前回からはおよそ、2週間ほど時が飛んで、6月ほどのころ。
1学期中間のテストも無事終了し、勉強漬けの毎日から一時解放された。しかし、忘れてはいけない、日本の悪しき風習、体育祭があるということを。
陽キャのスポーツマンが大活躍。何が悲しくて俺のような運動をあまりしていない陰の者がそいつらの踏み台にならねばならないのか。甚だ理解に苦しむ。
「珍しく浮かない顔をしているわね」
「それもそうですよ、体育祭なんて行事があるのですから」
体育祭、スポーツフェスティバルとでも言うのだろうか。その辺りの知識はないが、全く以って汗臭いし、6月の中旬で屋外でやるという。熱中症で倒れさせたいのかこの野郎。
過去あった体育祭にいい思い出など、1つもないのだ。
愚痴り出すともうやめられない、止まらない。さながらかっぱとえびが名前に入っているスナック菓子のようだ。
「学校行事なのであれば、参加しなさいよ」
「強制参加なので辞退もないんですよ」
「そう……」
パチュリーさんは考え込むような仕草を見せる。
何を考えているのだろうか。特訓メニューでも考えているのだろうか。もしそうだとすれば、俺は全力でパチュリーさんから逃げる準備をする。パチュリーさんには本当に申し訳ない。心が痛むが、これだけはやむを得ないことなのだ。
そんなくだらないことを考えていると、パチュリーさんが口を開いた。
「その体育祭っていうもの、見に行ってみようかしら」
この、紫の衣服に身をお包みになられたいと尊き御方はなんとおっしゃられましたでしょうか。
体育祭をご覧になるとおっしゃったのでしょうか。パチュリーさんが外へ出ると。
「煉、呆けてどうしたの」
「いや、聞き間違いじゃなければパチュリーさんが体育祭に来るかもしれないということを聞いたような気がして、かなり驚いてます」
「聞き間違いではないわよ」
確かにパチュリーさんが体育祭へ来てくれるというので、あれば俺は諸手を上げてそれを歓迎するだろう。しかし、パチュリーさんが熱中症で倒れないか心配なのだ。
「えっと、来ることは別に何も問題はないのですが、それには1つ条件があります」
パチュリーさんは首を傾げる。
その条件とはとても簡単。俺とパチュリーさんのことを知っている人間に、パチュリーさんの付き添いに来てもらうこと。その人間というのは1人しかいない。
「菫子さん、お話が1つあります」
「そうでしょうね、じゃないと通話アプリであなたと通話なんかしないもの」
そう、菫子さんである。
もし、菫子さんが嫌だと断ればパチュリーさんは来ることができない。そういう条件なのだ。
これに関しては、パチュリーさんからも承諾を受けているため、あとは菫子さんの返事次第なのだ。
「で、話って何なの?」
「えっとですね、再来週にある僕の学校の体育祭に来ませんか?」
「丁重にお断りするわ。そう言われるのは知ってたでしょ?」
その通りである。
彼女はとても警戒心が強い。その情報は菫子さんとの初接触の時点で得ていた。しかし、それともう1つ。
こちらがパチュリーさんを引き合いに出せば、話はまた違ってくるのだ。
「来てほしいんですよ」
「なんでそんなに来てほしいのよ。私みたいな陰気くさいのよりパチュリーさんでも誘ったらどうなのよ」
「いや、そのパチュリーさんががっつり関わってくるんですよ」
「え、どういうこと? 説明しなさい」
とりあえずではあるが、パチュリーさんとの会話を簡略化して、董子さんに伝えた。
その後、彼女はしばらく悩んでいた。
「あの、無理しなくてもいいんですよ。行きたくないっていうのであれば断って、パチュリーさんもそれだったら諦めるということを言っていますし」
「いや、行くわ。パチュリーさんが行きたいって言ってるんでしょ。おそらく、今後は一切見る機会がなくなるでしょうし」
董子さんはなんとも優しいお方であった。
「なんか失礼なこと考えてない?」
「いえ全く」
東方の登場人物は全員、遠隔でも心を読めるような能力があるのだろうか。そう思えるほどに、パチュリーさんにも董子さんにも思考がバレている気がする。
ああ、でもそうなったら今度はさとり様の能力が産廃になってしまう。
だとしたら、女の勘って奴だろうか。そうだとするならば、これからは思考にも気を遣わなければならない。