このすばShort   作:ねむ井

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『祝福』13、既読推奨。
 時系列は、13巻。


このふてぶてしい盗賊団に天誅を!

 紅魔族の長を決める試練に挑むゆんゆんにくっついて、めぐみんが屋敷を出ていった後。

 新聞を畳んでソファーの上でゴロゴロしていた俺のもとに、畑仕事をしていたはずのアクアがやってきて。

 

「ちょむすけが出ていっちゃったんですけど」

「あっ、おい。泥だらけの格好で絨毯の上を歩くのはやめろよ。今はめぐみんが出掛けてるんだから、掃除当番が早く回ってくるんだぞ」

 

 ちょっと畑にいただけのくせに、どうしてこいつは一日中遊び回っていた子供みたいに泥だらけになっているんだろうか。

 

「そんな事はどうでもいいのよ。屋敷からちょむすけが出ていっちゃったから、捜しに行くのを手伝ってくれない?」

「はあー? ちょむすけなら……、本当だ、いなくなってるな」

 

 俺が新聞を読んでいる間、俺の事をジッと見ていたちょむすけが、いつの間にかいなくなっている。

 と、テーブルの上で何やら書き物をしていたダクネスが。

 

「ちょむすけなら、さっき窓をカリカリしていたから私が外に出してやったぞ」

「ダクネスったらなんて事をするのかしら? ダクネスがたまにあんぽんたんになるのは仕方ないけど、余計な事をしないでほしいんですけど」

「ええっ! 待ってくれ! 私はアクアの中でそんな扱いなのか? というか、ちょむすけが外を出歩くのは珍しい事ではないだろう? 腹が減ったら帰ってくるだろうし、そんなに心配する事でもないんじゃないか」

 

 アクアの言葉にショックを受けながらもダクネスが反論すると。

 

「冷たい! 二人とも冷たいわ! 出掛ける前のめぐみんに、私がちょむすけの世話を頼まれたのよ。いつもならそんなに心配しないけど、今ちょむすけに何かあったら私が叱られるじゃない」

「お前が叱られたくないだけじゃないか」

 

 こいつ最低だな。

 本物の女神様のような慈愛の心を持ち合わせてはいないのだろうか。

 

「何よ! ちょむすけがいなくなったっていうのに心配もしていないカズマに非難される謂れはないわ! この話を聞いた以上、めぐみんに叱られる時は二人も一緒に叱られるんだからね!」

「確信犯かよ汚え!」

 

 ちょむすけに何かあったらめぐみんが……。

 怒る……かなあ……?

 めぐみんがちょむすけをそんなに大事にしていたとは思えないのだが。

 

「ま、まあ、ちょむすけがそんなに心配なら、二人で捜しに行ってきたらどうだ? その間に私が昼食を作っておいてやろう」

 

 ダクネスが、さっきまで何やら書きこんでいた紙をチラチラと見ながら、そんな事を言う。

 

「いや、お前の料理は不味くはないけど美味くもないからいいよ。食事当番は料理スキル持ちの俺が受け持つって言っただろ」

「だからその評価を覆してやると言っているのだ! 私にだって女としてのプライドがある! 毎度そんな事を言われたまま引き下がれるか! これを見ろ! これはダスティネス家に伝わる門外不出のレシピだ! 今日こそお前に美味しいと言わせてみせる! ここは私に任せて、お前達はちょむすけを捜しに行ってこい!」

 

 ダクネスが俺に見せつけるかのように掲げたのは、さっきから何やら書きこんでいる紙。

 そこには料理のレシピらしきものがびっしりと書かれていた。

 

「じゃあ俺がそれを作っておくから、お前らでちょむすけを捜しに行けよ」

「バカを言うな! 門外不出のレシピだと言っているだろう!」

「えー? ダクネスが一緒に来ても役に立たないし、いろいろと痒いところに手が届くカズマに来てほしいんですけど」

「……!?」

 

 アクアに役立たず扱いされダクネスがショックを受ける中。

 アクアは俺が手にしている新聞に興味を持ったのか、俺の方へと近寄ってくると……。

 

「ねえカズマさん。少しでいいから私にも新聞を読ませてくれない?」

「……よし分かった! 俺もちょむすけを捜すのに協力してやるよ! ダクネスは代わりに昼飯の準備を頼む!」

 

 アクアがこれを読んだらドヤ顔されそうなので、今日の新聞は読ませたくない。

 俺が新聞を放りだしソファーから立ち上がると、アクアが残念そうに。

 

「ちょむすけを捜しに行く前に、四コマ漫画を読みたかったんですけど……」

 

 ……早まったが、今さらやっぱやめたとは言えない。

 

 

 *****

 

 

 ちょむすけを捜しに商店街へとやってきた俺達は、昼飯の買いだしラッシュが終わりのんびりしている店主達に声を掛けていく。

 

「すんませーん、ちょむすけを見ませんでしたか? ええと、黒猫なんですけど」

「ちょむすけ……?」

 

 声を掛けたりんご屋の女店主は、紅魔族の名付けのセンスに一瞬困惑するも。

 

「偶然ですね、うちの息子も実はちょむすけという名前なんです。名前が同じというのも何かの縁ですし、そちらでペットとして飼っていただいても……」

「いや、あんたのところの息子はそんな名前じゃないだろ。いくらニートだからって、自分の息子をおかしな名前にするのはやめてやれよ」

 

 俺のツッコミに、女店主はそれまでのやりとりなどなかったかのように肩を竦め。

 

「ごめんなさいね。さっきまでお客さんがたくさん来ていて、周りの事まで見ている余裕なんかなかったわ」

「そ、そうですか。ありがとうございます」

「でも、黒猫について商店街の人達に聞いて回るのはやめた方がいいわ。このところ、皆黒猫に悩まされて気が立っているから」

「……? はあ、そういうわけにも……」

 

 黒猫に悩まされている……?

 よく分からない忠告を受けつつも、その場を立ち去る。

 そういえば、アイリスの護衛で隣国エルロードまで行ったり、こめっこの影響で冒険者ギルドが大騒ぎになったり、子供達の病気を治す薬のために街を離れたりと、このところいろいろあったせいで商店街に来るのは久しぶりだ。

 久々に訪れる商店街は、どことなくピリピリした雰囲気で……。

 

「おいアクア。なんか危なそうな感じなんだけど、何コレ。お前なんか知ってるか?」

 

 俺が振り返ると、アクアは。

 

「すいませーん。コロッケ二つくださいな!」

「へい毎度! ……なんだ、アクアの嬢ちゃんか。いらっしゃい、コロッケ二つだな」

 

 …………。

 

「……いや、お前は何をやってんの?」

 

 そこはアクアが昔バイトしていた店。

 働いていた時は、コロッケが売れ残ると店長が怒ると言って泣いていたが、今ではたまにそこのコロッケを買ってきている。

 店主のおっちゃんからコロッケを受け取ったアクアは、満面の笑みを浮かべ。

 

「カズマったら知らないの? ここのコロッケはとっても美味しいのよ」

「知ってるよ! お前が昔バイトしてた店だろ! コロッケが売れ残ると店長が怒るんだろ! 前に聞いたよ! そうじゃなくて、なんで今コロッケなんか買ってるんだよ?」

「さっきまで畑仕事してたし、ちょむすけを捜して歩いていたらお腹が空いたのよ。なーに? これは私が買ったんだからあげないわよ」

「いらない。そりゃそろそろ昼飯時だし俺だって腹は減ってるけどな、ちょむすけを捜すの手伝えって言っといてコロッケ買ってんじゃねーよ。それにダクネスが昼飯を作って待ってるだろうから、少しくらい我慢したらどうなんだ?」

「いいカズマ。アクシズ教では食べたい時に食べなさいと教えているわ。お昼ごはんももちろん食べるけど、私は今コロッケを食べたい気分なの。私のお金で買うんだから、あんたに文句を言われる筋合いはないはずよ」

 

 俺が止めるのも聞かず、アクアがバカな教義を持ちだしコロッケにかぶりつく。

 そんなアクアにおっちゃんが。

 

「美味そうに食ってくれるのはいいけどな、お代の方を頼むぜ」

 

 おっちゃんの言葉に、アクアがコロッケを食べながら懐を探り……。

 

「……、…………? …………ッ!!」

 

 体中のあちこちを探りながら、次第に顔色が悪くなっていったアクアは。

 

「……お財布を忘れちゃったみたいなんですけど」

 

 どうしようもない事を言いながらもコロッケを食べるのをやめないアクアに、おっちゃんが呆れたようにため息を吐いた。

 

 

 

「はい、カズマ。コロッケをあげるから機嫌を直しなさいな」

「俺の金で買ったんだから俺が食うのは当たり前だろ」

 

 俺がおっちゃんに金を払い事なきを得た後。

 その場でアクアから受け取ったコロッケをかじりながら。

 

「すんません。この辺で黒猫を見かけませんでしたか? ちょむすけっていうんですけど」

 

 俺の言葉に、おっちゃんが急に怖い顔になって。

 

「黒猫? あんたら、あの黒猫の飼い主なのか?」

「違います」

 

 剣呑な声で訊かれアクアが即答した。

 

「いや、違わないだろ。すぐにバレる嘘を吐くのはやめろよ」

「違わなくないわよ! あの子はめぐみんの飼い猫なので私は関係ありません。あの子が何かしたのなら、私じゃなくてめぐみんを叱ってね」

「今はお前がめぐみんに世話を任されてるんだからお前の監督責任でもあるだろ。……ちょむすけが何かしたんですか?」

「何かも何も……」

 

 俺の質問に、おっちゃんが答えようとした時。

 

「盗賊団だ! 黒猫盗賊団が出たぞーっ!」

 

 そんな声が響き渡り、商店街が一気に騒がしくなった。

 この国で一番治安が良いと言われるアクセルの街に、なんと盗賊団が現れたらしい。

 しかし、店主達が騒いでいるものの、盗賊団とやらの姿はどこにも見えない。

 と、店主のひとりが。

 

「あそこだ!」

 

 そう叫んだ指さした先は、屋根の上。

 そこには大量の猫達が集まっていて……。

 そんな猫の集団の中からボスらしき黒猫が前に出ると、こちらを小バカにするように『なーお』と鳴いた。

 その黒猫の後ろにいる猫達は、ほとんどが魚やソーセージなどの食べ物を口に咥えている。

 どうやら、商店街の店から食べ物を盗んで逃げるところらしい。

 という事は、あれが黒猫盗賊団なのだろう。

 

「ねえカズマさん、あの猫って……」

「ああ、ちょむすけだな」

「あのボスっぽい黒猫はあんた達の猫なのか? うちの商品もやられたんだ! どうしてくれるんだよ!」

 

 おっちゃんが怒っているが、俺とアクアは首を振って。

 

「いや、ちょむすけはあのちょっと格好いい感じのボスじゃなくて、後ろの方でいじめられてる奴です」

「そうね、うちのちょむすけはあの強そうなボスじゃなくて、他の猫達が食べ物を咥えている中、何も盗めなかったっぽくてションボリしてる子よ」

 

 そう。ボスの黒猫は、猫というより猫科の猛獣を小さくしたような、しなやかで強そうな体つきをしている。

 猫っていうか、あいつの方が暴虐の邪神の片割れっぽい。

 一方、邪神の片割れのはずなのに猫にしか見えないちょむすけは、黒猫盗賊団では下っ端扱いされているらしく、集団の端っこをウロウロしたり、他の猫に尻尾で追い立てられたりしている。

 俺達の言葉に、おっちゃんは冷静になったようで。

 

「そ、そうか……。そういや、あっちの黒猫が何かを盗んでいくところは見た事がないな」

「当然ね。うちのちょむすけはきちんとご飯をあげているし、人のものを盗むような悪い子じゃないわ」

「お前、さっきちょむすけは自分のとこの猫じゃないとか言ってただろ」

 

 猫の集団が立ち去り落ち着いてから、おっちゃんに話を聞いてみると。

 

「あいつらは最近この商店街を荒らし回っている黒猫盗賊団って奴らだ。まあ、俺達が勝手に呼んでいるだけだが……。食べ物を扱ってる店は大抵被害に遭ってるよ。あのボスの黒猫が、猫のくせに悪知恵が働いてな。ちょっとした隙を突いて集団で商品をかっさらっていくんだ」

「まるでカズマさんみたいね」

「おいやめろ。言っとくが俺は一般人にスティールを使った事なんてないからな」

 

 アクアのバカな発言に俺がツッコんでいると、おっちゃんが真剣な表情で。

 

「なあ、あんたら冒険者なんだろ? 俺は冒険者の事はよく知らないが、こないだも活躍したって話は聞いてるよ。大した報酬は出せないけどあの猫達をなんとかしてくれないか?」

「そりゃまあ、この商店街の人達には世話になってるし、猫を捕まえるくらいはしてもいいけどな。どっちにしろ、ちょむすけは連れて帰らないといけないし」

「私達に任せてちょうだい。その代わり、今度はコロッケおまけしてね!」

 

 俺達は商店街を後にし、猫の集団を追いかけた。

 

「……ねえカズマ、これってアレじゃないかしら? お魚咥えたドラ猫を追っかける愉快なおかみさんじゃないかしら。賢くも麗しい水の女神である私には、ちっとも似合わない役どころだと思うんですけど」

「超似合う」

 

 

 *****

 

 

 猫の集団は屋根を伝い路地裏の方へと進んでいく。

 

「おっ、あの黒猫、悪知恵が働くって言われるだけあるな。けっこう離れてるのに、こっちを警戒しながら逃げてるぞ。敵感知に反応がある」

 

 潜伏スキルを使いながら慎重に猫達を追跡し……。

 辿り着いたのは、路地裏の空き地。

 そこでは、さっきの猫達が寛ぎながら、盗んできたものを食べていた。

 建物の陰から様子を窺うと、ちょむすけは猫の集団の間をウロウロし、食べ物にがっつく猫達をジッと見つめている。

 そんなちょむすけは、食べ物を奪おうとしていると思われたか、猫達に威嚇されたり尻尾で叩かれたりして、そのたびにビクッとして逃げるも、完全には逃げず空き地から出ようとはしない。

 めぐみんはあいつの事を邪神の片割れだと言っていたし、邪神であるお姉さんも認めていたようだったが、この光景を見るとなんの冗談かと言いたくなる。

 と、アクアが物陰から飛びだし。

 

「ちょむすけ! そんな猫なんかに負けちゃダメよ! さあ、怯えてないで立ち向かいなさいな! ほら、そこ! あっ、どうして逃げちゃうのよ!」

 

 ……ちょむすけがいじめられっ子みたいに見えるのが気に入らなかったらしい。

 いきなり現れたアクアに猫達がビクッと警戒するも、ちょむすけにバカな事を言うだけだと分かると食事に戻る。

 アクアに焚きつけられたちょむすけが、他の猫達に立ち向かおうとするも、怯えてしまいすぐに逃げだす。

 

「しょうがないわね! この私が代わりに猫達を蹴散らしてあげるわ、私の活躍をその目にしっかりと焼きつけておきなさい!」

 

 一向に戦おうとしないちょむすけに痺れを切らし、アクアが猫へと向かっていった――!

 

 

 

「ふわあああああーっ! カズマさーん、カズマさーん!」

 

 なんという事でしょう。

 猫相手に転ばされ半泣きになった女神の上には、勝ち誇った顔でのんびりと毛繕いをする猫達の姿が。

 そんなアクアの周りを、ちょむすけがオロオロと歩き回っている。

 

 ……いや、何コレ。

 

 猫に負ける邪神と女神ってどうなんだ。

 

「……帰るか」

 

 何も解決していないが、腹も減ったし一度屋敷に帰りたい。

 すっかりやる気を失った俺に、猫達を振り払い立ちあがったアクアが。

 

「何言ってんの! 今の戦いを見たでしょう? 麗しくも気高い女神であるこの私に、あんな狼藉を働いたのよ? この邪悪な毛玉どもには天罰を食らわすべきよ!」

「お前が勝手に転んだだけじゃないか」

「ああもう! いいわ、私の力を見せてやろうじゃない。猫の弱点と言えばコレでしょう? ……『クリエイト・ウォーター』!」

「ちょ!?」

 

 嫌な予感に俺が止めようとするも。

 アクアが呼びだした水が上空に現れ、空き地全体に降り注ぐ。

 突然の水に驚いた猫達が、大声で鳴きながら蜘蛛の子を散らしたように空き地から逃げだす中、ちょむすけだけが平気な顔でその場に残っていて。

 フルフルと体を震わせ毛に付いた水を払うちょむすけを、アクアが抱きあげドヤ顔で。

 

「どうよ! これは最後まで残ってたこの子の勝ちって事よね? アハハハ! 軟弱な毛玉どもめ、思い知ったか!」

 

 高笑いするアクアの後頭部を俺は引っぱたいた。

 

「バカ! 捕まえろって言われてたのに、追っ払ってどうすんだ!」

 

 

 *****

 

 

 空き地を水浸しにした事で近隣住民に平謝りした俺達が路地裏から出ると、商店街の人達が待ち構えていた。

 

「な、なんすか? こいつはあの猫達と一緒にいたけど、何も盗んでないって話でしたよね? 連れて帰っても文句を言われる筋合いはないはずだ」

 

 俺は集まった大勢の人達にビビりつつも、憂さ晴らしにちょむすけを袋叩きにしようなどと言われないように強気で言う。

 そんな俺の心も知らず、アクアの腕に抱かれたちょむすけは、そこから逃れようともがいていて。

 

「あ、ちょっと! 今は皆ピリピリしてるみたいだから、おとなしくしていなさいな。いた! 女神の柔肌に爪を立てるのはやめてほしいんですけど!」

 

 俺の後ろに隠れているアクアが、ちょむすけに小声で文句を言っている。

 こいつも当たり前のように俺に厄介事を押しつけるのはやめてほしい。

 ……クソ、こんな事になると分かっていたらダクネスを連れてきたのに。

 店主達を代表してか、肉屋のおっちゃんが。

 

「心配すんな。あんたのところの猫を疑ってるわけじゃないさ。そいつは、その……、なんというか、そいつが盗みなんかできるような猫じゃないって事は俺達にも分かってるからな」

 

 少し言いづらそうにそんなフォローするような事を言ってくる。

 飼い主によると邪神の片割れのはずなのに、生まれたてのひよこに追いかけ回されたり、こめっこに尻尾を掴まれぶら下げられたりするちょむすけだ。

 あの野良猫達のように、機敏な動きで商店の品物を掠め取るなんて事はできそうもない。

 

「ねえ待って! この子だって、その気になれば食べ物のひとつや二つくらい簡単に盗めるのよ! 今はまだ本気を出していないだけなんだから!」

「バカ! せっかく疑ってないって言ってくれてるのに、こっちから疑われるような事言ってどうすんだ! それで、ちょむすけを疑っていないなら俺達になんの用ですか?」

「おっと、そうだな。おーい、会長さん!」

 

 肉屋のおっちゃんが声を上げると、集まった人々が横に割れて道を作る。

 現れたのは、女神感謝祭の時に協力した商店街の会長。

 

「すいません。大勢で囲んで驚かせてしまいましたね。この商店街で店を開いている人達にとっては、あの猫達の事は他人事ではないので、皆が話し合いに参加したがりまして……」

「べべべ、別に驚いてねーし! 新聞にも載った佐藤和真さんだよ? 魔王軍の幹部や大物賞金首とも渡り合った凄腕冒険者だよ? 一般人にちょっと囲まれたくらいでビビるわけないだろ! それで、話し合いってどういう事ですか!」

「サトウさん達にあの猫達をどうにかしていただきたいのです。これは我々からの冒険者への正式な依頼です。もちろん報酬も出します」

「依頼って言われても……」

 

 駆けだし冒険者が、装備が整うまで街の中でちょっとした依頼をこなしたりバイトをするといった事はあるが、俺くらいの凄腕になると街の外に出てモンスターを退治した方が儲かる。

 というか、もう資産は十分にあるので報酬が出ると言われても面倒くさい事はしたくない。

 しかし、これはいつも買い物をしている商店街からの依頼。

 断ると今後買い物をしづらくなるだろう。

 

「サトウさんのような凄腕冒険者に、このような依頼をするのは申し訳ないのですが……。実は他の冒険者にも依頼を出したのですが、こういった依頼を請けてくれるのは駆けだしばかりですからね。あの猫達はすばしっこすぎて捕まえる事もできず……。罠を仕掛けても見破られてしまい……」

「いや、あんた俺の事を成金冒険者って言ってただろ。どいつもこいつも、都合の良い時だけ凄腕扱いするのはやめろよな」

「…………、……。お渡しできる報酬は、凄腕冒険者のサトウさんにとっては端金に過ぎないかもしれませんが……」

「おい、聞こえてない振りすんな! ここで断るとこの先商店街で買い物しづらくなりそうだから依頼は請けるが、チヤホヤしとけば俺が言う事聞くと思ったら大間違いだからな!」

「実は例の喫茶店もうちの商店街組合に所属していまして、サトウさんが依頼を受けてくれるのであれば特別なサービスをと……」

 

 …………。

 

「詳しく」

 

 会長の言葉に俺は激しく食いついた。

 商人ってヤツはこれだから……!

 

 

 *****

 

 

 翌日。

 冒険者ギルドを訪れた俺は。

 

「クエストを頼みたいんですけど」

「は、はあ……? サトウさんがですか? まあ、冒険者がちょっとした素材収集を依頼するといった事もありますが……。どういった依頼でしょうか?」

「商店街に現れる黒猫盗賊団とかいうのをどうにかしてほしいです」

 

 いつもの受付のお姉さんへと、依頼を出していた。

 確かに商店街の会長に依頼されたのは俺だが、彼らは黒猫盗賊団の被害がなくなればいいのであって、解決するのは俺じゃなくてもいいはずだ。

 

「ま、待ってください! このところ商店街が黒猫盗賊団と名付けられた猫の集団に商品を盗まれているという話は聞いています。駆けだし冒険者が依頼を受けても、猫達がすばしっこいせいで思うように捕獲できないでいるんですよね? その依頼をサトウさんが請けたというのも商店街の会長さんから聞いていますけど……」

「その依頼を、より高額な報酬で他の冒険者に頼みたいと思います」

 

 大金持ちである俺は、もう危険を冒してまでクエストに出る必要がない。

 いや、金を貯めこむ事なく他の冒険者へと還元するのも、金持ちになった俺の重要な役目と言えるだろう。

 呆れたような表情を浮かべたお姉さんは。

 

「……いろいろと言いたい事はありますが、無理ですね」

 

 そんな俺の頼みをバッサリと切り捨てた。

 

「なんでですか? 金ならあります」

「報酬の問題ではありません。先日、宝島が現れましたよね? そのせいで冒険者達は懐が潤っていて、クエストを請けてくれなくなっているんです。今クエストに出ているのは、モンスターを倒してレベルを上げたい真面目な駆けだし冒険者ばかりですから、報酬が高額でも野良猫退治のクエストは受けてくれないでしょう」

 

 お姉さんに断られた俺がカウンターを離れ、ギルドに併設された酒場を見回すと。

 そこにいるのは、昼間からクエストにも行かず酒を飲んでいる冒険者達。

 

「まったく! この街の人達が困ってるってのにお前らと来たら!」

 

 俺の言葉に、お前が言うなとでも言いたげな視線が返ってきて、俺は目を逸らした。

 ――そんな中。

 見覚えのある銀髪の盗賊が昼間から酒を飲んでいて……。

 

「ようクリス、ちょっと相談があるんだが」

 

 俺はその見慣れた背中に声を掛けた。

 

 

 

 ――俺から事情を聞いたクリスは、黒猫盗賊団の捕獲を手伝ってくれる事になった。

 

「まあ、正義の盗賊としては、相手が猫だろうと悪事を働く同業者を放っておくわけには行かないからね」

 

 得意げに笑うクリスの隣では、昨日猫に負けたアクアが気炎を吐いていて。

 

「リベンジよ! こないだはカエルリベンジに失敗したし、毛玉ごときに負けたまま引き下がっていては、全国一千万人の信者達に示しが付かないわ! 今日の私はひと味違うって事を思い知らせてやろうじゃない!」

 

 見えない何者かを相手に拳を素振りするアクアを見ると、嫌な予感しかしなかった。

 こいつが張り切っている時はロクな事にならないんだよなあ……。

 

 

 *****

 

 

 その日の夕方。

 

「黒猫盗賊団が出たぞー!」

 

 店主のひとりが上げた声に、商店街の人達が屋根の上を見上げる。

 そこには、商店の品物を口に咥え屋根の上を駆けていく猫達の姿があって……。

 店主達の視線に気づいた黒猫が、バカにしたような目で彼らを一瞥し、そのまま路地裏の方へと去っていく。

 

「……これで良かったんですか、サトウさん?」

 

 猫達が立ち去った後で、商店街の会長が俺に聞いた。

 今日は被害に遭う事を想定し、盗まれた品物の代金は俺が払うという事で話をつけているので、店主達は落ち着いている。

 

「――計画通りだ」

 

 ニヤリと不敵に笑う俺に、会長はちょっと引きながら。

 

「そ、そうですか? ですが、盗まれた商品の値段を合わせると、サトウさんに払えるクエストの報酬を上回ってしまいそうですよ?」

「何言ってるんですか。俺と会長さんの仲じゃないですか。俺はここの商店街が好きだから依頼を請けたんであって、報酬なんてのは二の次ってやつですよ」

「サトウさん……!」

 

 俺と会長がグッと手を握り合う中。

 偵察を頼んでいたクリスが、屋根からシュタッと身軽に降りてきて。

 

「カズマ君が言ったとおりだったよ。あの猫達は路地裏の空き地に集まって、盗んだものを食べてた」

「よし、じゃあ少し待ってから……」

「何言ってんの? 早くしないと逃げられるじゃない! ほら、さっさと行くわよ! 目にもの見せてやるーっ!」

 

 猫への復讐に燃えるアクアが、俺の話も聞かずに路地裏へと駆けだした――!

 

「あのバカ! しょうがない、行くぞクリス!」

 

 商店街で扱っている食べ物のうち、盗みやすい位置に置いてあったものにはマタタビの粉を振ってある。

 マタタビでフニャフニャになった猫を捕まえるだけのお手軽な作戦だったのだが……。

 

「マタタビの効果が出るまで待つって説明したのに、あいつは何をやってんだ!」

「あはは、アクアさんらしいなあ……」

 

 アクアを追って路地裏を駆けながら叫ぶ俺に、クリスが苦笑し頬の傷をポリポリと掻く。

 ステータスだけは高いアクアにはなかなか追いつけず、俺達が追いついた時には、アクアはすでに空き地に飛びこんでいた。

 

「さああんた達、覚悟しなさい! 昨日は油断したけど、今日の私はひと味違うわ! 女神の本気ってやつを見せてあげようじゃないの!」

 

 これはいけない。

 せっかく猫達を油断させマタタビで骨抜きにする作戦なのに、アクアのせいで猫達が……。

 …………。

 

「……逃げないな」

 

 それどころか、アクアを迎え撃つように出てきた黒猫以外は、アクアの事を気にせず寛いだ様子で食事を続けている。

 どうやら昨日の一件で、アクアはあの猫達に格下認定されたらしい。 

 

「あいつ、昨日は天罰を下してやるとか言っといて黒猫に負けてたからな。他の猫達にも大した事ないと思われてるんじゃないか」

「ええっ? アクアさんって、ステータスはすごく高いんだよね? 強いモンスターとも渡り合えるはずなのに、猫相手にどうしてそんな事に……」

 

 俺とクリスが建物の陰に隠れながら、ヒソヒソと下馬評を話していると。

 

「ふわあああああーっ! なんでよーっ! やっぱりあんた達、なんかズルしてるでしょう! 実は悪魔の使いなの? 今ならまだ間に合うからこの女神アクアに懺悔を……! 痛い! 痛い! ねえ待って! それは大事なものだからパンチするのはやめてほしいんですけど!」

 

 今日も勝手に転んで猫にマウントを取られたアクアが、頭の飾りに猫パンチを食らい泣き喚いている。

 

「あっ、ちょっと二人とも! 見てないで助けてちょうだい!」

 

 そんなアクアが俺達に気づき声を上げると、猫達も俺達の存在に気づいて。

 

「バカ! 俺達の存在をバラしてどうすんだ! これだからあいつが張り切るとロクな事がないって言うんだよ!」

「そんな事言ってる場合じゃないよ! 猫達が逃げちゃう! どうすんのカズマ君!」

「問題ない! こんな事もあろうかと、この辺にはトラップを仕掛けまくってある! クリスはワイヤートラップで、そっちの道を塞いでおいてくれ!」

「任せて! 『ワイヤートラップ』!」

 

 散り散りに逃げようとする猫達を追い立て、ひとつの道へと誘導していく。

 

 

 

 ――そこは路地裏の一本道。

 道の両側を建物の壁に挟まれ、猫がジャンプで登れるような塀や出っ張りはない。

 

「あそこだ、クリス!」

「『ワイヤートラップ』!」

 

 そんな道にクリスがワイヤーを張って封鎖する。

 追いこまれた猫達には行き場がなく、張られたワイヤーと俺達とを見比べながらその場でまごついている。

 しかし数匹は張られたワイヤーを跳び越え向こう側へと逃げていき……。

 

「あーっ! カズマったら何やってんのよ! 猫が逃げちゃうじゃない!」

 

 逃げ遅れた猫達をドレインタッチで弱らせていると、後ろから来たアクアが声を上げる。

 

「いやちょっと待て! お前は余計な事すんな!」

「何言ってんの? 早く追いかけないと逃げられちゃう! 『スペルブレイク!』」

 

 俺の制止も聞かずアクアがワイヤートラップを解除する。

 まだドレインタッチで弱らせていない猫達が、トラップが解除された道の向こうへと逃げていく。

 そこには……。

 

「ふわあああああーっ! 何よコレ! べたべたするんですけど!」

 

 ワイヤートラップを張った先には、猫達を捕獲するための鳥もちが敷き詰められていて。

 駆けだしたアクアが、先にワイヤートラップを跳び越えていた猫達とともに鳥もちに足を取られ無様に転ぶ中、逃げ遅れていた猫達はそんなアクアの背中を踏みつけ鳥もちを跳び越えていく。

 畜生、ワイヤーを跳び越えたら鳥もちに引っ掛かるようにしておいたのに!

 

「ああもう! だから余計な事すんなっつったろうが! お前はそこで静かにしとけ!」

 

 鳥もちはあまり集められなかったので、跳び越えられるくらいの量しか敷き詰めていない。

 俺は念のため持ってきた弓矢を取りだし。

 

「俺に任せろ! ……『狙撃』!」

「!? カズマ君!? 相手は猫だよ!」

「ええー? 引くんですけど。普通に引くんですけど! いくら悪しき毛玉とはいえ、猫を矢で射るとか何を考えているのかしら? カズマったら人の心をどこに落っことしてきたの?」

 

 弓を構え矢を放った俺を、二人が口々に非難してくる。

 アクアはともかくクリスまで……!

 

「ち、違う! よく見ろ、矢じりは付けてないから……!」

 

 そう。矢の先端には矢じりの代わりに、丸めた布が付いている。

 その布の中にはマタタビの粉を入れてあり、猫の近くに当てる事でマタタビの粉を撒き散らすのが目的だ。

 俺が放った矢は、逃げていた猫の目の前に突き立ち、驚いて足を止めた猫の目の前でマタタビの粉を散らせた。

 マタタビの効果で足取りが乱れた猫達に追いつき、ドレインタッチで体力を奪う。

 

「それで、……ええと、こいつら捕まえたらどうすんの?」

 

 捕まえた猫達をペット用の檻に放りこみながらの俺の質問に。

 

「どうするって……。商店街の人達には何か言われてないの? 何も言われていないのなら、多分……」

 

 クリスが言い辛そうにしながら頬の傷をポリポリと掻く。

 

 ……えっ。

 

 この状況で言い辛い事というと俺にも予測がつく。

 猫達は保健所みたいな施設に送られ、殺されてしまうのだろう。

 マジかよ。

 いや、よく考えてみれば当たり前だ。

 ここは街の周りにモンスターがうろついているような過酷な世界。

 商店街の人達だって、何事もなく日々を過ごしているように見えてカツカツの生活を強いられていてもおかしくない。

 俺にとって猫と言えばペットだが、商品を奪っていく以上商店街の人達にとっては害獣だ。

 害獣を捕まえたのなら、行きつく先は……。

 …………。

 と、捕まえた猫達の末路を聞かされた俺が動揺し、猫を檻に入れようとする手を止めていた、そんな時。

 

「わああああーっ! ふわあああああーっ! ちょっとあんた何すんのよ! 動けないところを狙うなんてズルいわよ! やめて! やめて!」

 

 アクアの背中にボスの黒猫が乗り、アクアの後頭部に猫パンチを繰りだしていた。

 

「そっちがその気ならやってやろうじゃない! 神の鉄槌食らいなさい! 『クリエイト・ウォーター』!」

「「ちょ!?」」

 

 アクアが呼んだ大量の水が路地裏に溢れ、鳥もちに捕らわれていた猫達を鳥もちもろとも押し流す。

 しかも、ペット用の檻まで倒れ。

 俺が猫を入れようと蓋を開けていたところだったせいで、せっかく捕まえた猫達が逃げていく。

 火事場の馬鹿力というやつだろうか、ドレインタッチで体力を奪っていたはずなのに、突然の水に驚いてそれどころではなくなったらしい。

 というか……。

 

「マジかよ! あの黒猫、アクアを叩けば水を出すって昨日の事で学習して、あいつを利用したぞ!」

 

 あの黒猫は確実にアクアよりも賢いと思う。

 

「わあーっ! そんな事より猫が逃げるよ! どうするのカズマ君!」

 

 逃げる猫達を指さしクリスが声を上げる。

 

「ど、どうするって言われても……!」

 

 捕まえた猫達の末路を考えると捕まえる気にはなれず……。

 俺達は逃げる猫達を見送る事しかできなかった。

 

 

 *****

 

 

 翌日。

 商店街にやってきた俺達は、店主達に白い目を向けられていた。

 昨日、商品を囮にまでした作戦に失敗し、しかもアクアが呼んだ水が商店街にまでやってきたせいだ。

 

「さあカズマ! なんでも言ってちょうだい! 昨日はちょっと失敗したけど、今日こそあの毛玉達に目にもの見せてやるわ!」

「お前帰れ」

 

 なぜか今日も張りきっているアクアに俺は即答する。

 街を出てモンスターと戦うのは嫌がるくせに、街の中で相手が猫だから調子に乗っているのだろうか。

 本当に、こいつが張りきるとロクな事にならない。

 

「ま、まあまあカズマ君。アクアさんにも悪気はないんだよ」

 

 今日も手伝ってくれるというクリスが、苦笑しながらも俺を宥める。

 

「それで、猫を捕まえるのはやめる事にしたんだよね? それなら今日はどうするの?」

「ああ。別に猫を捕まえなくても、この商店街に立ち入らなくすればいいわけだ。俺が元いた場所では野良猫除けにいろいろやってたからな。その辺の知識が役に立つはずだ」

 

 俺だって猫は可愛いと思うし、穏便に終わるならその方がいい。

 

「そうだなあ……。ペットボトルなんてこの世界にはないだろうし、とりえあずガラス瓶に水でも入れて猫の通りそうなとこに並べてみるか」

 

 そして、俺達は猫除けの仕掛けを施し――!

 

 

 

 ――ガシャン、と。

 

「うおっ! なんだいきなり!」

 

 屋根の上に並べたガラス瓶のひとつが、通りかかった猫に押しのけられ、真下を歩いていた通行人の目の前に落ちる。

 

「クソ! またあの猫か! 今度会ったらぶっ殺してやる!」

 

 悠々と屋根の上を歩いていく猫に向け、拳を振りあげる通行人。

 

「ねえカズマ君。瓶があっても猫は全然気にしてないように見えるんだけど。それに、瓶が落ちてきて危ないし、ますます猫達が嫌われてるような……」

「そ、そうだな」

 

 そういえば、ペットボトルはあまり効果がないという話だったかもしれない。

 

「いや、大丈夫だ。他にも手はある……!」

 

 

 

 ――翌日。

 猫が歩きにくいように、屋根の上に砂利を敷き詰めてみる事にした。

 

「うわっ! なんだこりゃ! 上から砂利が……?」

 

 強い風が吹くと屋根の上から砂利が降ってくると、店主や買い物客から苦情が続出した。

 

「カ、カズマ君!? ガラス瓶の時と同じ失敗をしてるよ! せめて接着剤で張りつけておかないと……!」

「いや、やろうとしたら、成功するかどうかもわからないのに、人の家の屋根に接着剤を使って変なもんを張りつけるのはやめろって言われて……」

「カズマさんってアホなの? 屋根の上に砂なんか撒いといたら、風で飛ばされて降ってくるに決まってるじゃない」

 

 その通りだったが、ここんところ迷惑しか掛けていないくせにコロッケを食べながらツッコんでくるアクアに、俺はいきり立ち掴みかかった。

 

 

 

 ――翌日。

 

「猫が嫌がる超音波を発生させるってのはどうだ? 人間には聞こえないから害はないし、音を避けるのは難しい。コレなら行けるはずだ!」

 

 拳を握り力説する俺にクリスが。

 

「な、なるほど。それで、その超音波っていうのはどうやって発生させるの?」

「…………」

 

 

 

 ――数日が経った。

 

「もういいよ! 猫なんか一匹残らず保健所に連れていかれればいい! どうせ今この瞬間にも世界のどこかで猫が死んでるんだ! 十匹や二十匹死んだところでどうって事ないだろ!」

「おおお、落ち着いてカズマ君! イライラするのはわかるけど、一旦落ち着こう!」

「よしアクア。商店街を水に沈めよう。そしたら商店街に猫は入ってこないし、人に猫をなんとかしろと言っといて文句ばかり言う奴らもいなくなる」

「ええー? この商店街がなくなったら、私はどこで食べ歩きをしたらいいの?」

「アクアさんまで! そういう問題じゃないですよ! 二人とも冷静になってよ! あんまりバカな事を言ってると、エリス様の天罰が下るからね!」

 

 猫相手に翻弄され、店主達にまで文句を言われた俺が苛立ち。

 猫へのリベンジに燃えていたはずのアクアは、ここ数日でそんな熱意も失ったらしく、商店街へやってきては食べ歩きを楽しんでいて。

 そんな俺達に挟まれ、クリスが困っていた。

 

「ほーん? あの子が私に天罰下すって? やれるもんならやってみなさいな」

「すいませんアクアさん! 言葉の綾でした!」

 

 売り言葉に買い言葉というやつだろうか、余計な事を言ったクリスがアクアに迫られ、俺に助けを求めるような目を向けてきて……。

 

 …………幸運とは?

 

「しょうがねえなあー。正直やりたくないけど、もう他に思いつかないしな。おいアクア、めぐみんとダクネスを呼んできてくれ」

 

 いつまでもクリスに絡んでいるアクアの肩を掴み、俺はそう言った。

 

 

 *****

 

 

 いつものパーティーにクリスを加えた俺達は、冒険者ギルドでクエストを請け街を出た。

 しばらく歩いていると、先頭を歩くダクネスが振り返って。

 

「それにしても……。いつもならクエストに出ると言っても嫌がるお前が、自分からクエストを請けようなどとはどういうつもりだ? このところアクアとクリスとで何かしていたようだが、今度は何を企んでいるんだ」

「なんだよ。俺だってたまには街の人達のために働こうって気分の時もあるんだよ。そっちこそ、普段は冒険に行きたがるくせに、いざとなったら文句を言ってくるのはやめろよ」

「べ、別に私は文句を言っているわけでは……」

 

 どこか不満そうなダクネスが、俺の言葉にモゴモゴしだす。

 そんなダクネスをフォローするようにめぐみんが。

 

「それで、どうしてゴブリン退治なんですか? 面倒くさがりのカズマが理由もなくクエストに出たがるとは思えません。今日はわざわざクリスまで巻きこんでいるのです。何か理由があるんですよね?」

「理由っていうか……。まあ、ゴブリンはついでだよ。そうとでも言わないとめぐみんがついてこないと思ってな」

 

 そう。俺達が請けたクエストはゴブリン退治だが、俺の目的はゴブリンではない。

 

「カズマは私をなんだと思っているんですか? 引き篭もりのカズマと違って、仲間にクエストに行こうと言われたら私は断りませんよ」

「おっ、そうか。だったらゴブリン退治のクエストなんか請けなくても良かったな。今回の目的はゴブリンじゃなくて初心者殺しだ。ほら、あの見えてる森に初心者殺しの目撃情報があるんだよ」

「初心者殺しですか? 以前リベンジは果たしたと思いますが……」

「別に討伐が目的じゃないよ。今回の目的は、初心者殺しのうんこを採取する事だ」

 

 めぐみんとダクネスの足が止まる。

 

「痛っ! なーに? ダクネスったら、急に止まらないでよ」

「あ、アクアさん。ひとりで先に行ったら危ないですよ」

 

 ダクネスのすぐ後ろを歩いていたアクアが、ダクネスの鎧にぶつかって文句を言い、立ち止まったダクネスを追い抜いて歩いていく。

 そんなアクアをクリスが小走りに追っていって……。

 

「……今なんと?」

 

 振り返ったダクネスがポツリと言う。

 

「あの森に初心者殺しの目撃情報が……」

「そこじゃないですよ! というか、分かってますよね? 誤魔化さないでください! いったいなんのためにそんなものが必要なんですか!」

 

 めぐみんが俺の袖を掴みグイグイ引っ張ってくる。

 

「ここんとこ、俺はクリスにも協力してもらって商店街に出没してる野良猫をなんとかしようとしてるんだけどな? 捕まえたら殺されちゃうらしいし、毎回追っ払うわけにもいかないだろ? ……そこでだ、俺が元いたところの知識で、動物ってのは自分より強い動物の匂いがするところには近づかないってのがある。初心者殺しのうんこを商店街に撒いとけば、猫も寄ってこないと思うんだよ」

 

 もちろん、そんなもんを撒いたら買い物客も寄ってこなくなるから、カウンターの裏なんかにこっそり置いておく形になるだろう。

 それでも猫の嗅覚は人間より鋭いから、初心者殺しのうんこの匂いを察知した猫達は商店街に近づかなくなるはずだ。

 

「……カズマはたまに賢いんだかアホなんだか分からなくなりますね。そんな事にモンスターのうんこを使おうなんて普通は考えつきませんよ」

「というか、我々は初心者殺しの、その……、アレを採取するためだけに来たという事か?」

「そうだよ」

 

 俺がうなずくと、ダクネスがちょっとガッカリした表情を浮かべる。

 

「そ、そうか……。いや、市民のためにやっているというのは分かるのだが……、私はモンスターのアレのために来たのか……」

 

 落ちこんでいるらしいダクネスの肩をめぐみんが叩いていた、そんな時。

 

「わあああああーっ! あああああああーっ! 出たわ! 出たわよカズマ!」

 

 足を止めた俺達を待たず勝手に先へと進んでいたアクアが、悲鳴を上げながら戻ってきた。

 そして転んだ。

 

「アクアさん!? 来てる、来てるよアクアさん! ダクネス! 助けてダクネス!」

 

 アクアを起こそうとしながらのクリスに助けを求められ、ダクネスが二人の前に出る。

 

「さあ、かかって来い! 『デコイ』……!」

 

 大剣を地面に突き立て、スキルを使ったダクネスのさらに先。

 そこには、全身が黒い体毛に覆われ、サーベルタイガーのような二本の牙を生やした、猫科の猛獣に似たモンスター。

 初心者殺しが立っていて。

 俺達の存在に気付いた初心者殺しが、唸り声を上げダクネスと対峙する。

 

「アクアさん、ほら立って!」

「あ、ありがとうねクリス……。親切にしてくれたクリスには、こないだ河原で拾った、変な形をした石をあげるわね」

「えっ……。あ、ありがとうございます……」

 

 まったく嬉しくないお礼を受け取る事になったクリスが、微妙そうな表情を浮かべながらもアクアとともに後退してくる中……。

 

「……? おい、私はここだ! 私を見ろ!」

 

 ダクネスが珍しく焦った声を出す。

 

「おい、なんだよ? どうなってんだ? あいつはどうしてデコイを使っているダクネスじゃなく、ずっとこっちを見てるんだよ!」

「ししし、知りませんよ! ですが、初心者殺しは雑魚モンスターを囮にして駆けだし冒険者を狩るモンスターですからね。盾である前衛ではなく、攻撃力の高い後衛を狙ってもおかしくありません」

 

 初心者殺しは、なぜかダクネスではなく俺達の方をジッと見つめ、ゆっくりと円を描くように歩いて、ダクネスを迂回しようとしている。

 ダクネスが大剣を地面から抜き、位置取りを調整して初心者殺しの動きを抑えながら。

 

「クッ……! 『デコイ』! クソ、なぜ私を無視する! こんな……、こんな事は初めてだ! どうしようカズマ、新感覚だ! 前衛なのに相手にもされないとは……! これが……、これが放置プレイ……! ハア……、ハア……!」

 

 …………。

 

「いや、お前は何を言ってんの? 言っとくけど俺達はそいつに一撃でも食らったら死ぬからな? ちゃんと止めとけよマジで。お前の性癖のせいで俺が死んだら覚えとけよ?」

「ねえカズマ君。どうしてダクネスはあんなんなっちゃってんの? こないだはチューしたとかなんとか言ってたけど……。キミ、ダクネスに何をしたのさ?」

「だから俺のせいじゃないっつってんだろ。あいつは前からあんなんだったよ」

 

 四人で団子状態になって、ダクネスを盾にするように移動していると。

 

「待って? ねえ待って? ダクネスが変てこなのはいつもの事でしょう? 二人ともそれどころじゃないんですけど! そんな事よりあの初心者殺し、さっきから私をジッと見てるんですけど!」

 

 アクアがそんな事を言いだした。

 

「……言われてみればそうだな。最近お前はコロッケ食ってばかりいたから、太って美味しそうに見えるんじゃないか?」

 

 初心者殺しはデコイを重ねるダクネスを気にしながらも、なぜかアクアをジッと見つめている。

 

「あんたバカなの? 女神がコロッケ食べすぎたくらいで太るわけないでしょう?」

「というか、あの初心者殺しはおかしいですよ。この近くにはゴブリンの群れが棲みついているんですよね? どうしてゴブリンの群れを囮にする事なく、私達の前に姿を現したんでしょうか?」

 

 めぐみんが目を赤く輝かせ、手にした杖の先を初心者殺しに向けながらも、冷静な口調でそんな事を……。

 …………。

 

「どうしためぐみん。いきなり魔法使い職みたいな事を言いだして」

「みたいなではなくて、私は魔法使い職の上級職であるアークウィザードですよ。常に冷静沈着でパーティーを導くのが私の役目です」

「おい、ヤバいぞアクア。あっちの初心者殺しも確かにおかしいが、こっちのめぐみんもおかしい。ドッペルゲンガーが化けてるのかもしれない」

「ドッペルゲンガーって、あのエルロードにいたおじさんみたいなやつでしょう? あのおじさんみたいな気になる感じもしないし、このめぐみんは本物じゃないかしら。でも風邪を引いたのかもしれないから、屋敷に帰ったら聖なる水でお粥を作ってあげるわね」

「いいだろう、二人ともその喧嘩買おうじゃないか!」

 

 俺とアクアが相談していると、めぐみんが激昂し掴みかかってくる。

 

「あっ、こら! 今けっこうピンチなんだぞ! 分かったよ! 魔法使い職のくせにそんなに力が強いのはお前くらいだよ!」

 

 ――そんな時。

 

「ねえ皆、今けっこうピンチだと思うんだけど! 初心者殺しがダクネスを無視してこっちに来たら、あたし達じゃ対処できないんだよ! 遊んでる場合じゃないよ!」

 

 クリスの真っ当なツッコミに、俺達は動きを止めた。

 

「そ、そうだな。このままだとダクネスがおかしな性癖を増やしそうだ。よし、めぐみんはそのまま魔力を溜めて、あの初心者殺しの気を引いてくれ。その間に俺はいつもの目つぶしコンボを食らわせてやるから、隙ができたらクリスがバインドで縛りあげる。拘束できれば後はなんとでもなるはずだ」

「わ、分かった」

 

 気を取り直し指示を出す俺に、クリスがちょっとうろたえたようにうなずく。

 

「ねえカズマさん、私は? あの初心者殺しと目が合ってるんですけど!」

「お前はそのまま見つめ合ってろ! 目を逸らすなよ、野生動物と一度目が合って先に目を逸らすと、ビビったと思われて襲いかかってくるって言うからな」

「分かったわ。早くしてね!」

 

 アクアとめぐみんをその場に残し俺とクリスが移動するも、初心者殺しはアクアの方をジッと見つめていて俺達を気に掛ける様子はない。

 

「よく分からないけどあいつがアクアを気にしてるのは事実らしいな。行くぞクリス、準備はいいか?」

「任せて!」

 

 クリスが楽しげに笑いながらワイヤーを構える中。

 

「『クリエイト・アース』」

 

 俺は手の中に握った魔法の土を……。

 

「『ウィンド・ブレス』!」

 

 初心者殺し目掛けて風に乗せ放った――!

 

「ギャンッ!」

 

 アクアを凝視していたところを、突然砂粒の直撃を受けた初心者殺しは、頭を振って暴れ砂を振り払おうとする。

 そのまま、目が見えないながらも威嚇した。

 

「フシャーッ!」

「『バインド』ーッ!」

 

 と、クリスが拘束スキルを使い初心者殺しを縛りあげる。

 

「グルルルル……!」

 

 初心者殺しは唸り声を上げ身を躱そうとするも、本職の盗賊であるクリスのスキルからは逃れられない。

 

「今だよダクネス! やっちゃえ!」

「おおおおお!」

 

 それは二人で冒険していた頃のコンビネーションなのだろう。

 拘束スキルで縛りあげた相手になら、不器用なダクネスの攻撃でも……!

 ……ダクネスが降り下ろした大剣は、拘束を解こうともがく初心者殺しから数センチ手前の地面を切り裂いた。

 

「……おい」

「ちちち、ちがーっ! この初心者殺しは拘束を解こうとしてもがいていたから……!」

 

 顔を赤くしたダクネスが振り返り言い訳する。

 そんなダクネスに、クリスが切羽詰まった声を上げた。

 

「ダクネス、危ない!」

 

 ワイヤーが傷んでいたのだろうか。

 ダクネスがこちらを振り返った隙に、ワイヤーの一部を引きちぎった初心者殺しが、自由になった前足でダクネスに飛び掛かる――!

 

「くう……! おい、なんだその半端な攻撃は! もっと気合を入れてかかってこい!」

 

 前足だけが自由になった初心者殺しは攻撃するも上手く行かないらしく、不利を悟ったか飛び跳ねるようなおかしな動きで俺達から離れていく。

 

「よしめぐみん。あいつが十分に離れたら爆裂魔法で……!」

「待ってカズマ君! 敵感知スキルに反応がある! 森からゴブリンが出てくるよ!」

 

 俺のめぐみんへの指示を遮り、クリスが森を指さして。

 それと同時に、森から大量のゴブリンが湧きだしてきた。

 

「「「多っ!」」」

 

 普通はゴブリンの群れと言えば十匹ほどのはずだが、このところアクセルの街の冒険者達がクエストをサボっていたせいで数が増えたのかもしれない。

 

「どうしますかカズマ! どっちを狙えばいいですか!」

 

 ゴブリンの群れが俺達の方へ向かってくるのとは逆に、初心者殺しは森の中へと逃げこもうとしている。

 俺達の目的は初心者殺しの討伐ではない。

 それに、この状況で放っておいたら危険なのは……。

 

「ゴブリンだ! ゴブリンを狙え!」

「分かりました! 我が力食らうがいい! ――『エクスプロージョン』!」

 

 杖の先から光が放たれ、破壊の旋風がゴブリンの群れを薙ぎ払った。

 

 

 

 ――ゴブリンの群れを倒した俺達は、潜伏スキルを使いながら森の中に足を踏み入れる。

 

「どうだクリス。あの初心者殺しの行き先は分かるか?」

「うーん……。敵感知スキルには反応がないなあ。初心者殺しは頭がいいから、こっちに敵意を向けるのをやめたのかもしれないね。それに、追跡なら盗賊職じゃなくてアーチャー系の役目だからね」

 

 俺達の目的は初心者殺しを討伐する事ではないが、あの初心者殺しのうんこを手に入れるためには、巣を見つける必要が……。

 

 ……いや、待てよ。

 

「なあアクア。お前ちょっと、その辺をウロウロしてみろよ」

「はあー? どうして私がそんな事しないといけないの? なんだか嫌な予感がするのでお断りします。あの初心者殺しは私を狙ってた気がするし、もう屋敷に帰りたいんですけど」

「構わんよ。これから俺達はお前を先頭にして進むからな、お前はお前が思うように歩けばいいんだ。敵感知スキル持ちが二人もいるし、危なくなったらダクネスが前に出るから心配するな」

「この私に導いてほしいって事? いいわ、頼りないあなた達を女神として屋敷まで導いてあげるわね」

 

 俺がそそのかすと、アクアがドヤ顔で先頭を歩きだす。

 

「お、おいカズマ……! いくらなんでも、それは……」

「アクアの運が悪いのは知っていますが、こんな風に利用するのはどうなんですか?」

「カ、カズマ君、分かってるの? アクアさんの正体は……」

 

 三人が俺を止めるかのような事を言ってくるが、なぜか三人ともアクアから一定の距離を取ろうとする。

 そんな三人に、アクアが不思議そうに。

 

「なーに? どうして皆、私から離れようとするの? 私の威光のせいで近寄りがたいのは仕方ないけれど、ひとりで先頭を歩くのは……、…………。何コレ? なんかぐにゃっとするものを踏んだわ」

 

 俺達はアクアから距離を取った。

 

 

 *****

 

 

 ――数日後。

 

「「「ありがとうございました!」」」

 

 俺とアクアが商店街へと買い物に行くと、会長を初めとした店主達が口々に礼を言う。

 店主達を悩ます黒猫盗賊団を相手に試行錯誤し、最後には商店街から追い払った事で、俺達は恩人として扱われるようになっている。

 いろいろとおまけしてもらい、買った物を両手に抱えた俺に、会長が笑いながら。

 

「いやあ、受け取った時はどうかと思いましたが、例のアレの効果は絶大でしてな。あの猫どもは商店街にまったく寄りつかなくなりましたよ!」

「フッ……。まあ、これくらい俺に掛かればなんて事ないさ」

 

 チヤホヤされて調子に乗った俺が余裕の笑みを見せていると。

 

「ねえ、私達はこの商店街を救ったんだから、少しくらいおまけしてくれてもいいんじゃないかしら? このお酒もっと安くならない?」

 

 アクアが依頼達成を理由に、酒屋に値下げを要求していた。

 

「困りますよアクアさん。昨日もそう言ったから値下げしたじゃないですか。それに、うちは酒屋だから猫には困ってなかったんだけどなあ……」

「おいやめろ。商店街の人達にこれ以上迷惑を掛けるのはやめろよ。お前、こないだ猫相手に大量の水を呼びだして、この辺まで水浸しにした事を忘れたのか? あの時の店の修繕費とかの諸々は俺が払ったんだからな? お前の小遣いから月々天引きするつもりだから、無駄遣いしない方がいいんじゃないか?」

「あの時は猫達を追い払えたんだからいいじゃない。それに、このお酒は私が飲むんじゃないわ。今日は黒猫撃退おめでとうパーティーをするの。皆で飲むためのお酒だからお金はカズマが払っておいてね?」

「いやふざけんな。というか、宴会なら昨日もやっただろ」

 

 バカな事を言いだしたアクアに俺がツッコむと。

 

「何言ってんの? 昨日はカズマがうんこを加工した完成おめでとうパーティーでしょ? その前はうんこ獲得おめでとうパーティーだから全然違うわよ」

「うんこうんこ連呼するのはやめろ。お前はなんだかんだ理由を付けて酒を飲みたいだけだろうが。まあでも、宴会やるってんならその酒は俺が買ってやるよ。だから酒屋のおっちゃんを困らせるのはやめろよな」

「さすがカズマさん、話が分かるわね!」

 

 と、アクアの代わりに酒の代金を支払おうとする俺に、会長がコソッと。

 

「ところでサトウさん、例の喫茶店の特別サービスですが……」

 

 会長に耳打ちされた俺は、取りだした財布をしまうとアクアに告げた。

 

「――パーティーは三人でやってくれ。俺、今日は帰らないから」

 




 続きます。

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