SAOのフェイタルバレットで《アルティメットファイバーガン》ってあるじゃないですか。あの移動サポート機能という銃らしからぬ面白武器、通称《UFG》の。
あれって、マスターの強さに合わせて貰えるものが違うって事かなという勝手な解釈の元、考えたんです。
未定だし書くつもりもないんですが、もし私がフェイタルバレットを書くとしたら、恐らくアキトにもアファシスを付けますね。
そしてそのアファシスから貰う《UFG》も、銃らしからぬ性能にしたいと。
その性能とはぁ!(ダダンッ)
候補① 跳弾機能
撃った弾が跳ねる。壁、地面、跳ねて跳ねて敵を錯乱させる。超高難度。
候補② 追尾機能
撃った弾が音速で対象を追尾。超在り来り
候補③ ジェット機能
引き金を引いてる間、銃口から考えられない程のエネルギーが噴射する。地面に向けると持ち主は飛ぶ。非常識。
……考えた結果、移動サポートが一番良さげです本当にありがとうございました。
それでは、どうぞ。
既に夕刻近い。あの後、目が覚めたフィリアと分かれて《アークソフィア》に戻ってすぐに、エギルの店でユイと話をした。
内容は、アキトが倒した《ホロウ・データ》のPoH、奴の目的であった事。
高位テストプレイヤー権限を使って、《ホロウ・エリア》のデータ全てで《アインクラッド》をアップデートするというものだった。
どんな事が起きるのかは想像出来ないが、それがとても危険だろうというのは予測出来ていた。
「アップデートによるデータの上書き……」
「……こりゃあ、只事じゃなさそうだな……」
ユイはアキトの話を聞いていく内に その規模の大きさに驚くばかり。まさに開いた口が塞がらない状態でアキトとアスナの間に座っている。
各々がカウンターで座っている為に、向かい側にいるエギルには今までの話が筒抜けで、ユイ同様に驚いていた。斯く言うアキトとアスナも、PoHの目的の重大さは理解していたが、それだけだった。
未知の事象に具体的な答えを見出せず、これから何が起きるのかの仮説も立てられない。
アスナは不安そうに顔を曇らせ、
「ユイちゃん、そんな事は可能なの?団長はもういないのに、そんな事が出来るなんて……」
とポツリと聞く。
だが、アスナのその質問はあまり意味のあるものとは考えられない。
今の今までだって、この《ソードアート・オンライン》というVRMMOは、75層からヒースクリフ、つまり茅場晶彦を失っている。
それでも尚この世界は稼働しているのだ。
つまるところ、突き詰めたメンテナンスやイベント構築、システム管理などは中枢である《カーディナルシステム》が独断で行っており、そこにゲームマスターの介入は必要無いという事だ。
なら、PoHが行おうとしている事だってそうだろう。
「……アキトさんのお話を聞く限り、無いとは言い切れません。実際に《ホロウ・エリア》で審査されたデータがアインクラッドに実装され使用可能となっています」
残念そうに応えるユイ、それが全ての答えだった。
つまりは、そういう事なのだ。ゲームマスターの介在が無くともシステムはシステムエラーによる誤作動を除きほぼ正常に稼働している。
「勿論、必要以上のデータ改革が無いようリミッターはあるはずですが……それが作動しない可能性があります。そして、推測ですがこのアップデートは実施されればかなり危険です」
ユイは顔を曇らせる。
何がそれほど危険なのかと、突き詰めてユイは説明し始めた。
「規模、データ量は全く異なりますが、《ホロウ・エリア》は本来、アインクラッドと対をなす未接続のミラーサーバーのようなものだと推測されます。このようなエリアはまだ点在すると思われますが、75層のクリア時にこのアインクラッドと《ホロウ・エリア》のみが接続され、開示された可能性が高いです」
ミラーサーバー。
その単語は、妙にしっくりと心に嵌る。納得させるほどのものが彼処にはあった。
アインクラッドと《ホロウ・エリア》は鏡写し。つまり、そのアップデートによる影響の程は聞くまでもないだろう。
「本来、《ホロウ・エリア》のみに存在するAIデータのIDが、アップデートの上書きによりメインとなってしまうような事があれば、《ホロウ・エリア》で起きた事と逆の現象がアインクラッドで起こる可能性があります」
「それって……?」
《ホロウ・エリア》の事に詳しいのはアキトだけ。故にアスナはユイの言った事を具体的には理解出来ていなかった。
だがアキトには、分かっていた。
「《ホロウ》が存在するプレイヤーは、強制的にデータを消去されるって……こと?」
「……はい。恐らくプレイヤーIDが削除された上で同じIDの《ホロウ・データ》がアインクラッドに実装されます」
ユイの肯定に、アスナとエギルの顔が強ばる。
つまり、このアインクラッドにいた本物のプレイヤーは消え、その消えたプレイヤーの《ホロウ・データ》が蔓延るという事だ。
アキトの瞳が揺れる。
本人は生きているはずなのに、アインクラッドで生きているのはプレイヤーのコピーであるAI。
消去された本物のプレイヤーはどうなるか分からない。それは現実の身体にも影響を与えてしまう可能性だってある。
「『プレイヤーは生存している』という情報は維持されるので、死亡扱いにはならないと思いますが……」
「……でもそれを、『生きてる』とは言わない」
「アキト君……」
アキトは拳を握り締める。
ユイはあくまでも推測の息だと主張するが、考えうる限りではそれが一番有力な説であり、あって欲しくない未来だった。
アップデートによって、人が《ホロウ・データ》へと成り代わる。そんな事になれば、ゲームクリアだってきっと望めない。目的に妄信的な彼らは、命よりも目的を優先する。それがゲームクリアだとしても、命の危険はきっと変わらない。
「……ですが、想定される最悪のケースとしては、《ホロウ・エリア》にIDの無いプレイヤーの状況の方が深刻です」
しかし、ユイは追い討ちをかけるようにそう言葉を投げかけた。
アキトは思わずユイを凝視する。
IDの無いプレイヤー。つまり、《ホロウ・エリア》にプレイヤーが来てしまった場合、元々《ホロウ・エリア》にいたはずのそのプレイヤーのID、《ホロウ・データ》が重複チェックによって消えてしまったプレイヤーの事。
アキトとフィリア、そしてこのエリアに連れていったアスナとクラインも同様だった。
「先程にもあったようにIDの重複チェックシステムの認識が逆に働いてしまい……それを修復しなければならないエラーとして認識されてしまうケースです」
「……つまり、アインクラッドにいるプレイヤー自体を《ホロウ》と認識して削除しちまう可能性があるって事か……?」
エギルは腕を組みながらこの難しい話を理解するべく頭を捻る。
ユイが肯定の意を示すと、戸惑いが表情に現れていた。
つまるところ、アキトとアスナ、クラインはこのままアップデートが行われれば、いてはいけない《ホロウ》、エラーとして認識されて消え、『プレイヤーが存在していない』状態となるという事。
それは、『死』を意味していた。
「ゾッとしない話だな……」
「本来アインクラッドには《ホロウ・データ》が存在しません。アップデート終了後、カーディナルシステムが大量のエラー修復の為プレイヤーの《ホロウ・データ》を作成し、上書きしてアインクラッドに実装してしまう可能性があります……」
そのスケールの大きさに絶句する。
どうしたら良いのか、何が起こるのか、その具体的な部分は何一つ理解出来ていないのかもしれない。
けれど、これはPoHがアインクラッドで暮らす全てのプレイヤーに向けたPKだという事だけは、一瞬で理解した。
《ホロウ・データ》が人に、人が《ホロウ・データ》になってしまう。この状況下における最悪のケース。
「実際にアップデートされるまでこの推測が正しいかお答え出来ません……アキトさん、お役に立てなくてごめんなさい」
「そんな事無いよ。どっちにしたって止めなくちゃならないんだから、その推測が正しいかなんて確かめる必要は無い」
アキトは優しくユイの頭を撫でる。
ほのかに頬を染めるユイが、嬉しそうに笑った。アスナもそんなユイを見て、その決意を顕にした。
「……ユイちゃんありがとう……なら、私達がやる事は一つね」
アキトは頷く。そんなものは決まっていると。
《ホロウ》のPoHが残した最後の悪足掻きである、世界一嬉しくない大型アップデートの停止。
絶対に止めてみせると、固くこの胸に誓う。
「……覚悟は決まったみたいだな」
「エギル……」
「良い顔してるよ。なぁ、ユイちゃん」
アキトとアスナを見て軽く微笑むエギルは、ユイと顔を合わせて笑った。
「はい!すっごく……頑張ろう!っていうお顔です」
「そ、そんな顔してたかな……」
アキトは自身の顔をぺたぺたと触る。
そんな彼を見てクスリと笑ったアスナは、ユイに笑って告げた。
「うん。だって私は、ユイちゃんやみんなと現実世界に帰るって決めてるから」
「アスナ……」
その言葉は、アキトが彼女からずっと聞きたかったものだった。
キリトを失った事で生きる希望を一度失った彼女。そんな彼女から、現実世界へと帰る、そんな決意ある言葉をずっと待っていた。
それだけで救われた気がして、アキトは笑った。
「……そっか」
「……何他人事みたいに見てるのよ」
「ぇ……」
アスナの小さい声に、アキトの顔から笑みが消える。
彼女はバツが悪そうにチラチラと目線を逸らし、やがて途切れ途切れに言葉を重ねながらも、最後は真っ直ぐにアキトを見た。
「アキト君も……一緒に、帰るの」
「っ……」
思わぬ一言に、アキトは面食らった。
言葉が出て来ない。ただ、何とも形容し難い気持ちが押し寄せた。まるで、塞がっていた扉の鍵を、開けてくれたみたいな。
「……ママ?」
「っ……そ、それで、他のみんなには?」
少し間があって、ユイの声でアスナはアキトから目を逸らす。
互いに我に返ったようで、アキトもたどたどしく口を開いた。
「あ、うん……えと、心配してるだろうし、説明はするつもりだよ」
「アイツらならもうすぐ戻って来ると思うが……」
「な、なら、メッセージを送って待ってましょう」
アスナは咄嗟にウィンドウを開く。2年も使っているウィンドウに、滑らかに指を這わせていく。
それを眺めながら、アキトはただ、アスナの事を見つめていた。
●○●○
「アキト君、みんな集まったよ」
「うん、ありがとうリーファ」
それから暫くして、エギルの店にシリカとリズベット、リーファにシノンが集まった。エギルは変わらずカウンターに立ってはいたが、アスナとユイは見当たらなかった。
だが何処にいるのかと見渡そうとしてふと気付く。
「「「……」」」
「……えと、何?」
アキトは視線の鋭い方々、シリカとリーファとシノンの視線が気になった。
特にシノンの視線は恐怖を感じずにはいられない。氷の女王よろしく凍てつくような視線に、アキトは氷漬けにされる幻覚を見てしまう程。
そんなシノンが、口を開いた。
「……アンタがこうやって呼び出すという事はかなりの大事件なのね」
「う、うん」
「けどその前に、何か私達に言う事があるんじゃないの?」
「……」
……怒ってらっしゃる。
シノンは明らかに激怒しているように見えた。だからこそ恐ろしい。シリカ達もそんなシノンに何も言えないようだった。
ただ彼女達もシノンとは同じ意見のようで、アキトになんとかしろと、そう目で訴えていた。
彼女達が何故怒っているのかなんて決まっている。自分達が反対したにも関わらず、何も告げずに《ホロウ・エリア》に行ったアキトが気に入らなかったのだろう。
アキトもそれを理解したようで、観念したように息を吐くと、シノンに向き直った。
「……フィリアは、シノン達が思ってるような奴じゃない。会った事もないシノン達からすれば、信じられない部分もあったと思う。会わせる事をしなかった俺にも責任はある……と、思うし」
「……それで?」
「は、反対される事が分かってたから、何も言わずに行ったんだ。終わってから説明するつもりだった」
「……で?」
「っ……だ、だから……既成事実っていうか、事後承諾みたいな感じにすれば良いかな……って、思って……その……」
言葉を重ねる度に自身が押されているような感覚にアキトは冷や汗が止まらない。
シノンは変わらずアキトを見据えるだけだが、鋭い視線も変わらなかった。
だがやがて何を言っても仕方ないと理解したのか、態とらしく深く溜め息を吐いた。
「……はぁ、何でアンタっていつもそうなのかしら」
「……こんなのすぐにバレるって分かってた。彼女を助けるまでのほんの数時間だけ黙っていれば、それで上手くいくはずだったんだ」
会った事も無いプレイヤー、しかもオレンジを信じろと言う方が難しいだろう。だからシノン達が反対するのは仕方なかった。
けれどアキトは知っている。カーソルの色だけじゃ判別出来ない、分からない人達がいる事を。
犯罪者と同じ色のカーソルだからといって差別して、人となりもわからないまま避けるだなんて、あまりにも勿体無いではないか。
フィリアは確かにオレンジだったけれど、共に冒険してきたアキトだからこそ、彼女がPoH達と同じ純粋な犯罪者とは違うと思えたのだ。
助けに行くまでの数時間だけ気付かれなければと、それが理由だった。態々無用の心配をさせる必要は無いと思ったから。
けれどシノンはアキトを見上げ、不貞腐れたように告げた。
「……たった数時間だけなんだから、心配させて欲しかった」
「っ……」
「沢山ある選択肢の中からアキトが考えたなら、ベストな行動だったのかもしれない。結果的に私達が気付いて心配する前に、アキトは帰って来た。……でも」
シノンは俯き、目を逸らす。
戸惑いがちに、躊躇するように、それでも言葉を絞り出す。
「……私は寂しかった。秘密にされていた事が寂しかったのよ」
アスナは、ユイは知っていたのにと。どうしてもそう思ってしまうから。
なんて、アキトの前では言えないけれど。
分かってる。これは嫉妬なのかもしれない。だけど、心配する事すらさせてくれないなんて、そんなのはあんまりだろう。
自分達の知らないところで大切な誰かが死ぬ、そんなのは酷だろう。
誰もがシノンのその素直な気持ちの露呈に驚く。
目を丸くしながら、それでも何も言わずに固唾を飲む。
だってそれを、シノンのその切実な想いを、自分達も抱いていたから。
「シノン……」
「……言って欲しかった。それだけよ」
シノンはただ悲しそうな顔でそう呟いた。
何も言わなかった事が、逆に心配させてしまっていたのだとアキトは理解した。
ずっと一人だったからこそ、仲間の存在を、彼らの気持ちを考えていなかった、失念していたのだ。大切に思うばかりに、その想いばかりを押し付けて、シノン達の事を考えていなかった。
きっとみんな同じ気持ちだったのかもしれない。あの場所には多人数では行けないし、自分達も戦力にはならなかっただろうけど、アキトの帰りを待つ事だけは出来たはずだ、と。
アキトは途端に、自分の愚かさに気付いて何も言えずに俯いた。
「でも、それがアンタの優しさだって知ってるから、もう何も言わないわ。気持ちは嬉しかったもの。ありがとね、アキト」
「……ゴメン」
「もう良いって。私の方こそ悪かったわ、アンタのそういうところ、分かってたつもりだったのに」
そうして儚く笑うシノンの背中から、シリカとリーファが抱き着いてきた。
二人は揃って、アキトを鋭い目付きで見上げていた。
「シノンさんが謝る事無いと思います!」
「そうですよ!今回もアキト君が悪いんですから!」
「……今回『も』……」
確かにそうなんだけど……。
アキトはそんな視線が痛く、どうにも出来ずに苦笑した。
そんな光景を、リズベットとエギルが眺めながら、互いに笑った。
シノンはシリカとリーファの行動にクスリと笑った後、席についてアキトを見上げた。それに合わせて各々が腰を下ろし、話を聞く姿勢になる。
「それで話って?例の《ホロウ・エリア》について?」
「……うん」
「……何が起きるの?」
不安そうな表情で問い掛けるリーファを一瞥し、アキトは大きく息を吸った。
「……この前のPoHの話、覚えてる?アイツが《ホロウ・エリア》のシステムを使って仕組んだ大型アップデートがある」
「あ……アップデート?」
意外な単語にキョトンとする一同。当然だろう、アップデートといえば聞こえは良いに決まっている。常識的なゲームなら、アップデートで色々な機能やイベントが追加されるものだ。
だがここはただのゲームでは無い。その上、仕組んだのはレッドプレイヤーの《ホロウ》。
みんな、それがてだのアップデートては無いと理解していた。
「……標的は、アインクラッドにいる全プレイヤー。多分……《圏内》にいても防げない」
「ぇ……」
誰もがその発言に絶句した。
『全プレイヤーがターゲットのアップデート』で、仕組んだのはPoH。
嫌な予感しかしなかった。
リズベットは思わず立ち上がり、凄い剣幕で声を荒らげた。
「そんなのってありなの!?どういう事よ!?」
そんなの、誰もが知りたがっていた。
アキトが持ちうる情報だって、あくまでユイの推測から転じた仮説でしか無い。けれど、これが一番可能性のある事象で、防がなくてはならないもの。
アキトは、アップデートされる事によって起きうるであろう可能性の話を始めた。
アップデートによって《ホロウ・データ》をアインクラッドに実装。
それに伴って、そのAIと同じIDを持つ本物のプレイヤーの削除。死亡扱いとは認識されず、ただ目的に妄信的なAIがその生を代わりに全うする事になる。
既に《ホロウ・エリア》に行った事でAIを削除されたアキトとアスナ、クラインはエラーとして消失してしまい、死亡扱いとなって死ぬ可能性がある事。
フィリアは《ホロウ・エリア》から出られない為、どうなるか分からないという事。
そして、この世界にいるプレイヤーの真意。最大の望み、その目的は『生きる』という事だ。
人が《ホロウ・データ》に、《ホロウ・データ》が人になるこのアップデート。もし彼らがAIの時の性質のままアインクラッドに実装されたとすれば、彼らが行う妄信的になる対象の目的。
それは『ゲームクリア』より『生きる』事。つまり、彼らは『生きる』という目的の為に行動し、その目的の妨げになる戦いはしなくなり、ゲームクリアは叶わぬ夢となる。
PoHのいう『永遠』の世界が完成するのだ。
全て推測だが、それが危険だという事はもう誰もが理解した。
恐ろしくおぞましく、何より怖い。大切な誰かが、自分という存在が消え、この先の未来を望めなくなるという事実。
頭の中が真っ白に、クリアになり、またどうするべきかを模索する。
けれど、システムに詳しくない一同は、行動の起こし方すら不明瞭のまま。
だが、分かっている事もあった。
「……確かに、何処にいてもデータを上書きされたらお終いね」
話の一部始終を聞いたシノンは、その事実だけを述べた。
その他のみんなも、これから起こりうる事象の規模が想像以上のもので混乱していた。
「……けど、まだ助からないと決まった訳じゃない」
「という事は、止める方法がアキト君には分かっているの!?」
リーファが迫る中、アキトは大きく頷いた。
そして軽く、優しく笑った。
「……フィリアのおかげだよ」
「フィリア、さんの……?」
「きゅるぅ……?」
ピナを頭の上に乗せたシリカは目を丸くする。
リズベット達も同様だった。
そう、彼女達はフィリアがアキトを裏切ったという事実に納得がいってない様子だった。フィリアを許し難い存在として見ていたのだ。
そんな彼女が、今回自分達の危険を救う手助けをしてくれたのだとアキトに教えられ、困惑するのは当然だった。
彼女はPoHと行動した事で、そのアップデートを行った場所、《中央コンソール》がある場所を特定出来ていた。後は、そこに行く為にエリアを踏破するだけ。そうすれば、アップデートを止める事が出来る。
シノン達は暫く黙っていたが、やがて口を開いた。
「……やるしかないわね。やらなければ終わりなんだから」
「うん、私に出来る事があったら、何でも言ってよ、アキト君!」
「はい!オレンジギルドの人なんかに負けません!」
フィリアも戦っている。そう気付いたのか、分かってくれたのか。
その瞳に迷いはもう無くなっていた。アキトは、何故だかとても嬉しかった。
そしてリズベットが立ち上がり、机を挟んでアキトに上体倒す。瞳を見開き、アキトに向かって警告する。
「武器や防具はしっかりメンテしてよね。出掛ける前には、必ずうちの店に顔を出す事!」
「う、うん……」
「……それと、他の人にはどうするの?」
リズベットの問いに、みんなが眉を顰める。
こんな大事態を、プレイヤー達に教えるべきなのかどうか、彼女はそれを問うていた。
大勢に知られるとパニックは間違い無いだろう。実際、《ホロウ・エリア》に行けるのはアキトだけの為、この話を信じるかどうかは不明だ。案外違う意味で噂が広まるかもしれない。だったら、言わない方が吉なのだろうか。
周りが一斉に首を捻る。
けれど、それはアキトには関係無かった。
「言う必要なんか無いよ。アップデートは起きないんだから」
そう言って、挑戦的に笑った。
そんなアキトにみんな目を丸くした後、シノンがつられて笑う。
「へぇ……結構な自信じゃない」
「こうでも言わないと不安になるだけだよ」
「でも、それで自信がつくならそのままでいれば良いんじゃない?こっちはもうアンタの毒舌には慣れたわよ」
「……その節は本当にすみませんでした」
かつて態と嫌われるように振舞っていた頃の態度を指摘されて縮こまるアキト。そんなやり取りにカラカラと笑うみんな。
この空間が温かく、とても優しいものに見えた。永遠であって欲しい。
けれど、PoHが望んだ永遠は歪んでる。自分の守りたい永遠の為に、奴の目論見は潰さなくてはならないと、改めて決心した。
そんな中、リズベットがアキトを見る。
「そういえば……ずっと気になってたんだけど」
「何?」
「アスナは何処に行ったのよ?ずっと姿が見えないけど」
言われてみれば、と彼女達は周りを見渡す。
アスナもユイも、その場にはおらず、みんな首を傾げた。
そんな疑問に、アキトは笑って答える。
「二人なら厨房だよ。実は──」
「丁度お話も終わった頃かな、アキト君」
ふと後ろから、本人の声がかかる。振り返る必要も無く、それがアスナの声だと理解した。
同時に、空腹を助長するような幸福な匂いが各自の鼻を刺激する。みんな一斉にその方向へと視線が動いた。
「はーい皆さん!今日はママの作ったご馳走ですよー!」
ユイとアスナとエギル、そしてなんとクラインまでもが大量の皿を持って現れる。彼らが机に置いた皿には、どれも美味が確定されたような見た目の料理で溢れ返っていた。
彼女達はわけも分からずポカンと口を開けていたが、美味しそうな料理に目を輝かせ始めていた。
「全く、いきなり言われても食材揃えるのが大変なんだがな」
「ゴメンなさい、エギルさん」
アスナの笑顔の謝罪にエギルは笑って返す。
クラインはエギルの隣りで納得がいかないといった表情で立っていた。
「俺はどっちかって言うと作戦会議に参加するべきだろう?」
「仕方が無いだろう。食材を集めるにも人が必要なんだ」
エギルにそう言われたクラインに、アスナがニコリと感謝を告げた。
「クラインのおかげで美味しい料理が出来たわ、ありがとうね」
「あ、アスナさんに頼まれたら断れないからな……」
アスナに向かってクラインが胸を張る。
調子の良いクラインに溜め息を吐きながら、今の現状を見てエギルが不安そうに呟いた。
「しかし良いのか?こんなにのんびりしてて」
「アインクラッド全体に及ぼすデータの実装となれば、早くても数日の時間がかかると思います」
ユイの頭を撫でて、アスナが周りを見渡す。
料理に視線を落として、みんなに笑顔を振り撒いた。
「そういう事。だったら、焦るよりしっかりと準備を調えないとね。というわけで、私とエギルさんが腕を振るいました。決起会という事で、今日は沢山食べてね」
「美味しいですよー!」
決起会、その言葉で彼女達は料理に視線が釘付けだった。
アップデートまで数日、なら、今はこの目の前の料理を楽しまなければ。
「うわあ!凄いご馳走です!」
「きゅるぅ♪」
「これはまた豪勢だねー」
「お代は当然アキト持ちなんでしょうね?」
「え」
「アキト君、ありがとう!いただきます!」
アキトが支払いもいう流れのまま、彼らは各々料理に手を伸ばしていた。
唖然とする間も無く減っていく料理と、みんなの笑顔を見て、アキトは笑った。
この笑顔を見たいが為に。この笑顔を絶やさぬように。
PoHのアップデートを、絶対に成功させたりはしない。
信頼してくれる仲間の為に、信頼される自分でありたいと思う。
だから、必ず。
アキトはストレージに仕舞う、二本の剣に想いを馳せた。
《リメインズハート》。リズベットがキリトを想い、アキトの力になる為に作った、想いを背負う剣。
《ブレイブハート》。とある少女がアキトだけを一途に想い、彼の望みを叶える為に作った、心を動かしてくれる剣。
みんなの笑顔を守る為と、この二本の剣に誓う。
先程のアスナの言葉を、思い出しながら。
必ず、生きて現実世界に帰る。みんなと一緒に────
(……うん、それで良い)
エギルの店の入口で、ストレアが微笑む。
視線の先にいる、ストレアの大好きなプレイヤー達。その中心で笑う一人の少年、アキトの表情を見て、とても嬉しい気持ちになった。
アキトの揺るぎない意志と、目的と誓い、それをこの目で見て思う。
彼なら、きっと大丈夫。
「これからも、私が見ててあげるからね」
何度も折れて、傷付いたアキトの、それでも変わらない切実な想いを見て。
ストレアは嬉しそうに笑う。
君ならきっと、今度こそ。
ストレアは、今も尚楽しそうな彼らを見て、なんだか羨ましくなってしまった。
その輪の中に混ざろうと────
────変わらぬ笑顔で店に入っていった。
①乱入後のストレア
ユイ 「アキトさん!こっちの料理も美味しいですよ!」
アキト 「ありがとう、じゃあ貰お────」
ストレア 「アーキト♪こっちのも美味しいよ!はい、あーん♪」
アキト 「す、ストレア何すムグゥ!?」
ユイ 「あ、アキトさん!?」
②クラインの用意した食材
シリカ 「このお肉美味しいです!」
クライン 「へへっ、だろ?それは豚みてーなモンスターがドロップしたんだよ。もう兎に角身体が汚くてよ」
リズベット 「このキノコみたいな奴初めて見るわね……」
クライン 「そいつスゲー色してたんだぜ?なんか、紫っぽいっつか、光ってんだよな」
リーファ 「……このソース、独創的な色してる……」
クライン 「植物系のモンスターの粘液だってよ。色見るからに、そいつは奴の口から──」
リズベット 「一々食材の原型の話なんてしなくて良いわよ!聞いたら食べにくいでしょうが!」バキッ
クライン 「ぎゃあああぁぁあああ!!」
③暫くして
アキト 「……」
アスナ 「カウンターで一人で食べなくても良いのに」
アキト 「っ……アスナ」
アスナ 「その……隣り、良い?」
アキト 「……別に良いけど」
アスナ 「……その、料理、どう?」
アキト 「え……ああ、美味しいよ」
アスナ 「ふふ、当然でしょっ」
アキト 「まあ、俺も料理スキルはコンプリートしたんだけど、中々作る機会が無くてさ」
アスナ 「……なら、今度、作ってよ。私、アキト君の料理食べてみたい」
アキト 「……アスナが作るのとあまり変わらないと思うけど……良いよ」
アスナ 「……約束ね」
アキト 「う、うん……?」