ソードアート・オンライン ──月夜の黒猫──   作:夕凪楓

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前回の話、前半少し分かりにくかったと思います。
文才超欲しい(´・ω・`)

今回の話もそんな感じです。
物凄くポエム感。

そして感想が送られてこない時間をドギマギしながら、お気に入り数が減る瞬間を見て落胆する日々が続く。

……( ゚∀゚):∵グハッ!!


次回の話からはちゃんと元の書き方をします!
(`・ ω・´)ゞビシッ!!




Ep.55 食い違い

 

 

 《ホロウ・エリア管理区》での、PoHとのやり取り。

 ほんの数日前の事が、昨日の出来事の様に思い出される。

 

 

 

 

『知ってるぜ、俺は。お前が何をしたか』

 

 

 

 

 ────ドクン

 

 

 

 

『言えないよなぁ……言えないよなぁ……あのビーター野郎には』

 

 

 

 

 ────やめろ。

 

 

 

 

『……ああ、そっかそっか、そうだよな。今はそんな名前だったよなぁ』

 

 

 

 

 ────それは、アキトの事なの?

 

 

 

 

『肩身の狭いオレンジ同士、仲良くやろうぜ』

 

 

 

 

 奴と自分のカーソルの色は同じ。それは即ち、同じ穴の狢。奴と自分は何も変わらない。

 

 

 だからこそ思い出す。

 過去に自分が犯した事も。そして、アキトが言い放った言葉も。

 

 

 

 

『…私、人を殺したの』

 

 

 

『……俺は、PKを楽しむ様な奴らを許す事は出来ない』

 

 

 

 

 楽しんではいなくとも、人を殺したという点において、フィリアはPoH達と同類だった。

 だからこそ、以前のアキトの言葉が胸に突き刺さる。

 

 

 

 

『……お前ぇ……アイツと一緒にいたら死ぬぜ』

 

 

 

 

(死ぬ……?アキトといたら……私が……?)

 

 

 

 

 グルグルと頭の中を巡るのは、自分のした事、アキトの言葉、PoHとの邂逅時の話、ただそれだけ。

 他には何も無い、空虚な存在。空っぽな自分。

 正に、そんな様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「フィリアさんっ!」

 

 「────っ!?」

 

 

 アスナのその声で我に返る。

 顔を上げれば、三又の龍の一匹が、こちらに牙を向けて迫っていた。

 ハッと気付き、急いで短剣を構え対処するも、このままだと間に合わない。

 

 

(しまっ…!)

 

 

 

「はああぁぁあっ!」

 

 

 フィリアにかかる竜の頭に、エリュシデータの重い一撃が入る。確認するまでもなく、アキトが割って入ったのだ。

 ボスの攻撃軌道はフィリアの右に反れ、そのまま地面を滑って行った。

 

 

 「ボサッとすんじゃねぇ!」

 

 「っ…ゴメンッ…!」

 

 

 アキトの怒声でフィリアは気持ちを改める。

 短剣を逆手持ちに切り替え、背中を向けるボスに斬りかかった。

 綺麗に肉に食い込む感覚と手応え、フィリアは持ち手に力を入れて一気に振り抜いた。

 

 

 「スイッチ!」

 

 「了解!」

 

 

 ボスが呻き声を上げると同時に、フィリアが声を出す。アスナがそれに合わせて走り、ボスの首元に強烈な突きをお見舞いした。

 

 

 「アキト君!」

 

 「っ────」

 

 

 片手剣奥義技六連撃《ファントム・レイブ》

 

 

 紫に染まる剣が、途轍もない速さでボスを斬り付けた。

 一撃一撃のダメージが重なり、三つ首の竜は三匹揃って咆哮を上げた。

 

 

 「閃光!フィリア!ラストだ!」

 

 「分かった!」

 

 「う…うんっ!」

 

 

 竜の三つ首がそれぞれ連携して襲いかかるも、彼らは巧みにそれを躱す。

 アキトとアスナに限っては、最近の階層ボスで同じタイプと戦っている為、攻撃パターンは読めていた。

 

 

 斬り、突き、払う。その無駄の無い洗練された動きに、フィリアは目を見開く。

 やはり攻略組は凄い、と切に思った。

 

 

 「……」

 

 

 ────同時に、安心もしたのだ。

 

 

 

 

『……お前ぇ……アイツと一緒にいたら死ぬぜ』

 

 

 

(大丈夫…だよね…? だってアキトは……今だって私を助けてくれた……だから……)

 

 

 だから、自分は死なない。あれは、PoHの妄言だ。

 アキトを見る瞳が、僅かに揺れた。

 

 

(そう思って……良いんだよね……?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●○●○

 

 

 《グレスリーフの入り江》

 

 

 それが、浮遊遺跡のエリアボスを倒した報酬、あのエリアの先にあったエリアの名前だった。

 あの遺跡エリアの浮島を転々としながら雲の下へと下りていくと、そこにあった新たなエリアは、見渡す限りの美しい海が広がっていた。

 

 キラキラと光る水面、その中にもモンスターはいるし、後ろには洞穴や洞窟、岩の隙間の僅かな道など、行くべきエリアは選り取りだったが、とても綺麗なエリアだと、3人は思った。

 

 ここでの攻略も、最初は捗っていた。

 洞穴に入り、どこまでも続く通路をひた歩く。見た事の無いエイの様なモンスターや、背ビレの付いたリザードマンなどが多々見られ、やはりどれもレベルが高い。

 時間が経てば経つほどに噛み合う連携によって、その洞穴は順調に踏破されているものに思えた。

 

 だが洞穴の最奥、《水棲竜の(ねぐら)》に到着した時。

 目の前に三つ首竜のボス《Alphard》との戦闘になった辺りから、フィリアの様子がおかしくなった。

 いや、ここに来るまでに腑に落ちない点はいくつもあったが、戦闘に支障が出る程では無かったのだ。

 何かを考える様に俯いたり、悲しげな表情をしたりと、目の前の戦闘に身が入ってなかった。

 

 

 ボスに狙われる事になったあの隙は、ボスが上手だった訳でなく、単純にフィリアの気の緩みだったのだ。

 

 

 ボスを倒し、報酬を確認していると、フィリアがアキトの元へと歩み寄った。

 アキトはそれに合わせて顔を上げ、こちらを見てくるフィリアを見返した。

 

 

 「ありがとう、アキト。さっき助けてくれて……」

 

 「……別に。ボスのヘイトがそっちに行ってたから、隙だと思って攻撃しただけだ」

 

 

 アキトはフィリアから視線を外し、目の前のシステムウィンドウを閉じた。

 すると今のやり取りを見ていたアスナが、不満顔を彼に向けていた。

 

 

 「もー、またそういう事言うんだから」

 

 「……うるせぇよ、何だお前」

 

 

 そんな会話をしていると、洞窟の中だというのに、波の音が聞こえた。

 3人は思わず音のする方へと視線を向ける。

 

 

 すると、先程まで地面に張っていた海水が、分かりやすい速度で引いていった。

 どうやら今のボスを倒すと引き潮になるロジックだった様だ。

 アスナはそれを見ると、思い出したかの様な表情でアキトに顔を向けた。

 

 

 「…! ねぇ、さっきの砂浜の先に海水のせいで行けなかった場所があったわよね」

 

 「…………ああ、あったな、そんなの」

 

 

 アキトも思い出したのか納得した様に頷いた後、もうこの洞窟には用は無いと言う様に背中を向けた。

 アスナはその背を追い掛け、その横に並んだ。

 

 

 「じゃあ、次はあそこだね」

 

 「いや、洞窟の隣りにあった灯台から行く」

 

 「どうして?」

 

 「あっちこっち行くのメンドイから。ここから近い方から行くんだよ」

 

 「……引き潮満ち潮って、時間に寄って変わると思うんだけど、もし灯台の方を攻略してる間にまた満ち潮になったらどうするの?」

 

 「その時考える」

 

 「もう、計画性無いなー」

 

 

 フィリアの目の前で、アキトとアスナが会話を弾ませている。その光景を見ると、なんだか疎外感を抱いてしまう。

 自分は、この《ホロウ・エリア》からは出られない。だけど、あの二人は違う。

 自分と彼らの違いを感じたフィリアの、その表情は暗かった。

 

 

 

 

 だが、何かを感じたのはお互い様だった。

 アスナは少し後ろに離れたフィリアをチラリと見た後、アキトの顔を下から覗いた。

 

 

 「……ねぇ、アキト君」

 

 「今度は何?」

 

 「今日、フィリアさんの様子おかしかったよね」

 

 「……」

 

 

 その言葉で、アキトは押し黙った。それは、アキトもずっと感じていたから。

 今日初めて会ってから何処と無くいつもと違うのは感じていたのだが、彼女も何も言わない為に踏み込む事はしなかった。

 彼女が何も言わないのに、直接聞くのは野暮だと感じたからだ。

 

 

 アスナもアスナで、フィリアの様子がおかしかったのは分かっていた。

 そして良く見れば、そんな彼女は今日、アキトを見る頻度が多かった。悲しげな、何かを訴えるかの様な、そんな顔をしていて。

 

 

 「……アキト君、フィリアさんに何かした?」

 

 「何かあったら俺のせいにすんのやめてくんない」

 

 「何よそれ、そんなに何度も疑った事無いじゃない」

 

 「それこそ俺に言わせれば『何よそれ』だわアホ」

 

 

 

 

 先日のポーカーで、ユイを誑かしたと、瞬時にアキトを疑ったアスナの事を、彼は忘れていない。

 

 ああ言えば、こう言う。久しく忘れていた。アキトは元々、こういう風に他人とやり取りする人だった。

 だけど、アキトが何もしていないというなら、きっとそうなのだろう。

 アスナにとってアキトという存在は、もうそう決め付けられる程に信頼に値する人だったから。

 

 

 なら。なら、どうして?

 どうして彼女は、アキトの事を。

 

 

 アスナはフィリアが離れたところから付いてきている事で、視界に映った彼女のオレンジカーソルに目線が行った。そして、それを見てポツリと呟いた。

 

 

 「……やっぱり、気にしてるのかな」

 

 「あ?」

 

 「この前アキト君言ってたじゃない。『PKを楽しむ様な奴らを許す事は出来ない』って。フィリアさんがそんな人だとは思ってないけれど、カーソルの色は同じだから……自分の事も、そんな人達と同じだって考えてるのかも……」

 

 

 フィリアが何故オレンジカーソルなのか、アスナは知らない。だがオレンジカーソルとは、犯罪をしたプレイヤーに与えられるペナルティカラーなのだ。

 どんなに今が優しくたって、彼女とアスナが仲良く話したって、彼女はオレンジカーソルなのだ。勿論、それに関してアスナは何かを言う事はしないが、それでもフィリアの方はそうもいかないのかもしれない。

 優しくされればされる程に、居た堪れない感情が芽生えるのではないだろうか。

 

 アスナはフィリアと過ごしてまだ短いが、それでも彼女の性格はなんとなしに理解出来ていると思っている。

 正直、オレンジカーソルが似合わない程に、優しい少女だというのが、アスナの評価だった。

 だからこそ彼女は、自身がオレンジカーソルである事に罪の意識を感じていて、先日のアキトの彼らしくない言動に思うところがあったのかもしれない。

 

 

 「っ……あ、ご、ゴメン、アキト君を責めてる訳じゃ……」

 

 

 だがアスナは、思わず口を閉じ、アキトに謝罪と訂正を入れた。

 こんな言い方をしてしまえば、それこそ、本当は優しいアキトだって、フィリアに申し訳なさを感じてしまうではないか。

 

 

 だが────

 

 

 

 

 「────」

 

 

 「……アキト君?」

 

 

 アキトは、何も言わずに立ち止まった。

 目の前に何かある訳でも、索敵に反応があった訳でもない。

 

 

 ただ目を見開き、ゆっくりとアスナの方を向いた。

 

 

 「……俺が、何だって?」

 

 「え…?何が───」

 

 「今、言ったろ。俺が何だって…?」

 

 「だ…だから、別にアキト君を責めてる訳じゃなくて───」

 

 「その前」

 

 「えっ……PKを楽しむ人達は許さないって……」

 

 

 

 アキトはそれを聞くと、何処か怒気を孕んだ口調で。

 そして、耳を疑う様な発言をしだした。

 

 

 「な…え…は、ハッ、何だそりゃ。俺がそう言ったってのか…?」

 

 「え…な、何言ってるの…?ついこの間の事じゃない…」

 

 

 アスナは一瞬、彼が本気で何を言ってるのか分からなかった。

 まるで彼のその言い方は、()()()()()()と、そう言ってるみたいで。

 

 

 アキトは、固まったままに。

 視線の先のアスナを見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 ────ドクン

 

 

 

 

 

 

 まただ。

 また、この感じ。

 

 

 

 

 「……いつの事だ」

 

 「二日前よ……遺跡のボスを三人で倒した後、そう言ってたじゃない……本当に、覚えてないの…?」

 

 「……」

 

 

 

 

 ────覚えていない。

 

 というより、そんな事言ってないと、そう強く感じた。

 だって、アキトにはそんな事を言うつもりも、理由も記憶に無い。

 

 

(俺…が……僕、が……?)

 

 

 グルグルと、脳内で見た事の無い光景が駆け巡る。

 アキトは片手で瞳を抑えた。

 

 

 止めようとしても、止められない。

 この記憶は、この気持ちは。

 この意志と、この心は。

 

 

 「……っ、ああ…そうだったな…そういや、そんな事…言ったっけな……はは、俺もそろそろ歳かもな」

 

 「……」

 

 

 アキトはアスナを心配させまいと、どうにか取り繕うとする。

 だが無駄だった。アスナの中では、もうアキトという存在に疑問を持ってしまっていた。

 

 

 これ以上、踏み入ってはいけないのかもしれないというのに。

 アスナは、アキトに聞く事しか出来ない。

 

 

 こんな事しか、聞けない。

 

 

 「……アキト君、大丈夫……?」

 

 「っ…なっ、んだよ…そんなの、お前には関係……」

 

 「……」

 

 「……」

 

 

 視界がブレる。視線が揺れ動く。

 彼女の表情が、見た事の無い別の表情と重なって見えて。

 こんな記憶、アキトには覚えが無くて。

 

 

 「……アス───」

 

 

 「ゴメン二人ともっ…、私歩くの遅かったよね…!」

 

 「っ…」

 

 

 アキトがアスナの名前を呼ぼうとしたその寸前に、後ろを歩いていたフィリアが追い付いた様で、アキトはその口を噤んでしまった。

 アスナも我に返り、慌てて彼女に取り繕う。

 

 

 「う…ううん。大丈夫よ、フィリアさん」

 

 「そう…?なら良いけど……」

 

 「……行くぞ」

 

 「…! あっ…」

 

 

 アキトはアスナの質問に答える事無く、帰路へと足を運んでいった。

 アスナは思わず声を漏らし、フィリアは二人を交互に見る。

 

 

 自然と伸ばされたアスナの手は、まるでアキトに触れる為に挙げたものの様で。

 触れれば、一瞬で壊れてしまいそうな、アキトの為に伸ばした手に思えて。

 アスナはその手を下ろしてしまった。

 

 

 「……」

 

 

 その背中を追い掛ける事しか出来ない。

 彼は、何も自分に話してくれない。

 力になりたいのに、自分達はあまりにも無知過ぎて。

 

 

 優しくて、誰かの為に一生懸命になれる人で。

 キリトとは違うバトルスタイルで、顔だってそんなに似てないのに、雰囲気はキリトそのもので。

 けど、本質的な事は何も知らない。

 ただアキトをキリトと重ねて見てしまっているだけで、アキト自身の事をしっかりと見ていなくて。

 何も、何もかもを、自分は知らなくて。

 

 

 何かを抱えている筈なのに。

 アキト自身ですら分からない事が起きているのかもしれないのに。

 

 

 踏み込む事が出来なかった。

 触れてしまえば、もう、取り返しがつかない気がして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、アキトもアスナも、誰も知らない。

 誰も、気付いていない。

 

 

 きっと、気付けと言う方が無理だったのかもしれない。

 だけど、アスナだけは誰よりも感じていた筈なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼を蝕む、その何か(・・)を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ── Link 50% ───

 

 

 





次回 『猫と鼠』

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