「なんて涼しいの……!」
スーパーのドアが開くと、パチュリーさんの口も開いた。
そして、言った言葉が涼しい。
やはり現代の技術は進んでいるのだろう。
俺はパチュリーさんをおぶったまま、ずんずんと食料品売り場へと向かって行く。
「パチュリーさん、何食べたいですか?」
「そうね、久しぶりに刺身でも食べようかしら」
紅魔館ではそんなものも出ていたのか。
俺の中での紅魔館は、洋食ばっかり出ていて生魚を食べるのは宴会の時ぐらいだと思っていた。
刺身を一から作る技術などは一切、持ち合わせていないので、鮮魚コーナーで刺身を買うことにする。
あと、パチュリーさんのために紅茶も買っておいた方が良いだろう。
「ねぇ、煉。そろそろ降ろしてくれないかしら」
「そうですね。涼しいですし」
パチュリーさんが降りた時、結構残念に思ったのは内緒のお話。
鮮魚コーナーに到着。刺身は根こそぎ無くなっていた。
刺身が無ければ、寿司を買おう。
「お寿司でいいですか?」
「良いわ。生魚が食べたかっただけ」
この時、少し違和感があった。
パチュリーさんは生粋の魔法使い、それなら食欲なんて湧かないはず。
魔法が使えなくなったとは、さっき言っていた。もしかして、捨虫の魔法まで使えなくなっているのか。
少し聞いてみよう。
「今って捨虫の術でしたっけ。それって使えるのですか?」
「普通の人間と同じよ。多分、煉より力が弱くて体力が無くて……」
あ、少し落ち込んでる。
魔法使いが魔法を失ったらこうなるのか。
「けれど、時間の流れが一気に解放されるわけではなさそう。そうなったときは私は一気に老けることになるわね」
「パチュリーさんはいくつになっても可愛い方だとは思うんですけどね」
「そういえば煉、こちらの世界に私たちをモチーフにしたゲームがあると言ったわね。もしかして、貴方は私のファンなの?」
ド直球。
何も恥じることがないとでも言わんばかりの、言い方だった。
幻想郷の人を全員知ってる訳ではないが、ほとんど人は少しは躊躇うだろう。しかし、ここにいらっしゃる方は何の淀みもなく聞いてきた。
これが異変を計画する者に必要な器なのだろう。
「はい、パチュリーさんのファンです。紅魔館の人たち全員が好きですが、1番はパチュリーさんしかいないですしね」
「そ、そう?」
パチュリーさんは少し顔を紅く染めて、ありがとう。と言ってくれた。
そのような反応を見せていただき、本当にありがとうございます。
「ねぇ、煉は料理を作らないのかしら?」
「出来ないことはないのですが、刺身やお寿司を一から作るのは出来ませんね」
「咲夜とは大違いね」
あのスーパーメイド長と一緒にされては困ります。
あの人は規格外すぎて、働かないと死ぬとかそんなことを平然と言っていそう。あ、これ社畜のことだ。
ともかく、あの人と比べられたら絶対にほとんどの人は格段に下の人間になってしまいます。
「……そろそろ帰りたいわね」
「どうかしましたか?」
「なんだか、周りの人間から痛い視線が注いでいるのよ」
あ、多分それ、俺のせいです。
「それでは、お寿司を買ってから帰りましょうか」
「なるべく早くお願いね」