、知っている風でもあった。

実際金木が自らの足を折りながらも氷の拘束から逃れた時、轟は柄にも無く自分が気圧されているのを確かに感じた。

不気味なマスクで殆ど隠れてはいたが、事実として、同年代の誰よりも金木と共に居た自分が見たことの無い表情、視線を向けられて戸惑いもあった。

 

ただ、自分が勝てないとは微塵も思っていなかった。

それは、轟が文字通り血反吐を吐きながら行ってきた訓練に裏付けされた実力。そこから来るのは紛れも無い"自信"であった。

しかし、結果は吹き飛ばされた自分を庇おうと手を伸ばした金木に対する騙し討ちの様な、稚拙であまりにも粗末な勝利。

そもそも、轟は自分が金木に負ける可能性など、1()()()()()()()()()()()()()

無自覚ながらプライドの高い轟は、これまた無自覚に"金木研は自分よりも弱い"と思い込んでいたのだ。

 

昔から周りと開きに開いていた実力の差。

それに自覚が無いながらも自信とプライドを持っていた轟は、許せなかった。

全力を出さずに結果的に轟に勝利を譲った形になった金木が。

金木の全力を引き出すどころか、情けない形で勝った自分が。

 

右の力だけで全てに勝って、"1番"になる。そうして、彼女の力を証明しなければならない。"奴"にそれを認めさせるには、全てをこの力でねじ伏せる必要があり、轟にはその覚悟があった。

以前話したとき、金木はそれを否定しなかったはずだ。

今日も、否定はしなかった。ただ、納得の行く説明も、されなかった。

轟はそのことを不満に思ったが、金木は意外と頑固だし、なにより他人に聞かれたくない様子でもあった。

 

轟の視線に気が付いたのか、金木はチラリとこちらを見上げて、眼帯に隠れていない右目が轟のそれと合うと気まずそうに逸らす。

気まずいのなら、自分なんて置いてさっさと帰ればいいものを、隣のこの男は昔からお人よしなのか、轟を無下にする事はなかった。

"友達"とはそういうものなのか。金木以外に同年代でまともに交流した事もないような轟には分かるはずもなかった。

 

金木は、轟に対しては他の奴に接するより多少遠慮が無くなる様に思う。

自分も、他人と居るよりも金木と居るときは煩わしい事も無く、なんとなく楽だ。と、思う。

これが友達なら普通の事なのか、轟にはまだ、いまいち分からなかった。

 

轟の思考は、いつの間にか金木と出会った中学の頃に遡った。

 

 

 

 




王になるはずだった少年。---それは、一体誰の事なのだろうか。
こういうのは皆さんそれぞれの意見があっていいと思います。

今後は、本編を進めながらも、閑話として二人の過去についても時々書いて行きたいなと思っています。…そんな器用なことが自分にできるかは不明ですが。

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