言霊使いの上級生   作:見波コウ

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寸話
寸話-『七ツ目』と『七草』Ⅰ


 四月二十七日。七草家に夏目家次期当主・夏目至言から一通の書簡が届いた。

 現在では紙の書状というのは昔と比べて使われることが少ない。近代化が進んだ社会ではデータによる通信が一般的になっている。

 だが、紙という媒体は機密性に優れている。もちろん、データでの通信もしかるべき設定を行えば機密性は高まる。

 しかし、紙に書かれている情報はその紙が第三者に渡らない限りその中身が漏れることはない。

 処分の方法も、燃やしてしまえば普通の方法では元に戻すことは出来ないだろう。

 そのような点から大事な約束事、周りには知られたくない情報の交換などには紙を使うこともある。

 七草家当主・七草弘一(こういち)は至言から送られてきた書簡を広げながら独りごちる。

 

「断られたか……まあいい、これでアプローチを掛けやすくはなった」

 

 七草家から至言に送られた縁談の依頼状は、娘の真由美との見合いの場を設けてみないか、という提案だった。

 別に真由美に縁談の類いの話が関わるのは珍しいことではない。すでに他から話が来ていたりもするし、七草家と同じ十師族である五輪(いつわ)家の長男とは両家のセッティングの元にそのような場を設けている――当の本人たちにはその気は無いみたいだが。

 だが、今回の話は今までと違う点がある。

 弘一はこの話を真由美に伝えていない。

 真由美に伝えずに至言に話を持ち掛けたのは、夏目家との繋がりを作るための第一歩だったからだ。

 弘一はどうにかして夏目家を引き入れる、そこまではいかなくても、どうにかして友好的な関係に持ち込みたかった。

 その為にそれらしい理由が欲しかったのだ。

 もちろん、至言が見合いに応じ、真由美とその気になれば良し。断られた場合も十師族からの見合いを断ったという事実が出来上がる。夏目家ほどの大きな家であれば、断ったとしても体裁的には問題は起こらない。十師族とはいえ、真由美は次期当主というわけではないからだ。

 しかし、体裁的に問題が無くても人の心というのは無意識的に後ろめたさを感じてしまうものだ。

 そこを突けばこちらが優位に立てる、弘一はそう考えていた。

 そうは言っても娘に無断で見合い話を持っていったとなると、知られるのが遅れるほど反発が強くなるだろう。

 別に年頃の娘の機嫌を損ねることくらいよくある事だが、それをわざわざ爆弾として抱え込む必要はない。そういうものは処理できる内に処理すべきだ。

 弘一がいる居間の扉がノックされる。どうやら呼んでいた娘()()が来たようだ。

 

「失礼します」

 

 その言葉と共に入ってきたのは七草家の娘である真由美。それに続いて真由美の妹である双子の姉妹、七草香澄(かすみ)と七草泉美(いずみ)

 弘一が真由美だけではなく香澄と泉美も呼んだのは彼女らも来年は第一高校に入学し、至言と関わることがあるからだ。

 そして至言と関わるのならば夏目家について教えておくべきだと考えた。

 それは表向きな事ではなく、七草家と夏目家の過去について。

 真由美もここで初めて知ることになる。彼女は七草として夏目に接触した初めての人物だ。初対面から変に腹芸をさせるより素直に関わらせた方が都合が良かった。

 

「お父様、ご用件は何でしょうか?」

 

 弘一の対面に座った三人を代表して真由美が問いかけた。

 

「本題に入る前に真由美に渡しておきたい物がある」

 

 そう言って至言からの書簡を互いの間に置かれているローテーブルの中央に置く。

 何も言わずに受け取った真由美は封筒を裏返し、差出人を確認する。

 そこに書かれている名前を見た真由美は「至言くん……?」と訝しげに首をかしげる。

 

「先に謝っておこう。実は勝手に彼にお前との見合いの話を持ちかけた」

「ええっ!?」

 

 声を上げたのは香澄だった。真由美と泉美は二人して驚きの表情で固まっている。

 だが、いち早く再起動したのは当事者である真由美だった。

 

「ちょっと待って、待ってください!」

「そして、それは彼からの断りの書状だ」

「ことっ……!」

 

 畳みかけるように新しい情報を出され思わず絶句する。

 つまり、今自分が持っている書状は『父が勝手に学校の後輩に見合いの話を持ちかけ、それを後輩が断るために送ってきた書状』らしい。

 

「……何故勝手にそのようなことを?」

 

 真由美が絞り出すように言った言葉はそれだけだった。香澄と泉美も言葉には出さないが同じ気持ちだろう。

 娘たちから視線を向けられた弘一は毅然とした態度を変えずに応えた。

 

「数ある見合い話の一つだ。お前の至言君に対する印象は前に聞いていたからな。優秀な後輩であると同時にお前に下心なども見せないそうじゃないか。いい相手だと思ってな」

「それで勝手に、ですか」

「それについては謝ろう。私も夏目家に関わるということで少し気が急いてしまってな」

 

 弘一が頭を下げたことにより会話が途切れる。

 

「理解しました。ただ、次からは私に伝えてくれると助かります」

「ああ、分かっている」

「それでは、香澄と泉美も呼んだご用件について伺ってもよろしいですか?」

 

 すでに真由美の中で気持ちの切り替えが行われていた。後回しにした、とも言いえるが、妹たちも呼ばれているのに自分の個人的な話で時間を取らせる気は無かった。

 長女の切り替えの早さと妹への思いやりは弘一も知っていたので、真由美の行動は弘一の予想通りだった。

 

「そうだな、実は至言君、いや夏目家と七草家(ウチ)の関係についてだ」

 

 弘一の切り出した話題に真由美が不思議そうに聞き返す。

 

「関係、ですか? 私は学校が同じですが、家同士の交流があるとは聞いていないのですが……」

「そうだな。交流はない」

「交流は?」

 

 弘一の発言に違和感を覚えた泉美が反応した。

 泉美の反応が予想通りだったらしく弘一は満足げに頷きながら話を始める。

 

「少し話が変わるがお前達も二十八家がどういう存在かは知っているよな」

「魔法技能師開発研究所を出自とする私たち十師族とそれを補佐する補師十八家の総称、です」

 

 弘一から視線を向けられた香澄が淀みなく答える。

 魔法技能師開発研究所。

 二〇三一年から二〇三九年の間に日本に設立された魔法師開発機関である。

 第一から第十まで存在し、それぞれの研究施設によって研究テーマが異なっていた。

 この魔法技能師開発研究所で開発された一族のみが、十師族に選ばれる資格を持つ二十八家に属することが出来る。

 所属していた研究所と同じ数字を姓に与えられているのが特徴だ。

 

「だが、私たち『七草(さえぐさ)』は最終的には第七研の出自ではあるが、実際は第三研で開発されていた」

「元々は『三枝(さえぐさ)』だったのが、『七草(さえぐさ)』に変わったと……」

 

 『七草』は魔法技能師開発第三研究所で『三枝』の名を与えられていたが、途中、魔法技能師開発第七研究所に移管された時に『七草』になった。

 

「そうだ、読みをそのままに漢字が変わったんだ。これは珍しいことではない。日本の歴史を紐解けば似たような事例はいくつもあるからな」

 

 『アベ』や『ワタナベ』といった姓に多くの漢字が当てられているように読みをそのまま残すことは昔からされている。

 

「実は『夏目(なつめ)』も過去に姓を変えたことがある。彼らは元々『七つの目』と書いて『七ツ目(なつめ)』という姓だった」

「『七』つの……」

 

 今の自分たちと同じ数字を持っている。

 

「ということは数字落ち(エクストラ)なのですか?」

 

 泉美が発言した数字落ち(エクストラ)というのは魔法技能師開発研究所で数字を与えられながら、後に数字を剥奪された家を指す隠語である。

 剥奪される理由は様々で、反逆の罪、重大な任務失敗、無能など多岐に渡る。

 だが、

 

「いや、違う。そもそも七ツ目家は古い家系だ。魔法技能師開発研究所の設立前から存在している」

 

 少し考えれば分かることなのに不用意に答えを出したが故の間違い。

 弘一の指摘に泉美が恥ずかしそうに顔を伏せる。

 

「彼らが数字を持っていたのは偶然だ」

 

 魔法技能師開発研究所に関与していなくとも数字を姓に入れることは問題ない。

 

「さて、彼らの前の姓を知ったところで話を少し戻そう。

 私たち二十八家が輩出された魔法技能師開発研究所、そこで研究が始められた際にある研究所が古式魔法の家から技術提供を募った。第九研だ。

 あそこの研究テーマは『合理化し再体系化した古式魔法を現代魔法として実装した魔法師の開発』だ。その為に多くの古式魔法師が第九研に集められた」

「存じております。つまり、七ツ目家もそこに?」

 

 真由美の言葉に弘一は無言で首を横に振る。

 わざわざこんな話をしておきながら無言で違うと伝えられ、真由美は「なんなのよ」と心の内で弘一に毒づく。

 

「七ツ目家は第九研ではなく、第三研に技術提供をしたのだ。

 第三研の研究テーマは『多種類多重魔法制御』と『魔法同時発動の最大化』。このテーマは言霊使いである彼らの先天的素質と技術が十二分に生かせるテーマでもあった

 だが、彼らが第三研に協力したのは研究テーマだけが理由ではない。

 当時の七ツ目家の当主は欲深い人間だったと聞く。彼は自分への見返りを大きくするために研究テーマに貢献できて、尚且つ他の古式魔法の家が協力していない第三研を選んだのだ」

 

 別に非難すべき内容ではない。彼らは古くから伝承してきた自らの技術を現代魔法の発展のために提供してくれたのだから。

 弘一が付け加えた言葉に真由美たち三人も頷く。

 第三研の研究テーマは『多種類多重魔法制御』と『魔法同時発動の最大化』。

 言霊使いの共通点として、処理速度と演算規模が段違いに優れているという点がある。

 そもそもの演算規模がなければ二つのテーマはなし得ない。

 そして真由美は以前、至言が魔法を使用した際に気になったことがあり彼に直接聞いたことがあった。

 それは、父である弘一が使える技術『八重唱(オクテット)』――四系統八種の魔法を一つずつ発動直前の状態で保持し、状況に応じて使用する魔法を自由に選択する技術――と近しいことを至言が行っているのを見たからだ。

 その際に言霊にも『重音(かさね)』という技術が存在し、それが似ている技術なのだろう、と教えられた。

 その時は、古式魔法は歴史が長いからそういうこともあるか、と簡単に納得してしまっていた。

 だが、もしかしたら言霊の『重音(かさね)』を改良した物なのかもしれない。

 

「だが、七ツ目家が技術提供を始めてからそう経たないうちに彼らの家で内紛が起きた」

「え……?」

 

 内紛。身内での争いだ。

 真由美たちは人が争ったと聞いて気分が良くなるような人間ではない。三人は思い思いの表情を浮かべる。

 

「第三研への技術提供は当主の独断だったらしい。その為、技術の秘匿性を重要視していた当主の弟を筆頭に内部分裂が起きた。

 その時の内紛の詳しい内容までは知ることはできないが、最終的に当主の弟を筆頭とした反対派が勝利し、七ツ目家は第三研から手を引いた。

 それと同時に彼らは、数字の『七ツ目』から今の『夏目』に姓を変えたのだ」

 

 けじめのような物だったのかもしれないし、別のメッセージが隠れているのかもしれない。

 ともかく、彼らは自分たちの都合で第三研に迷惑を掛けたことを謝罪するのと同時に、当時すでに意味を持ち始めていた『数字』を自分たちから外したのだ。

 

「何故今私たちにこのような話をなされたのですか?」

 

 自らの後輩の家のルーツを教えられ、内容も相俟って真由美は混乱していた。だが、それでも彼女は聞きたかったことを口に出した。

 妹の二人ならともかく、自分にはもっと早く教えてくれても良かったのではないか。そう意味を込めて。

 

「七草として知っておくべきだと判断したからだ。

 真由美、お前に今まで教えなかったのは夏目家の御当主である夏目静音(しずね)殿がどういうスタンスかが分からなかったからだ。

 夏目家は第三研から離れて以降、研究所出自の家とは一切関わりを持たなかった。

 余りに関わることのない期間が空いた為に、二十八家では彼らと関わりを持たないことが不文律にさえなっていた。

 だが、学校という場所でお前と関わる可能性があった。しかし、夏目家が七草に対し関わりを持たないように立ち回るかもしれない」

 

 弘一の言葉に真由美はわからない、といった顔をする。

 夏目家が七草家にどんな印象を持っているのかが分からないのなら先に教えておくべきではないのか。

 知らないうちに粗相をするかもしれないのに。

 

「入ってくる後輩が自分たちを嫌っているかもしれない、など新学期から考えながら生活したかったのか?

 お前は人当たりがいいからな。知らなくても、いや、知らないからこそ至言君と友好な関係を作れると思っていた」

 

 その考えが正しいのかは分からない。だが、少なくとも真由美と至言の間に確執などは生まれていない。

 

「他の二十七家は知らないが、七草家は夏目家に否定的な感情は持ち合わせていない。彼らの技術提供があったからこそ『万能』といわれる非凡な特性を得ることができたと私は思っている」

 

 十師族だけではなく有力な一族にはその共通する特性を以て、その一族に対し二つ名がつけられることがある。

 十文字家の「鉄壁」。

 千葉家の「(つるぎ)魔法師(まほうし)」。

 七草家は不得意とする系統が無いことを以て、逆説的に「万能」。

 

「七ツ目家が第三研に送り出した被検体は七ツ目としてはあまり優れていない魔法師だったらしい。少ない出費で大きな見返りを求めようとしたんだろう。だが、それでも一般的に見れば力のある魔法師だ。彼は多種多様な魔法が使えた」

「つまりそれが『三枝』としての最終実験体まで引き継がれていると?」

「私はそう考えている」

 

 泉美の言葉に弘一は自信ありげに答える。

 

「それに、真由美が至言君と関わってみて七草家だからといって避けられているわけではないと分かった以上、香澄と泉美も来年から気兼ねなく第一高校に通えるというのも分かったしな」

 

 話は終わりだ、何か聞きたいことはあるか? と最後に付け加え、娘たちを見る。

 三人は何かしら思うところはあるが、質問するほど考えがまとまっていないらしく困惑した表情を浮かべている。

 

「まあ、もし聞きたいことができたら聞きに来い。この事でお前達に隠す事は無くなったからな」

 

 娘たちの様子を見た弘一はそう言って真由美たちを下がらせた。

 

 

 

 

 弘一に言われて居間から退室した香澄と泉美は真由美の部屋に来ていた。

 真由美から「ちょっと二人とも来てくれないかしら?」と言われたからだ。

 だが、部屋に入ってから真由美の動きがない。

 電子錠が開き部屋の中央まで歩を進めた真由美はその場で立ったままだ。

 沈黙を保っている姉の様子に不信感を覚え、香澄と泉美は顔を見合わせる。

 とにかく声を掛けてみよう、と姉を呼ぼうとしたとき、

 

「なんなのよっ! もうっ!」

「お姉ちゃん!?」

「お姉さま!?」

 

 いきなり声を荒げた真由美に二人は驚愕の声を上げた。

 滅多に見せない姉の様子に二人は困惑する。

 しかし、すぐに落ち着きを取り戻した真由美が二人に謝る。

 

「あ、ご、ごめんなさいね……はぁ……」

 

 誤魔化すように笑いながら言ってくるが、その乾いた笑いと最後のため息が哀愁を誘う。

 

「た、確かに無断で縁談の話を持っていかれるのは止めてもらいたいですよね」

 

 先ほどまでの話を鑑みて泉美が姉の不満に同調したように発言する。

 

「そうだね、ボクたちはまだそういう話来てないけど勝手に進められるのはちょっと、ね……」

 

 父の前でなくなったことにより、香澄は素の自分で泉美の発言に同意した。

 

「それももちろんあるんだけど……七草家(ウチ)から送ったって事は至言くんはもう知ってたのよね……」

 

 真由美の疲れた声に香澄と泉美が「あぁ……」と同情した視線を送ってきた。

 二人も至言については知っている。

 去年の九校戦で見たりしたのと、なにより、大好きな姉に近づいている悪い虫(おとこ)を調べている最中に該当した人間だ。

 結果的には至言が真由美に好意を抱いていることはなさそうだったが、学校で克人の次に姉と距離が近い男子として認識していた。

 夏目家の人間だったこともあり、二人に協力していた使用人もあまり情報は得られなかった(今にして思えば使用人も七ツ目について知っていたのだろう)ようで、学校内や登下校時の行動しか分からなかった。

 少なくとも他の該当者の一人である服部のように真由美と接する際に緊張していたり、態度が変わったりということはしていなかった。

 というより、やけに落ち着き払っている態度で接する人間だと感じていた。

 おそらくこの数日間もそのような態度で真由美と接していたのだろう。

 そして、向こうからすれば縁談を持ってきた先輩がいつもと変わらない様子で関わってきたのだ。

 

「でも、夏目さんはお姉さまとのお見合いをお断りになられたのですよね?」

「そうだよ! お姉ちゃんとのお見合い断るってシツレイじゃない!?」

 

 姉が大好きな香澄としては、悪い虫がつくのは嫌だが、見合いすらせずに断られるのはそれはそれで失礼だ、と言い張る。

 だが、泉美はそういう意図で言ったわけではないらしく真由美に問い掛ける。

 

「どのような理由でお断りになったのでしょう? お姉さまよろしければ教えていただけませんか?」

 

 前言撤回。どうやら泉美もそれなりに思うところはあったらしい。

 

「……そういえば見てなかったわね」

 

 渡されてから中の書状を一度も見ていない。内容は弘一が「断りの書状」と言っていたし、あの時はすぐに話を変えた。

 真由美は書状を取り出し、目を通す。目の前の妹たちは一緒に見たいが、そんな不作法は出来ないと自らを抑える。

 少しの沈黙の後に真由美がまたため息をつく。

 

「お姉ちゃん?」

「別に普通の内容だったわ」

 

 真由美が言った通り、至言からの書状に不快な内容は書かれておらず、学校での付き合いなどを踏まえて真由美に非は無いと書かれている。

 正直言ってしまえば、それこそお手本のような断り文句なのだが、至言を知っている真由美からすれば「面倒だからテンプレートで済ませた」わけではないだろうと感じた。

 

「普通、ですか?」

「ええ、普通。……まあ、いいかしら」

 

 泉美の言葉に真由美は少し考えてから書状を手渡す。

 本来はあまり褒められるべき行動では無いのだが、同性の身内ということもありそのような行動を起こした。

 手渡された泉美に駆け寄った香澄が「うわっ! 達筆!」と小さく声を上げた。

 

「確かに普通、ですね」

「う~ん、一応お姉ちゃんの事分かってるみたいだし……」

 

 目の前で二人してウンウン唸っているが、真由美からすれば断られた理由などはさして大事では無い。

 二人の手から書状を抜き取り、封筒の中に戻す。その際に香澄が「あっ」と声を上げたが、もうその話は終わりなのだ。

 真由美は妹たちが見ているのにもかかわらず、部屋のベッドに体を投げ出す。

 そして、いじけたような声を漏らした。

 

「勝手に話を送られたのもそうだけど、在学中に後輩に縁談を持ちかける先輩ってどうなのよ」


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