ソードアート・オンライン ──月夜の黒猫──   作:夕凪楓

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お疲れ様です。心理描写以外苦手な筆者、夕凪楓です。
感想からありましたこの作品の書き方について、いくつか説明したいと思います。

相変わらず戦闘描写が苦手です。もしかしたら、恋愛描写も苦手かもしれない…(´・ω・`)






Ep.21 夢で見た記憶、いつか見た記憶

 

 

 

 気が付けば、自分は独りだった。

 

 

 ある日、自分は不幸を引き寄せる人間だと思った。

 ある日、自分の周りから繋がりが消えていった。

 それから、もう人とは関わらないと決めていた。だけど、心はずっと繋がりを探していて。

 そして、また人と繋がった。自身を思ってくれる仲間に出会った。大切に想う人が出来た。

 もう二度と、手放したくないと思った。この命に変えても守ってみせると心に誓った。

 

 

 

 そしてそれを、知らぬ間に失った。

 

 

 

 

 

 

 「……あれ……俺、寝てたのか……」

 

 

 天井を見上げる。いや、天井など無い。目が覚めて一番に視界に入ったのは、空に満遍なく輝く星々だった。

 不思議に思い、上体を起こしてみると、辺りは草原で、自分が寝そべっているのは、フィールドのとある丘の上。モンスターがポップしない、プレイヤー専用のセーフティーゾーン。確認すると、ここは78層のフィールドらしい。

 丘の上から見下ろすと、飛龍種モンスターが飛び交っていた。

 

 

 どうやら77層のボス戦を終えた足でそのまま78層のマップ探索をして、そのまま寝入ってしまったようだ。辺りはもう既に暗く、時刻を見れば11時を過ぎていた。

 もう帰ろうかと思い立ち上がると、アキトはふと、その体の動きを止めた。

 

 

 「……」

 

 

 思い出したのは、先程のボス戦後のアスナとのやり取り。

 アスナの為とはいえ、言い過ぎたのは否めなかった。

 アスナの瞳からポロポロと流れる涙。平手打ちを食らわされた少女、リズベットの涙目で何かを訴えるような表情が、とてもリアルでフラッシュバックする。

 

 

 「……」

 

 

 

 

 

 

『大丈夫か?』

 

 

 「…うん…大丈夫だよ」

 

 

 そんな幻聴に律儀に返事を返し、フィールドに背を向ける。

 帰路に立つアキトの背中は、何処か寂しげに見える。

 アキトは、数時間前にリズベットに平手打ちを食らった頬を撫でる。当然だが、跡はもう残っていない。

 だけど、不思議とその頬に、熱がこもっているように感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少年アキトは、矛盾を抱えている。

 

 

 アキトは、『繋がり』が欲しかった。

 決して切れる事の無い、確かな絆を求めていた。

 だけど、何度もそれを失って、いつしか感じるようになった。

 

 

 いつか失くしてしまうなら、この手に何も欲しくない。

 

 

 だけど独りはとても寂しくて。心が折れそうになって。

 だから、独りでも生きていける強さが欲しかった。これから先、繋がりを持たず、独りで何もかもを統べる力が欲しかった。

 けれど、それでも、伸ばされた手を掴みたいと思ってしまう事がある。

 きっと、強さを求めるのは、手に入れたものを失くさないようにしたいから。

 だけど、強くなったところで、また失ってしまったらと思うと、怖くてどうしようもなくなった。

 

 

 そんな矛盾を、抱え続けている。

 

 

 

 

 

 

 

 「…あれ」

 

 

 76層<アークソフィア>。夜中にも関わらず、その待は街灯で明るく道を照らしていた。プレイヤーはおらず、静寂に包まれた世界。とても幻想的で、自分以外誰もいないのではないかと錯覚してしまう。

 その道に沿うように置かれたベンチに一人、座って眠る少女の姿が見えた。

 しかも、その少女はアキトの知り合いでもあった。

 

 

 「……」

 

 

 いつもなら無視するかもしれない。けれど、アキトの足は自然と彼女の方へと動いていた。

 アキトはその少女の傍まで歩いていくと、シノンの顔を見る。

 シノンの顔は心做しか怯えているようで、酷く魘されているように見える。

 アキトは少し、焦りを感じた。咄嗟にシノンに声をかける。

 

 

 「おい、何してんだよ、シノン」

 

 

 「ん……?……あれ…アキト…?」

 

 

 その少女──シノンは、その瞼をゆっくりと開き、目の前の少年を見上げた。

 寝起きだというのに、シノンの目は大きく見開いていた。この場にいるアキトに驚いているのだろう。

 

 

 「こんな時間に何してるのよ」

 

 「…攻略」

 

 「攻略…って、もう12時前じゃない。また無茶して…」

 

 「別に無茶なんかしてねぇよ。実際、まだやれる」

 

 

 ウィンドウを開き、時刻を確認したシノンは、呆れたようにアキトを見上げる。アキトはそんなシノンから目を逸らし、顔を顰めた。

 

 

 「…こんなところで寝てんなよ。街中だからって安全じゃねぇんだぞ」

 

 「…?街中は安全だって言ってなかった?」

 

 

 シノンはキョトンとしながらこちらを見つめる。アキトはシノンがこの世界に来たばかりなのでは、とユイが話していたのを思い出した。加えて、彼女は記憶が抜けているとの事だ。記憶が無いにしても、別のゲームから来たとしても、知らないのは当然かもしれない。

 

 

 「《アンチクリミナルコード有効圏内》、通称《圏内》。プレイヤーを傷付けたりするのはシステム的に不可能だけど、寝てる相手の腕使ってアイテムトレードしたり、デュエルで人を殺したりする奴がいたりすんだよ。どこにいたって人間、やる事は同じって事だ」

 

 「…心配、してくれてるの?」

 

 「…別に」

 

 

 フッと笑うシノンから、また顔を逸らす。シノンのその一言が、アキトの脳を駆け巡った。

 

 

(心配…か。もう何も求めないって思っても、根本は変わらないな…)

 

 

 アキトは自嘲気味に笑った。自分の信念が揺れまくっているこの状態に、情けなさを感じた。

 だから、シノンの事を心配するような振る舞いをしてしまう。

 

 

 「…酷く…魘されてたみたいだけど」

 

 「…え?」

 

 「…いや、いい」

 

 

 何を聞いてるんだろう。そう思い、シノンの目の前を通り過ぎる。

 すると、その背の後ろから声がした。

 

 

 「…夢を、見ていたのよ」

 

 シノンの言葉でアキトは立ち止まり、彼女の方へと視線を動かす。

 しかしその表情は、決して明るいものとは言えなかった。

 

 

 「夢…ね」

 

 「そう。忘れるなって事なのかしら…とにかく、夢のおかげで大分思い出した」

 

 「思い出したって…記憶が?」

 

 「ええ。……座ったら?」

 

 

 シノンが自身の隣りをポン、と手で叩く。アキトは一瞬躊躇ったが、おずおずとベンチに腰掛けた。

 シノンはそれを確認すると、目の前の景色へと視線を動かした。

 

 

 「…聞いても驚かないでね。私も戸惑ってるんだから」

 

 「じゃあなんで話そうなんて思ったんだよ」

 

 「…戸惑ってるからこそ…誰かに聞いてもらいたいのかも…」

 

 

 もしかしたら、アキトに聞いて欲しかったのかもしれない。

 何故そう思ったのかは分からない。だけど、先程アキトの背中を見た時、何故かいたたまれなくなった。

 このまま帰したくないと、そう思った。

 

 

 「……」

 

 「私がSAO……ソードアート・オンラインの事を聞いたのは、テレビのニュースでよ。沢山死人が出ている最悪のゲームだって。首謀者はまだ捕まっていないって言ってた。落ちてきて、アスナに助けられた。あの時に、私はこの世界に迷い込んだ」

 

 

 アキトはその言葉を聞いて、ほんの少し拳を握る力が強くなる。

 首謀者、つまりは、茅場晶彦。この世界を創造し、一万人もの人間を幽閉した闇の科学者。

 そして、大切な人達の、仇のような存在。

 アキトは心を静め、シノンの話を聞いた。

 シノンの言葉が本当なら、シノンは外部からログインしてきた事になる。だが、ナーヴギアが今も世に出回っているとは考えにくい。恐らく、何らかのハードが、ナーヴギアの後継機のような物があるのだろう。

 リーファのアバターは、別のゲームのものだと聞いた事がある。ならば、VRMMOは今でも健在で、ハードだけは変わっている可能性が高い。

 脳波を検出し、五感にアクセス出来るハード。それが無ければダイブ出来ない筈だ。

 その問いに、シノンはすぐに答えてくれた。

 

 

 「ナーヴギアなんてとっくに発売も生産も中止よ。多分、《メディキュボイド》のせいね」

 

 「…メディキュ…ボイド…」

 

 「医療用の機械なんだけど…フルダイブ技術を応用して医療に役立てようって機械で、ナーヴギアと同じシステムを積んでいるの。目や耳が不自由な人にVR技術が役立つってのはかなり昔から言われてた事でしょ」

 

 

 アキトはそこまで聞くと、色々と思い出す。確かにナーヴギア、もといVR技術が進歩してからというもの、他の面でも活かせるのではないかと思案していた番組やニュースを見た事がある。

 医療は勿論、スポーツの練習、ダイエット。そして、軍事利用など。

 

 

 「あと感覚の遮断も、麻酔の代わりに使えるかもしれないとか……まあ色々医者が説明してたわ」

 

 「…お前、何かの病気なのか」

 

 「いいえ、私はそのどっちでもなくて、カウンセリングのテストだったんだけど…VRMMOは、…ナントカ療法に良い効果が期待出来そうだとか…勿論SAOじゃない、もっと無難なVRMMOでね」

 

 「…VRMMOってのは、こんな状況でもポンポン世に出てんだな」

 

 

 カウンセリングという言葉に違和感を覚えつつ、シノンの話を聞くアキト。

 自分達がいない2年間で、リアルの世界では色々と変わってきている事を実感する。この世界の誰もが願っているであろう、『現実への帰還』。その世界では、自分達を閉じ込めたVRMMOが、今も尚進歩している事を、どう思うだろう。

 

 

 「…それで、アバターを作成してカウンセラーを待ってたら、急に足元が揺れて…そこからはもう訳が分からなかった。落ちているのか、吸い込まれているのか…頭もクラクラしてたし……」

 

 

 シノンはそう言って俯き、瞳を閉じる。

 その声は震えていて、どこか辛そうで。アキトはかける言葉を失った。

 アキトは俯くシノンを視界から外し、少し大きめの声を発した。

 

 

 「…まあでも、何も覚えてないのは意外と怖いって言ってたじゃねぇか。記憶が戻ったんなら、それはマイナスってだけじゃねぇだろ」

 

 「…そうでもないわよ。忘れていたかった事まで思い出したから」

 

 

 顔を上げたシノンの顔は、酷く悲しみに満ちていた。アキトはその表情を見て、思わず視線が固まる。

 シノンが、かつての仲間に重なる。その声と体の震えが、見えない恐怖に怯えているような姿が。

 

 

 「……でも、私がここに来たのは運命だったのかもしれない」

 

 「っ…まだ攻略組になるつもりでいるのか。何が目的なのかは知らねぇけど、それはこの世界でやらなきゃいけない事か」

 

 

 その声は、どこか焦りのようなものを感じた。アキト自身、わかっている。

 目の前の少女、かつての仲間と同じように怯え、震えている彼女に、何を思っているのか。

 

 

 「モンスターは日に日に強くなってきている。攻略組の連中だって苦労してるんだ」

 

 「そんなの、関係無いわ。私は、強くならなきゃいけないのよ。…自分の過去に、打ち勝つ為に」

 

 

 その過去がどんなものかは聞かなかった。だが、今から攻略組に参加するには時間も経験も足りていない。

 そんな彼女が出て来たところで、無駄にプレイヤーを死なせるだけだ。

 だけど、自分はきっと、この少女を止められない。

 

 

 いつか見た景色が、アキトの脳裏で再生される。

 シノンが、モンスターの輪に囲まれ、蹂躙されていく姿を。泣き叫ぶ彼女の姿を。手を伸ばしても届かない、自分の惨めな姿が。

 何度も夢で見てきた。仲間が消えゆく様を。

 何度も助けようとした。何度も何度も剣を振り続け、短いようでとても長い距離を走り続け、何度も何度もその名を呼んだ。

 

 

 何度も。何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も────

 

 

 それでも最後に目にするのは、ポリゴンが宙に舞う景色。幻想的であっても、決して幸せになる事は無い。

 その欠片は、死人のもの。この世界から存在が消失した事の証。

 

 

 ああ…俺はまた、彼女を────

 

 

 

 

 

 「…まだ、実感はないんだけど…この世界で敵に倒されると、プレイヤーは本当に──」

 

 

 

 

 

 「…俺が…守る、から」

 

 「…え?」

 

 

 アキトの手はシノンの手に伸びており、やがてその手を握る。

 シノンが困惑する中、アキトはその手を両手に包み込み、それを自身の額に持っていく。

 

 

 「っ…あ、アンタ、何を──」

 

 「今度こそ…絶対に助けに行くから…間に合って…みせるから…だから…」

 

 「…アキ、ト…」

 

 「もう…君を、一人にしないから…だから……独りに…しないで……」

 

 

 その振り絞られた僅かな声は、とても小さく、弱々しくて。その声も体も、酷く震えていて。

 シノンは目の前の少年を前に、瞳が大きく揺れる。自身の手を握る彼の手は、徐々に握る力が強くなる。

 だけど不思議と優しく、暖かいその手の持ち主は、目の前で何かに怯え、震えている。

 彼もきっと、自分と同じ。何か辛く、重いものを背負っている。

 そう思うと、とても手を振り解けなかった。シノンは、その手を握り締めた。

 

 

 「…アキト」

 

 「…っ!?…ゴメン…」

 

 

 シノンがアキトの名を呼ぶと、我に返ったのかシノンの手をバッと離し、ベンチから立ち上がった。

 シノンに背を向けて、早歩きで去っていく。シノンは思わず立ち上がり、アキトの背を見つめる。

 呼びかけようと手を伸ばすも、その手は空を切り、結果的に彼を見送るだけとなってしまった。

 

 

 「アキト…」

 

 

 その伸ばした手を自身に引き寄せる。アキトに握られたその手を。

 凄く震えていて、酷く怯えていて。

 あんな姿を、いつか見た事があった。

 

 

(…昔の……私の顔……)

 

 

 アキトのその顔は、自身の過去に苛まれ、怯え続けていた頃の自分のようで。いや、今も怯え続けている。

 だからこそ分かる。アキトは、自分のように、辛い過去があって、乗り越えようとしてるのでは、と。

 いつか、自身とアキトは似ているかもしれないと、そう感じた事がある。その気持ちは今も変わらない。

 だが、似ているだけで、決して『同じ』ではない。根本的な何かが、自分とアキトとは違うのだと思った。

 自分の前じゃなくてもいい。取り繕わないで、気を抜いて欲しい。そう言ったのは、記憶に新しい。

 だけど、シノンには分からなくなっていた。

 攻略組に啖呵を切る、高圧的な態度。ユイの前で見せる、あの優しげな表情。

 そして、今見た、何かに怯え、縋るような彼。

 一体、彼の気持ちはどこにあるのだろうかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宿に帰るその足は、段々と速くなった。頭では、かつての仲間に重ねたシノンに縋る、自分の姿。

 自分に腹が立つ。

 シノンが彼女に見えただけならまだしも、かつての過去を否定するかのように、シノンを彼女の代わりに見えてしまった事に。

 

 

 宿に入り、階段を上る。自室の部屋へと飛び込む。そこまですると、体から力が抜け、ベッドへと転がり込んだ。

 

 

 「……」

 

 

 先程の光景を思い出す。シノンの手を握った、自分自身の掌を見つめる。

 いつだったか、あんな風に、誰かの手を握った事があったような。

 

 

(…弱いな…いつまで経っても…)

 

 

 なんにも変わってない。心も体も、弱さも。

 自嘲気味に笑う。仰向けに寝転がり、天井を見上げ、その手を伸ばす。

 

 

 リズベットもシノンも、目的は違えど立ち上がった。シリカも、攻略組に参加する為にレベルを上げている。リーファも街を周りながら、たまにクラインやリズと圏内付近のフィールドで戦闘訓練をしていると聞いた。

 皆が、キリトの死を乗り越えようと、アスナを死なせまいと、自身の目的の為にと、自分の足で進んでいる。明らかに変わっていっている。

 

 

 「…仲間の死を乗り越えるなんて…俺には無理だよ…」

 

 

 

 

 ───なら、俺は?

 

 俺は何か変わっただろうか?

 ここへ来て感じた事は、キリトに対する憧れや、アスナに対する苛立ち、キリトの仲間への羨望、それだけ。

 何か、目的があって、ここへ来た。だけど、彼らを見ていて思う。

 俺は、必要ないんじゃないかと。

 ぐるぐると、螺旋のように思考が混ざり狂う。

 

 

 何を考えて、何を思って。何をすべきで、何を成すべきで。何がしたくて、何を求めて。

 俺はただ、誰かを死なせたくなくて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─── 『誰か』?顔も知らない奴を守りたかったのか?違うだろ?

 

 

 

 

 「っ…そうだよ…本当に、守りたかったのは…」

 

 

 その腕を、自身の顔に持っていく。

 天井から、自身の目を隠すように覆われたその腕の部分は、涙で濡れつつあった。

 

 今日のボス戦で、アスナに言った言葉を思い出す。

 この世界のものは、全て偽物。

 そんな訳は無い。この世界で、アキトは欲しかったものを手に入れる事が出来たのだから。

 確かに、今の攻略組は、アキトが求めたものとは似ても似つかない。

 アキトの脳裏には、今日のボス戦の様子が映し出されていた。

 指揮官の脱落による連携の乱れ、そこから決壊していくチームとしての信頼感。

 今の敵は、モンスターだけじゃない。『人の感情』が邪魔をする。

 

 

 …もしかしたら。

 そもそもこの世界に、信頼なんて言葉は無いのかもしれない。

 この世界で組まれた徒党は全て、『現実への帰還』という目標の元、利害の一致が生んだ協力関係ってだけなのかもしれない。

 血盟騎士団を見ていると、それを顕著に感じる。

『信頼』ではなく『忠誠』。自身の指揮官を崇め、ゲームクリアを期待している。

 彼ならやってくれる、彼女ならきっと。そんな理想を押し付けるだけの集団に見えた。

 理想を、誰かに求め、押し付けるのは弱さだ。自分じゃ何も出来ないから他者に任せるなどと、綺麗事で片付けてはいけない。それは罰せられるべき怠慢で、唾棄すべき悪だ。自分と周囲に対する甘えだ。

 その期待を、理想を押し付けたのは自分自身だ。だから、その期待が外れても、それで失望していいのは自分に対してだけだ。

 だけどこの世界では、人の心は顕著に現れる。崩壊の原因が、全員にあったとしても、崩壊させた奴を悪だとみなし、それを責める。集団の悪ほど正当化されていく。

 そういう風に出来た世界だ。

 

 

(…けど…あの空間だけは…俺が守りたかったあの場所だけは…)

 

 

 アキトの世界は、あれだけで完成していた。あの世界に、アキトの求めたもの全てがあった。

 それは、傍からみれば狭い世界かもしれない。だけど、広さは関係がない。

 大切なのは、想いだったから。

 あの世界だけは、決して利害関係ではなかった。確かに最初は攻略の為の効率の良さを考えたかもしれない。だが決して、それだけの希薄な関係ではなかった筈だ。それは誰よりも自分自身が理解していた。

 ただそれだけあれば良かった。それだけあれば、他に何もいらなかった。

 それが無ければ、生きている意味など無いと、そう思える程に。

 

 

 

 

『私には…!もう、生きてる意味がないの! 』

 

 

 

 

 

 

 

 「…俺も、だよ…。っ…俺にはっ…あの場所だけが…俺のっ…全てで…!……俺の…っ……!」

 

 

 

 

 

 

 アキトの、本当に守りたかったものは───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







過去を捨て去れない。捨てたくない。それ故に続く、負の感情。
欲しかったものは、常に一つ。だけど、そればかり追うことは叶わなくて。

何を目指す作品なのか、分からなくなるのも仕方ないよね(震え声)


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