ソードアート・オンライン ──月夜の黒猫──   作:夕凪楓

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「……ユイ」


アキトは、真剣な眼差しでユイを見つめる。


「ど、どうかしましたか……?」


ユイは、いつもと少しだけ違うアキトの様子に、顔を染め上げつつも、戸惑いを隠せないでいた。

怯えている?それとも、ドキドキしている?

けれど、アキトの心はもう決まっているようで。
ユイへと、その腕を伸ばした。
彼女へと伸ばしたその手は頬に触れ、優しく彼女を包み込む。


「ひゃぁっ……あ、アキトさん……!?」


心臓が高鳴り、顔はもうリンゴのように真っ赤で。
アキトのしている事が、ただただ理解出来なくて、それでも、それを拒めなくて。
自身の髪に触れるアキトの手が、とても心地好くて、そのまま自身を引き寄せるアキトの腕から離れられない。


「だ、ダメですっ、アキト、さん……んっ……!」


髪から頬へ、頬から顎へ、アキトの指が動く。
ユイには刺激があまりにも強過ぎて、最早ショート同然だった。


「ユイちゃん、嫌なら振りほどいて良いから」

「な、にゃにを……!」


瞬間、ユイの顎に添えられた指がクイッと上がる。
驚いて、その瞳を見開くと、そこにはアキトの顔が。
この態勢、この構えがどういうものかは分からない。けれど、本当は何をされるのか、無意識に理解していた。


「だ、ダメです……ダメ……!」


必死になってそう告げるユイは、唇をわなわなと震わせていた。
怖いのか、先程まで見開いていた瞳はバッチリと瞑っている。
ダメだと、そう言っているのに、身体はまるで、アキトへの行為を受け入れる準備が出来ていて。


「ダメ……アキト、さっ……」


視界が閉じられていも分かる。
互いの顔は、互いの吐息が届く程に近いという事実を。


もはや、止められない。


「あ……」


アキトはゆっくりとユイの唇へと視線を移し、そして。


自身のその唇を────


























────はい、それでは本編始めます。


※本編とは全くの無関係です。


Ep.79 テストエリア

 

 

 

 

 「わ、私ですか?」

 

 「うん。お願いできるかな」

 

 

 場所はエギルの店。

 アスナに自身の気持ちを打ち明けたその日の内に、アキトはユイの元へと駆け出していた。

 《ホロウ・エリア》へとフィリアを助けに行くという決心はもう付いている。

 リズベット達に何かを言われる前に、ユイの力を借りに来たのだ。

 もうすぐ夕飯の時間でもある。みんなが集まる前に、ユイに頼みたい事があったのだった。

 

 

 ユイ当人は、アキトに頼られた事自体はとても嬉しいものだったが、すぐさまその表情を曇らせた。

 

 

 「でも私は、モンスターと戦ったりは……」

 

 「そ、そんな危ない事させないよ。ただ、ユイちゃんだったら《ホロウ・エリア》の事、分かるんじゃないかと思って」

 

 

 忘れそうになるが、ユイはこの世界の住人であり、AIという、NPCの中でも自我を持つ珍しい存在だ。

 MHCPという立場にあった事もあり、ユイはSAO、ひいてはその根幹である《カーディナル》と呼ばれるシステムに詳しいのだ。

 

 《ホロウ・エリア》のデータやシステムについて、分かる事があるかもしれない。

 

 ユイは少し考えた後、納得したように頷いた。

 

 

 「……そうですね。干渉する事は難しくても、見たものを判別するくらいなら出来ます」

 

 「けど、どうしてユイちゃんを?」

 

 

 ユイとアキトの隣りに立って、アスナがアキトへと問い掛ける。

 アキトは煩わしく感じる事も無く、丁寧に説明を始めた。

 

 

 「《ホロウ・エリア》は、アインクラッドとは色々と違う。アスナも行った事あるし、それは分かるでしょ?」

 

 「……うん、確かにおかしいなって思う事は幾つかあったと思う」

 

 「その何もかもがもしかしたら、フィリアの事に繋がってるかもって思って……」

 

 

 見た事の無い武器やスキル。

 どこかおかしいプレイヤー。

 黒鉄宮にいる筈だったオレンジプレイヤー。

 フィリアの過去。

 

 

 《ホロウ・エリア》は明らかに、異質な場所だった。

 一プレイヤーであるアキト達では、この手の案件には正直お手上げで、詳しいものが必要だった。

 

 

 「だから……出来れば助けて欲しいんだ」

 

 「勿論です、アキトさんっ!」

 

 

 満面の笑みを浮かべる救世主ユイ様に、拝みたくなるのを抑えつつ、アキトはアスナへと視線を映す。

 管理区は《圏内》ではあるが、やはり不安なのか、その表情は曇っている。

 

 

 「……悪いアスナ、本当は嫌な筈なのに」

 

 「……でも、君がいるなら安心だよね」

 

 「っ……随分と評価が変わったみたいでビックリだよ」

 

 

 アスナのその言動がむず痒く、思わず目を逸らす。

 出会った当初はボロクソに言われた気がするが、今ではこんな笑みを浮かべるようになった。

 自分がここに来た意味が見い出せた気がして、なんだか嬉しかった。

 

 

 「ユイちゃんは必ず俺が守る。管理区からは出ないし、何か分かったらすぐ戻って来る」

 

 「……分かった」

 

 「夕飯には帰すから。そこからは少し一人で動いてみる」

 

 「……気を付けてね」

 

 「分かってる」

 

 

 アスナの真剣な眼差しに、誠意を持って答える。

 もしかしたらフィリアは今、苦しんでいるかもしれない。なら、時間は無駄に出来ないのだ。

 

 

 アキトはクルリと踵を返すと、ユイへと視線を下ろした。

 

 

 「じゃあユイちゃん、行こ……ユイちゃん?」

 

 「っ……え、は、はいっ!大丈夫です、行きましょう!」

 

 「う、うん……?」

 

 

 ユイの顔が真っ赤に染め上がっている事実に、アキトは眉を顰める。

 急にどうしたのかと、戸惑いを隠せない。

 アキトは恐る恐る、ユイへと問いかけた。

 

 

 「ど、どうしたの?まさか、具合でも悪い……?」

 

 「い、いえその……」

 

 

 ユイはその手をモジモジとさせながら、チラリとアキトを見る。

 すると、ポツリと小さく口を開いた。

 

 

 「……私は皆さんと一緒には戦えないので、命の危険が無い《圏内》で皆さんの帰りを待つ事しか出来ません。ですので、私は守られる必要は無いんです……」

 

 「え……」

 

 「なので、アキトさんが私を『守る』って言ってくれて……その、と、とっても嬉しかったんですっ……えへへっ……」

 

 

 最後まで言い切る前に、ユイは顔を両手で抑えた。

 その場にいる全てのプレイヤーが、ユイのその行動と言動を一部始終見て、そして固まった。

 

 この天使なんなの(震え声)

 

 誰もががそう思った事だろう。

 目の前の少女は純粋無垢、天使以外の何者でも無い。汚れちまった我々の前に現れた、汚れを知らないメシアである(白目)。

 

 

 「……アキト君」

 

 「俺が言わせた訳じゃなければ狙った訳でもないんだけど」

 

 

 アスナの震え声に答えるアキトの言動は、早口かつ棒読みもいい所だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●○●○

 

 

 《ホロウ・エリア管理区》

 

 

 いつ見ても世界観が違うな、と溜め息が出てしまう。

 統一された静寂の中、デジタル信号の波が周りを覆う。

 空中へと浮かぶウィンドウの数々に、さらにその上、天井には星々が煌めいている。

 

 ずっと気になっていた。

 この世界に自分が来てしまった訳。それが、もしかしたら今明かされるかもしれない。

 中央にあるコンソールまで足を運ぶと、アキトはユイへと振り返る。

 

 

 「このコンソールで、ある程度色々見られると思う」

 

 「……!アキトさん……ここは……!」

 

 

 コンソールに触れてほんの数秒にも関わらず、ユイは驚きの表情だった。

 もう何か分かったのかと、アキトはその視線が固まった。

 

 

 「今までのアキトさんのお話には、システム的に幾つか説明出来ない事があったのですが……ここは、開発テスト用の秘匿エリアです!」

 

 「テスト用……?」

 

 

 その突然の単語に思わず首を傾げるアキト。

 だがすぐに、思い当たる節に気付き、その瞳を見開いた。

 

 

 「……そういえばこのエリア、アナウンスが響くんだ。確か、『テスト』だとかって言ってた……!」

 

 

 ユイはその一言に頷くと、説明しようと口を開く。

 

 

 「簡単に説明すると、開発中に新しい要素を実装する為に様々な実験をする場所……です。SAOに登場するアイテムや武器、スキルなどは、実装前に必ずテストされています。どんな小さなものでも、使われ方によっては大きな不具合を起こす事がありますから」

 

 

 つまりこの《ホロウ・エリア》では、実装前の武器やスキルがゲームバランスを崩す事が無いかをテストし、チェックしているという事だ。

 だからこうして、エリアを限定してテストしているのだろう。見た事の無い敵や武器が多くこの場所で見付けられるのは、そういった理由があったからなのか。

 アキトが依然から感じていた《運営側》の人間が使用するような場所、という考えはあながち間違っていなかったという事だ。

 

 

 「しかもここのシステムは、ゲーム開始時から、更に進化をしているようです」

 

 「進化……?」

 

 「現在の過酷なプレイ状況に応じて、より調整のしやすい形へ適応したのでしょう」

 

 

 ユイの推測と説明は全て辻褄が合っており、納得のいくものだった。

 確かにアインクラッドのこの状況は、開始時からは考えられなかっただろう。

 75層で生じた原因不明のシステムエラーも、その一つだ。

 

 

 ユイは気合いを入れ、アキトに向き直る。

 

 

 「私はもう少し此処を調べてみます」

 

 「……力になれなくてゴメンな」

 

 「そ、そんな事無いですっ!そ、傍に居てくれるだけで、その……」

 

 「……?当たり前でしょ?離れたりしないから、安心して」

 

 「!? は、はいっ……!で、では、調べてますね!」

 

 

 ユイは顔を赤くしてアキトへと背を向けた。

 コンソールをタップしている腕は心做しかギクシャクしているように見える。

 

 

 その覚束無い動きに、アキトは首を傾げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「アキトさんっ!ちょっと来て下さい!」

 

 「っ……」

 

 

 ユイの響く声を聞いて、アイテムの確認をしていたアキトはすぐさまその身を翻してユイの元へ向かう。

 そこまで駆け寄ると、ユイがコンソールを操作し、開いたデータを指差した。

 

 

 「このデータなんですけど、プレイヤーの登録情報を参照して──《ホロウ・エリア》のプレイヤーIDが作られています」

 

 「え……?」

 

 

 ユイの説明に首を傾げるアキト。

 言っている意味がイマイチ分からず、アキトは眉を顰めた。

 

 

 「《ホロウ・エリア》にいるプレイヤー達の行動を見て、おかしなところはありませんでしたか?」

 

 「……そういえば、拠点をド忘れした人とか、HPが危ないのに回復しない人とか……何て言うか、高難易度エリアなのに危機感が薄かった気がするな……」

 

 

 このエリアで何人かのプレイヤーを見たが、みんな揃って拠点をド忘れしていた。

 高難易度エリアなら、休憩するべき安全な場所の確保は当然だ。ましてや、それを忘れるなど有り得ない。一人だけならまだしも、何人もが拠点に大しての記憶が曖昧だった事に不信感があった。

 もう一つ、HPが注意域に達してもなお、回復せずに先へと進もうとするプレイヤーがいた。どれだけ言っても回復しようとしなかったのは、あまりにも不可思議だと思っていた。

 この場所にいるプレイヤーは、妙に危機感に対して鈍感だったり、目的に盲信的だったように思える。

 

 

 だがユイに告げられたその理由は、驚くべきものだった。

 

 

 「はい……ここにいる人間の大多数は、プレイヤーを忠実に再現した《AI》です」

 

 「え、AI……?」

 

 

 すぐには受け入れ難い事実に戸惑いを隠せない。

 思い返してみても、確かに受け答えは少しおかしいとは思ったが、普通のプレイヤーと遜色無かったと思っている。

 だがこれに関しては、ユイも難色を示していた。

 

 

 「良くは分かりませんが……プレイヤーの深層心理を探り、効率良くテストする事が目的だと思われます」

 

 「……じゃあ、何で俺はここに来たんだ……?」

 

 「アキトさんは、高位のテストプレイヤーとして登録されています。AIでは判別出来ないイレギュラーな行動、高いプレイヤースキルを要求されるテストを行う為に──アキトさんが招かれたんだと思います」

 

 

 高位テストプレイヤー。

 高いプレイヤースキル。

 その言葉を耳にして、ユイの話を統合すると、一つの結論に至った。

 

 

 「っ……《二刀流》、か……」

 

 「……はい、恐らく」

 

 

 アキトは自身の手を見つめ、そして握り締めた。

 《二刀流》は優れたプレイヤー、高位のプレイヤーに与えられるスキル。

 つまり、自分はキリトの代わりにこの場所に招かれたという事だ。キリトが居なくなったから、その代わりを、《二刀流》を手にしたアキトで補完する形を取ったのだろう。

 

 

 これで、黒鉄宮にいる筈のオレンジプレイヤーがいる理由と、自分がここに来た理由に納得がいった。

 

 

(もし、キリトがちゃんとした形で生きていたら、フィリアと出会うのはキリトだった……って、事か……)

 

 

 「なら……キリトなら、もっと早く気付けてあげられたのかもな……」

 

 

 ユイにも聞き取れない声でそう呟くアキト。

 もし、自分じゃなくてキリトだったら。そう思うのはもうやめにした方が良いと分かってる。

 けれど、自分よりも反応速度が高いキリトは、それだけでアキトとは異質の強さを持っていた筈だ。

 プレイヤーだけの素質でいうならば、アキトよりも上手である。

 その上手である彼だったら、アキトよりも早く、フィリアの事に気付けていたのではないだろうか。

 罠に嵌ったとしても、自分の時のように、二日も三日も動かない、なんて事にはならなかったんじゃないだろうか。

 

 

 そう思うと、フィリアを助けられなかった事が悔やまれる。つまり、本当ならもっと早く気付けていて、こうなる事だって防げたという事なのだなら。

 自分の鈍さに腹が立つ。

 

 

 

 

(……フィリア────?)

 

 

 

 

 アキトは、その名前を思い浮かべた瞬間、その身体が固まった。

 彼女が自身に話してくれた事を思い出す。

『自分を殺した』と。

 この場所の用途が分かった今、彼女の話が真実であると告げていた。

 

 

 「ユイちゃん、フィリアは、フィリアはどうなんだ……!?」

 

 「……このコンソールで調べる限り、テストプレイヤーのリストには、フィリアさんのお名前が登録されていません」

 

 「っ……」

 

 

 ユイの答えで、アキトは言葉を失った。

 なら、それなら────

 

 

 

 

(フィリアはデータって、事なのか……?)

 

 

 

 

 ならば、仮に騙されてたとして。

 PoHの元から彼女を救い出したところで、その後どうすれば良いのか分からない。

 もし彼女がデータなら、このSAOがクリアされれば結局────

 

 

 「アキトさんの話とここにデータが無い事を合わせて考えると、フィリアさんも特殊な境遇のプレイヤーのようです」

 

 「え……?」

 

 

 アキトは思わず、困惑の表情のままにユイへと視線を動かす。

 ユイはそんなアキトを見て、キョトンと首を傾げるばかり。

 

 

 彼女の今の発言は、あまりにもその場凌ぎに聞こえた。

 ここに自分の名前はあるのにフィリアの名前が無い。なら、彼女はデータなんじゃないだろうか。

 自分がユイに話したフィリアの事なんて、ちょっとしたもので、それがAIかそう出ないかなんて、ユイには分からないのではないだろうか。

 

 

 「あの……どうかしましたか?」

 

 「……何で信じられるんだよ、そんなの……ここに名前が無いんだし、俺が感じた事だって当てにならない。フィリアは、データかもしれないじゃんか……」

 

 「まだ決まった訳じゃありません。この規模のエリアなら、他にもシステムコンソールが存在すると思います。最後まで、希望は捨てないで行きましょうっ!」

 

 「っ……」

 

 

 ユイのやる気に満ちた笑みを見て、アキトは焦っていた心が段々と解れていくのを感じた。

 目の前の少女は、本当に人の感情に敏感で、とても優しい。

 彼女が言うならば、きっとまだフィリアの事が決まった訳じゃないのだろう。だったら、まだ焦るような時じゃない。

 そう気付かされた事に情けなさを感じつつ、ユイの頭へとその手を持っていく。

 

 

 「そう、だね……まだ希望は捨てないよ。コンソールを見付けたら、また協力してくれる?」

 

 「っ……も、勿論です!何度だって一緒に行きます!」

 

 

 触れられた頭に全神経を集中させ、顔を赤く染めながら嬉しそうに答えるユイに、アキトは微笑む。

 時間が無い、けれど、やる事は決まったのだ。まだ踏破してないエリアへとその足を踏み込もう。

 

 

 「ユイちゃん、その転移門から帰れる。少し進んでみるってアスナに言っておいて欲しい」

 

 「分かりました。絶対に帰ってきて下さいね」

 

 「分かってる。あそこが俺の帰る場所、だもんね」

 

 「っ!は、はいっ!」

 

 

 ユイは笑って踵を返す。

 転移門へと向かうその背を頬を緩めながら眺めるアキト。

 

 

 だが、ユイは転移門の真上でピタリと止まると、ふと、こちらへと視線を動かした。

 笑みを浮かべていたアキトは、ユイのその表情を見て、その笑みか崩れる。

 

 

 「……ユイちゃん?」

 

 

 「……アキトさんは」

 

 

 

 

 ユイは、不安そうに、心做しか震えた声で小さく、

 

 

 

 

 「アキトさんは……アキトさん、ですよね……?」

 

 

 「ぇ……」

 

 

 

 

 俺は、俺かって?

 何を聞かれたのか、一瞬戸惑って身体が固まる。

 それでいて何故か、とても心に突き刺さった。

 

 

 どう答えるのが正解なのだろうと、そう考えた。

 そうして迷いはしたけれど、アキトは結果、ただ正直に答えるだけだった。

 

 

 「……ああ、勿論」

 

 

 「……そう、ですよね……が、頑張って下さいっ」

 

 

 そうして彼女は、自身が聞いた質問を誤魔化すように笑って、転移門の光と共に消えていった。

 小さな光の粒達が、空へと舞って、天井の星々と混ざっていく。

 完全にその煌めきが消え去っていくのを眺めた後、アキトはユイが消えていった転移門へとその足を踏み出した。

 

 

 「……転移、《ジオリギア大空洞》展望上部」

 

 

 途端、その身体から光が溢れ出す。

 既に何度も目にし、行った手順にウンザリする事無く、ただ目を細めて消えゆく姿を眺めるのみ。

 

 

 「っ……」

 

 

 そうして、ズキリと痛むその瞳を抑え、ユイに言われた言葉を思い出していた。

 

 

 「……まさか、な」

 

 

 小さく笑って、思考を振り払い、転移されるのを待ちながら、その瞳を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 左眼は既に黒く染まり、青い右眼も少しばかり、黒へと染まりつつあった。

 

 








ユイ 「アキトさん、少しだけ調べ物があるそうです」

アスナ 「夕飯までに帰って来ると良いんだけど……」

シノン 「……アスナ」

アスナ 「あ、シノ……のん……?」

シノン 「……」

アスナ 「ど、どうしたのかな……?」

シノン 「アキトの居場所が分からなくなったんだけど、まさか《ホロウ・エリア》に行ったんじゃないでしょうね……?」

ユイ 「……」メソラシ

アスナ (は、早めにバレた……!)




エギル (……シノンの奴、アキトの位置情報、しょっちゅう確認してるのか?)



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