とりあえず、爆豪君によって爆破されたり、緑谷君によって粉砕されたりでビルは使いものにならない程のダメージを負っていたので、また別のビルに移動する。
オールマイトは先程のチーム分けのくじをまた取り出した。
「さぁ!時間も限られてるし、どんどん行こう!!」
ジャン!と取り出されたのはBとIが書かれたくじ。
あれ、Bチームって、ひょっとして……。
焦凍のほうを見ると、丁度彼もこちらを見ていたのか目が合う。
逸らされることもなくじっと見てくる視線に耐え切れず、こちらからそっと目を逸らして、一緒のチームになる尾白君たちのところへ向かうために足を踏み出した。
「っ?し、ショート?」
「カネキ…お前、昨日のテスト、あれ本気か?」
「え、一応、真面目にやったけど」
「そうか……今回、本気を出せよ」
「は?」
焦凍に腕を掴まれて、意図の読めない話をされる。
そりゃあ、授業なんだし、ちゃんとやるつもりだけど…。
僕が首をかしげていると尾白君に呼ばれて、焦凍も手を離したので後ろ髪を引かれつつビルの中に入る。
焦凍は僕が、何でもかんでも全部言わなくても察していると思っているのかもしれないが、大間違いだ。比較的周りより付き合いが長いからと言って、そんなエスパーみたいな芸当僕ができるわけないだろ。
僕が眉を顰めていると、透明な女の子が急かしてくるので、核の設置してある部屋へとお互いの事を話しながら移動した。
「それじゃ、お互い簡単に自己紹介から始める?」
「うんっ!私は
本気出すから脱ぐね!と数少ない衣服(?)であるブーツと手袋を歩きながら器用に脱ぐ葉隠さんから二人揃って目を逸らす。
いや、見えないんだけど。見えないんだけど、じろじろと見るものでもないだろう。
「あー、俺は尻尾があるってだけだ。武術をやってるから、尻尾と武術で戦うって感じだな…」
「僕は金木研。よろしく、葉隠さんに尾白君。僕の個性は簡単に言うと、常時身体能力が人の何倍もあるって感じかな。他にも武器はあるけど……ちょっと危険だから、今回使うかは決めかねてる。急にチームに参加する事になっちゃったけど、同じチームが君達で心強いよ」
個性的にも、今回のルールではとても役に立つ個性だろう。葉隠さんのなんて奇襲に最適だ。
尾白君と葉隠さんがこっちを見ている。……葉隠さんは見えないけど、気配で察してなんとなく見ている気がする。
「お前がそれを言うのか」
尾白君は微妙な顔で呟いた。
昨日のテストでは目立ってたかもしれないけど、あれは僕の個性が測定方法と相性が良かっただけなんだよな。
「えっと、個性から考えても、僕と尾白君がヒーローと戦う間に、隙を見た葉隠さんが捕獲テープで奇襲、って辺りが妥当かな?」
「あぁ」
「そうだね!」
目的の部屋に着いたので、詳しい作戦を相談する。
結果、
尾白:後衛スタート。前衛のカネキのサポートをしつつ、ヒーロー達の動きを見て場合によっては前衛に。
葉隠:戦闘には参加しない。何処かに潜み、相手に常に警戒をさせて、カネキと尾白以外にも敵が居る事で二人に集中させない。
カネキ:前衛スタート。近接の体術で攻め、様子を見て尾白に前衛を任せ遊撃に移る。
……と、こんな感じになった。
簡単すぎに見えるが、初めて組んだチームで複雑な作戦は却って悪手となる。
「うーん。この部屋は、少し狭いね」
僕は二人に離れるように言うと、さっき見た建物内の見取り図を思い浮かべる。確か、隣の部屋とこの部屋を隔てる壁はそこまで厚くなくて、この壁の向こうはここと同じような狭い部屋があったはずだ。
僕は疑問符を浮かべる二人を置いて、おもむろに軽いステップを踏むと、壁に後ろ回し蹴りを放った。
パラ…と壁に人の頭ぐらいの穴があく。足じゃやっぱり、効率が悪いかな…。
「な!?」
「ちょっ、どうしたの金木君!?」
「僕の機動力を生かすなら、もう少し広いほうがいいかなって……。ごめん、驚かせたかな」
「そりゃ驚いたよ。……手伝うか?」
聞かれて尾白君の逞しい尻尾を見る。確かに、今のままじゃ効率が悪いだろう。
……皆はまだ、移動中かな。
そう当たりを付けると、僕は首を横に振る。
「少し、
不安そうにする二人をどうにか廊下に出すと、僕は上に着ていたTシャツ…いや、フードとジッパーが付いているから、半袖でもパーカーなのか?……とにかく、パーカーの裾を捲った。
ドカ!ドゴッ!
なんて音が少しの間響き、すぐに静かになる。
部屋に入ってきた二人は、二倍の広さになった部屋に立っていた僕を見ると、目つきを白いものに変えた気がした。
「えっと、終わったよ」
「これ、今の一瞬の間に一人でやったのかよ…」
「すっごいねー!」
冷や汗を流す尾白君に、興奮してぴょんぴょん跳ねる足音を発する葉隠さん。
僕はそろそろ五分だと二人に告げる。
丁度、オールマイトの開始の合図が響いた。
この建物は、階段が二つある。分担して偵察に行くよりも、ここで待ち構えていたほうがいいだろう。
大して良いわけではないが、人よりは鋭い聴覚で階段を上る音がそのうち響いてくるかもしれない。
「な、なんか寒くない?」
僕らよりも薄着…というかむしろ全裸な葉隠さんが歯を鳴らしながら言う。
僕は感じないが……まさかっ!
「二人とも!気をつけ、」
パキパキ、と軽やかな音とともに、世界が氷に包まれたような錯覚に陥る。
油断はしていなかった。焦凍の個性の発動が、範囲に対して異様なほど速かっただけだ。
「ショート……早かった、ね」
すぐに扉の前に現れた焦凍に、氷の冷たさにかじかむ足を悟られないように微笑む。
「あぁ。動いてもいいけど、足の皮剥がれちゃ満足に戦えねぇぞ」
斜め後ろに居る葉隠さんが痛みに声を上げる。
尾白君も、動けなさそうだ。
僕は、脛の中ほどまで凍らされた足を見た。心なしか二人より拘束が強いように見えるけど、気のせいだろう。焦凍が来る前に凍ってたし。
僕は息を吸うと、下ろしていたマスクを付け直す。ひんやりした革の感触が、僕の思考を引き締めた。
「ねぇ、ヒーローさん…まさか、僕がこれで終わりだなんて、思わないですよね?折角核なんて用意したのに」
顔にはなるべく出さないように痛みを覚悟した。幸い、マスクが表情の殆どを隠してくれる。
赫子で砕くにしろ、赫子なしで何とかするにしろ、どちらにせよ痛いことに変わりはない。
僕が敵だとすれば、どうするか。それは、相手により"ヤバイ相手"だと、意識をさせる。そんな方法。
ゴッ、バリ…ゴキャビチャ、ゴリッ
自分でも耳を塞ぎたくなるような音を響かせると、焦凍は驚き、目を見開く。後ろでも息を飲む音がした。
足を軽く振ると、折れた骨や剥がれた皮が元通りに再生する。
もう片方は先に解放した足で蹴って、なるべく損傷のないようにする。
「ショート…そういえば僕の怪我が治るところは、見たことがなかったかな……。脅しじゃ
喰種の再生を使用したせいか、露出した目元がビキビキと引きつるような感覚。赫眼、見られちゃったな。
「だからって本当にするか?」
葉隠さんの短い悲鳴に被せるように尾白君が呟いた。
「あぁ……全部倒して…
「……」
右手を握り、呟いた焦凍の言葉は他の二人には聞こえていなかっただろう。
彼は右だけ使ったとしても最強クラスの個性を持っている。彼の目標…野望とも言えるそれを聞いたとき、僕は彼のそれを否定しなかった。
僕の知る限り壁にぶつかった事の無い彼に、左側について何かを言ったところで、何も響かないどころか鬱陶しがられるだけだ。
じゃあ、僕が友人として彼に何をしてあげられるか。
僕は、彼の"壁"になることにした。
ようやく顔を上げた焦凍に、僕は無言で接近する。
ただ直線に走って行っただけだが、俯瞰的に見るならまだしも、主観で見るなら一瞬で目の前まで来た様に見えるだろう。
だが、さすが焦凍というべきか、彼は即座に反応して右腕を上げる。が、遅い。
僕はその腕を首を逸らして避けつつ彼の懐に入り込み、左足を踏み込んで伸ばされた腕と彼の襟元をそれぞれの手で掴む。
「っ!!」
目を見開いた焦凍が反応しようとするが、遅い。
踏み込んだ左足に力を入れると、右足を彼の下腹部に当て、後ろに倒れこむようにして投げた。
柔道の、巴投と呼ばれる技だ。うまくいった。
普通ならば自身の後方に相手を転がすだけの技らしいが、僕が途中で手を離して足で蹴り上げたので、いい感じに核や尾白君達から離れた奥の部屋まで投げ飛ばす事ができた。
僕はすぐに体勢を整えると、跳び上がって所々に天井を支えるように立つ柱を足場にして焦凍を翻弄させるように跳び回り、彼の視界から自分が消えた瞬間を見つけては軽い攻撃を重ねていく。
「本当に一人で来たの?ショート」
「っああ、」
「へぇ、今からでも、仲間を呼んだほうがいいんじゃない?」
いつまで経っても援護に来ない焦凍の仲間を疑問に思って聞くと、返ってきた返事に僕は眉を顰めて助言する。
「いらねえ」
やけにはっきりと聞こえた声に、今度は僕が目を瞠った。
動きに慣れてきた焦凍が、僕の行動を予測して空中で落とすために床から氷柱を突き上げた。
何とか空中で体を捻って避けるも、尖った先端が足に刺さってまた血が僕の足を塗らす。だが、
焦凍の目の前に降り立って回し蹴りを放つと、手ごたえの薄さにすんでの所で彼が後ろに飛んで衝撃を逃がしたのを知る。
ただ、空中に居る間無防備になるのは僕だけじゃない。
「ショート、言ってなかったかもしれないけど、僕は
僕はすぐに距離を詰めて、浮かぶ焦凍の左側に回りこむ。焦凍は咄嗟にそちらの腕を上げるが、躊躇する。
その一瞬の躊躇が、命取りだ。
「フッ!、っあ」
焦凍のわき腹に向けて前蹴りを放った時、足元がつるりと滑る感覚に、必要以上に体に力が入ってしまった。
手ごたえ、どころの話ではない。焦凍のコスチュームの氷か…あるいは肋骨が折れる感触が靴を通して感じられた。
まずい、このまま壁まで吹っ飛んだら、折れた骨に更にダメージが!
「っ、ショート!」
「ふ、やっと、捕まえたぜ、カネキ……!」
壁と焦凍の間に入り込んで焦凍を受け止めようと構えていた僕が見たのは、焦凍の不敵な笑み。
焦凍は伸ばした僕の手を取ると、そこから一瞬で僕の頭部を残した全身が凍りついた。
呆然とする僕と、僕を覆う巨大な氷の塊にぶつかって呻き声を上げる焦凍。
はっと気付いて何とか脱出を試みるも、隙間無く氷で覆われていてピクリとも動かない。まさか、氷の上で
焦凍はよろよろと起き上がると、わき腹を庇いながら核へ向かって少し早足で向かった。
「つ、はぁ、くっ……。これで俺の、勝ちだ!」
凍りついた核に焦凍が手を付く。
一瞬の間、そして、オールマイトがヒーローチームの勝ちを告げた。
焦凍は立つのも辛いだろうに、そのまま熱でビルの氷を溶かしていく。
やがて僕の氷も溶けると、僕はすぐに焦凍に駆け寄った。
「ショート!だ、大丈夫?ごめん、僕足が滑って……骨が折れたでしょ?すぐに保健室に…」
「いいから、お前はまずチームメイトの方を心配したほうがいいんじゃねえか?…俺が言う事じゃねぇが」
それもそうだと思って、焦凍を壁に寄りかからせると急いで二人に駆け寄る。
「二人とも、大丈夫?」
「あ、あぁ。俺達は全然」
「逆に全然役に立たなくてごめんねー!」
僕の再生するところを見て気味悪がられると思ったが、二人とも普通の対応をしてくれた。
僕は二人に怪我が無い事を確認すると、首を振る。
「そんなことないよ」
「ていうか、お前のほうこそ大丈夫なのか?」
「うん!すっごい怪我してたけど」
「あ、うん。それはもう治ったから…」
とりあえず二人に怪我が無いらしいと判断して安心した僕は、焦凍のほうに向かいつつ通信機に声を掛けた。
「あの、オールマイト先生。聞こえていますか?」
『――ああ!金木少年、どうしたんだい?』
「轟君に怪我をさせてしまったので、保健室まで付き添いたいのですが…」
『うん、分かった!講評は、君らが戻ってきたら伝えるよ』
「すみません」
通信機を外すついでにマスクも下ろすと、僕は焦凍の前に背を向けて屈んだ。
「……何やってんだ、お前」
不思議そうな焦凍に僕も首を傾げる。
「歩くのが辛いと思ったから、背負って保健室まで連れて行こうと思ったんだけど…でっでも、横抱きにするよりいいだろ?」
「いや、なんもよくねえよ」
「んー。じゃあ、肩を貸すよ」
「…いや、いらな」
「いいからいいから」
傷に障らないように肩を支えて歩き出す。
その間は焦凍も僕も、何も話さなかった。
ムチューッ
と、リカバリーガールに"治療"されている焦凍からそっと目を逸らした僕は、気になっていた緑谷君のベッドを覗き込んだ。
リカバリーガールの個性の治療には、当人の体力が対価として必要らしい。まだ体力が有り余っていた焦凍は、綺麗に骨がくっついたみたいだが、緑谷君は相変わらず痛々しい様子だった。意識もまだ戻っていないようだ。
「カネキ…お前、
不意に焦凍が口を開く。
僕はどう答えるか、少し考えてから彼の目を見て正直に答えた。
「……ううん。"本気"だったけど、"全力"では無かったよ」
「なんでだ?俺よりも、お前のほうが強いからか?俺はお前にとって、全力を出すまでも無い相手なのか?」
「焦凍は強いよ、とってもね。でも、それは君が言えた事じゃないだろ」
焦凍にとって、少し厳しい言葉を投げる。
ショックを受けたような彼を見て、僕は苦笑した。
「僕は、君の今までを否定したいわけじゃないし、君の目標を否定したいわけでもないよ。でも、そうだね……そういえば僕のことを、君に話したことは無かったかな」
なんだかんだで焦凍に自分の個性について、話したことは無かったことを思い出す。
納得が行かない様子の焦凍に笑いかけて、僕は少し震える唇を噛むと、口を開く。
大丈夫、焦凍は僕の再生を見ても、赫眼を目にしても、普段と変わらない態度だった。
「今度の休み、僕の家…喫茶店においでよ。そこで少し話そう」
金木君が引いたKのくじは、特に意味はありませんでした。
ですが、感想にて博識な読者様が「タロットカードの13番は死神」と教えてくださって、恥ずかしながらタロットの知識が無い私はネットでタロットの死神について調べてみました。
悪い意味も沢山あるようですが、決してそれだけでなく、「変化」「仕切りなおし」「新たな始まり」「再来」「再出発」などの意味があるようです。
……占いって、怖いなと思いました。(笑)
話は変わってとても嬉しいことが!
忍び顔様が、応援メッセージ共に素敵なイラストを送ってくださいました。
支援絵との事ですが、私には勿体無いことです…。
使用の許可も頂いたので、こちらに置かせていただきます。
【挿絵表示】