ネタです、はい。
まあ原作とそんなに変わらないので、知っている方には暇なストーリーになるかも知れません。
少し曖昧な部分もあり、文章も軽めです(手抜きじゃないよ?)
ご了承くださいませ。
それと、最近携帯の状態が悪く、誤字が目立ちます。誤字修正機能での指摘、それでも分からなければ感想で書いていただけたらと思います!
手間をかけてしまってすいません。
ではどうぞ!
エギルの店に集まるには丁度良い時間帯である夕暮れ時。
今日この店の中にいるメンツに、新しい顔触れがあった。
「じゃあ今度、皆で買いに行こうよ!」
「良いわねー、いつにしよっか?」
「あたしはいつでも大丈夫ですよ!」
(…いつの間にあんなに仲良くなったんだろう…)
エギルの店でいつも座っているカウンターから見て右のテーブルの方向へと、アキトの視線が動く。そこにはいつものメンバーと、加えてストレアが座っていた。何やら皆で談笑している様で、男性陣からすれば目の保養間違い無しだった。
ストレアは初めて会った時から不思議な雰囲気を纏う少女で、アスナ達とのファーストコンタクトにおいても、彼女達はそのストレアの自由奔放な態度に付いて行けてなかったのを思い出す。
だが今はそれとは正反対と言っても過言ではないほどに、彼女達の仲には蟠りが存在していない様に見えた。話に花を咲かせ、皆が笑みを作る。その中心にいたのは、間違い無くストレア当人だった。
実際、アキトが知らない所でアスナ達は何度かストレアとの邂逅を果たしていたらしく、今ではすっかりグループの一員と化しており、何ら違和感は無い。初めからそこにいた気にさえなってしまっている。彼女達も、無名の割に高い隠蔽スキルに舌を巻いており、神出鬼没のストレアに毎度毎度驚かされていたらしい。だが、彼女本人には悪気は無く、とても憎めない。それどころか彼女の性格は、キリトの死という大きな悲しみを背負った彼らにはとても温かみのあるものに思えただろう。
そんなストレア自身にも秘密は多い。先程挙げた隠蔽スキルの高さ。攻略組であるアスナ達でさえ気付かないレベルという事は、彼女らに匹敵する実力者という事でもある。圧倒的に女性プレイヤーが少ないこのSAOなら、否応無しに有名になる筈なのだ。
実際、ここにいる女性陣達は、76層以降のプレイヤーなら知らない者はいないのでは無いだろうか。
アスナは言わずもがな、76層以前においても攻略組の紅一点として活躍した時の名声が今でも浸透している。
シリカは極めて珍しいフェザーリドラを初めてテイムしたビーストテイマーだ。そもそも、ビーストテイマーという時点で既に珍しい為、その上女性とあれば、名が知れ渡るのも自明の理だった。
リズベットも、この世界じゃ珍しい女性鍛冶屋、それでいてマスタースミス(元)だったのだ。スキルの鍛え直しをしている今はそれほどではないらしいが、リズベットの武器を求めて店に足を運んだ者も少なく無いだろう。
リーファは76層到達後間もなくして、フィールドの森に現れる妖精キャラとして巷で噂になっていた。特徴的な耳や背中の羽の事もあり、現実世界の容姿だとは思えないのも仕方無い。
シノンはアークソフィアの転移門真上から、見た事も無い登場の仕方をしたという事で、当時は物凄い人集りだったらしいが、今では別の事が原因で注目を集めている。
それは言うまでもなく、ここに来て新しく発見されたエクストラスキル《射撃》である。出現方法は不明で、彼女以外会得した者はいない。現状、ユニークスキルとして扱われ、この数日シノンは街を歩く度に注目されている。といっても、噂もあまり浸透している訳では無いので、アスナ程有名という訳でもない。
因みに《射撃》スキルの事は、シノンと訓練をしている所を、買い物の為に歩いていたアスナ達とばったり鉢合わせしてしまった事でなし崩し的にバレた。リズベットは見た事も無い武器に目を光らせており、アスナやシリカ、リーファもシノンの持っている弓に興味津々だった。
ユイだけは何故か不安そうにこちらを見上げていたが。
この様に、女性が実力者であれば、それだけで有名足り得るのだ。だからこそ、ストレアという存在が異質に思えてくる。考え過ぎなのかもしれないが、不安要素は少ない方が良い。
「……」
だが、アキトにはもう一人、気になっているプレイヤーがいた。
そのプレイヤーの行動や様子を見て、なんとなくではあるが、違和感を覚えていたのだ。
アキトはそのプレイヤーに視線を動かそうと、手元のカップに戻していた視線を今一度動かし────
いつの間にか隣りに座っていたユイのところで、その視線は固まった。
一瞬だけ驚いたが、すぐにその困惑も霧散した。ユイはこちらではなく、別のテーブルを眺めていたのだ。アキトはユイの見つめる先に顔を向けると、そこにはプレイヤーが数人集まって、トランプゲームで賭け事をしていた。
ユイは興味があるのか、思いの外深く見据えている。アキトは彼らのやっているゲームを遠目で確認すると、賭け事には向いているゲームである事に納得した。
「…ポーカーか」
「ポーカー……?」
「トランプゲームの一つでな、5枚のカードの組み合わせで役を作り、得点を競うゲームなんだ」
ユイの疑問に、カウンターの向こうのエギルが答える。アキトは彼らから視線を外し、飲んでいたココアのカップを手元で遊ばせる。
「アキトさんはやった事ありますか?」
「そう…だな…、うん。あるよ」
まだ父親が生きていた頃、今の家族達と集まって遊んだ事があった。今はもう取り戻せる筈も無い、懐かしさに浸る事も無い、浅いものへと化している気がしているが。
エギルはユイの反応を見ると、アキトに向かって笑みを作る。
「ポーカーをやるって言うんなら、付き合ってやっても良いぜ」
「別に良い、興味無いし」
「ユイちゃんにどんなゲームなのか見せるのも良いかもしれないぜ」
「はい、私気になります!」
「……」
そのセリフ、ユイ自身の髪型も相成って本人にしか見えないんだが(震え声)。
エギルはいつの間にか取り出したトランプを、アキトの前にポンと置いた。エギルは得意気にアキトを見下ろし、ユイも期待の眼差しを向けていた。
すると、それを聞き付けたのか、ストレアがこちらに身を乗り出して来ていた。彼女達の会話は一区切り付いた様で、何ともまあタイミングの良い事だ。
「なになに、こっちでもポーカーやるの?だったらアタシも入れて!」
「おお、構わないぞ。人数は多い方が良いからな」
「ハイハイ!あたしもやるわ!」
ストレアの後ろから、リズベットが手を挙げてそう答える。皆もポーカーをしていた彼らに当てられたのか、こっちでポーカーをやるという事に興味大ありといった具合だった。
「私も参加します!」
「あたしもやります!」
「きゅるるぅ♪」
リーファやシリカも続いて手を挙げる。その隣りで、シノンやアスナも挙手を並べた。SAOは娯楽が少ない。人が多ければ、それだけで楽しめるだろう。
逆にアキトは、完全に逃げるタイミングを失って、バツが悪そうな顔をする。そんな彼の事など考える筈も無く、ストレアが畳み掛ける。
「ねぇねぇ、勝ったら何が貰えるの?賞品は?」
「そういや考えて無かったな……店のメニューから何か一品奢るってのはどうだ?」
「そんなの全然嬉しくないよー!」
「酷い言われ様だな……」
ストレアの悪意の無いであろう言葉に、エギルはガックリと肩を落とす。普通ならお金を賭けるのだが、後々揉め事になるものは避けるべきでもある。何より、ユイが見てる所でそんな賭博行為をする事も、道徳的に考えて良くない。
「じゃあよ、勝った奴は負けた奴に好きな事を命令出来るってのはどうよ?」
その声のする方へと、全員が顔を向ける。そこには腕が天高々と聳え立つ、クラインの姿があった。どうやら参加の意気込みは高い様だが、その女に節操の無い見た目と性格が、この場の女性陣を警戒させていた。
例によって、リズベットがまた呆れた様に呟いた。
「またそれ?アンタってホントそういう所ブレないわね…」
「前回のピザでオレ様は学習したかんな!もう今回という今回はガチでやる!やってやる!」
「…まだ賞品がそれだとは決まってないんですけど…」
クラインの潔さに、リーファが苦笑いを浮かべる。アスナも同様の笑みを浮かべた後、アキトの隣りに座るユイの方へと赴き、その瞳を見つめた。
「ねぇユイちゃん。ユイちゃんだったら、ご褒美は何が欲しい?」
「ご褒美、ですか?」
アスナのその考えを察したのか、クライン以外はその行為を見て納得し始めた。確かに、先入観が少ない子どもに決めて貰うのが一番良いかもしれない。それに、優しいユイが決めた賞品なら、どんなものでもきっと皆が楽しめるものになるだろう。
だがユイは、自分が欲しいご褒美を中々口に出さない。両手を胸の前でモジモジと絡ませながら、その顔はほんのり赤く染まっている。
そしてチラチラと、とある一点、否、とある一人に視線が動く。
「え、えっと…」
───嫌な予感がした。
(……え、待って……違うよね?……俺の事見てる訳、じゃ、無いよね…?)
そう心の中で誤魔化しても、目の前の事象は変わらない。ユイは明らかに、アキトの方を見ていた。その頬は段々と赤みが増しており、何を言おうとしているのか、なんとなく想像出来る。
具体的には分からないが、これはアレだ。きっと、アキトのこの場から離脱する術を断ってしまう様な、そんな願いの様な気がする。
アキトはその席から離れようと、ゆっくりと椅子から腰を上げた。
だが、もう遅かった。ユイは勇気を振り絞って、自身の気持ちを打ち明けたのだった。
「あ…あ、アキトさんを一日独り占め出来たら、とっても嬉しいです!!」
ピシィッ──と空気が割れる様な、何も無い空間に亀裂が入った音が聞こえた気がした。文字通り、この場にいる全員が固まった。
彼女達は皆、その驚きの発言をしたユイとアキトを交互に見て、わなわなと唇を震わせていた。アスナに関しては手に持っていたマグカップを地面へと落とし割ってしまう始末。
先入観どころか、私情挟みまくりのユイの望むご褒美。彼らは驚きと困惑と、それでいて沸々と煮え滾る何かを感じた。
当のアキト本人も、そんな直接的な願いだとは思わなかった為、その体が石の様に固まっていた。メデューサの能力以上に衝撃が大き過ぎたのだ。
そんな中、漸くアスナが口を開いた。放たれた言葉には、怒気が含まれているように聞こえるのは、きっと気の所為じゃない。
「…アキト君…ちょっと話があるんだけど…?」
「い、いや待て、これは違うだろ…」
アキトも珍しく動揺を隠せない。取り繕おうにも、リズベットやクラインがその肩をガッと掴んで引き寄せる。顔を近付けて、ユイに聞こえない様に小声で喋り出す。
「ちょっとちょっと…アンタ随分好かれてんじゃない、惚れられちゃってんじゃないの~?」
「お前オレには条例だの犯罪だの言っておいて人の事言えねえじゃねえか!」
「そんな訳無いだろ…」
普段の嫌われキャラは何処へ行ったのだろうか。アキトも内心かなり困惑しており、正直それどころじゃない。まさかそう来るとは思ってなかった。
斯く言うリズベット達も、冷やかしてはいるものの、このユイの反応は意外だった。今まで確かに、アキトとの距離を縮める為にユイに協力してもらっていた事は否めない。だが、ユイのアキトへの思慕がここまでだと、一体誰が想像出来るだろうか。
最早冷やかすべきなのか危ぶむべきなのかさえ分からなくなってきた。ユイ本人は恥ずかしかったのか、その発言をしてからずっと、赤くなった顔を両手で覆っていた。
あまりにも予想外過ぎるユイの乙女な反応を見て、アキトとストレア以外のメンバー全てが共通の答えに行き着いていた。
『全て、アキトが悪い』と。
彼らは一斉にアキトを見つめる。
「な、なんだよお前ら…」
彼ら、特に女性陣達からの視線が熱い。決して良い意味では無い。勿論冷やかしもあるが、その瞳からはロリコンだのケダモノだの変態だのと、不名誉過ぎるニックネームを頂戴した気がした。特に、アスナとシノンからはそれが強い。クラインやエギルも、その顔を破顔させ、にんまりとしていた。ウザイ。
慈悲は無い、多勢に無勢。
おいおいなんだよこの数は、これじゃあミーの負けじゃないか…。
「良いじゃん良いじゃん!賞品はそれに決定ね!」
「おいふざけんな」
ストレアが出してくれたのは助け舟でも無ければ泥舟ですらない。このまま賞品がアキト独占権になってしまう。逃げるタイミングも完全に失い、最早ゲーム参加の流れだった。
「…まあ、単純にお金賭けるよりかは面白いわよね」
「そうですね、アキトさんを一日連れ回せるって事ですもんね」
「……」
意外にも賞品にノリノリな彼女達。あくまで遊びの中の賞品なので、あまり深くは考えていないのかもしれないが。
独占権だの何だのとくだらないの極みなのだが、その賞品が自分自身だとあれば話は別。アキトは観念した様に席につき、円テーブルの一席に腰掛け、カウンターの向こうにいるエギルを睨み付けた。彼女等も皆円テーブルを囲うように座り、ポーカーの流れに。
ユイは漸く火照りが冷めたのか、アスナと隣りに立った。途中アキトと目が合うと、サッと目を逸らし、アスナの方へと視線を移していた。
その中、ディーラーを務めるらしいエギルが、アキトのシノンの間に立ち、コホンと咳払いをする。
「ポーカーって話だったが、人数が多いからな。ちょっと特殊なルールを使おう」
「特殊なルール?」
リーファが首を傾げるのを横目にした後、エギルは周りを見渡して説明を始めた。
「カジノでよくプレイされているテキサス・ホールデムを元にしたポーカーをするのが良いだろう」
「…テキサス…ホールデム?」
「プレイヤーには2枚のカードが配られる。そして場には5枚のカード。自分の手札との合計7枚で、一番強い役を作るんだ。手持ちのチップを使い切れば脱落、一番多く稼いだ奴が優勝だ」
「成程…」
各々が知らない単語に質問を入れながら、頭の中で整理していく。その間、アキトは配られた形だけのチップとカードを見つめていた。
トランプなんてものがこの世界にある事なんて知らなかったな、と意外に思う反面で、もっと早く見付けられていたのなら、と半ば後悔の念を抱いた。
「これ以上やりたくなかったらFold、受けて立つ時はCall、賭け金を上乗せしたい時はRaise!と叫ぶんだぞ。そうだな……トランプは2セット使うか」
(何故こんな事に…)
未だそこに食いつくアキト。そんな中、各々が今から始まるゲームに楽しみを抱き始めていた。
ユイは今から始まる自分にとっての未知なるゲームに心躍らせ、ピナもそんなユイの頭上で主人の事を見つめていた。
「…ルールは分かったな?じゃあ、ゲームを始めよう」
●○●○
「…フォールド」
「私もフォールド」
たかがポーカーでこの緊張感は何なのだろうと、周りのプレイヤーは思った事だろう。まるでボス戦の様な雰囲気が漂う。
エギルはテキサス・ホールデムだと言ったが、実際、ポーカーを初めてやる人にさせるには難しいところもあり、純粋なテキサス・ホールデムではないのだが、それでもこの張り詰めた雰囲気が霧散する様子も無い。
時計回りに勝負するかを決めていき、現在シノンまで全員フォールド、勝負を降りたのだ。
まあ最初だからというのもあり、様子見の意味も兼ねていただろう。だがここで、生粋の馬鹿が現れたと、後になってアキトは思ったという。
「全賭けのオールイン!」
「は?」
リズベットのいきなりの発言に、アキトは不覚にも声を出してしまう。周りも予想外過ぎたのか目を丸くする。まさか開始序盤からチップ全賭けなどするとは思えない。
だが逆に考えて、序盤から勝負を仕掛けてきたという事は、それだけ良い役が出来た事と同義だった。リズベットは両手を重ねて懇願の構えを取っていた。
「これで勝てなかったら脱落なんだから、何とかなってよー…!」
リズベットが全賭けする程の役ならば、勝負をするの憚られる行為。だが、その勝負に乗ったプレイヤーがたった一人。
「コール!」
「コール!?」
「勿論だよ。ふっふっふっ」
ストレアのコール発言に、リズベットは目を見開く。現時点ではまだチップの量は均等、つまりチップ全賭けに対して、チップ全賭けで挑むという事だ。そのストレアの気合いに、周りのメンツも多少だが押され始める。
エギルは周りを見渡し、もう他に勝負する者がいない事を確認すると、ストレアとリズベットを交互に見やった。
「Showdown、それじゃあ手札を見せてくれ」
焦った表情のリズベットに対して、自信満々に笑みを作るストレア。互いに自身の役を開示する。
その結果────
「じゃじゃーん!」
「ストレート!?」
リズベットはストレアの持ち役を見てさらに驚きを重ねる事になった。ストレアは喜びを控えめに抑え、リズベットに諭した。
「あはは、残念でした♪Kのスリーカードも強いんだけどね~。でも勝ちを確信しちゃダメだよ?何事にも失敗はあるでしょ?」
「く、悔しー!」
リズベットは本当に悔しそうに歯噛みしていた。そう言うストレアは、初めから勝ちを確信していた様に見えたけどな、と思うアキトだった。
リズベットは序盤にして全賭けというアホをやらかし早くも脱落。嚙ませ犬も良いところだった。
「うーん…ピナ、どうしたら良いと思う?」
「きゅる…」
「思い切ってレイズにするべきかな?普通にコール?」
暫くすると、今度はシリカが手持ちの役と周りの反応を見て、勝負するかどうか迷っていた。賭け金の上乗せをしようかどうか迷っている様だった。現在ベットされている金額ならコールして負けたとしてもまだ戦えるが、勝負に出てレイズした結果負けてしまったら、シリカは脱落という事になってしまう。
シリカはウンウンと首を捻り、ピナと相談を重ねる。
「うーん…どうしよう、順番が来ちゃうよ~…」
「次、シリカの番よ」
「は、はいっ、えーと……レイズで!」
「……よし、全員終わったな。じゃあ手札を見せてくれ」
シリカは悩んだ末に、賭け金の上乗せを宣言した。それを確認し、エギルが指示を出す。現在勝負に出ているプレイヤー達が各々の役を見せ合い、結果、シリカの負けが決まった瞬間だった。
「ああっ……やっぱりダメだったぁ……負けちゃった……」
「きゅる…」
「しょんぼりしないで、ピナのせいじゃないよ。負けちゃったのは残念だけど、あたしは楽しかったよ」
「きゅるる!」
ピナはその言葉で元気を取り戻し、シリカに擦り寄る。彼らの絆も深まった事だろう。
アキトからすれば、何故みんなこのゲームをガチでやってガチで悔しがっているのか不明であったが。自分の独占権で何させようとしているのだろうと。
そして、勝負はまだ続く。各々のチップが減っていく中、今回の勝負ではみんな勝負に消極的で、誰も賭けていない状態だった。そのまま順番が回って来る中、リーファは自身の役と睨めっこをかましていた。
「うーん…チップも減って来たし、今回はみんな消極的だし……思い切って勝負に出るかな!」
リーファは自身の持っていたチップをテーブルの中心へと持っていく。
「ベット!」
「コール」
「えっ!?」
リーファの苦渋の選択であるベットに、レイズ即答を宣言したのは、今回の賞品枠であるアキト本人だった。リーファも予想してなかったらしく、その目は驚愕に満ちている。
シノンはそんなアキトを見て挑戦的に笑う。
「あら、さっきまでフォールドばかりだったのに、良い役でも出来たのかしら」
「……」
(……読めないわね)
アキトはシノンの言葉にも顔を変える事は無い、完璧なポーカーフェイスを見せつけてくれた。表情筋死んでるんじゃないかと思う程の無表情。いや、集中力の賜物かもしれない。
実際は内心冷や冷やである事を周りは知らない。強い役ではあるが、もしかしてという事もある。リーファはこんな妖精の様な可愛らしい見た目をしていて、実は超高校級のギャンブラーである可能性だって否めない。
「Showdown」
エギルの発音の良い合図に、アキトとリーファの役が開示される。彼らもアキトの役が気になったのか、身を前のめりにしてカードを覗く。
リーファがツーペアであるのに対して、アキトの5枚のカードの内の4枚は、全てQのカードだった。彼らは全員その目を見開いた。
「フォ、フォーカード!?あーん負けたー!」
「な、なんて幸運…!」
「オメー、スゲェガチじゃねぇか…」
フォーカード。同じ数字のカード4枚で出来る役であり、強さのランク的にはかなり高い。二人の戦績は圧倒的な差となって表れた。リーファは驚きで開いた口が塞がらない。
因みに周りはアキトの勝負所の良さと大人気の無さに若干引いていた。
「…賞品にされてんだから当たり前だろ…」
「ううう……くやしい……」
脱落が決定したリーファは落ち込む様に肩を落とした。その横で、アキトは安堵の息を一息吐いていた。
更に時間が経つと、今度はクラインの顔がニヤけた。
手持ちのカードとアキトを交互に見てその表情を緩ませている。アキトはそれを見て軽く引いていた。キモい。
「ふっふっふっ……来たぜ来たぜ、俺の所にも運が巡って来たぜ!勝負だアキト!オールイン!」
クラインは手持ちのチップ全てをテーブルの中央へと持っていく。余程自身があるのだろうかと、アキトは考える。だが勝負と言われて降りる訳にもいかない。
最悪手持ちの役も悪くない。周りも皆フォールドしており現在ベットしているのはクラインのみ。
「……」
「オレの手札は最強だ、アキトに勝ち目はねぇぞ。降りるなら今のうち──」
「レイズ」
「なんで降りねぇんだよー!?」
「は?い、いやお前が勝負だって…」
最初と言ってる事に齟齬がある。クラインは慌ててこちらを凝視していた。アキトは意味不明過ぎるクラインに首を傾げるが、エギルの合図で役を開いて見れば、成程、クラインの威勢はブラフだったのだと理解した。それにしたって4のワンペアでオールインとか、リズベットよりも酷い。
因みにアキトはAのスリーカード。圧倒的勝利だった。クラインは簡単に脱落の道辿るのだった。
「……くっそーーー!お前にまで良いところを全部持っていかれるのかよぉーーー!!」
「…誰と比較してんだよ」
そのクラインの心の叫びを軽くいなし、次のゲームへと進んでいった。
「……」
(…何その顔)
既に勝負を降りたアキトは、チラリとアスナの顔を見つめる。
鋭い視線で手持ちのカードを見つめるアスナ。彼女からは、真剣そのものを感じる。この勝負にどれだけ本気なのかが理解出来た。
いや、やっぱり理解出来ない。何故賞品がアキトであるこのポーカーでそれ程までに真剣味を帯びた試合運びをしているのだろうか。
(なんなの…アスナ、俺に何させる気なのさ……)
それが予想出来ない分余計に怖い。今まで自分が彼女にやってきた事を考えると、一日中扱き使われる、とかそんな内容だろうか。絶対に嫌だ。そもそも、一日中アスナと一緒だなんて考えただけで鳥肌が立つ。
「…オールインよ。うん、間違い無い」
「コール」
「なっ…!?」
考えに考え抜いたであろうアスナのオールイン、全賭けというだけで彼女の役がそれなりに強いであろう事を想像させるこの状況で、シノンは怯える事無くコールを宣言した。
アスナはその間髪入れない彼女の即答に目を丸くする。シノンの口元には自信の表れであろう笑みが零れていた。
結果、アスナがストレートなのに対し、シノンはフラッシュ、僅差でシノンの勝利だった。
「クラブのフラッシュ。私の勝ちね」
「そ、そんな……」
残念そうに笑うアスナを横目に、今日何度目か分からない安堵の息を吐く。自分が賞品である上にこの場にいる全員が敵なのだ。そのプレッシャーは大きい。遊びだけど。
ストレアはそんなアキトとシノンを見て笑顔になる。
「やったー!これで残るはアタシとアキトとシノンの3人!とっとと優勝を決めちゃお!」
「……負けるつもりは無いわ」
シノンとストレアは互いに火花を散らしており、アキトは怠そうな表情を見せる。既に脱落したメンバーは、そんな彼らを外側から眺めていた。
「あーあ、アキトを扱き使うチャンスだったのにな~…」
「そんなアキトさん、見てみたいですよね」
「が、頑張って下さいっ、シノンさん!」
「おい……」
言いたい放題の外野を他所に、回収したカードを切ったエギルが、改めて口を開いた。
「……カードを配るぞ」
エギルはストレア、アキト、シノンの順番に切ったカードを配っていく。段々とテーブルに溜まっていくカードを、アキトは何も言わず、静かに見つめる。周りのメンバーも固唾を呑んでその行く末を見守る。いつの間にか、見知らぬ顔のプレイヤー、先程までポーカーを遊んでいた者達まで集まって大所帯になっていた。
────ふと、思う。
(……どうして、こんな事……)
何故ゲームに参加しているのだろうかと。思えば最初から、拒絶の意志が弱かった様な気がする。いつもなら、例え賞品に自分がなっていたとしても、その偽悪の態度で無視出来ていた筈なのに。ポーカーなんて娯楽、『興味無い』と拒否出来た筈なのに。いつもの様に、ユイに懇願された訳でも無いのに。
今はこうして、キリトの仲間達とテーブルを囲んでいて。
「……おおーっ!これは最強のカードと言わざるを得ないよ!」
周りに流され、ゲームに参加して、そして相手の思考を読もうなんて事を考える程に本気になっていて。
いつの間にか、ゲームの勝負の一つ一つで緊張したり、安堵したりする自分自身がそこに居て。
「えーっと、どうしよっかなぁ……うん、そうだな、アタシはここでオールイン!」
ずっと失くしてた、『楽しい』という感覚が、フィリアの時にも感じた高揚が、胸の内から湧き立つ様で。
「コール」
キリトの仲間、協力関係、赤の他人、顔見知り、そんな言葉で片付けるべき相手なのに。自分の仲間じゃ、ないというのに。
彼らのそんな笑顔を見て、思い出してしまう。自分にとっての全て、世界だった、かつての仲間達を。
ずっと自分は、こんな笑顔を守りたかったのだと。
(…居心地の良さを、感じてしまってるんだろうか────)
アキトは自分の手元のカードを見て、そして目を見開く。
持っている7枚のカードの組み合わせで、今まで以上の役が出来る。先程のフォーカードよりも強力な組み合わせだ。
────これなら、勝てる。
普段なら、きっと拒絶する。近付かれれば、離れようとする。ずっと過去に縋って生きてきて、それなのに過去の自分を否定する様な自分だったら。
アキトはストレアとシノン、そして、周りのメンバーの表情を見る。皆が自分の答えを待っている。皆が自分を見ている。
「っ…」
自分の仲間は、大切だったものは、かつての仲間だけだと、そう思った。アスナ達に近付けば、彼らが本当に過去のものになってしまう様な気がしていた。記憶が薄れていってしまう様な気がした。自分だけがのうのうと生きて、楽しんで、そんなのは罪だと思っていた。
だから、独りは怖かったけど、一人を選んだ。
だけど、かつての仲間が。キリトが、大切にしていたものを。守りたいと思うこの気持ちは、大切だという事と同義なのではないだろうか。
欲しい世界があった。いるべき、いたいと思える世界が出来た。
ずっと欲しかった、揺るがないもの。壊れる事のない明日が欲しかった。
望んでくれたみんなの為に、望まれる自分になりたかった。
────自分は、また失ってしまうのだろうか。今度こそ、守る事が出来るだろうか。
「……コールだ」
アキトは、震える声でそう告げた。
それでも、この勝負に本気だという事を感じさせる、熱の篭ったその一言に、周りのメンバーは温かさを感じて、自然と微笑んだ。
そんなアキトを見て、嬉しそうに笑うエギルは、最後の勝負になるであろうこの一戦の幕を開ける。
「Showdown」
その合図と共に、ストレアがハイテンションで役をテーブルに開いた。
「じゃじゃーん!Kのスリーカードだよ!」
ギャラリーから感嘆の声が漏れる。ストレアは勝ちを確信していた。だが、勝ちを確信してはいけないと、そう言ったのはストレア本人だ。
アキトは手元の5枚のカードを、ストレアの役と対面する様に差し出した。
その役の強さに、周りは言葉を失った。
全て同じマークで、順番に並ぶ数字達。
「ストレートフラッシュ……俺の勝ちだ」
『『『おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』』』
一瞬で歓声が上がる。アキトの出したストレートフラッシュという役が出る確率はかなりのものだ。人数の問題によりトランプを2セット使っているにしても、その確率は依然低い。
だからこそ、この役の強さがどれ程のものかは分かるだろう。アスナ達も目を丸くしており、アキトと役を交互に見ていた。
「ストレートフラッシュ!? そんな強い手札が最後の勝負に入るぉ!?」
自信があっただけに、負けとあれば落ち込みもするだろう、ストレアは本当に残念そうな顔をしていた。
「はぁ…やっぱりアキトは凄いや。負けるしなかったんだけどなぁ……」
「…いや、それにしたってアンタ、ストレートフラッシュって…」
「かなりの確率…ですよね…」
リズベットとリーファは途切れ途切れでそう話す。
ユイはアキトの事を見て、その瞳を輝かせていた。
「し…シノのんは…?」
アスナはハッと気付いた様にシノンの方へと視線を向ける。
いつの間に『シノのん』なんてニックネームで呼ぶ様になったかはさておき、周りは未だに役を提示していないシノンへと注目した。
シノンは、アキトの出したストレートフラッシュを見て、自身の役に視線を戻す。ギャラリーは一気に静かになり、その勝敗の行く末を見守る。
だが正直、ストレートフラッシュが出てしまえば勝つのは不可能だろうと、誰もがそう思った。そんな強い役の前で自分の弱い役を見せるのは躊躇われる。
シノンはふう、溜め息を吐くと、持っていた5枚のカードをテーブルに開示した。みんなそのカードに視線を動かす。
────そして、全員が目を疑った。
「……残念だけど────」
その5枚のカードは、全てスペード。数字は下から順番に、10、J、Q、K、A。
「───私の勝ちね」
────最強の、ロイヤルストレートフラッシュ。
『『『おおおおぉぉおおぉおおお!!?』』』
『『『はあああぁぁぁあぁあぁあ!!?』』』
驚愕と困惑で、その店は過去最大級に喧騒逞しい。自分達がやる場合では決して見た事が無いであろう、ファイブカードを除く、ポーカー史上最強の役。
これにはアキトの組み合わせと重ねて驚いても不思議では無い。なんだ、このハイレベルなポーカーは、とテンションが高まらずには居られない。
そんな中、固まるのはいつものメンバー達。絶句は勿論、シノンとアキト、そしてそれぞれの役を見て開いた口が塞がらない。
当人であるアキトも、彼女とその役を交互に見て、苦笑せずには居られなかった。
どうやら、超高校級のギャンブラーはシノンだったらしい。
「っ……マジかよ……」
「勝ちを確信しちゃダメだって、ストレアが言ってたでしょ?」
「いやお前のそれ最強だから…」
そう呟くアキトに、シノンは本当に楽しそうに笑った。驚いていた彼らも、ハッと我に返ったのか、笑顔でシノンに近付いていった。
「おめでとうシノン!凄いじゃない!」
「やりましたね、シノンさんっ!」
「おめでとうございます!」
「……ありがと」
今何をしても負け犬の遠吠えにしか聞こえない為に、何も言えないアキト。今後いつの日かに、シノンに振り回される一日があると思うと、今から嫌になってくる。
最初から拒否していれば、知らぬ存ぜぬで通せたのだが、勝負に参加してしまったのは自分自身で、自業自得だった。
目の前の、楽しそうな彼らを見ると、そんな野暮な事も言えないな、心の中で笑った。どれだけ屁理屈を重ねても、自分自身を偽っても、きっと認めるしかなかったから。
(……楽し、かった…って……)
久しく忘れていた、懐かしい感情を。
「…ねぇ」
「っ……な、何だよ……」
突然横から声を掛けられて、見上げてみれば、自分を負かした少女が立っていた。シノンは未だ座っているアキトを見下ろすと、フッと笑みを浮かべた。
「今度、近い内に付き合って貰うから。私と、ユイちゃんと、三人で」
「は…ユイ?な、何で……」
「そもそも、アンタの独り占めを要求したのはあの子なのよ?だったら、ユイちゃんが一緒なのは当たり前でしょ。……それとも、二人だけの方が良かった……?」
「い、いや、そんな事は無い。三人で、三人が良い…!」
「……いつに無く必死なのが腹立つけど……じゃあ、よろしくね」
シノンはそう言うと背中を向け、仲間達とハイタッチを交わす。見知らぬプレイヤー達も、そんな彼らに当てられたのか、ポーカーを始めようとしている連中も増えてきた。
アキトは溜め息を吐くと、視界に映る全てがプレイヤーの笑顔で溢れているこの光景を見て、その瞳を輝かせていた。
こんな光景を、ずっと守りたかった。これからも、ずっと守っていきたいと、そう思えるこの景色を、目に焼き付けて置くために。
ずっと孤独を駆けていた黒い猫。
今はまだ、周りを拒絶し、その牙を向く。だけど、『誓い』と『約束』を守る為に、今一度思い出そう。
自分がここにいる、ここに来た目的を。
きっと、強くなる。必ず、クリアする。
いつか、みんなに誇れる自分になる為に。
目の前の誰かを失わない為に、俺は強くなる。
「『今度こそ────』」
アキトは再びそう誓い、その拳を握り締めた。
彼らによって、段々と溶けていく氷の心に気付かぬまま。
負けた彼らの、アキト独占権でしたい事。
リズベット : 《ホロウ・エリア》に連れて行って貰い、フィリアを紹介してもらうついでに、珍しい鉱石の採掘を手伝って貰う。
シリカ : ピナの強化素材集めに付き合って欲しい。普段はリズベットやリーファにお願いしている。
リーファ : レベリングと、必需品の買い物。
アスナ : ユイを誑かした疑惑で尋問(冗談)。ホロウ・エリアの自由探索。
ストレア : デート。
クライン : ホロウ・エリアでフィリアと三人でまた攻略をしたい。
ボツタイトル: 『ドキッ!美少女だらけのポーカーゲーム!』