ジリリリリリリ……と、けたたましい目覚まし時計の音が繰り返し、耳に届いた。
「うるせえ……」
頭の中では起きないといけないことは分かっている。しかし、身体がそれに対しての拒否反応を起こしているのは、学校に通う者には日常のようなものだろう。
目覚まし時計の音を止めようと、そこかしこに手を伸ばしてみるも、目覚まし時計のようなものはない。
俺自身が止めたわけではないのだが、唐突に音は止んだ。
「ん…?」
「朝からうるさいわね……」
俺は寝ていたソファーから身を起こし、声のする方へと目をやった。
そこには、一昨日の夜に突如として我が家に舞い降りた女神こと、パチュリー・ノーレッジが不機嫌そうな顔で俺の方を見ていた。
左手には目覚まし時計を持っている。
どうやら、パチュリー神が止めてくれていたようだ。
「なにその解説」
「おっと失礼、心の声が漏れてしまっていましたか」
昨日はまあ……、パチュリーさんと一緒にスーパーに行って嫉妬の視線を向けられたり、パチュリーさんが食べてみたそうだったインスタント麺にパチュリーさんが打ちのめされたり、パチュリーさんの要望による夕食の紅茶漬けご飯が意外と美味しかったり、いろんなことがあった。
一部省略しているのは見逃す。
そんなこんなで、パチュリーさんとの共同生活は2日目を迎えることとなった。
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「とりあえず、冷蔵庫の中にあったもので簡単に作ったのだけれど」
朝食はパチュリーさん手作りのサンドウィッチ。
朝から幸せなことがありました。
幻想郷以外のこの世にパチュリーさんの手料理を食べることが出来る人間はいるのだろうか。
パチュリーさんが魔理沙に食べさせているシーンとか見たいな。ちなみに、俺はマリパチェ推しだ。
「味はどうかしら。初めて作るものだからよく分からなくて」
不安そうな表情を浮かべるパチュリーさんは新鮮で、可愛かった。
「美味しいですよ。言うとすれば、サンドウィッチに塩は必要ないです」
中の具材はレタスとハム。
それを食パン二枚で挟んだ至って普通のサンドウィッチだ。ただ、どことなく塩気がするだけで。
「あれ、料理に塩胡椒は必須じゃ……」
色々な魔法の知識を蓄えていても、料理に関してはまだまだ知識が足りていないようだ。
後でク○クパッドへのアクセス方法を教えておこう。
「煉、今日から5日間……よね?」
「ええ。そうです」
パチュリーさんは哀しそうな表情を見せた。
この表情を一刻も早く消すために、全速力で帰ってこよう。
「そろそろ時間じゃないの?」
「いや、あと10分ぐらいは家にいれます」
……。
何故だろう。
この時間、普段ならば何も感じないはずなのに、パチュリーさんと一緒にいるせいか、かなり気まずい空気になっている。
いや、パチュリーさんと一緒にいるからではない。
俺の方から話すことの出来る話題が特にないのだ。
そのまま、何も話せないまま5分ほど経った。
「そろそろ行きますね」
「あ、うん。行ってらっしゃい」
俺は気まずい空気に耐えきれず、逃げ出してしまった。
このような者を意気地なしと言うのだろう。
その言葉は今の俺に当てはまる。
結果、予定より5分早く出ることになった。
その時の俺は、パチュリーさんの寂しそうな目を見ることは出来なかった。
言っておきます。
この物語は好きな風に書いているだけです。