このすばShort   作:ねむ井

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『祝福』5、『爆焔』1,3、既読推奨。
 時系列は、5巻3章の後。めぐみん視点。


この逃げだした夜にお泊まりを!

「そんな事だろうと思いましたよ! 今日はゆんゆんの家に泊めてもらいます!!」

「ああっ!? 畜生、カマかけやがったな!!」

 

 ――紅魔の里に着いた日の夜。

 カズマと同じ布団で眠る事に貞操の危機を感じ、私はゆんゆんの実家を訪ねていた。

 

「夜分にすいません。ゆんゆんはいますか?」

 

 娘の友人が訪ねてきたと大騒ぎする族長に呼ばれ、私を出迎えに来たゆんゆんは。

 

「めめめ、めぐみんが来たですって!? 今日はめぐみんの家には仲間の皆が泊ってるはずなのに、そんなわけないじゃない! どうせ、期待させておいて、魔王軍から派遣されてきたドッペルゲンガーか何かに決まってる……! めぐみんはきっと今頃、こめっこちゃんやカズマさん達と、楽しくパジャマパーティーとか……! ……、…………こ、この際ドッペルゲンガーでもいいので、一晩だけ泊まっていきませんか?」

 

 パジャマにマントを羽織った格好で、杖と短剣を構え、涙目でバカな事を言うゆんゆんに。

 

「何をバカな事を言っているんですか? 私は本物なので、魔法を撃とうとするのはやめてください。ゆんゆんとは結構長い付き合いだと思うのですが、本物と偽物の区別が付かないのはどうかと思います」

 

 というか、ドッペルゲンガーでもいいので泊まっていきませんかとか言うのもどうかと思うのだが。

 まったくこの子は……。

 

「ほ、本当に本物? 魔王軍の手先じゃなくて?」

「本物ですよ。信用できないと言うのなら、私しか知らないゆんゆんの秘密を話しましょうか。ドッペルゲンガーは記憶まではコピーできませんから、私が本物であるという証拠になるはずです。……そうですね、私がとある悪魔との決戦を控えた前夜の事、ゆんゆんはアンロックで部屋の鍵を開けて不法侵入をし、寝たふりをしている私に恥ずかしい告白をし、卑怯にもスリープの魔法で私を眠らせ……」

「……!? 待って! ねえ待って! 分かったから! 本物のめぐみんだって認めるから! あの夜の事を蒸し返すのはやめて!」

「そして、なんとかいう冒険者のパーティーを引き連れて悪魔に挑み、悪魔にパラライズを掛ける事に成功するも、マジックポーションの効果で、自分にまでパラライズを掛けてしまって動けなくなり……」

「分かったわ! 分かったってば! ねえめぐみん。ひょっとして、怒ってるの? 結構長い付き合いなのに、ドッペルゲンガー扱いした事を怒ってるの?」

「おっと、しかしこれはレックス達も知っている事でしたね。それに、ホーストの前でもうっかり口にしてしまいましたから、私とゆんゆんだけが知っている秘密というわけではありません。ですが私とゆんゆんは結構長い付き合いですから、他にもいろいろと秘密を知っていますよ。紅魔族が他人に見られる事を恥ずかしがる、刺青の位置は……、ゆんゆんの刺青は……」

「謝るから! 謝るからそれ以上は……!」

 

 杖と短剣を放り出したゆんゆんが、泣きながら私の肩を揺さぶってきた。

 

 

 *****

 

 

「――というわけで、今晩泊めてほしいのです」

「カ、カズマさん、最低……」

 

 私が、母に閉じこめられた事やあの男にされた事を話すと、ゆんゆんがドン引きしていた。

 

「ま、まあ、あの男のセクハラは日常茶飯事ですからね。今さらこの程度で大騒ぎしていては、あの男の仲間なんてやっていられませんよ」

「ええっ!? あの怒りっぽかっためぐみんが、セクハラされたのに怒らないなんて……! そ、それも日常的になんて……! ね、ねえめぐみん。ひょっとしてめぐみんとカズマさんって、そういう関係なの? それってセクハラじゃなくて、単にイチャコラしてるだけじゃないの?」

「ななな、何をバカな事を言っているのですか! そんなわけがないでしょう! 私とカズマは、単に冒険者として、同じパーティーを組んでいるだけで、そんないかがわしい関係ではありませんよ!」

「そ、それじゃあ……。ひょっとして、カズマさんのお金が目当てなの? こめっこちゃんにちゃんとしたご飯を食べさせてあげるために、めぐみんがカズマさんにセクハラされてるなんて知ったら、優しいこめっこちゃんは悲しむと思うわ」

「だから、あなたは何をバカな事を言っているんですか? 毎度毎度想像力が豊かすぎますよ。体を売るだとかなんだとか、以前にも似たような事を口走っていましたが、ゆんゆんはどれだけ色ボケなんですか? カズマのお金目当てなのは、母であって私ではありませんよ。それに、私だってモンスターを一掃したり、魔王軍の幹部にとどめを刺したり、冒険者としてちゃんと活躍しているのですから、こめっこにご飯を食べさせるくらいの仕送りは出来ていますよ」

「そ、そうよね。冒険者ギルドの酒場の隅っこにいると、冒険者の人達が、たまにめぐみん達の事を話しているのが聞こえてくるし……。めぐみんのパーティーは、私なんかよりずっと活躍している、アクセルでは知らない人がいないような、凄腕の冒険者だもんね」

 

 ……アクセルの街の駆けだし冒険者達は、ゆんゆんに何度もピンチを救われ、ゆんゆんを慕っているという話だ。

 ひょっとすると私達よりも活躍していると思うのだが、ぼっちなせいで本人は知らないらしい。

 

「そうですよ。カズマは何かとセクハラしてきますし、働きたくないとかバカな事を言ってクエストにも行きたがりませんが、あれで頼りになるところもありますし、面倒見が良かったりもするんですよ」

「爆裂魔法しか使えないめぐみんとパーティーを組んでいるんだし、すごく面倒見が良い人だっていうのは私にも分かるわ。たまたま話が聞こえちゃっただけだから詳しくは知らないけど、カズマさんのパーティーには頭のおかしい子がいるって話だし……。でも、アクアさんやダクネスさんは頭がおかしいって感じじゃないけど、あれって誰の事なのかしら……?」

「そそそ、そんな事より、今晩は泊まってもいいんですよね! 紅魔の里に来るまではずっと野宿をしていたので、疲れているのです! ゆんゆんだって疲れているでしょうから、早めに寝た方がいいと思います!」

 

 私が話を逸らすと、不思議そうに首を傾げていたゆんゆんは頷いて。

 

「客間は掃除してないし、私の部屋で寝てもらうけど、それでもいい?」

「構いませんよ。里に来るまでは野宿をしていましたから、屋根のあるところで眠れるだけでも十分です」

「そ、その、私と一緒の布団で寝る事になるけど……」

「場合によってはカズマと同じ布団で寝ていたわけですし、ゆんゆんなら襲いかかってくる事もないでしょうから、いいですよ。というか、布団が狭くなると思うのですが、ゆんゆんこそいいのですか? 里に来るまで、ゆんゆんは一人旅だったはずですし、私よりも疲れているのではないですか? なんなら、私は床で寝てもいいですよ」

「い、いい、いいから! 私は大丈夫だから! べ、別に、今日の昼にあるえに読ませてもらった物語の中で、親友の女の子同士で一緒の布団で寝ながらお喋りしているシーンがあって、憧れてたわけじゃないから!」

 

 …………。

 今日の昼にあるえに読ませてもらった物語の中で、親友の女の子同士で一緒の布団で寝ながらお喋りしているシーンがあって、憧れてたらしい。

 

「……今日は昼寝をしましたし、あまり眠くはありませんからね。少しくらいなら、お喋りに付き合ってあげてもいいですよ」

 

 まったく、この子は……。

 

 

 

 ゆんゆんの部屋に入ると、ゆんゆんは壁際の棚に向かって。

 

「ねえ聞いて。今日はめぐみんが私のうちに泊まってくれるって……! ……ッ!!」

 

 嬉しそうに何かに話しかけたゆんゆんが、言葉を止め私を振り返る。

 その顔は真っ赤で。

 目はさらに紅く輝いていて……。

 

「……私の事は気にしないで、報告を続けたらどうですか。その、……まりもに」

 

 私が言うと、ゆんゆんはまりもの入った水槽を隠そうとしながら。

 

「ち、違うから! これは違うから!」

「大丈夫です。友人のいないゆんゆんが、毎日まりもに話しかけていて、いい事があった日にはテンション高くまりもに報告していたとしても、私は引きませんよ」

「やめて! 引かれるのもツッコまれるのも嫌だけど、優しくするのもやめてよ!」

「……でも、流石にまりもはどうかと思います。せめて、会話が通じる生き物を友人にしたらどうですか?」

「やめてよ! この子は何も言わずに私の話を聞いてくれるんだから! この子の事をよく知らないのに、悪く言わないでよ!」

 

 どうしよう。

 この子はもう駄目なのかもしれない。

 

「わ、分かりました。まりもの事はもう何も言いませんから。ほら、一緒の布団でお喋りをするのでしょう? 私はまりもよりは話し甲斐があると思いますよ」

「ううっ。バカにして……! って、めぐみん。その格好で布団に入るつもり?」

 

 別にバカにしている気はないのだが、悔しそうな顔をしたゆんゆんが、布団に入ろうとする私の肩を掴んで止める。

 

「……? 格好がどうかしましたか?」

「そ、その……、寝るんだから、パジャマに着替えないと駄目じゃない。パジャマがないんだったら、私のを着る? めぐみんは小さいからサイズが合わないかもしれないけど、私が子供の頃のやつなら……」

「私は寝ようとしていたところを飛びだしてきたので、別にこのままでも構わないのですが」

「そんなの駄目よ! お、お泊まり会って言ったら、パジャマパーティーってやつをするものでしょう? パジャマパーティーって言うくらいなんだから、一緒にパジャマを着ないと」

「そのパジャマパーティーとやらはよく分かりませんが、泊めてもらうわけですし、ゆんゆんが着替えろと言うのなら構いませんよ」

 

 私の言葉に、ゆんゆんがいそいそと箪笥を漁りパジャマを取りだし……。

 

「こ、これなんかどうかしらっ? こっちのも可愛いわよ! あ、ほら、この赤いのはきっとめぐみんに似合うと思うんだけど……!」

「どうしてパジャマを取りだすだけなのにそんなにテンションが高いんですか! そんなもん、どれでもいいですよ! 寝る時に着るものなんですから、パジャマのデザインなんか気にしても仕方がないでしょう。その赤いやつでいいですよ」

 

 なぜかパジャマをいくつも取りだすハイテンションなゆんゆんに、私がツッコむと、ゆんゆんはしょんぼりして。

 

「そ、そうよね。今日はめぐみんが初めてうちに泊まりに来てくれたし、こんな事、もう私が生きている間は二度とないだろうから、目いっぱい楽しみたくて……」

「あなたはいちいち重すぎますよ! 私達は紅魔の里を旅立っているわけですから、この家に私が泊まりに来る事はもうないかもしれませんが、そんなにパジャマパーティーとやらがしたいのなら、ゆんゆんがアクセルの屋敷に泊まりに来ればいいじゃないですか」

「い、いいの? 私が訪ねていっても、追い返したりしない? わ、私が泊まりたいなんて言ったら、夕飯に虫が出てきたりしない?」

「そんなみみっちい嫌がらせをするくらいなら、最初から断るので安心してください」

「ええっ!? ねえ、やっぱり断られるの? それって安心できないんだけど……」

 

 ゆんゆんがぶつぶつ言っている間に、私はゆんゆんから受け取ったパジャマに着替え……。

 …………。

 

「……あの、ゆんゆん。これって、ゆんゆんが何歳くらいの時のパジャマですか?」

「えっと、それは十歳くらいの時の……。あ、ひょっとして、サイズが合わなかった? 大きいのも小さいのもあるから、気を遣わないでなんでも言ってね!」

 

 十歳。

 …………十歳?

 

「なんですか? 喧嘩を売っているんですか? いいでしょう。受けて立ちますよ! 表に出ようじゃないですか!」

「い、痛い痛い! やめて! 胸を掴まないで! どうしてパジャマを貸してあげたのに怒られないといけないのよ!」

 

 

 *****

 

 

 ゆんゆんが寝転がり、布団を持ち上げながら。

 

「ど、どうぞ……」

「おい、ただ同じ布団で寝るだけなのに、おかしな空気を作るのはやめてもらおうか」

「べべべ、別におかしな空気なんか作ってないわよ! めぐみんこそ、おかしな事を言うのはやめてよね!」

 

 ……目を真っ赤にしながら言われても説得力がないわけだが。

 私はゆんゆんの隣に寝転がり。

 

「すいません。流石に少し狭いので、もう少し詰めてもらってもいいですか」

「わ、分かったわ……。……ねえめぐみん、詰めるのはいいけど、枕を取ろうとするのはやめてくれない?」

「私はゆんゆんより省スペースですから、代わりに枕を貸してくれてもいいと思います。そんな事より、お喋りがしたいのではなかったのですか? 眠くなるまでなら付き合ってあげますから、さっさと話したい事を話してください」

 

 ゆんゆんの枕を取り上げた私が促すと、ゆんゆんは焦った様子で。

 

「え、ええと……、ええと……。そ、そんな事、急に言われても……! ……ね、ねえめぐみん、訊いてもいい?」

「なんですか? 今晩は泊めてもらっているわけですし、大抵の事なら答えますよ。友人を作る秘訣とかですか?」

「何それ! その話詳しく! めぐみんは、紅魔の里では私と同じくらいぼっちだったくせに、アクセルではすぐに守衛さんとかと仲良くなってるし、私が知らない間に三人も仲間を作ってるし、どうやったの? 何か秘訣があるの?」

「ちょ……!? 分かりました! 分かりましたから落ち着いてください!」

 

 私が適当に言った言葉に、ゆんゆんがガバッと身を起こし私の肩を掴んでくる。

 というか、暗い部屋の中でゆんゆんの両目が真っ赤に輝いていて怖いのだが……。

 

「だ、だって! だって……!」

「あなたは友人とか仲間とかいう言葉に興奮しすぎですよ! それに、以前の私は爆裂魔法を極める事しか考えていなかったので、友人を作る秘訣なんて知りませんよ。……でも、そうですね。私がどうやってカズマやアクアとパーティーを組む事になったのかなら、話してあげられますよ。聞いても参考になるとは思えませんが」

「それでいいわ! それでいいから聞かせて! なんでもするから!」

「だから落ち着けと言っているでしょう! 年頃の乙女が軽々しくなんでもするとか言うものではありませんよ!」

 

 私は、興奮するゆんゆんを落ち着かせて。

 

「……ええと、カズマ達とパーティーを組むようになった話ですね。そういえば、ゆんゆんには話していませんでしたが、私はパーティーの募集に応募する前から、カズマ達をたまに見ていたんですよ。その頃のカズマ達は、装備を揃えるお金がなく、いろいろなアルバイトをしていまして。失敗ばかりしていたのですが、なんだかその様子が楽しそうで、あの二人とパーティーを組んだら、すごく苦労しそうだけど、楽しそうだな、と……、…………。な、なんですか? どうしてそんな、微笑ましそうな目で私を見るのですか?」

「ううん。なんでもない。仲間の事を語る時のめぐみんが、いつものめぐみんと違って、すごく優しそうだなーなんて思ってないわよ」

「な、なんですか! おかしな事を言わないでください! 私はいつもの私ですよ!」

「爆裂魔法にしか興味のなかった、あのめぐみんが……。そういえば、カズマさんが冤罪を掛けられた時も、私に頼み事までして、冤罪を晴らそうとしてたわね」

「ち、違いますよ! あれは、あの王国検察官が不当な事を言ってきたので、我々の正しさを見せつけてやろうと……! おい、その生温かい目を向けてくるのはいい加減にやめてもらおうか!」

 

 昔の私を知っているゆんゆん相手だとやりづらい……!

 私がこんなに仲間を大事にするようになるなんて、紅魔の里を旅立つ前の私に言っても信じなかっただろう。

 でも、それをゆんゆんに言われると、素直に認めたくないわけで。

 歯噛みする私にゆんゆんはクスクス笑って……。

 

「それで、どうやったら私に友人や仲間が出来ると思う?」

 

 急に真剣な顔になると、そんな事を言ってきた。

 

「だから、友人や仲間を作る秘訣なんて、私も知らないと言っているではないですか」

「そんなはずないわ! めぐみんは実際にパーティーを組んでいるんだから、何か知っているはずよ! お願いだから、何か教えてよ! もうまりもに話しかけるのは嫌なの! だってまりもはいい子だけど、何も答えてくれないし……!」

「わ、分かりました! 分かりましたから落ち着いてください! まりもの事でからかった事は謝りますから! そ、そういえば、ゆんゆんはパーティー募集の貼り紙を出して待っていただけですが、私は自分から積極的に応募してましたからね。私とゆんゆんは、どちらも紅魔族で、どちらもアークウィザードです。違いと言ったら、それくらいではないですか?」

「じ、自分から積極的に……! ……でも、パーティーメンバーの募集をするのって、すでにパーティーを組んでいる人達でしょう? 仲の良い人達の中に、私なんかが入っていって、迷惑だって思われたりしない?」

「あなたは無駄に気を遣いすぎですよ。アクセルの街で魔法使い職を募集しているような駆けだしのパーティーで、ゆんゆんを迷惑に思うようなところはないはずです。今のあなたは上級魔法を使える一端のアークウィザードなのですから、もっと自信を持ってもいいのではないですか」

「そ、そうよね。私は上級魔法を使いこなせるようになったんだから。……ねえめぐみん。私が上級魔法を使いこなせるようになってから、もう結構経つと思うんだけど、どうして未だにパーティーを組めないんだろう……? 本当に、めぐみんの言うとおりにしたら、私でもパーティーを組めるの?」

「ああもう! いつまでもうじうじと鬱陶しいですよ! ゆんゆんがパーティーを組めるかどうかなんて、私が知るわけないでしょう!」

「ひ、ひどい! 人が真剣に相談してるのに!」

「私だって、割と真剣に答えていますよ。とにかく、私は自分から応募してカズマのパーティーに入ったのです。他の方法は知りませんから、これ以上のアドバイスも出来ませんよ。あなたは、レックス達には自分からパーティーを組んでほしいと頼めたのですから、今度もきっと上手く行きますよ」

「う、ううっ……。分かった。アクセルに戻ったら考えてみる」

 

 私は、未だに煮えきらない事を言うゆんゆんに。

 

「頑張ってください。私はそろそろ寝ますよ」

「ええっ! も、もう少しだけお喋りしない?」

「……まあ、構いませんが。明日はカズマ達に里を案内する予定ですので、もう少しだけですよ。それで、なんの話をするんですか?」

「え、ええと……、ええと……。そ、そんな事、急に言われても……!」

「お喋りがしたいと言いだしたのはあなたでしょう。……話す事が思いつかないなら、私達がアクセルで別れてからの話でもしませんか? あれから、ゆっくり話す機会もありませんでしたからね。私は魔王軍の幹部や大物賞金首を何体も討ち取りましたが、ゆんゆんもいろいろと活躍したのではないですか?」

「う、うーん……。私はめぐみんと違って、誰かとパーティーを組んでいたわけじゃないし、活躍って言えるような事は……」

「まったく! あなたは私のライバルを自称しているくせに、何をやっていたのですか! それでも自称ライバルなんですか!」

 

 上から目線で煽る私に、ゆんゆんがおどおどと。

 

「そ、そうね。私がやった事と言ったら、人里近くまで広がっていたオークの里があったから、ひとりで攻め入って滅ぼしたり……」

「えっ」

「たまたま訪ねていった村が吸血鬼に困らされていたから、一騎打ちで勝って追い払ったり……」

「……!?」

「友人が出来ますよって言われたから、聞いた事のない宗教に入信しようとしたら、邪神を崇めていて王都を襲撃しようとしてる団体だったから、ひとりで本部を強襲したり……」

「…………」

 

 私が知らない間に、この子は一体何をやっているのだろうか。

 

「私がやった事と言ったら、それくらいね。めぐみんみたいにすごい活躍ってわけじゃないけど、上級魔法も使えるようになったし、私なりに頑張ったのよ」

「そ、そうですか。まあ、私ほどではありませんが、ゆんゆんも頑張っていたのですね」

 

 私が、カズマ達と協力して魔王の幹部や大物賞金首を倒している間に、ゆんゆんは単独で強敵と渡り合えるだけの実力を身に付けていたらしい。

 爆裂魔法を極めると決めた時から、自分一人ではまともに戦えない事は覚悟していたが……。

 なんだか、ゆんゆんが遠くに行ってしまったような気がする。

 と、私が意外と成長している自称ライバルの顔をじっと見ていると。

 

「……めぐみんは、すごいね。上級魔法しか使えない私じゃ、魔王軍の幹部を城から誘きだしたり、機動要塞デストロイヤーにとどめを刺したり出来ないもの。ずっと、めぐみんのライバルを自称してきたけど、なんだか、どんどんめぐみんが遠くに行っちゃうような気がして……」

 

 不安そうにそんな事を言いだすゆんゆんに、私は思わず『ぷっ』と吹きだす。

 

「な、何よ! 私は真面目に話してるのに、笑うなんてひどい! そりゃ、めぐみんは私の事を、ライバルだって認めてくれてないのかもしれないけど……!」

「違いますよ。私達はひょっとすると、いいライバルなのかもしれないなって思ったんです」

 

 私はそう言って、照れ隠しにゆんゆんから顔を背け、目を閉じると……!

 

 

 *****

 

 

「ねえめぐみん! もう一回! もう一回言って! 私達、いいライバルって言ったわよね? 私をライバルだって認めたわよね!」

 

 ――しばらくして。

 私が寝たふりをしているというのに、肩を揺らすのをやめないゆんゆんに、私は。

 

「いい加減に鬱陶しいですよ! 今のは、なんかいい感じの空気のまま眠りに就くという、紅魔族的にもおいしいシーンだったでしょう! どうしてあなたはそう空気が読めないのですか! そんなんだからまりもしか友人が出来ないのですよ!」

「そそそ、そんな事ないもん! アクセルの街ではネロイドを飼っていた事もあって……。聞いてめぐみん。ネロイドって、毎日話しかけると少しだけ色が変わるのよ!」

「ネロイドの生態なんてどうでもいいですよ!」

 

 まったく、この子は……!

 

「それで、まだお喋りを続けるんですか? あまり夜更かししすぎるのも良くないですし、そろそろ寝た方がいいと思いますよ」

 

 私の言葉に、『ライバル……』とか諦め悪く呟いていたゆんゆんは。

 

「あっ! ま、待って! この先、こんなに楽しい事はもうないかもしれないし、もう少しだけ幸せを噛みしめていたいから……!」

「だから、あなたは重すぎますよ! 分かりました。アクセルの街に戻ったら、アクアとダクネスと一緒に、屋敷でパジャマパーティーでもなんでもすればいいでしょう」

「ほ、本当に? 眠くて面倒くさくなってきたからって、適当な事を言ってない? それに、こんな大事な事を、本人に聞かないで決めちゃっていいの? アクアさんやダクネスさんに鬱陶しがられたりしない?」

「しませんよ。二人をなんだと思ってるんですか。迷惑なら迷惑と、ちゃんと口に出しますよ。というか、アクアは騒いでお酒が飲めれば細かい事は気にしないので、ゆんゆんが泊まりに来たら喜ぶんじゃないですか」

「わ、私が行ったら喜ぶ……? 本当に? それって本当なの!? そんな女神様みたいな人が、本当に存在するの!?」

「アクアは女神を自称しているかわいそうな子なので、その言葉は本人に言ってあげたら喜ぶと思います」

「最強の魔法使いだとか、魔王を倒して次の魔王になるだとか言ってるめぐみんに、かわいそうな子なんて言われたくないと思うんだけど」

 

 …………。

 

「あなたはどうして、気を遣いすぎるくらい周りに気を遣うくせに、たまに毒舌なのですか? 私の機嫌を損ねたら、あなたの幸せな時間は終わりを告げるでしょう。おやすみなさい」

「待って! 謝るから! もう少しだけ、もう少しだけでいいから……!」

 

 眠ろうとする私の肩を、涙目でガクガク揺さぶってくるゆんゆん。

 

「まあ、いいでしょう。それで、なんの話をするんですか? ずっと私が話題を提供してきたのですから、最後くらいゆんゆんが何を話すか決めるといいですよ。何か話したい事があるのではないですか?」

「えっ……! べ、別にこれといって話したい事は……。ま、待ってめぐみん! 寝ようとしないで! い、今考えるから! 話したい事……、私の話したい事は……。め、めぐみんって、好きな男の子とかいる?」

 

 ゆんゆんは焦った様子で、そんな聞き覚えのある事を言ってきた。

 

「……あなたには恋バナ以外に話のネタがないのですか? それとも、今度こそ本当に色気づいたのですか?」

「ち、違うわよ! ちょっと待って、今考えるから! 何か別の話……、何か……!」

 

 ゆんゆんがぶつぶつと何か言いながら話題を探すも、焦っているせいで、紅魔族の高い知能を持ってしても話題が見つからないらしい。

 

 ……恋バナか。

 

 以前に聞かれた時は、あまり深く考えずにタイプの男性の話をしたものだが。

 

『するんでしょう? 恋バナ。ちなみに私は、甲斐性があって借金をするなんてもってのほか。気が多くもなく、浮気もしない。常に上を目指して日々努力を怠らない、そんな、誠実で真面目な人がいいですね』

 

 なんというか、ここまで正反対だと、逆に笑えてくる。

 別に、甲斐性がなくて巨額の借金を作り、同じ布団で寝たからといってセクハラをしようとし、日頃は何もせずダラダラしている、そんな、不誠実で不真面目な男に、心当たりがあるわけではないが……。

 私がそんな事を考えていると、すぐ近くにあるゆんゆんの顔が赤くなっていて。

 それが、私の目が真っ赤に輝いているせいだと知り、私は少し慌てる。

 私が、ゆんゆんに言い訳をしようと口を開くと。

 

「……スー、スー」

 

 よく見ると、さっきまで話題を探して焦っていたゆんゆんは、目を閉じて寝息を立てていた。

 アクセルの街から紅魔の里まで、テレポートでショートカットをする事もなく、ひとりで旅をしてきて、私のように昼寝をしたわけでもないゆんゆんが、私よりも疲れているのは当たり前だ。

 今まで起きていたのは、私が泊まりに来た事でテンションが上がっていたからだろう。

 まったく、この子は。

 私はゆんゆんの肩に布団を掛け直してやると、目を閉じた。

 

 

 *****

 

 

 眠りに落ちる前に、もしもの話を考える。

 もしも、あの時カズマから逃げだしていなかったら、私は……。

 そんな事を考えていた私の目は、きっと紅く輝いていたのだろうが、目を閉じていたし、自分では確認できないから、本当のところは分からない。


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