為されるがまま引き摺られて、入ったのは東深見高校から離れていない場所にある喫茶店だった。学生達のピークはとっくに過ぎたのか、人気はなかった。
「アイスコーヒーで」
「それじゃあ、俺も同じもので」
注文を済ませ、菫子さんと向き合う。
改めて見ると、やはり可愛いという感想が出てくる。東方に出てくる女性は全員美形なのだろう。しかし、パチュリーさんの可愛さには程遠い。ベクトルが違うとでも言えばいいのだろうか。
主観が入るが、パチュリーさんはもちろん可愛いし、美人であると、百人に聞いても百人ともそう言うに決まっている。菫子さんはどうだろうか。パチュリーさんはどこか儚げというか病的というか、そんな雰囲気を抱かせるに対し、菫子さんは健康的な白さである。確かに夜更かしをしているだろう。けれども、現代の日本人における可愛いというのでは、菫子さんは最上級ではなかろうか。
「どうしたのかって心配になるレベルで私の顔を見るわね」
「すみません、やっぱり他人といるのが慣れないので」
菫子さんに可愛いなどと言ってみようものなら、俺は今ここで腹を斬ろう。可愛くないわけがない。しかし、俺の推しはパチュリーさんなのだ。俺は推しへの忠誠心は一途であり、不屈である。絶対に折れるものか。
「お待たせしました」
そう言って、店員さんはアイスコーヒーをテーブルの上に2つ並べた。
ミルクと砂糖も同時に出された。どこの国が産出している豆だとかは分からないため、とりあえずブラックのまま飲む。しかし苦い。苦めのものを好む節はあるが、ブラックはやめておきたいと先月決心したはずなのに。おそらく、菫子さんの前でカッコつけたかったのだろう。
可愛い女子の前でカッコつけたいというのは、全男子共通のことなのだ。許してくれとは言わない。覚えておいてほしいだけなのだ。
「で、幻想郷のどういったことを調べてるわけ?」
「先ほども言った通り、パチュリーさんが幻想郷に戻る方法を調べているんです」
ふーん、と菫子さんは少し考え込む。考えるということは何かしら心当たりがあるのだろうか。
それであると、パチュリーさんの帰る手段が早く見つかったということで、とても喜ばしいことだ。
「確かに、私は夢の中で幻想郷に行けるわ」
「それなら、同時にパチュリーさんも夢の中へ連れて行ったら」
「それが出来るか分からないし、何より問題なのは私が幻想郷にいられるのは一時的。もし、パチュリーさんとともに幻想郷に行くことが出来たとしても、私が目覚めてしまったらどうなるのかも全く分からない」
けれども、と言葉が出そうになるがすんでのところでグッと堪える。試してみるべきだとも言えないのが、今の俺の立場なのだ。当人であるパチュリーさんの手伝いでしかない俺が否定も肯定も出来ない。
そうなると、必要になってくることは1つだけである。
「菫子さん、1つだけお願いしていいですか?」
「ええ、私に出来ることならね」
一歩間違えたら誤解される一言ではあるが、今のこの状況なら必ず意図を汲み取ってくれるだろう。
「俺の家に来ませんか?」
「えっとー、その意味はパチュリーさんと会ってほしいって意味であってるよね?」
「ええ、その通りです」
とりあえず、パチュリーさんからの第1ミッションクリアー、ということで菫子さんを連れて帰ろう。
「そうそう、今からテレポートするから座標教えて」
「あの、さすがにそこまで考えては来てないです」
「え、嘘。私を探しに来たって言うんだったらそこまで考えなさいよ!」
「それに、今からテレポートするってことは無銭飲食ですよ!」
「知らない!あんたが払って、男でしょ!」
「理不尽すぎません?」
なんだろう、すごく高校生らしいやりとりをやっている気がしている。