今回は寡黙なアキト君。アスナとフィリアがメインです。
そして、ホロウ・フラグメント編が進むます!
それでは、どうぞ!
《ハステアゲート浮遊遺跡前広場》
その名の通り、何処までも続く道全てが、空中に浮遊しているこのエリアは、《セルベンディスの樹海》エリアのボスを倒した際に、開放する条件が揃った状態で待機されていた。
アキトの持っている、《虚光の燈る首飾り》の光、エリアボスを倒した際に現れたその光が、システム的に封じられていたその光の壁を消し去ったのだ。
そしてそれと同時に、首飾りの光は消えてしまった。
浮遊遺跡という事もあって、目の前に広がるのは、幾つもの小さな島が列を作り、一つの道となって続いていた。そこから見下ろしても、白い雲しか見えない。どれだけ高いのかを感じてしまう。
その浮島の先には、その名の通り遺跡の様な雰囲気を漂わせる建築物に、道に、柱があった。その道は十字路になって、あらゆる所に繋がっており、その中には洞窟に続く様なものもあった。
見渡せば視界の中で完結してしまうそのエリアは、樹海の時の様な広さは感じられず、案外早く攻略出来てしまうかもしれないと、そう感じてしまう。
勿論、洞窟の先にも何かがあると思うし、あるならばその限りではない。
そして、そのエリアからなら何処にいても見えるであろう巨大な塔。
湾曲した柱が反り返り、空へと向かっているかの様に、何本もその中心の巨大な塔に沿うようにまとわりついている。巨大な塔の頂きは、目で捉える事が出来るも、まるで天まで届くんじゃないのかと思わせる。
今までの樹海エリアとはまるで違う風景に、アキト、アスナ、フィリアの3人はそれぞれ息を呑む。新たなエリアに足を踏み入れるその心情は、期待か、不安か。
「随分高い塔ね……頂上は遥か上空……」
「あの塔は何の為に存在しているのかな。昇るだけで大変そう…」
「十字架を象ったオブジェクトも気になるわね…これはお宝の匂いがするわ」
「浮遊遺跡ってくらいだから、その可能性もあるかもね」
アキトの後ろで、フィリアとアスナは会話を弾ませていた。
彼らにとっては、未知である事に関しては期待が勝った様だった。特にアスナは、《ホロウ・エリア》に来るのは初めてな為に、アキトも多少なりとも気にかけていた。しかしアスナは高難易度である事は自覚しているし、彼女自身実力も高いから余り心配はしていないが。
アキトは彼女達の会話を背に、浮遊遺跡へと歩き出した。それを合図に、二人もその後に続く。
「……」
フィリアはふと、アキトの事をチラリと見る。その黒い剣を携えた剣士の背中は、とても寂しいものに見えた。少しの衝撃で崩れ去ってしまうのではないか、そう感じてしまう程に。
前回、《ホロウ・エリア》でのエリアボスとの戦闘を思い出す。空中で織り成すソードスキルの連撃は、確かに強力なものだった。あれだけの強さを傍から見れば、頼もしいものにしか見えない。だけど、あの中には狂気染みた何かが混在している様にも見えた。モンスターを見るその目が、その笑みが、フィリアの心を不安で襲っていた。
そして、ボス戦が終わった後の、PK事件。あの時の彼は、打って変わって何かに怯えた様な様子を見せていた。そこから紡がれた彼の言葉には、殺されたプレイヤーを救えなかった自責の念が見て取れた。
明らかに違う、アキトの様子。
一体────
(どれが、本当のアキトなの───?)
「フィリアさん?」
「っ…え…な、何?」
ふとアスナに声をかけられて、その体が固くなる。アスナがこちらを見ていた事に気付いて慌てふためく。
アキトを見ていた事に気付かれただろうか。フィリアの心臓が高鳴った。
「どうしたの?何か、ボーッとしてたけど…」
「えっと、その…アキトにこんな美人な仲間がいるなんて思わなかったから、ちょっと驚いて…」
上手く誤魔化せたかどうか、フィリアは困惑しながらそう答える。実際、アキトがこんな綺麗な女の子と仲間だった事には驚いた。
クラインは男だったからまだ分からなくはないが、アスナ程の美人だと、フィリアも畏まってしまう。
咄嗟に思いついたにしては良い誤魔化し方だったかもしれない。そう思ってアスナを見た。
だが彼女は、謙遜する事も胸を張る事も無く、小さな笑みを浮かべるだけだった。
「…仲間だと思ってくれてるかな…」
「え…」
アスナはそう言って、彼の背中を見つめた。距離が少し離れている為、こちらの会話は聞こえていない。目の前の浮遊遺跡エリアの風景に混じる彼の背中を見て、フッと息が漏れる。
フィリアは彼女のその予想外の答えに目を丸くした。
「私も…私達もフィリアさんと同じ。つい最近なんだ、アキト君と初めて会ったの」
初めて会った時の事は、今でも鮮明に覚えている。なにせ、自身の想い人であるキリトと、雰囲気が酷似していたのだから。
彼のその攻略組に反旗を翻したかの様な口調、それに見合う実力を持っていて。その全てがキリトと重なって。そう感じさせる彼と、そう感じてしまう自分がとても嫌だった。
だけど、彼が本当はとても優しい事は分かっていた。彼はキリトそっくりだったから。雰囲気ではない。その行動が。
彼の攻略組に対しての行動は、停滞していた攻略を進める為に、彼らにとっての共通の敵を作る事で、競走への発破をかけるものだった。実際その目論見は成功したと言えるのかもしれない。攻略組はアキトが来てからというもの、活気が戻りつつあったからだ。
彼らもアキトの存在自体に嫌気がさしていたのは事実だろう。だけど、その実力は認めていた。
血盟騎士団に一人、アスナと同じくらいの年齢の壁役のプレイヤーがいる。キリトとヒースクリフが不在となった初めての攻略で、彼はアキトの実力に物を言わせる態度に怯えて縮こまっていた。けれど、ボス戦における命の危機を二度も助けて貰い、今では感謝しかないと、アキトを未だ良く思っていない集団に言っていた事を思い出す。
会議に出ていないアキトは、知りもしないだろう。
無論アスナもその壁役の彼同様に、アキトの事を認めていた。本当は優しい少年なんだと、そう確信していた。
そう思ってしまうのは、きっと彼にキリトを見てしまったから。違うと分かっている。駄目だと感じている。それでも頭から離れない。命を投げ出そうとしていた愚かな自分を、何度も何度も助けてくれたアキトという少年の戦う姿が、頭から離れない。
酷い事を言った、酷い事を言われた。助けられなかった、助けてくれた。命を投げ出そうとした自分を、命を懸けて守ってくれた。
そしていつも、自信満々に笑う。そんな彼を。
きっと今までの全て、彼の演技なのかもしれない。だったら、自分はアキトの何を知っている事になるだろうか。
「…何にも…知らないんだよね。アキト君の事…」
ポツリと、そう零れる。考えた結果、自分は助けてもらっていたばかりで、彼の事など何も知らなかったのだと実感した。自分の事しか考えていなかったあの頃は、知ろうともしていなかった。
キリトに重なって見えたから、決して本物ではない彼に嫌悪した。周りが見える様になってから、彼には自分に似た何かを感じたのだ。
だけど、彼は何も話してくれない。
フィリアはそんなアスナに、気になった事を述べる。
「アスナは…クラインは、知ってる?」
「え?うん…」
「…じゃあ、この前の事、聞いてる…?」
「…うん。聞いてるよ」
『この前の事』、その発言だけで、なんの話か理解出来てしまう。PKを目の前に震えて涙したアキトの話を。震えて、怯えて、泣いて、謝って。自分が悪いのだと、彼はそう言っていたと。
普段のアキトしか見ていないアスナ達は、そんな彼の姿をとても想像出来なかった。だけど、クラインへの信頼度が高かった手前、それが嘘だとも思えなかった。
空中でのスキルの連撃、それを続けるに連れて変化していく言動に表情。そして、PKを前にして悲しみを抱く黒の剣士。
それら全てが、アスナにとっては未知のもので、自分は何も気付いてなかったのだと自覚した。
「その…アークソフィアで、アキトはどんな感じだった…?」
「…何にも無かったみたいに振舞ってた…だから、分からなかった」
目の前にいる彼は、そんな事があったのだと感じさせる様な事は何もしなかった。だからこそ、気付けなかった部分もある。
何でもないという風に振る舞う彼は、まるで気にしてくれるなと暗に言っているようで。
フィリアの抱いたその心配も、今は杞憂だと思っても、本当は心に根強く残っているかもしれない。そう思うと、アキトのその背が、とても脆そうに見えてくる。
「…私も、アスナと同じだよ」
「え…?」
「…何も、知らないんだ」
自分がオレンジカーソルという事もあって、距離を開けていた事は否めない。だけど彼は一度だって、自分のカーソルについて言及した事は無かったのだ。
彼が知ろうとしてこなかったから、自分も知ろうとしてこなかったのかもしれない。彼がこちらに遠慮しているのに、自分が気になって彼にあれこれ聞くのは、何だか狡猾だと思ったから。
アキトも自分の事は話さない。ただ、あの時の言葉がチラついた。
───…なんだ。…俺と一緒か───
自分が『人を殺した』と、そう言った時の彼の言葉。思い出す度に何故か不安が頭を過ぎる。堪らず彼の背を見る。
───それは、本当の事なの?
アキトが、人を殺したというのだろうか。憎まれ口を叩きながらも、どこか温かみを感じる彼が、泣いてまで許せないと思ったあのPKの集団と、同じ事をしたのだろうか。
「……」
分からない。自分の気持ちも、アキトの事も。自然と強くなる拳に気付き、そっとその手を解く。
彼の何がそうさせていて、彼はどういった人なのか。そんな事を考えながら進む浮遊遺跡は、途轍も無く大きく見えた。
無知なもの程巨大に見えて、未知なもの程不安になる。塔の麓まで歩くその道に、モンスターの気配は無い。
だけど、その心は晴れない。どうしてここまで彼を気にしてしまうのだろうか。放っておけないと思うのか。目を離せば、どこかに行ってしまうような、そんな危うさを消し去れない。フィリアは小さく息を漏らした。
「……」
そんな彼女達の考えなど知らないアキトは、麓の先に十字架を象ったオブジェクト、システム的に保護された光の壁を見つめていた。
つい最近見た事が、というか、今さっき見た事のある紋章がそこにはあった。
アキトは再びストレージから《虚光の燈る首飾り》を取り出すと、その壁に向かって翳した。だが、首飾りから光が発せられる事は無く、目の前の光の壁も反応を示さない。
このエリアを開いた時にはこの首飾りを使った為、同じ要領で開くものかと思っていたが、どうやら条件は違う様だ。
代わりに、何処か天空から声が響いた。
[竜王の許可を持たぬ者は、直ちに此処から立ち去るが良い]
「な、何…?」
「アキト君、何したの…?」
アキトの後から付いて来た二人は、いきなりこのエリアに響いた声に驚きを隠せぬ様子だった。だがフィリアに関しては、その声に困惑しながらも、塔の麓まで近付くと、アキトのしていた事を大体把握出来ていた。
アキトはそんなフィリアを横目でチラリと見た後、またすぐに目の前の壁を見上げた。
「ここ来てすぐ塔って訳にはいかねぇみたいだな」
「何か条件があるのかもね」
「アイテムの可能性もあるね」
アスナとフィリアがそう続ける。先程の声は、『竜王の証』と言っていた。フィリアの予想通り、もしかしたらアイテムの類かもしれない。
そう考えた瞬間、モンスターの咆哮が聞こえた。あまりにも突然で、アキト達は体を震わせた。
「きゃっ…何!?」
「っ…!? 2人共、上!」
アスナの言葉で、アキトもアスナも上空を見上げる。するとそこには見た事の無い種類の飛竜が飛んでいた。
両手両足にそれぞれ翼が生えており、尻尾は剣の様に鋭い。空中で静止したその紺色の竜は、こちらをその鋭い瞳で見下ろしており、その口からは白い息が漏れていた。
「ド、ドラゴン!」
「……」
アキトはエリュシデータを引き抜き、剣道の様に構える。フィリアとアスナも、それぞれ武器を抜刀すると、竜を睨み付ける。その瞳は焦りが見て取れた。
だがその竜は、こちらを見下ろすだけで何もしてこない。それどころか、その体を翻し、塔の頂上へと飛んで行ってしまった。
急ながらも臨戦態勢をとっていた彼らにとっては若干の拍子抜けではあったが、準備も儘ならない状況でもあった為、助かったともいえよう。
「び、ビックリした…」
「塔のてっぺんまで飛んでったね…住処でもあるのかな?」
そう話す彼女達の前で、アキトは構えていたエリュシデータを下ろす。この塔への道を塞ぐ光の壁を見るに、まだ戦う時ではないのだろう。ならば、先程このエリアに響いた声の主が言っていた『竜王の証』とやらを手に入れるしかない。
アキトはエリュシデータを鞘に収めると、その場から離れ、全くの別方向へと歩いていく。
その言葉足らずの行動に、アスナもフィリアも慌てた。
「ち、ちょっと…!」
「あ?何?」
アスナの静止の言葉を聞いて、不機嫌そうに振り向く。アスナの隣りにいたフィリアは、眉を顰めて問い掛けた。
「何、じゃないよ、何処行くのさ」
「塔はまだ行けねぇんだから別の場所から攻めんだよ」
「アテがあるの?」
「ある訳ねぇだろ、このエリア来たの今さっきだぞ」
アキトはそう言うと再び視線を前に戻し進んでいく。そのまま暫く歩いて行けば、その先には洞穴の様なものがあった。恐らくアキトは、あそこに向かっているのだろう。
それに気付くも、アスナはその表情を曇らせた。
「…だったらそう言ってくれればいいのに…」
何故優しく言ってくれないのだろうか。その発言にはフィリアも同意で、彼女の隣りで思わず頷く。そんなお互いを見て、フッと笑ってしまう。初めて出会った二人だが、同じ悩める人同士、仲良くなれそうだった。カーソルなどの色は関係の無い、確かなものがそこにはあった。
アキトは何故彼女達が笑い合っているのかは離れていた為に分からなかったが、仲良くなれたなら良かったと、彼女の見えない所で笑みを零した。
●○●○
《思い人の手を引いた隧道》
浮遊遺跡の島々を繋ぐ橋を渡って進んだ先は、如何にもモンスターが住みついていそうな洞穴だった。マップ名には『思い人の手を引いた隧道』とあるが、正直想い人とデートするには適さない雰囲気であり、何ともミスマッチな名前だなと笑えてしまう。
ちなみにここに来るまでの数回戦闘があったが、三人共高レベルという事もあって捗った。グリフォンや、見た事の無い虫型のモンスター、機械の様なものもいたが、アスナとフィリアの連携はそれなりのものだった。戦いを重ねていく内に二人の仲が深まっているようで。そしてそんな彼女達は距離を互いに近付けてこの洞穴の至る所をキョロキョロと見つめていた。
「…何か出そう」
フィリアがポツリとそう呟く。アキトと全く同じ事を考えていた様で、アスナもアスナで辺りを忙しなく見渡していた。
「ゆ、幽霊とか出ないよね…?」
「分かんないよそんなの…」
そんな彼女達を背に、アキトは呆れた様に溜め息を吐く。幽霊なんている訳が無い。いるとすれば、それはシステム的に倒す事が可能なゴースト系のモンスターである。攻略組筆頭のアスナが何故そんなに怯えているのか分からない。
だが暫くすると、アキトは何かを思い出した様にハッと顔を上げ、その思考を巡らせる。
(…そういえば、アスナは幽霊が苦手────)
──── 何故、そんな事を知っている?
気付いた瞬間、その思考を停止する。だがアキトの脳内では、絶えず知らない映像が流れ始める。
アスナに良く似た女性が、ゴースト系統のモンスターに怯える様子。それはノイズとなって、良く見えないが、見た事も無い景色、でもそれでいて知っている様な光景だった。
(っ…!最近こんなのばっかりだ…)
アキトはそれら全てを振り払う様に、頭を左右に揺らす。やがて消えゆく映像の中、アキトは先程の幽霊の話を思い返していた。幽霊が怖い、幽霊を見たくない、そんなアスナの言動に、自嘲気味に笑った。
もし本当に、幽霊という存在がこのゲームのシステムに組み込まれていて、それが今まで死んでいった者達の意思を持っているならば。
もし、幽霊という存在がいるならば、詫びる事も出来るというのに。
その表情が自然と暗くなる。悩んでも仕方無いものでも、人は簡単にそれらを振り切れない。その後悔は、思い出す度に募っていく。それが女々しくても執拗くても、みっともないと言われようとも、割り切れないものがある。
「……?」
考えるのをやめようと、取り敢えず顔を上げると、少し離れた場所に人影が見える。アキトは瞬時に立ち止まり、その視線の先をその人影に向ける。
途端、背中にポスンと軽い何かが当たる。アキトは思わず振り向いた。
「っ…!」
「あっ…!」
そこには、すぐ近くにアスナの顔があり、驚きで互いに瞳が見開く。
その顔の近さにアキト即座に視線を逸らし、アスナはアキトからバッと離れる。
「ど、どうしたの?急に止まったりして…」
慌てて取り繕うアスナ。どうやらアキトがいきなり止まったせいで、歩いていたアスナがぶつかって来たようだった。距離が離れていた事を思い出すと、どうやらフィリアと会話してて気付かなかったのだろう。
気が緩み過ぎだと思ったが、今までのアスナよりはマシかと納得すると、その視線を先程の人影に戻した。
「…向こう、誰かいる」
「…ま、まさか…幽れ──」
「執拗い。多分プレイヤーだろ」
未だ幽霊の話をしているアスナの言葉を遮り、自身の考えを告げた。するとフィリアがアキトの横に並び、人影に向かってその瞳を細めた。
「…一人、みたい。こんなダンジョンでソロだなんて珍しいね」
確かにそうだ。ここは高難易度エリア、ソロプレイには度胸も技量も必要だろう。たった一人でこのダンジョンを攻略しようだなんて、とても勇気あるプレイヤーだろう。
それに、見たところ女性の様で、益々珍しい。それどころか、アキトはここへ来て自分と同じ様にこのエリアで攻略を行っているプレイヤーを初めて見たのだ。興味が湧くのも当然だった。
アキト達はその足を速め、その女性プレイヤーに近付いた。
「おい」
「はい?」
アキトがそう言い放つと、その女性は振り向いた。その振り向いた瞬間に空中に浮いた彼女のペンダントに視線が向く。赤と青の宝石が埋め込まれた、とても綺麗なアイテムだった。
アキトのその言葉遣いは何も気にしていない様だったが、アスナとフィリアはアキトの事をジト目で見ていた。
初対面の人に『おい』は無いだろうと、その視線は言っていた。アキトはそれを見てバツの悪そうな顔を作る。
アスナはそれを見た後、その女性プレイヤーに向かって口を開いた。
「えっと、初めまして。少し、お話を聞かせてもらっても良いですか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
アスナのその柔らかい物腰に、女性も途端に笑顔になった。それを見てアスナとフィリアは互いに笑みを作る。アキトが3人を眺める中、その内の一人、フィリアがその女性プレイヤーに問い掛けた。
「…貴女もアインクラッドからここに飛ばされて来たの?」
「アインクラッド?変な事を言うわね。ここはアインクラッドじゃない」
女性はそう言うと首を傾げる。確かにここは一応アインクラッドの中ではある。屁理屈を言っている訳ではないようで、本気で分からないといった表情だった。
フィリアも質問の仕方が悪かったと思い、質問を少し捻る。
「そうじゃなくて……えと、元々は何処にいたのかなーって…」
「元々……何処だったかしら。あちこちを移動しているから、何処とは言えないわ」
「じゃあ貴女はここで何をしているんですか?」
「何をって、勿論攻略よ。アイテムやスキルを使って敵を倒して…」
(…なんだろう)
彼女のその発言を聞いて、アキトは首を捻る。受け答えは普通にしているのだが、何か、何か変な気分がした。
アキトは思わずその口を開く。
「…拠点は」
「え?」
「拠点はどうしてんだ。アイテム使うってんなら補充する術があるんだろ」
いきなりアキトが口をきくものだから、アスナとフィリアも少しだけ驚く。だが彼の質問は、このエリアを攻略していくなら必要な情報だ。聞いて損は無い。
だが女性は少し考えた様な顔を作ると、小さな笑みで答えた。
「拠点は……えーと……ド忘れしちゃったみたい。でもそういう事、初めて会う知らない人に喋るものじゃないでしょう?」
アキトはその言葉を聞いて目を見開く。確かにそういった事を初めて会う自分達に話すのは躊躇われる事だ。だがアキトが驚いたのはそこじゃない。
彼女は、『拠点をド忘れした』と言ったのだ。
この高難易度エリアでは休息やアイテム補充は嫌でも必要になってくる。その場所を忘れたなど、笑い話では済まされない。
アスナやフィリアもそれに気付いたのか、その表情は良いものでは無かった。
フィリアは女性に言葉を続ける。
「…貴女はここから出ようとは思わないの?」
「今は良いわ。私、これでも忙しいの」
「な、ならせめてパーティを組みませんか?私達もこれからここを攻略するんです」
「誘ってくれてありがとう。でも、また今度ね」
彼女はそういうと、こちらに背を向けて走っていく。再び首から掛けられたペンダントが宙を舞う。それを見ながら、アキトは段々と離れていくその女性の背中を眺めていた。
暫く沈黙が続いたが、やがてアスナがそれを破った。
「…あの人、何か変だった。会話受け答えはしっかりしてるのに…」
「うん。拠点を忘れたっていうのも気になったし…」
二人もアキト同様に違和感を感じた様だった。それが何かは分からない。だけど何かが変。それだけは理解出来た。
「……」
アキトはその女性プレイヤーが消えた先を見て、また別の何かを感じていた。虫の知らせなのか、何なのかは分からない。
ただただ、嫌な予感を肌で感じていた。
私は感想を見てモチベーションが高まる。
早く書ければそれだけ早く見る事が出来る……!
ギブアンドテイクで行こうぜ!(何様)
冗談はさておき……感想をください(現在の話までにおいての質問も可)