「お邪魔しまーす……」
「ただいま戻りました、パチュリーさん」
自転車が警察の方々に持って行かれることはなく、無事に麗しのパチュリーさんの居候する自宅へと帰ってきた。パチュリーさんを見て、今日一日の疲れを吹き飛ばしたいところではあるが、パチュリーさんと菫子さんを会わせるのが優先である。
「お帰りなさい、煉」
角のところから、ひょこっと顔を出したパチュリーさん。
その行為だけで私の疲労は吹き飛んでしまった。優先とか言っていたのに、もう満たされてしまった。
しかし、ここでそんな素振りを見せてしまってはパチュリーさんはまだ何度もそれを見ているからいいとして、菫子さんからは変人扱いされてしまうだろう。せっかく持ったコネクションなんだ、無闇に手放してしまっては本当に勿体無い。
「パチュリー様、宇佐見菫子様をお連れいたしました」
「ありがとう。手を煩わせてすまないわね」
「なんとも勿体なきお言葉……!」
背後からの視線が痛い。今絶対菫子さんはなんだこいつって思ってる。俺には分かる。だって背後からの視線、すごく冷たい。
「私と菫子用のお茶を出したら休んでおきなさい」
「はっ」
「ねえ、この家の中の上下関係どうなっているの?」
ほら、知ってたよ。
俺のこの態度を見たら大体引かれるのはなんとなくでも知ってたよ。声音に呆れが入っているの丸分かりですよ。
そんなことを考えながらお湯を沸かす。
パチュリーさんと菫子さんはテーブルを挟んで向かい合う。
「えっと、夢とかじゃないよね、パチュリーさんでしょうね?」
「ええ、勿論」
「まず質問があるの。あいつっていつもあんな寸劇をやる感じ?」
コンロの前でお湯を沸かしている俺を指差し、菫子さんは質問する。
その言い方はやめてほしい。あんなとか、別にいいじゃないか。推しが目の前に現れて、居候するってなったら絶対にオタクはああなるって、絶対に。
「ええ、そうよ。けれども寸劇ではなく、あれが煉の素なのよ」
その通りである。
うわぁという菫子さんの声が聞こえてくる。あなたも全能感に酔いしれた厨二病だった時もあったでしょうが。それのせいで現在も、現実では友達出来ていないんでしょうが。
「じゃあ、話し合いをしましょうか」
「ええ、そうね」
菫子さんの言葉を合図として、パチュリーさんと菫子さんは話を始めた。
夢魂やら夢の存在やら、確かに聞き覚えはあるけれども、俺にとってはよく分からないと言える言葉が出てくる。こういう時には、話は聞くだけ聞いて、何も口を挟まないのが得策だ。その後で、ゆっくりと咀嚼しながら理解することが1番の正解だろう。
「パチュリーさん、菫子さん、お茶が入りました」
ありがとうと、2人から感謝の言葉をもらう。そして2人はまた意識を会話へと集中させる。
2人の意識が再びこちらに向かない距離でありながら、2人の会話の内容が鮮明に聞こえる程度の距離で正座待機。パチュリーさんと菫子さんの会話の単語を1つ1つ脳内に必死にインプットしていく。
____
「もうこんな時間か、帰るわね」
「ええ、貴女がいない状態より格段に進んだわ」
現在の時刻、午後7時30分前。
1時間半ほど彼女たちは幻想郷に帰る方法について考えていた。
「パチュリーさんってスマホは持ってるの?」
「持ってないわ」
1時間半ぶりの菫子さんの痛い視線がこちらに向いたような気がした。さすがにこれには反論させて頂くとしよう。
「あの、菫子さん。俺の状況を鑑みて言ってもらいたいものですよ」
「じゃあ、なぜ?」
「ただの一介の男子高校生に携帯代を2つ分支払えるほどの財力があるとでも思っているのですか?もし、パチュリーさんがスマホをお持ちになられたとしても、その時には俺がスマホを捨てるという決断を」
「理由は分かったから、落ち着いて」
やれやれと、菫子さんは溜め息をついた。どうしてパチュリーさんにそんな質問をしたかは分からないが、とりあえず理由は分かったようだった。
この場においては、俺の勝ちということで。
「えっと、じゃあ煉だっけ?」
「そうです」
「それじゃ、スムーズな連絡がとれるように、LIN○交換しておきましょ」
は?
いやいや、至極当然のことである。菫子さんの言いたいことは分かるし、もっともなことだ。
動揺しているのは簡単で、女子のLIN○を手に入れることが出来るというのが嬉しいのだ。
俺のLIN○には友達が、今は殆ど連絡を取っていない中学の頃の友達と非常に残念なことにAのものしか入っていない、非常に残念なことにAしか連絡を取っていないのだ。
そんな非リア街道まっしぐらだった俺のL○NEの連絡先に菫子さんが入るのだ。嬉しくないわけがなかろうて。
「はい、えっとQRコードで大丈夫です?」
「ええ、無問題よ」
知り合いのところに菫子と出る。
これで菫子さんのLIN○ゲットだぜ。もしかして、かなりレアなのでは?
「それじゃ、何か用事とかあったら送ってきて。私からもちゃんと分かったら送るから」
そう言って、菫子さんは目の前から消えた。比喩表現ではない。文字通り消えたのだ。
「あれ、菫子さん消えましたけど」
「あら、テレポートを知らないのかしら?」
「あぁ……、目の前で行われるの初めてだったので分かりませんでしたよ」
一応納得はした。
けれど、現実で知ってても、テレポートで瞬間移動されたら誰でも同じ反応を見せるわコンチクショウ。
▼ 宇佐見 菫子 が メインキャラ に 加わった !