パチュリーさんは現代の家で居候しています。   作:閏 冬月

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サブタイトルをつけるのも一苦労なんです。


22話 パチュリーさんの事情を話す前に警戒されるのは当然のことです。

待ち続けて30分。

周囲の学生も少なくなり、この辺りを通るのは外周を走っている運動部やら吹奏楽部だ。あと1時間ほどしてもこのルートから帰らないという場合には、仕方がない。こちらが折れて帰るしかあるまい。

 

そこから15分後、ソシャゲをしていてもさすがに飽きてきた。何かいい暇潰しがないかとリュックの中を探そうとし、顔を上げる。すると、校門の奥に1人の人影が見えた。姿はまだ小さいため身長での男女の判別は難しいが、膝上のシルエットの膨らみ的に考えるのであれば女子であろう。

 

「ようやく、ラスボスお出ましってこっか!」

 

ラスボス、ではない。深秘録では確かにラスボスではあったが、今はその風格はなく、ただの夢見がちな女子高生である。

シルエットが近づくと、克明にその姿は見えてくる。

丸い眼鏡の奥には不機嫌な表情。一見地味には見えるが、道行く生徒たちも避けてまで、彼女の道を通ろうとはしない。間違いなく、あの人は菫子さんであろう。

 

「あのー、すみません。宇佐見菫子さんですか?」

 

話しかけた瞬間、攻撃的な目つきでこちらを睨んだ。

 

「ええ、そうですが」

 

「俺は榊原 煉って言います。幻想郷について、今現在調べています」

 

幻想郷、というワードを聞いた瞬間に彼女の目は大きく見開かれたが、すぐさま元の目つきに戻る。

 

「そうですか。残念ながらそんなところ、私は知りません」

 

いやまあね、警戒されるのは当然の結果なんです。警戒しないっていう方がよっぽど大丈夫かって俺の方が心配してしまう。

ただ、敵意剥き出しではないということは分かる。敵意剥き出しであれば、サイコキネシスで遠くに俺を追いやればいいだけの話だからだ。

 

「えっと、その、パチュリー・ノーレッジさん、がこっちの世界に来ていて、パチュリーさんが帰るために手伝いを今、俺はしています」

 

その証拠に、とスマホの中に保存されている写真を見せる。

写真に写るパチュリーさんの姿は料理を作っているときのものである。もし、これがパチュリーさんに見つかってしまえば、良くても大きく怒られる、普通であればパチュリーさんの手によって処断されるであろう。しかし、それを覚悟してでも手に入れたいほどの逸品である。

 

「ええっと、コラには見えないけど……」

 

むむむ、と唸る菫子さん。

何かを決意したのか、顔を勢いよくこちらへ向ける。正直なところ、かわいいな、と思った。口が裂けても言うことはないのだが。

 

「その話だったらどこか人目のつかないところで!」

 

そう言われながら、右腕を引っ張られる。

 

「あっちょっと、あの、自転車をどこかに停めてから!」

 

何もない路上に駐輪した状態で、為されるがままに引っ張られていく。話をしている間に、お巡りさんがあの自転車を違法駐輪として持っていかないことを願うばかりである。


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