言霊使いの上級生   作:見波コウ

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入学編-Ⅳ

「司波達也を風紀委員に、ですか……」 

 

 一科生とのトラブルの次の日。その日の放課後に風紀員会本部を訪れた至言に摩利が告げた内容はなかなかに奇特な物だった。

 

「ああ、これから生徒会室に達也くんを迎えにいくんだ。どうだ、一緒に来ないか?」

「私もですか?」

「いやな、おそらくだが服部のヤツがうるさいだろうからな。お前に止めてもらおうかと」

 

 摩利の言葉に至言は少し眉をひそめて難色を示す。

 

「服部は徹底した実力主義の人間ですから、二科生が風紀委員に入るとなるとそう簡単には意見を曲げませんよ」

 

 その言葉に摩利も同意するような返事を返す。服部は魔法至上主義なところがあり、肩書きや血筋に関係なく、魔法師としての力を第一に見ている節がある。そのため、この学校での二科生=劣等生という風潮に囚われ、反対してくるだろう。

 

「なに、どちらにしろ指名するのは真由美だ」

 

 そう言って手に持っていた書類を机の上に置く。そして、「いいから付いて来い」と生徒会室へ向かっていく。摩利の多少強引な話の切り方に小さく息をついて、至言も後に続く。

 

 

 

 

「その一年生を風紀委員に任命するのは反対です」

 

 感情を押し殺した、冷たい声が生徒会室に響く。声を発したのは服部。達也、深雪が生徒会室に訪れてから、摩利が達也を風紀委員会本部に連れて行こうとした時だ。

 

「おかしなことを言う。彼を指名したのは七草会長だ。それを君が覆すと言うのか」

「本人は受諾していないと聞いています。ならば本人が受け入れるまでは正式な指名にはならないはずです」

「なら達也くんが受け入れればいいのか?」

 

 摩利の言葉に服部が言葉を返す。

 

「過去、二科生(ウィード)が風紀委員に任命された例はありません」

 

 服部の放った侮蔑的な言葉に、至言が服部の名前を呼ぶことで注意を促すが、開き直る様に言葉を返される。

 

「取り繕っても仕方のないことだ、夏目。それとも、生徒の三分の一以上を摘発する気か? 渡辺先輩、風紀委員はルールに従わない生徒を実力で取り締まる役職です。実力で劣る二科生(ウィード)には務まりません」

 

 服部の言葉に摩利は挑発的な笑みを浮かべて切り返す。

 

「風紀委員が実力主義なのは認めよう。確かに、力だけで抑えるのならばそれこそ私と夏目がそれぞれ動けば十分だろう。だが、私が達也くんに期待しているのはもっと別の実力だ」

 

 達也の方を見て言葉を続ける。

 

「彼は展開中の起動式を読み取れる目と頭脳がある。これがどういう事かわかるだろう? 彼がいれば今まで罪状が確定できずに、結果的に軽い罪で済まされていた未遂犯に対する強力な抑止力にもなりうる、ということだ」

 

 展開中の起動式を読み取れる、という事に驚きを隠せない服部ではあるが、それでも反対の姿勢を解かない。

 

「……それが本当だったとしても、結局取り押さえる実力がないのならば意味が……」

「それを言ったら教員推薦枠で選ばれる予定の一科の一年生でも同じだ。それに二科の彼が風紀委員になる事には大きな意味がある。二科の生徒が一科の違反者を取り締まるということは今までなかったわけだ。そしてそれがなかったからこそ、一科生と二科生の溝は深まっていっていると私は思う」

「……例えそうだとしても魔法力の乏しい二科生に、風紀委員は務まりません。会長! 私は司波達也の風紀委員就任に反対します。どうかご再考を!」

「待ってください!」

 

 服部の言葉を聞いて、とうとう我慢ができなくなった深雪が声を上げる。

 

「兄の魔法実技の成績が芳しくないのは、実技試験の評価方法が兄の力と合っていないだけです。実戦ならば、兄は誰にも負けません!」

 

 その言葉に、教室の端で腕を組み、目を閉じていた至言がピクリと反応する。反応を示したのは至言のみではない。摩利も軽く目を見開き、真由美も深雪と達也に視線を向ける。

 しかし、服部は深雪に対し諭すような口調で話しかける。

 

「司波さん、あなたは優秀な一科生です。将来的に魔法師となる人間ならば身贔屓に目を曇らせてはいけませんよ」

 

 その言葉は深雪の冷静さを奪う引き金となる。

 

「お言葉ですが、副会長。私は目を曇らせてなどいません! お兄様の本当の力を似ってすれば――」

「深雪」

 

 深雪の目の前に、手が翳される。口を閉じ、俯く深雪の前に達也が庇うように出てくる。

 

「服部副会長、俺と模擬戦をしませんか?」

 

 そう言った達也の目はしっかりと服部を見据えていた。その視線を向けられた服部は達也を睨みつける。

 

「なんだと……?」

「別に風紀委員になりたいわけではないんですが、妹の目が曇っているなどと言われたのならば、兄として黙っていられません」

 

 服部が怒りを声に乗せ、呪詛のように呟く。

 

「つまり、貴様は……実力で俺に勝つつもりか……? いいぞ、身の程を弁えることの必要性をその身に叩き込んでやろう」

 

 真由美と摩利がアイコンタクトを交わす。それから真由美が口を挟む。

 

「それでは、生徒会長の権限により、二年B組・服部刑部(ぎょうぶ)と一年E組・司波達也の模擬戦を正式に許可します。時間はこれより三十分後、場所は第三演習室、双方にCADの使用を許可します」

 

 その言葉と同時にあずさが備え付けの端末で学校側に申請を出すための作業に入る。

 

 

 

 

 第三演習室。そこには審判に指名された摩利が達也と服部の間に立ってルールを説明している。達也は目の前の服部に視線を向ける。余裕の表れが表情から読み取れる。続いて演習室の壁際に立っている見学者の面々に視線を向ける。皆思い思いの表情で自分たちを見ている中、至言のみ手に扇子を閉じた状態で持っている。なぜ扇子を? と思ったがすぐにその扇子が鉄扇を模したCADだと理解し、有事の際に止めに入る為の準備だろうと理解した。

 

「――ルールは以上だ。準備はいいか」

 

 摩利の言葉に服部と達也が口を開かずに頷くことで返事をする。

 

「始め!」

 

 その言葉を合図に二人が目の前の敵を倒すべく動く、が――

 決着は一瞬。服部の体が崩れ落ちた。その背後には達也がCADの銃口を服部に向けて立っている。あわや服部が地面に倒れ伏す、という直前で服部の体が見えない何かに支えられ、ゆっくりと地面に寝かせられる。無抵抗のまま地面にぶつかるのを空気の層で防いだのだろう。達也はそう理解し、魔法を使用したであろう至言の方を見る。閉じられた扇子の先端がこちらを向いていた。達也は至言に目礼を行い、摩利の方を見る。

 

「しょ、勝者……司波達也」

 

 服部が負けたことに皆が驚き、何も言えずにいたが、達也の視線に気が付いた摩利が判定を下す。

 達也は軽く一礼して、自身のCADをしまう為に模擬戦の前にケースを置いた机に歩み寄る。その背中に摩利が問い掛ける。

 問い掛けの内容は、達也の行動について。達也は己の身体技術のみで瞬間的に接近、背後に回り、振動魔法で作り出した振動数の異なる三つのサイオン波を合成させる事により強力な波動を作り出し、服部の意識を奪う、ということを行っていた。

 

「それにしても、あの短時間にどうやって振動魔法を3回も発動できたんですか? それだけの処理速度があれば、実技の評価が低いはずはありませんが」

 

 生徒会会計の市原(いちはら)鈴音(すずね)が達也に問いかける。成績が悪い、と正面から言われた達也が力なく苦笑を零していると、あずさが達也の使用しているCADについての言及を始める。

 世界で初めてループ・キャスト・システムを実現した、天才プログラマ「トーラス・シルバー」のフルカスタマイズモデル『シルバー・ホーン』。達也が使用しているCADである。

 だが、それでも真由美と鈴音は疑問が残っているらしく、怪訝そうに達也を見る。

 ループ・キャストは同一の魔法を連続発動する為に、起動式の最終段階に同じ起動式を魔法演算領域内に複写する処理を行うシステムである。その為、ループ・キャストをただ使用するだけでは振動数の異なる波動を作り出すことはできない。振動数を変える為には多変数化の処理を行わなければならない。それを実行している、という事実に鈴音が驚愕で言葉を失う。

 

「……魔法を発動する速度、魔法式の規模、対象物の情報書き換えの強度、この三つが試験の評価項目だ。なるほど、テストが本当の能力を示していないとはこういうことか……」

 

 フラつきながら頭を押さえて立ち上がった服部が小さな声で呟く。

 

「はんぞーくん、大丈夫ですか?」

 

 服部に近づきながら心配するような声を出す真由美に対して、「大丈夫です!」と逃げるように体を引く。

 

「そうですね。ずっと気がついていたようですし」

 

 鈴音が服部に対してそう言うと、顔を赤くして言い訳を始める。

 

「いや、最初は意識が無くて……身体を動かせるようになったのはついさっきなんですよ!」

 

 服部が言い訳を続けている間にも、達也はCADの片付けを行っている。達也の作業が終わろうか、と言う時に背後で声が聞こえる。だが、達也は振り返らなかった。

 後ろでは服部が深雪に対して謝罪の言葉を述べていた。深雪も自分の行動に対しての謝罪を述べ、深々と頭をさげる。達也が作業を終え振り向くと、服部は強い視線で達也を見るが、そのまま踵を返す。

 

「それじゃあ、生徒会室に戻りましょうか」

 

 真由美の言葉を起点に全員が移動を始める。途中、達也が口を開く。

 

「すみません、CADを預けてきたいのですが」

 

 達也の言葉に摩利が苦笑をこぼしながら言う。

 

「必要ないだろう、今から風紀委員になるのだから」

「いえ、まだ正式に所属したわけではないので」

 

 達也の真面目な返答に摩利が困ったようにため息を吐く。

 

「分かったよ。夏目、達也くんと一緒に事務室まで行って、手続きを終えたら委員会本部に連れてきてくれ」

「わかりました」

 

 摩利の言葉に返事をしてから達也を連れて事務室の方面へ歩いていく至言。兄の背中を寂しそうに見つめる深雪だが、真由美に呼ばれ生徒会室に付いていく。

 事務室に向かっている最中、至言は先行しながら達也に対して口を開く。

 

「司波兄、そういえば言っていなかったことがあったな」

 

 どうやら目の前の男は達也のことを「司波兄」と呼ぶらしい。深雪のことは「司波妹」とでも呼ぶのだろうか。達也がそんな無為なことを考えていると、目の前を歩いていた至言がこちらに振り返り、言葉を繋げる。

 

「昨日のことだ。ほのかを庇ってくれたことに礼を言わせてもらう。少なくともあの時点では庇うほどの関係ではなかっただろう」

「彼女はあの場をおさめようとしていましたから」

 

 そんなに薄情ではない、と言外に伝えると「そうか、すまないな」と謝られる。

 事務室でCADを預ける手続きを行い、委員会本部に足を運ぶ。

 

「風紀委員会本部と生徒会室は直通階段で繋がっていてな、書類の受け渡しなどが円滑に行えるようにとのことらしい」

 

 委員会本部に向かう途中に至言に教えられる。少し詳しく聞くと、生徒会室の非常階段の場所に直通階段が設置されているらしい。

 

「さて、ここが風紀委員会本部だ。IDカードを登録しておこう」

 

 委員会本部の前で至言の手により、達也のIDカードが認証システムに登録される。昼休みに生徒会室にもIDカードの登録をしていたので、実質的に生徒会室と委員会本部の両方に自由に入ることができるようになった。

 

「やあ、来たか。まあ適当にかけてくれ」

 

 中では摩利がすでに待っており、達也が来たことを確認すると長机の前の椅子を指差してそう促す。

 

「思ったより綺麗ですね」

「ん? どういうことだ?」

 

 素直な感想を言った達也に摩利が不思議そうな顔で尋ねる。

 

「いえ、勝手なイメージですがもう少し散らかっているものかと思っていたので」

 

 風紀委員の主な仕事は校内の巡回だ。その為に部屋に人がいない時間が多いだろう。現に今委員会本部にいるのはこの三人のみだ。そうなるとわざわざ業務時間外に部屋の片付けをするということになる。うまくシフトを回したりしているのだろうか。

 

「ああ、そのことか。整理整頓は口うるさく言ってあるからな」

 

 自慢げに言う摩利だが、達也はチラリと横目で至言の顔が少し険しい顔になっていたのを見た。

 部屋を見渡していると達也は棚に並べられている幾つかのCADが目に止まった。

 

「備品としてCADが支給されているんですか?」

「ん? ああ、どうだったかな……」

 

 達也の質問に摩利が少しうろたえながら至言の方を見る。

 

「備品として申請したものもありますが、多くは過去の先輩方が買い替えた際に古い物を寄贈と言う形で残してくれたものです」

「――だそうだ」

 

 至言の言葉をつないで摩利が返してくる。

 

「少し見てもいいですか?」

「CADをか? 別に構わんが」

 

 摩利から許可を得た達也が一つ一つCADを手に取り見ていく。

 

「なかなかに良い物が揃ってますね……しかし、整備はされないんですか?」

「備品のCADを使う機会がないからな。自身のCADが壊れた時くらいだが、大体の人間が予備のCADは持っているしな」

 

 達也の疑問に至言が答えてくれる。が、そこで摩利が口を挟む。

 

「ちょっと待て、そこにあるのは旧式のものばかりだぞ」

 

 達也の言った「良い物」という評価に摩利が不思議そうな顔をする。

 

「例えばこのCADですが、たしかに旧式ではありますが、整備をしっかりと行えば最新型にも引けを取らないエキスパート仕様の高級品ですよ」

「……知っていたか?」

「いえ、恥ずかしながら」

 

 達也の回答に摩利と至言がそれぞれ反応を示す。

 

「委員長。いくつかのCADの整備をしても大丈夫ですか?」

 

 達也が言った言葉に摩利が神妙そうな顔で呟く。

 

「……一年生なのにCADの整備もできるのか、君は本当に面白いな」

「一応、魔工技師志望なもので」

 

 そう言った達也はすでにCADのデータチェックを行い始めている。

 

「君ほどの実力者が魔工技師志望か」

「俺の才能ではC級までしか取れませんから」

 

 摩利はもったいない、と思うが達也の言っていることは事実だった。学校の評価基準は国際ライセンスの評価基準をそのまま使用している。そのため、学校で評価が得られていないのならば、ライセンスも相応のものしか取れないのだ。

 達也がCADの整備を行っている最中、摩利が部屋の中を歩き回りながら口を開く。

 

「達也くんには期待しているぞ、二科生に対するイメージアップにもなるだろうしな」

「……どうでしょうね、逆効果な気もしますが」

 

 達也の言葉に「どうしてそう思う?」と返して来た。別に本心から疑問に思っているわけではないのだろうが。

 達也と摩利の軽い問答が行われる。それを聞き流しながら至言は委員会本部にある固定端末に近づき、一応何かしらの連絡事項が来ていないかを確認する。すると、教職員推薦枠として森崎駿を指名する。と教職員会からの連絡が入っていた。それをみた至言は眉をひそめる。今来ているのが正式な通知なので、風紀委員長の摩利にはこれより早く連絡が来ているはずだ。それでいて尚この知らせということは、

 

「渡辺先輩、教職員推薦枠の生徒、認可されたのですか?」

 

 摩利がその推薦を受け入れた、ということだ。

 至言の言葉に作業中の達也も顔を上げる。その達也の方を見ながら摩利が人の悪そうな笑みを浮かべる。

 

「まあな、喜べ達也くん、教職員推薦枠は君と同じ一年生だ。同年代がいると気が楽だろう?」

 

 達也としては同年代だろうと、自分が二科生である時点で何かしらのいざこざが起こりそうで気が気でない。

 

「二科生に友好的な奴ならいいんですが」

「あー、残念ながら難しいかもな。なに、君も知っているぞ。一年A組の森崎だ」

「……辞めたくなってきましたよ」

 

 風紀委員会本部に達也の疲れたような溜め息交じりの声が響き渡った。

 

 

 

 

 達也が摩利の言葉に悲痛な声で返してから、ある程度の時間が経過していた。

 途中、真由美が生徒会室から降りてきて達也の様子を見に来たりもしたが、彼女は生徒会室を閉めることを伝えるとすぐに引き揚げていった。

 

「明日から新入部員勧誘期間でな、風紀委員は一週間フル稼働だ」

 

 CADのチェックもある程度終わり、ついでに、と固定端末の整備も行って、その作業も終わりに近づいている。そんなときに摩利がそう言って、今日は切り上げようという話になった。

 端末の最終確認をしていると、委員会本部に二人の男子生徒が入って来る。

 

「ハヨースッ」

「オハヨーございまス!」

 

 お手本のような体育会系の挨拶を行い入ってきた二人が摩利を見てそれぞれ言葉を繋げる。

 

「おっ、(あね)さん、いらしたんですかい」

「委員長、本日の巡回、終了しました! 逮捕者、ありません!」

 

 二人の言葉を聞いた摩利がため息をついてからゆっくりと片方の男に近づき――

 

「ってぇ!」

 

 委員会本部に乾いた音が響くのと同時に、男が頭を押さえて蹲る。摩利の手には丸めたノートが握られており、それを肩に担ぐようにして眼下の男を見ている。

 

「姐さんって言うな! 何度言ったら分かるんだ! 鋼太郎(こうたろう)、お前の頭は飾りか!」

 

 摩利の怒鳴り声が委員会本部に響き渡る。

 二人が叩き叩かれ、とやっている間に至言がもう一人の男に謝辞を述べる。

 

「沢木、すまないな巡回を代わってもらって」

「いや、構わないさ。それより、彼が新しいメンバーか?」

 

 その質問に至言が答える前に、摩利が沢木を呼ぶ。

 

「沢木、お前も聞いておけ、一年E組の司波達也。生徒会枠でウチに入ることになった」

「へぇ……紋無しですかい」

 

 鋼太郎のその言葉に沢木が反応する。

 

辰巳(たつみ)先輩、その表現は、禁止用語に抵触する恐れがあります!」

 

 鋼太郎の発言を咎めはするが、鋼太郎が達也に向けている値踏みするような視線を注意はしない。

 そんな二人の様子を見て、摩利がニヤニヤと笑みを浮かべる。

 

「期待の新人、という奴だ。ここだけの話だが、ついさっき非公式の試合とはいえ服部がやられたばかりだ。なあ、夏目」

「ええ」

 

 摩利の言葉を聞いた二人の達也に向けている視線が鋭くなる。

 

「へえ、服部がこいつに……」

「驚きましたね、この学校で服部を負かす人間なんか数えるほどでしょうに」

 

 二人が思い思いの感想を言い合い、達也に自己紹介を始める。

 

「三ーCの辰巳(たつみ)鋼太郎(こうたろう)だ。よろしくな、司波。腕の立つ奴は大歓迎だ」

「二ーDの沢木(さわき)(みどり)だ。君を歓迎するよ、司波くん」

 

 達也は二人から握手を求められ、それに応える。二人からの視線も好意的なもので二科生だから、と見下すようなことはない。

 この二人とは、上手くやっていけそうだ。達也は二人と視線を合わせながらそう思った。


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