パチュリーさんは現代の家で居候しています。   作:閏 冬月

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20話 パチュリーさんの頼みごとをしていないことに言い訳はありません。

パチュリーさんの私服を買いに行ったところから時は進み、自宅に帰ってきた。

まだまだ俺は若いというのに、なんだか1週間分の疲労が一気に今、身体を襲っているような気がする。

 

「帰って早々、へたりこむなんてダラシないわね」

 

この疲労は肉体的なものではない。精神的に疲れきっているのだ。

理由は決まっている。パチュリーさんが可愛い。ただそれだけに尽きる。

パチュリーさんが可愛いことが精神的に不衛生というわけではない。

尊い、マジでしんどい。

この感情は誰にも侵されない聖なる感情である。

 

「パチュリーさん、先にリビングに行っておいてください」

 

玄関で倒れこむことに決めた俺はパチュリーさんを先にリビングに行かせる。

供給過多になっているから、少しでも落ち着けるためということもある。それよりも自分の考えを整理しなければならない気がするのだ。

俺は確かにパチュリーさんのことが大好きだ。それはあくまで、恋愛対象としての好きではない。クラスの女子が言ってる推しとやらの部類だ。

しかし、パチュリーさんを目の前にしている現状、俺はパチュリーさんに何を感じているのだろう。

俺からパチュリーさんに対し、何も求めることはないと何度も言っている。今回の買い物でどうやら何かを求めているような気がするのだ。

それは何か。

パチュリーさんが俺のことを好きになってくれないか、なんてことを考えているのかもしれない。それはありえないと即座に否定するが、口先ではなんとでも言える。本心ではどうなのか。

 

「まあ、恐らくはそうなんだろうよ……」

 

テレビでよく見る光景だ。ドッキリのために俳優や女優が仕掛け人である一般の人と何かしらの関係を持っているという光景。その時、たいていの人は恋人やそうであったという設定にする。

簡単に言えば、俺の今のこの感情もそれと同じだ。

後のことを考えずに、一時の夢を見たい。

 

なんて馬鹿げた話だ。パチュリーさんは幻想郷の住人。一度目の前から消えてしまえば、もう会えることはなくなるというのに。

 

「煉、いつまでそこにいるつもりなの? 早くしなさい」

 

「はーい」

 

答えは簡単には出てこない。

足枷にならないよう、丁重にこの問題は扱わなければならない。

 

 

 

 

 

 

____

 

 

 

 

 

 

「煉、一つ質問なんだけれど」

 

「いかがしましたか?」

 

パチュリーさんの前では口調が安定しない。いつものですます調だけでなく、古文で出てくる「はべり」とか「たまふ」とかよく使う。

オタク特有のものだろうと、俺は思う。

 

「菫子に関することを頼んだ記憶があるのだけれど、進んでいるのかしら?」

 

その言葉を聞いた瞬間、自分の可能な限りの速さでパチュリーさんの目の前で土下座をする。

 

「本当に申し訳ありません! 菫子さんの学校の場所までは特定したのですが、そこから一切進んでおりませぬ!」

 

「いや、とりあえず顔を」

 

上げろと言われても今は上げることが出来ない。頭を床に擦り付けることが何も言われない状態で俺ができる唯一の謝罪なのである。

 

「本当に申し訳ありません……。このようなつまらなき者に言い訳などございません。どうぞその手で処断を……」

 

「そこまでするつもりはないから、とりあえず顔をあげなさい」

 

それから軽く10回ほど、このやり取りを繰り返して俺はやっと顔をあげた。

 

「ちょっと、額がやけどしてるんだけど」

 

「ええ、おそらく土下座をしたときの摩擦でやけどを負ってしまったのだと思われます。これでは何もお詫びすることが出来ません。ご命令とあらば、今すぐにでも首を吊って」

 

「話を聞きなさい」

 

「分かりました」

 

パチュリーさんは少し怒り気味である。

それもそうだ。パチュリーさんの頼みごとをやっていなかったのだ。どのような命令でも構わない。死ねと言われれば今すぐ死のう。

 

「まず、理由を聞きたいのだけれど」

 

「言い訳になりますので、言う価値もありません」

 

「はぁ……、いいから、理由を言ってちょうだい」

 

「分かりました。単純に、パチュリーさんと一緒にいられる時間を少しでも長くしようとしていたのです」

 

「ふーん?」

 

言い訳、と言われても仕方がない。やらかしている時点で、それの理由や原因は事実であったとしても、全て言い訳に過ぎない。そのことは重々承知している。

 

「私は、あなたが進めていなかったことに対して怒っているのではないのよ。話を聞かないあなたに対して、今は怒っているの」

 

「……はい」

 

「理由も分かったし、私は驚いている方よ? 1週間で学校ではあるけれども、場所を特定したって」

 

「お褒めに預かり、光栄です」

 

パチュリーさんに褒められると、なんだろう、こう、ムズムズする。

 

「特定しているのであれば、明日は……」

 

「月曜日です。遂行することは可能かと、なので」

 

「ええ、お願いね」

 

忘れないようにメモしておかないとな。

土下座の勢いと摩擦でジーパンの膝下辺りが少し色落ちしてしまっている。気に入っていたものだが、まあいいだろう。この程度でパチュリーさんから許してもらえたというわけではないが、見逃してもらえたのであれば必要な犠牲だ。


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