……何か、変な感じになってしまった。
不評だったらきっと書き直す、メンタル豆腐の夕凪楓です。
納得してねぇなら上げんじゃねぇ、感じですよねすみません……(震え声)
今後も頑張りますカタ:(ˊ◦ω◦ˋ):カタ
声が聞こえたような気がしたのは、ずっとずっと前だった。
多分、その頃から、本当は気付いていたのかもしれない。
自分の中にいる、侵食していく何かの正体を。
そして、それを拒もうとしていなかった、その理由も。
憤りや焦り、喜びと悲しみ、それら全てを、分かち合っていた気がする。
苦しい時、辛い時、傍で共に戦ってくれていたような気がする。
そんな彼を無意識に感じたからこそ、決心が付いたのかもしれない。
俺は、《黒の剣士》になる、と────
●○●○
周囲の時間が停止した。
彼が何を言っているのか理解できない。全員がそう混乱してしまうほどに、アキトの一言は────
「お兄ちゃんが……生きてる……?」
一瞬抱いた希望も束の間、その受け入れ難い事実に、リーファは思わず口を開いた。
彼女を含む全員が、アキトの言葉をすぐには鵜呑みに出来ないでいる。
「嘘だよ……だって、お兄ちゃんは……」
リーファはそう言いつつも、捨てられないものがあった。
確かに、死を確認した訳じゃない。けれど、病院からの母親の声音は明らかにそれを思わせた。
何より、自分の兄が彼らの知っている『キリト』の同一人物ならば、生存は有り得ないだろう。
彼らの中の何人かは、キリトの死に目に会っている。
けれど、みんな何処か、納得してしまっていた。
キリトと同じ戦闘スタイル、リーファの本名を知っていた事など、思えば、そう感じる部分が幾つもあったのだと今にして思い出した。
「……二刀流を手にしてからずっと、声が聞こえるんだ」
「声……?」
「うん。時には笑い合って、時には恨んで……それでも大切だった、安心する、友達の声が」
シノンの疑問に、微笑で答えるアキト。
瞳を抑え、これまでの事を思い出す。
思えば、その声に何度も助けられて来たかもしれない。戦闘時や、仲間が危険な時など、アキトが焦っている時は、いつだってその声が傍にいた。
「俺が助けて欲しい時、必ず応えてくれる。まるで、ヒーローみたいに……」
「じゃあ、あの時のボス戦は……」
「……多分、キリトが戦ってくれてたんだと思う」
「っ……キリト君が……」
アスナは言葉を失った。
アキトの顔を見て、あの時の光景が蘇る。
リーファを救おうと立ち上がり、斬り伏せ、剣を掲げた、一人の剣士の後ろ姿を。
理屈は分からない。でも、誰もが信じられた。
それだけの事が、あの時に起こったのだから。
ずっと一緒に戦ってきたから、或いはずっと好きだったから、或いは戦友だったから。
或いは、兄妹だったから。
そんな様々な理由だが、彼の言う事にとても納得出来てしまっていた。
「けど、そんな事って……」
信じられるけれど、それでもその理由が分からない。
どういう理屈やシステムで、その関係が維持されているのか。
そもそも、それは本当にキリトなのだろうか。
散々期待したからこそ、絶望などしたくなかった。
彼らは挙ってユイを見る。
だが彼女も、困惑したように首を横に振る。
つまり、完全に未知の領域。分からない事ばかりという事だった。
「恐らく、75層のフロアボス討伐時に起こったシステムエラーが原因だと思います。アキトさんが《二刀流》を手にした過程で、何かが起こったのかもしれません。ですが、その具体的な内容が……」
「……そっか」
ポツリと、そう返して静寂が戻る。
ユイも困惑しているようで、その言葉に覇気が無い。
前例が無い為、この事実がシステムエラーによるものだという事は恐らく事実であろう。
今明かされた全ての事実が衝撃的で、きっと誰もが言葉も出なかった。
「……ゴメン、隠してて」
そんな中、アキトは再び謝罪を口にした。
彼らは一同にその視線を声の主へと向ける。
「言わなきゃいけないとは思ってた。けど、変に期待させるのは、あまりにも酷だとも思ったんだ。希望を持たせるような事は、したくなかった」
そうして俯くアキト。
だがふと、周りの戸惑った顔を見て、やがて観念したように笑う。
「……いや、違うか」
「え……?」
「これは……俺の我儘だ。きっと、俺に向けられた視線が変わってしまうのが怖かったんだ」
「アキトさん……」
みんなは、キリトを大切に思っていた。
自分じゃなく、その奥にいるキリトを、彼の生存を求める。
その願い自体は叶っていたのかもしれない。
けれどそれと同時に、アキトの願いは叶わないものへと変わっていったのだと、自分自身でそう思っていた。
そう告げた部屋の空気は、途端に重くなった気がした。
けれど突然、リズベットが立ち上がり、ツカツカとこちらへ歩み寄って来た。
アキトは思わず身体を震わせるが、そのまま彼女に向き直る。
リズベットは、そんな彼を見て、大きく息を吐いた。
「はぁ〜……アンタって本当に馬鹿なんだから」
「ぇ……」
「確かに私はキリトの事を大切に思ってる。けどだからって、じゃあアンタは大切じゃない、ってなる訳ないでしょ?」
「そうですよ!アキトさんも、大切な仲間です!」
彼女達はだからこそ、仲間であるアキト対してのあの時の態度は、失礼だったと今では思っていた。
重ねられ、疑われ、そうして傷付いた彼の心。
彼は強いけれど、強がってる部分もあって。
偽っているけれど、本当は心がとても弱くて。
折れそうになる心を何度も何度も立ち上げて、ここまで来てくれた。
キリトとアキトは全くの別人で、比べてはならないのだから。
どちらも大切な人で、なくてはならない存在で。
「だからあの時の事……謝らないといけないのはあたし達だったんだ……アキト、本当にゴメン!」
「あたしも、すみませんでした!」
「二人とも……」
アキトはそんな彼女の真摯な態度に、思わず言葉に詰まる。
謝る必要なんて無い、今は言わなくていいと、そう思っていたのに、こうして頭を下げられると、何故だかとても────
「勘違いも良いところよ」
「っ……シノン」
そうして、シノンへと視線を向ける。
彼女は組んでいた腕を下ろし、ポツリと、小さく口を開く。
「私は……キリトって人の事、知らないもの。だから少なくとも……キリトじゃなくアンタとは、ちゃんと仲間だったつもり」
「そう、だよな……」
シノンはキリトの事を知らない。
だから、これまでの自分とシノンの関係は純粋なもので、あの時だって、決してアスナ達と同じような目で見てた訳じゃ無かったのに。
どうして気が付かなかったのだろう。
ちゃんと自分にも、見てくれてた人がいた事に。
「……ありがとう、シノン」
「……ん」
シノンは満足したように、ニッと笑みを作る。
小さな笑みだったが、とても嬉しそうで、とても綺麗だった。
アキトはそうして、リーファへと視線を向ける。
リーファも、吊られてアキトを見上げた。
今までの話を聞いて、そして自分が体験した事を思い出し、自分が感じた事を、こうして思い返す。
そして、理解する。
目の前にいるアキトという少年、その中に自分の兄がいる。
そしてここにいる彼らは皆、自身の兄の仲間達。
リーファは観念したように、小さく笑った。
「……そっか。あたしのお兄ちゃんを知っている人達は、こんなに近くにいたんだ……」
「……リーファ、俺は────」
「…今度」
「っ……?」
アキトの言葉を遮って、リーファはどうにか声を搾り出す。
まだ納得してない部分も多い。信じられないと感じている事もある。
それ以上に、自分がこの目で見て感じた事を、何より、目の前のアキトという少年を。
自分の兄と友達だったと告げる彼を、信じたかった。
「今度……ちゃんと聞かせてもらうからっ……」
「……リーファ」
「お兄ちゃんがこの世界を、どう生きたのか……知りたいから……」
「……分かった」
今は、胸がいっぱいで、ちゃんと聞ける自信が無かった。
自分の兄が本当に生きているのかなんて、まだ信じ切れないけれど、冷たく当たってしまったアキトに報いる為にも、信じてみたいと思ったから。
アキトは、そんなリーファに小さく微笑む。
そんなアキトの肩に、クラインが後ろから腕を回す。
驚くアキトの隣りで、嬉しそうに笑っていた。
「よっしゃあ!リーファっち、俺も協力するぜ!キリトとはこの中で一番付き合いが長ぇんだ!」
「んだよクライン、俺とアスナとそんなに変わらねぇじゃねぇか」
「俺はゲーム開始から知ってんだっつの!」
エギルの茶化しに食ってかかるクライン。
そうした仲で、段々と笑みが溢れ始める。各々が少しずつだが、いつかの元気を取り戻してきたようだった。
アスナとユイと視線が合う。二人はニコリと、ただ嬉しそうで。
アキトは、そんな光景を見て、瞳が揺れた。
なんだ、簡単な事だったんじゃないか。
話さなきゃ分からない事はたくさんあったというのに、逃げ続けるばかりだった自分は、欲しいものに辿り着ける訳が無かったのだと理解した。
今、目の前に広がるものは、自身が勇気を出した結果。
リーファも、決して納得はしていないかもしれない。だからこそ、ちゃんと前向きに話さなきゃならない時が来る。
けれど、こうして今笑っている瞬間だけは。
きっと、かけがえないものになる。
彼らはただ、こうして初めて纏まった事実に、嬉しく思うだけだった。
────だが。
「……という訳だ。だから、三日もあっちに居たのは、別に不貞腐れてた訳じゃない。分かったかシノン」
「はいはい」
シノンは深く息を吐いてそう答えた。
話し終えた周りの空気は、決して良いものでは無かった。
何せ、アキトが三日以上も《ホロウ・エリア》にいた理由が、フィリアと《
奴らの事を良く知っている者からすれば、とても恐ろしい話だった。
高難易度エリアへと落とし、MPKを行う。
失敗した矢先、疲労したアキトへ集団PK。
そしてそれを行ったのも、レッドギルドとして名高い《
彼らからすれば、驚愕と困惑の連続だった。
依然討伐隊を組んだ筈、幹部は拘束し、黒鉄宮へと送られた筈なのだ。なのに、どうして《ホロウ・エリア》で彼らが行動しているのだろうか。
もし、これもシステムエラーによる影響なのだとしたら、そろそろバグじゃ済まない案件になってきている。
最初の頃の静寂が再来したようで、誰もが口を噤んでいたが、やがてリーファとリズベットが呆れたように呟いた。
「アキト君ってさ……ホント色々巻き込まれてるよね」
「……そういう巻き込まれ体質まで、どっかの誰かさんそっくりなんだけど」
「……俺に言われても」
「まんまと騙されて、罠に嵌ってさ。……それで抜けて来れちゃうのもアレだけど」
リズベットはまたもや呆れたように笑う。
そんな中、エギルとクライン、シリカは少しばかり戸惑いを見せていた。
そして気になったのか、エギルがカウンターに座るアキトに視線を下ろした。
「……なぁアキト。俺はフィリアって娘を見た事は無いから、何とも言えないんだが……お前さんから見て、彼女はお前さんを騙すような奴に見えたのか?」
「騙された俺が言っても説得力皆無じゃ……クラインは?」
「いや……アキトよぉ、俺は正直、未だに信じられねぇんだが……」
腕を組んで唸るクライン。
そしてもう一人、考えるように眉を顰めていたシリカは、ポツリと小さく呟いた。
「その……フィリアさんは本当にアキトさんを騙したんでしょうか?フィリアさん自身も、騙されていたとか……」
「それは無いんじゃない?『ゴメンね』って言葉が聞こえたんでしょ?」
「……うん」
リズベットがバッサリと切り捨て、正論を突きつける。
確かにアキトは、罠に嵌る瞬間、フィリアの涙ながらの謝罪を聞いた。
懇願するように、何度も。
けれど、アキトはどうしても、フィリアがそんな人だとは思えなかった。それは、一緒に過ごして来た時間が物語っている。
「……理由があるのかもしれないだろ」
「どんな理由よ!死ぬかもしれないダンジョンに人を落としておいて!これって立派なPKだよね!?理由も何もあるもんですか」
「……落としたのはPoHだ」
「似たようなもんでしょ!」
折れないアキトに食ってかかるリズベットを、シリカやアスナが宥める。
アキトの優しさは、時にこんな風にいざこざを生む。自分がフィリアにそんな目に合わせられたというのに平然としているアキトに、少なからず苛立ちを覚えるのは当然だった。
「……私もリズに賛成。アキトは暫く、《ホロウ・エリア》に行かない方が良いわ」
「シノン……」
「良くは知らないけど、オレンジギルドの連中もいるんでしょ?こちらも大人数で行けるなら兎も角、行けるのはアンタ含めて二人だけなんだから」
「……そうですよね」
「あたしも、あんまり行って欲しくないかな」
シノンの言葉に納得したのか、シリカもリーファもそう呟き始める。
アキトはそんな周りの同調に、拳を握る。
彼らはフィリアの事を知らない。
だからこそ、顔も知らない誰かを信用出来ないのは当然だった。
けれど、アキトが大切に思っている仲間に対して、そんな風に言われると、なんとなく辛かった。
それに、彼女達の言っている事も正しいのだ。
こちらは《ホロウ・エリア》に、どういう理由か二人だけしかいけない。
だから、助けに行こうと赴いても、危険の方が多い。
そもそも、彼女が本当にアキトを裏切った可能性だってある。
なら、自分はどうしたら良いのだろうか。
●○●○
「……やっぱり此処に居た」
「……アスナ」
いつもの丘。アキトのお気に入りであるその場所は、アキトの心を慰めるように優しい風が吹いていた。
後ろからアスナが近付いているのを感じながら、アキトは悲しげに湖を眺めていた。
何処までも広がる水面に静かさを感じて、とても哀愁を感じる。
「……」
フィリアは、自分を罠に嵌めた。
これは、紛れも無い事実。けれど、何か理由があるのかもしれないと、そう思っていた。
助けるのが当然だと、勝手に決めつけていた。
けれど、リズベット達は必ずしもそうでは無かった。自分の身を案じてくれているのは分かっていても、フィリアを放っておけと、そう言われているみたいで。
でももし、自分の助けを彼女が望んでいなかったとしたら。
PoHと行動する事で、彼女が満足しているとしたら。
そう思うと足が竦む。動こうとしていたのに、選択した筈なのに、それを選ぶ段階まで戻ってきてしまう。
自分は、罠に嵌めた彼女をどう思っているのだろう。
怒り?憎しみ?少なからずあるのかもしれない。
でも、ただ悲しかった。
フィリアと過ごして来た日々を、否定された気がして。それでも彼女を、自分は助けに行くべきなのだろうか。
「……落ち込んでるの?」
「ぇ……」
「フィリアさんの事」
「っ……何で……」
今まさに考えていた事を言葉にされ、その目を見開く。
その反応は、アスナに答えを言っているようなもので。
「分かるよ。ずっと一緒に戦ってきたのに、突然罠に嵌められて……理由があるのかもって思ってるのに、リズ達の言葉も正しくて……私でも、どうしたら良いのか迷っちゃうもの」
「……解説、どうもありがとう」
アキトはウンザリとした表情で溜め息を吐くと、風が吹いて揺れる水面を見つめる。
その瞳には、初めてフィリアと出会った頃を映し出していた。スカルリーパーという75層のフロアボスを一緒になって倒して。
オレンジカーソルに気付いた後も、こうして共に行動して。
「……何故森で彼女を見付けた時、放っておけなかったのかな……そうすれば、こんな思いしなくて済んだのに……」
「……他の人ならそうしてたかもね。どうしてそうしなかったの?」
アスナはアキトの隣りまで歩み寄り、アキトの横顔を見つめる。
確かに、オレンジカーソルというだけで、差別の対象となってしまうのは、この世界なら仕方ない事だ。死を身近に感じる世界だからこそ、そういった部分はかなり敏感だ。
アキト以外のプレイヤーなら、放っておくか、少なくとも警戒はするだろう。
けれどアキトは────
「……」
「……どうしてなの?」
アスナのその質問に、答えられないでいた。
どうして、だなんて分からない。ただただ嫌だったのだ。
けれど、この良く分からないモヤモヤとした気持ちが心に宿り、アスナへの質問を適当に返す。
「……分からない。出来なかった」
「答えになってない」
そのアスナの執拗い様に、アキトはほんの少しだけ苛立った。
アスナは変わらず、アキトを見据えている。そんな彼女に、アキトは言葉に詰まる。
「っ……うるさいな、何でそんな事気にし出したんだよ」
「聞きたいの、君の口から」
アキトは、そんなアスナに不機嫌な表情を隠す事無く、彼女を睨み付ける。そうして、投げやりに答えた。
「分かったよもうっ、俺は独りだと心細い臆病者で、根性無しなんだ、だから放って置きたくなかった……!」
「『放っておきたくない』って言った?」
「な、何だって良いだろっ、放っておきたくない、おけないんだ!オレンジに同情するなんて、攻略組史上俺が初めてだろうけど」
そういって、アキトは、嫌気がさしたかのように、アスナから目を逸らす。
俯き、近くの草花に視線を落とす。
そうだ、攻略組一丸となって、ラフコフを討伐した彼らにとっては、アキトの行動はあまりにも理解出来ない事だろう。
攻略を順調に進める為の討伐だった筈だ。だからこそ、それを邪魔するオレンジプレイヤーは、唾棄すべき悪だった筈。
なのにアキトは、フィリアをそんな目で見る事が出来なかった。
だからこそ今、フィリアに裏切られた事でその考えが間違っていたと、そう突き付けられたみたいで嫌だった。
ウンザリしたように、小さく息を吐く。
けれどアスナは、クスリと笑って、アキトのその背に声を掛けた。
「……ずっと一緒に戦ってきたのも、攻略組史上初めてかもね」
「っ……」
アキトは、その言葉で目を見開く。
アスナの放った一言が、心に響いた。そうして、彼女と過ごした日々を思い出し、瞳が揺れた。
フィリアの楽しそうな、笑った顔。守りたいと思った、誰かの笑顔を。
オレンジカーソルだけじゃ、人となりは分からない。だからアキトは、疑う事をしなかった。
「……それで?」
アスナは、アキトの言葉の続きを聞こうと促す。アキトは、困惑したように、ゆっくりと彼女へと振り返る。
そうだ、きっと、まだ理由があった筈なんだ。
そんな事、とっくの前から知っていた。
「……放っておけなかったのは……彼女も、居場所を探しているように見えたから……まるで自分を、見ているような気がして……」
《ホロウ・エリア》に一人飛ばされて、1ヶ月もの間、必死に生きてきた彼女。
何処か心が安らぐ場所が欲しかったのだろう。アキトと出会って、管理区という《圏内》に入れるようになって。
フィリアは心の余裕が出来ていた。
そして、そうして安らぐ場所を求めてから、手に入れるまでの彼女の態度や言葉、その中で見える表情が、とても自分に良く似ていたのだ。
彼女は、ずっと独りだった過去の自分自身。頼るべき仲間が居らず、PoHに縋るしかなかったのかもしれない。
一人の辛さを、独りの寂しさを、誰よりもアキトが知っている。
だから────
アキトは、悔しそうに拳を握り締めた。
そんな彼に、アスナは小さく笑みを浮かべる。
「……きっと今も一人で、怖がってる。……どうする気?」
アスナは腰を少し屈め、上目遣いで問い掛ける。
挑戦的な笑みは、アキトが何て言うのか理解していると、そう訴えていて。
「……聞くなよ、分かってる癖に」
アキトはそう言ってそっぽを向いた。
アスナは、そんな彼の態度に、ムスッと顔を顰めた。
「分かってるけど……言葉にして欲しい時だってあるのよ?」
「……はぁ」
アスナのその言葉はとても心当たりのあるもので。
今まで散々口にしなかったアキトは、改めて自分の未熟さを理解した。
「……アスナ」
「……はい」
アキトは、アスナに向けてその手を差し出す。
それはきっと、彼女に対する精一杯の誠意。
たとえ、騙されていたとしても、この手を伸ばす。
そうでなかった時、一生後悔すると思うから。だから、伸ばせる手は伸ばし切りたい、そう思うから。
「……フィリアを助けたい。力、貸してくれる?」
「勿論。君の信じる事を、私は信じるよ」
アスナは満面の笑みで、アキトに差し出されたその手を取った。
太陽が、沈み始めていた。
アキト (なんかアスナ、握る力強くない……?試してんの?なら……!)グッ
アスナ (アキト君、握力強い……流石筋力値極振り……!)ググッ
アキト・アスナ (こ、この……!)グググ……
キリト 「喧嘩するなよ……」
※本編とは無関係です。