「おはー煉……、ってどうした、その頬。ひっぱたかれたような感じで真っ赤じゃねえか」
「Aかよ……、お前には関係ないだろ」
朝からこいつとの絡みは正直だるい。しかし、話しかけてくれるような友人が同じクラスにはAしかいないというのが現実である。
「なんだよー、気になるだろー」
「うるせえ、勝手に自分で考えてろ」
「考えた結果、お前にいるとふんでいる彼女(仮)に平手打ちされたとみた!」
「前半外れてるけどなんでわかんだよ」
こいつの言ってることは半分正解だ。
平手打ちをされてから1時間ぐらい経つのに熱を引かない頬を作り上げたのは、彼女などではなくパチュリーさんだ。
昨日の帰宅後からずっと、パチュリーさんはご機嫌は斜めであった。
十中八九、俺に責任があると思われるのだが、その問題点が見つからない。
そして、今日の朝に挨拶をしたら有無を言わさずに1発パチーン。
もしかしなくても、パチュリーさんに嫌われたのだろうか。
「なんだよなんだよ、つい先日に非リアの俺に対して、リア充オーラを振りまきやがった煉くんはもうお別れの季節なんですか?」
煽りがキツい。
いきなり朝からこいつと話すのは疲れるのだ。
「お前な……、いや、突っ込む気力もねえわ」
「おいおい、お前ツッコめよそれ。期待してたんだぞ? ほんとうにどうした。俺でもよければ相談乗るぞ?」
めったに見せない姿に困惑したのか、気持ち悪さを感じるほどに急に優しくなる。
こいつに相談したところで何も変わらない。それどころか、パチュリーさんに関して、色々掘り出されそうだ。
「お前の手助けなんていらねえよ……」
「そうか、それならいつも通り煽るだけだが、それでいいのか?」
「むしろそっちの方がストレス発散になるかもしれん」
分かったと言うと同時に、煽りを再開するA。
だんだんとイライラが溜まってきたところで、1発腹パンを入れたところで、ある程度精神は持ち直すことができた。
こいつのおかげで復活できたことは腹立たしいことだが、一応は感謝しておこう。
なんだかんだでAは友人思いの非リアなのだ。
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煉に朝会って早々にビンタとは、本当に悪いことをしてしまったと思っている。
しかし、無自覚であるとはいえ私への好意を包み隠さずに話す煉が悪い。
「私は何も悪くないのよ、私は……」
掃除や皿洗い程度ならば、最近になって人並み程度にはできるようになっていた。しかし、平常心を失っている今はひどくパフォーマンスが落ちている。
「……さすがの煉もこんな私を見れば、引くわよね」
羞恥しているところを見られる。それが嫌だった。しかし、それでもビンタしていい理由にはならない。
謝らなければいけない。そうは分かっているのだが、煉、いや人間に対して頭を下げることは自らのプライドが許さなかった。
けれども、平手打ちをしてしまったのは私であるから。いや、そのきっかけを作ったのは煉であるために私に非はない。しかし……。
そういった思考の堂々巡りをしていると、固定電話に『煉 携帯』と文字が表示される。
電話というものは便利なものであるとは認めるが、びっくりするので唐突に鳴るのはやめてほしい。
「もしもし、煉かしら?」
『よかった、出てくれないかと思っていました』
まるで私から嫌われているような言葉を放つ煉に対して、何か苛立ちのようなものは感じる。私だって、やりたくてあのような平手打ちをするわけではない。
「それで、どうしたの? 基本的に心配にならない限り電話しないとのことだったけれども」
『いやまあ……、そうですね。こちらから謝らなければならないもの』
向こうのほうでカタンと音が鳴った。何が起きているかはわからない。しかし、誰かが煽るような声がその周囲から聞こえてくることだけは分かる。
『だあっ、Aうっせえぞ!』
1度としても聞いたことがない、煉の荒っぽい声。
その声に微笑ましくなると同時に、少々の苛立ちが発生する。
『申し訳ありません、ちょっと話すには環境が。だから少し黙ってろって!』
電話するのにここまで阻害されるとは、嫌われているのかいじられているのか。どちらにしろかわいそうだ。
『では、帰宅しましたらお話したいことがありますので』
「ええ、分かったわ」