ソードアート・オンライン ──月夜の黒猫──   作:夕凪楓

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その声を、たった一度でも良いと望んだ。






私のヒーロー

 

 

 

 

 

 

 ────斬る。

 

 

 邪魔をする、その全てを。

 

 

 それが、世界に見捨てられた自分の、恐らく最後の悪足掻き。

 

 

 ただ、目の前の敵を屠る事だけを考える。効率も弱点も隙も思考から全て排他し、ただ滅茶苦茶になる程に、生命などどうでも良くなる程に斬る。

 その剣は、思想も、意志も、歓喜も、悲哀も、怒りも、焦燥も、苛立ちも、渦巻く激情さえもが込められていたかもしれない。

 或いは、色付いた感情など、一つとして込められていなかったのかもしれない。何も考える事無く、ただ目的を完遂し、欲しいものを手に入れる。それだけが、今の彼にとって、生きる理由となっていた。

 

 独りで挑むその姿は、無謀極まりない。それは勇気と呼べず、勇者とは言えず、相応しい名は道化と愚者。

 常に孤独だった彼にとって、周りの評価など取るに足らない。そんな人達さえ、今この空間にはいない。

 隔絶され、見放されたこの雪舞う世界で、たった独り。誰もが求めた敵と対峙している。そこに出し抜いた事による優越感も、もう少しで倒せるかもしれないという達成感も無い。それは、ただの作業だ。

 

 肉を斬り、骨を断つ。腹を抉り、身体を貫く。

 そこには予測も作戦も戦術も無い。周りに、存在する生命など無い。在るのはただ、思考を放棄し怪物の如く暴れ回る、一人で独りの、白の剣士の姿。

 時間が経つにつれ身体は悴み、冷静な判断力は消滅し、動きは段々と鈍くなる。それでも彼を突き動かしているのは、立派な意志でも明確な決意でも無く、愚かなまでに純粋な執念だった。

 

 ずっと続けていたはずの戦闘の記憶が無い。どれほど時間が経ったのかも分からない。ものの数分しか経ってない気もすれば、一時間以上経ったのではとすら思える。

 

 気が付けば呼吸が荒く、気が付けば奴の体力ゲージは色を失い、気が付けば、その刀を強く握り締めていた。

 煌めく黒き刃は降り積もる雪に濡れ、荒く吐かれた白い息は空へと消える。高鳴る心臓を宥めるように、身体を上下させた。

 

 寒空の中、それでも汗が流れる。変わらず虚ろな瞳が、目の前の敵へとゆっくりと動く。

 その背教者は、身体中に刻まれた傷から血のように赤いエフェクトを吹き出し、不快な呻き声を喚き散らしながら、力無く倒れ逝く。最後まで焦点の合わない目はやがて輝きを失い、斧と頭陀袋を持っていた両手の力は、徐々に小さくなっていった。

 

 

 「はぁ……はぁ……」

 

 

 過呼吸に陥るその身体に思わずよろめく。心臓部分を鷲掴みにし、無理矢理静止させる。少しだけ落ち着くと、思わず左上の体力に目が向かう。

 自身のHPバーは赤く、死と血の色を彷彿とさせた。瞳孔が開き、自身が生きている事実を再確認する。

 見上げた視線の先にいた背教者は、死の瞬間を迎えていた。

 それを見た瞬間、この寒さで凍っていたかのような冷たい脳に、血が通い出すのを感じた。そして漸く、目先の事実を受け止めた。

 

 

 「……終わ、……た……」

 

 

 一頻り振り続ける雪をその身に受ける。中心点のモミの木が、アキトを見下ろし、何処か祝福しているような感覚。

 やがて、目の前の背教者は頭陀袋のみを残し、その身体を爆散させた。

 同時に、少年は刀から手を離し、その場から崩れ落ちる。膝が積もった雪に埋もれ、とても冷たい。構わず地面に両手を付き、酸素の足りない脳を回転させた。

 

 

 ────勝った。

 

 

 それを何度も何度も再確認する。信じられないと思いつつも、感じるのはほんの僅かな驚き。出来るわけがないとされたソロでのボス討伐を、他でもない自分自身が果たしてしまった。

 だが、そこに達成感も歓喜も無い。今更強くなった事が証明されたところで、最早何の意味も成さない。

 

 あの日からずっと、何もかもが遅過ぎた。誰かに任せた結果、彼らの死に目に合う事すら。

 

 

 けど、奴を倒した今ならまだ、やり直せるだろうか────?

 

 

 少年────アキトは、弱々しく震える身体を一喝しのろのろと立ち上がる。瞬間、それを待っていたとばかりに、ボスの持っていた頭陀袋が硝子の割れるような音と共に消滅した。恐らく、あの中にサンタクロース同様、たくさんのプレゼントもといアイテムが入っていたのだろう。

 ふらふらと覚束無い足を律し、力無く刀を背中の鞘へと収めた。そして、システムウィンドウをゆっくりと開く。

 背教者を倒した事で手に入れた報酬が、真新しくアイテムストレージの新規入手欄に格納されていた。大きく息を吐き、虚ろな瞳で変わらずスクロールする。

 捨てるのが面倒な程に多いアイテム名が並び、特に喜びの感情無く上から下へと目線を落としていく。武器や防具、結晶アイテム、アクセサリや食材まで。一人で捌くには明らかに多かった。これが、普段迷宮区の攻略しか興味の無い連中が血眼になってまで探していたボスのドロップアイテムだった。

 そして、そんなアイテム欄を、アキトは慎重にスクロールする。段々と心臓の音が強く、強く耳にこだまする。

 

 

 

 

 ────そして、それは嫌にすんなりと、アキトの目に飛び込んで来た。

 

 

 

 

 「っ……」

 

 

 

 

 《還魂(かんこん)聖晶石(せいしょうせき)

 

 

 

 

 その名、その明記された字面から、アキトは全てを悟った。

 誰もがありはしないと思っていた《蘇生アイテム》。アキトでさえあくまでも噂、眉唾物だと、そう何処かで誤魔化してきた。

 それなのに、身体は常に動いていて、あるかも分からないそのアイテムに縋る日々を送って来た。

 今それが、現実のものとなってアキトの目の前に顕現していた。

 

 

 ────ドクン

 

 

 半年間、大切だった仲間の生命を望まない日など無かった。凡そ死んでるのと変わらない機械的な毎日を過ごして来たアキトの、唯一の希望。

 ずっと虚ろだった瞳が漸く光を宿し始め、揺れていた。

 

 

 「……ケイタ……ダッカー……テツオ……ササマル……サチ……」

 

 

 彼らは、まだ死んでいないのだろうか。今までSAOで死んでいったプレイヤー達の命は、まだ完全に消滅したわけじゃないのだろうか。

 口元が震え、今にも泣きそうだった。

 

 

 「……サ、チ……」

 

 

 大切な女の子の名前を、縋るように呼ぶ。伝えたい事、その何一つを伝える事無く別れてしまった、生きる希望だった少女。

 彼女を避けた凡そ一ヶ月の間、何を思っていたのかも、死する彼女の最後の言葉も、何も聞けていない。

 伝えたかった想いが、そこにはあった。

 

 サチに、また会える────?

 

 そう思うだけで、全身が震える。涙が、溢れそうになる。もしまた出会えたのなら、やる事は決まっていた。避けていた事、間に合わなかった事を謝って、彼女の言葉や気持ちを受け止め、そしてこの腕に彼女を抱き締める。

 もう誰かに縋って頼ったりしない。大切な人は、今度こそ自分の力で守るのだ。

 

 そして、心の底から言うのだ。彼女にずっと抱き続けて来たこの想いを。

 

 慣れているはずの操作が覚束無い。震える指の手首を、もう片方の手で掴んで抑える。何度も操作を間違えながら、そのアイテムを顕現させる。

 一瞬の光と共にウィンドウから浮かび上がった《還魂の聖晶石》は、ボールより少し大きめで、そして七色に輝くあまりに美しいその宝石は、雪舞う空に良く映えた。

 

 

 「っ……ぁ……サチ……サチ……!」

 

 

 彼女の名を呼ぶ、その声が震える。

 心臓が高鳴る。その所為で頭が強く痛んだ。

 その全てを無視して掴み上げたアイテムを、瞳を揺らしながら眺める。

 アキトは掴んだ宝石と反対の手でタップする。表示されたメニューからヘルプを選択し、蘇生方法、その概要を確かめる。もう何度も見ているはずのフォントで記された文字は、まるで初めて見た時の感動すら抱かせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこから紡がれる文字を、ゆっくり、ゆっくりと読み解いていき────

 

 

 

 

 

 

 

 

 「────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────そして、絶望した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【このアイテムのポップアップメニューから『使用』を選ぶか、或いは手に保持して《蘇生 : プレイヤー名》と発する事で、対象プレイヤーが死亡してからその効果光が完全に消滅するまでの間(およそ十秒間)ならば、対象プレイヤーを蘇生させる事が出来ます】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……ぁ」

 

 

 

 

 ────およそ十秒間(・・・・・・)

 

 

 

 

 何度見ても、その表記が幻となる事は無かった。

 強張っていた表情は固まり、ただ一点から動かない。

 

 

 ────“十秒”

 

 

 そのとって付けたようなたったの二文字が、長い夢を見続けていたアキトを引き戻した。

 それは、これ以上無い程に明確に、残酷に、冷徹に現実を突き付けていた。

 

 

 ────サチが、二度と戻っては来ない事を。

 

 

 あの日、間に合わなかった自分に、これを使う資格は無かったという事を。

 サチはもう、この世界には戻らない事を。

 

 

 「────は」

 

 

 十秒。それが、ナーヴギアが現実のプレイヤーの脳をマイクロウェーブで焼き切るまでのタイムリミットなのだと、否応無く悟る。

 そして、生き返らせたいと願った少女の身体は既に消えた。

 十秒どころか、半年も前に────

 

 

 「……はは……あはははっ」

 

 

 脳裏に映る、その瞬間。

 サチの身体がこの世界から消滅し、そして十秒後、サチのナーヴギアが彼女自身を焼き殺すその瞬間を、はっきりと想像する。

 

 

 「……くはっ……あはっ、あはははっ」

 

 

 彼女にまた会うことも、声を聞く事も、謝ることも、気持ちを告げる事も、触れる事も出来ない。

 その事実に、引き攣る頬も自然と動いた。

 これまで生きてきた、その理由。半年間、自分なりに生きた。その希望となっていたもの、その全てが、無意味なのだと悟った。

 

 アキトの口から出たのは、悲しみの叫びでも、悔しげな声でも、怒りの言葉でも無い。

 涙は出なかった。頭を抑え、腹を抱える。ただ壊れたように、狂ったように放ち続けるのは────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────あまりにも愚かな希望に縋っていた自分の情けなさを痛感して溢れた、感情の無い嗤い声だった。

 壊れた人形のようにとめどなく、止まる事無く嗤う。彼女達を失った半年間が、あまりにも惨めで滑稽で、どうにも止められない。

 涙はとっくに枯れ果てたのか、それとも泣く方法を忘れてしまったのか。その瞳から水が溢れる気配は全く感じなかった。

 地面から伝わる雪の冷たさも、誰もいない世界に置き去りにされ、隔絶された孤独感も、もう何も感じない。

 

 

 宝物だった居場所も、楽しかった時間も、大切だった人も、もう何も持っていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……ア、キト……」

 

 

 ────ふと、背中から声がして、その笑い声を止めた。

 

 

 震える声で、その名を呼ばれる。背後から、見知った気配がする。

 その声音が誰のものなのか、アキトはすぐに理解した。そのボロボロの身体をゆっくりと動かし、後方を見据える。

 はらはらと雪舞う中で、ポツリと立ち尽くす黒い影。僅かに小さな風が頬を撫で、アキトとその影の間を吹き抜ける。

 

 

 ────そこあったのは、半年間顔すら合わせなかった親友──キリトの、怯え戸惑う顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●○●○

 

 

 「……ア、キト……」

 

 

 キリトのその声が震える。振り返ったアキトの、見た事も無いような笑みに、なんとも言えない感情が渦巻く。

 黒猫団が壊滅してから半年間、顔すら合わせていなかった。何度も会いに行こうと決意したはずの心は、すぐに弱音を吐く。その所為でキリトは、アキトに会う事を心の何処かで拒否してしまっていたのだ。

 

 だが、久しぶりに見た彼の表情は、共に過ごした中でも見る事の無かったものだった。

 何も映していない虚ろな瞳が、キリトの方を見る。けれど、そこに本当にキリトが映っていただろうか。

 身体の幾つもの箇所に傷が刻まれ、赤い血のようなエフェクトがそこから舞っていた。

 

 

 「……やあ、きりと。ひさしぶり」

 

 「っ……」

 

 

 子どものような柔らかな声が、静寂を割く。キリトは身体を震わせ、ただアキトを見る。

 座り込んだアキトの周りには、モミの巨木以外の何も存在していなかった。キリトは揺れる瞳をどうにか動かし、辺りを見渡す。偶然にもホワイト・クリスマスとなっているが、そんなもの、どうでも良かった。

 

 そこに生命は存在せず、キリトとアキトの二人だけ。何も無いその空間は、今の二人の状態を顕著に表していた。

 だが、ここで戦闘があった形跡を、キリトは雪跡で悟った。

 

 

 「っ……アキト……まさか……」

 

 

 時刻は零時をとっくに過ぎていた。だが、ここをマークしていたのは、知る範囲ではキリトだけだった。そして、それを尾行したクライン達と、《聖竜連合》のみ。

 だが、アキトがここに居るという事は、即ちアキトが《背教者ニコラス》の出現場所を特定していたという事に他ならない。

 

 そして戦闘の跡と、アキトがたった一人でこの場所にいる事実が、キリトを一つの答えと導いていた。

 有り得ない、信じられないと、心の中で何度も告げる。けれど、目の前のアキトの狂ったような笑みを見て、その予想は確信に変わっていた。

 

 

 「ボスを……一人で、倒した、のか……!?」

 

 

 それは、アキトがフラグボスをたった一人で討伐したという事実だった。

 誰もが血眼で探していたクリスマスのイベントボス。出現場所も不明なまま、討伐隊が組まれたパーティーは幾つもある。その全てを出し抜き、アキトはこの場所にいた。

 そして、ボロボロになりながら、アキトはそれを殲滅してみせたのだ。

 キリトはわなわなと唇を震わせ、アキトを見る。目の前の少年の強さが、いつの間にか自分と同等か、それ以上になっていた事に、驚愕と恐怖を隠せない。

 

 

 一体、どれ程の時間をレベリングに注ぎ込んだのか────

 

 

 キリトが固まっていると、アキトはゆっくりとその場から立ち上がる。闇色に染まる眼でキリトを見て、彼の周りを見て、彼の背後を見る。

 そうして、キリトが一人である事を理解すると、小さく笑った。

 

 

 「……キリトこそ、一人でボスを倒そうとしてたんだ。流石《黒の剣士》だね」

 

 「っ……」

 

 

 それは、ずっと黒猫団に自身の正体を隠していたキリトに告げられた、皮肉のようなものだった。

 アキトに、そんな意思があったのかは分からない。けれど彼のその言葉は、キリトの胸を深く抉り貫いた。

 それでも、キリトはアキトに、どうしても確認したい事があった。

 

 

 「……報酬は……蘇生、アイテムは……?」

 

 

 サチを救う唯一の手段。その為だけに、アキトもキリトも、今まで生きてきた。互いに、死なせてしまった大切な仲間を、取り戻す為に。

 その目的は同じでも、理由は違う。

 片や約束を蔑ろにした自分を責め、今一度約束を告げる為に。

 片や想い人に気持ちを伝え、今度こそ、自分の手で守る為に。

 誰にも邪魔はさせない、そのつもりでここまで、たった一人で、たった独りで来たのだ。

 それだけを求め、それだけを考えて来たのだ。

 

 ボスを倒したアキトの手には、それがあるはずなのに。アキトの顔は、あまりにも酷い。

 キリトのその問いに、アキトはぼうっとして答えた。

 

 そしてそれこそが、キリトの問い掛けへの答えだった。

 

 

 「そ、せい……?……ああ、これの、ことか」

 

 

 アキトは手に持つ《還魂の聖晶石》を再びタップし、使用方法の解説欄を可視状態で広げる。それを指で飛ばし、キリトへと提示する。

 キリトはアキトの手に持った《蘇生アイテム》を見て、ここ数ヶ月麻痺していた心臓の一部に血が通った気がした。瞳に生気が宿り、アキトが広げて寄越したウィンドウに映る説明を食い入るように見る。目を見開き、焦るように。

 

 

 

 

 「ぇ……」

 

 

 

 

 ────そして、その動きが止まった。

 誰の目から見ても、期待が絶望に変わるのが分かった。

 その力は、過去に死んだ者には使えない。それを、理解してしまったから。

 この一ヶ月、キリトとアキトを生かし続けてきた蘇生アイテムは、確かに実在した。だがしかし、それは二人が求めたものではなかったのだと。

 

 

 「あ……ぅぁ……あぁ……」

 

 

 キリトは、瞳孔を開き、空中で静止するその窓から一歩、また一歩と後退りした。怯えるように、逃げるように。

 自分のしてきた事の無意味さを、この瞬間、漸く突き付けられたのだ。

 何処かでまだ、やり直せる気がしてた。もう一度サチと出会って、そうしたらまた、親友であるアキトとも、もう一度やり直せると、そんな甘い考えが何処かにあった。

 

 しかし、それはただの現実逃避だった。死者は蘇らない。永遠に。

 自分は、アキトのたった一つの居場所を、あの時完全に壊してしまったのだ。

 自身が悦に浸る為に入ったあの場所を壊し、初めから彼らと一緒だった彼を、たった独りにしたのだ。

 

 

 「……」

 

 

 やがてその場にへたり込み、嗚咽を漏らすキリトを、無表情で見つめるアキト。手にした聖晶石を握り締め、ゆっくりと帰路に立つ。

 歩む度に、崩れ落ちたキリトとの距離が詰まる。しかし、近付くのは物理的な距離だけだった。

 心はもう、ずっと前から離れてた。

 

 

 「……アキ、ト……俺、は……俺は……」

 

 

 近付くアキトを感じ、キリトは重い頭を上げた。震える身体は、決して寒さが原因では無かった。

 そして、こちらに迫る距離まで来ているアキトを見て、キリトは何処か心の中で安堵した。

 

 漸く、漸く、罰が下るのか────

 

 ずっと、それを望んでいたのかもしれない。アキトに殺されるなら、それも良いかもしれないと、そう思った。

 それが楽な道へと逃避だとしても、お互いに心が満たされるであろう事は明白だった。

 

 

 

 

 だが────

 

 

 

 

 「……キリト。……ゴメンね」

 

 

 

 

 アキトはそれだけ言うと、キリトの傍を通り過ぎた。

 

 

 「……は」

 

 

 キリトは、その動きを止めた。一瞬、何を言われたのか分からなかった。

 泣きそうだった涙は消え去り、頭がぐらつく。アキトの、その弱々しくか細い声での謝罪に、キリトはただ、呆然とした。

 

 

 ────今、なんて?なんて、言ったんだ?

 

 

 キリトは、重い身体を必死になって動かす。漸く振り返れば、こちらに背を向けて歩いていくアキトの姿があった。

 その事実が、どうしようもなく受け入れ難かった。言葉が出て来ず、ただぶるぶると身体を震わすだけ。

 

 

 アキトは、なんて?今俺に、なんて言った?

 

 ケイタ達を殺し、サチを守れなかった俺に。

 

 守ると宣言しておきながらお前の全てを奪った俺に。

 

 ゴメン、だって────?

 

 

 「っ……なんでっ……!」

 

 

 漸く、身体がいう事を聞いた。勢い良く立ち上がり、雪を散らしながら足の向きを変え、視界に捉えたアキトの背中に、ただひたすらな激情を飛ばす。

 

 

 「待てよ……!……なんで、どうして、お前が謝るんだよっ……!?」

 

 

 お前に非は無い。全て、全て俺が悪いんじゃないか。

 それなのに、どうしてお前が謝るんだよ。

 優しさのつもりか、同情のつもりか。どちらにせよ、今の自分にかけてはならない感情だと思った。

 

 アキトは振り返り、キリトを見て、儚げな笑みを浮かべた。

 その、驚くべき言葉と共に。

 

 

 「……俺も、さ。キリトなら守ってくれるって……勝手に期待して、理想を押し付けた。みんなだってキリトを慕っていたし、たとえ君が何処の誰だったとしても、黒猫団には必要だったと思う」

 

 

 「……ぇ……?」

 

 

 ────瞬間、苛立ちを感じていたキリトの感情が、ストンと消え去った。

 アキトが告げた言葉に、そんな感情を抱く暇も無いくらいに驚き、困惑したから。

 

 

 「な……何を……」

 

 「君の強さは、俺が一番分かってた。俺が持ってないものを、君が全部持ってたんだ。君が、俺の理想だった」

 

 「……何を、言って……」

 

 

 キリトは、ただ、震える声でそう返す事しか出来なかった。アキトの言葉が、頭に反芻するのだ。

 自分のこの惨めな姿が、アキトにとって────理想だったって?

 

 

 「俺に守るって、そう言ってくれた。だから俺は、心の片隅にあった対抗心を捨てる事にしたんだ。君に全部任せて、頼ってしまおうって。君がヒーローみたいに格好良かったからさ。きっと、全部救ってくれるって」

 

 「待って……待ってくれよ……っ」

 

 「俺が、君に押し付けたから……負担、だったよね……。君の気持ちを考えず、結局、ただ憧れを抱き続けて────」

 

 「────待ってくれ!」

 

 

 アキトの紡ぎ続けられた言葉を、無理矢理に遮る。いきなり出した大声で、キリトは呼吸を荒らげた。

 変わらずに降る雪の中、アキトはただ、そんなキリトを目を細めて見つめるだけ。

 けれど、キリトはそんなアキトの言葉を聞いて、ただふつふつと何かが煮え滾るようだった。

 

 限界だった。自分の今までの惨めな姿を、よりにもよって自分が憧れた存在に褒められるだなんて。

 アキトが言うほど、綺麗なものなんかじゃない。このステータスは全て、他人を出し抜き得たものだ。それなのに、そんな汚いものに、アキトが憧れていただなんて────

 

 

 ────どうしようもなく、憎い相手のはずだ。

 

 

 「……俺を、責めないのか……?」

 

 「……ゴメンね、キリト。みんなで攻略組になるって約束、果たせそうに無いや。……俺、本当はそんなに……強く、ないんだ……」

 

 

 それは、キリトの問いの答えではなく、重ねられた謝罪だった。未だ変わらないその消え入りそうな細い声と言葉に、キリトはまたお門違いな怒りと苛立ちをその身に宿し、滾らせた。

 

 

 「恨んで、ないのかよっ……!俺は、お前の居場所を壊したんだ……みんなを……サチを殺したのは、俺なんだぞ……!」

 

 「……もう、終わったんだ、キリト。だから、気にしなくて良い」

 

 「そんな訳無いだろ!全部!……全部、俺が悪いんだ……俺の思い上がりが、みんなを殺したんだ……なのに……」

 

 

 どうして、そんな何でもないような態度が取れるんだ。仲間を殺されて、俺が憎くないのかよ。

 キリトが、そんな感情を顕にし出す。責めてくれと、その態度が言っていた。

 口から出る全ての言葉が、自責の念から出た言葉だと、この時はまだ、そう思っていた。

 

 

 

 

 「俺が、本当のレベルを隠してさえいなければ……」

 

 

 

 

 拳を握り締める。現実なら、血が出てしまう程に強く。

 

 

 

 

 「俺が、みんなを騙していたから……」

 

 

 「……やめて

 

 

 

 

 アキトが小さく、何かを告げる。けれど、キリトには聞こえない。泣きそうになるのを堪えながら、ただ自分の伝えたい事ばかりを告げた。

 

 

 

 

 「……俺がっ……あの時、上層に行くのを止めていれば……」

 

 

 「……やめてくれ

 

 

 

 

 震え出す親友の事を、見もせずに、両手から溢れたものを見下ろし、声を上げた。

 アキトが、自分に優しくするのが耐えられなくて、その所為で、更に自分が惨めに見えて。それが限界だった。

 

 

 既に、アキトの気持ちなど、きっと二の次だったのだ。

 

 

 

 ────もう、アキトも限界だった。自分の目の前で、全ての責任を今更背負おうとする、かつて憧れたキリトの、その哀れな姿を見るのが。

 

 

 

 互いにもう、限界だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「黒猫団のみんなを、殺したのは……全部……全部、俺の────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「黙れ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────ピシャリと、その声が響いた。

 

 キリトが言葉を詰まらせ、空気を静寂にする。

 ビクリと肩を震わせ、その目を大きく見開いた。

 一瞬、今のが誰の声なのか、分からなくなった。キリトは動きを止め、呆然とアキトを見ていた。

 

 ────その身体は、震えていた。

 

 アキトは、呼吸を荒くし、白い吐息をなお吐きながら、割れた声で呟いた。

 

 

 「……頼むから……本当にやめて」

 

 「っ……アキ、ト……」

 

 

 懇願するかのような、ただ切実な頼みだった。キリトは、自分がずっと放ち続けてきた言葉を止め、出会ってから一度も見た事の無いアキトのその表情と怒声に驚いていた。

 

 

 「……アキ……っ!」

 

 

 ────振り返ったアキトの瞳は、涙で潤んでいた。それを見て、キリトは自分が今まで口に出した言葉の意味を、漸く理解した気がした。

 アキトの、その冷たい目は、確かに怒りを帯びていた。片腕を上げてキリトを指差し、わなわなと唇を震わせて、キリトを睨み付けていた。

 

 

 「……“全部、俺の所為”だって……?……自惚れるなよ……」

 

 「……っ」

 

 「っ……たかが(・・・)君一人の責任で、黒猫団のみんなが死んだだなんてっ……!」

 

 

 ────キリトのその言い方は、まるで。

 自分が強過ぎたせいで、黒猫団が死んだ、と。そう言っているみたいで。

 あの場でキリトだけが生き残った理由こそが、まさに黒猫団との強さの差を見せ付けていた。

 それが、アキトには耐えられなかった。上げた手はだらりと落ち、ただ、静かにキリトに、想いを告げた。

 

 

 

 

 「────“俺の”仲間を、馬鹿にするなよ」

 

 

 

 

 「ぁ……」

 

 

 

 

 その言葉、そこに乗る感情で。

 キリトは漸く、全てを理解した。

 

 

 「……じゃあね」

 

 

 アキトは、それだけ告げると再び背を向けて、ワープゾーンから消えていった。

 それは、この場の別れの挨拶か。それとも、決別の言葉か。

 

 取り残されたキリトの目には、もう何も映っていなかった。顔を上げ、見上げた空から落ちてくる雪の冷たさなど、最早感じない。

 

 

 ────全て、俺の所為。

 

 

 それは、自分よりもレベルの低かった黒猫団を、下に見た言い方だった。仲間だったはずの彼らを、無意識の内に馬鹿にしていたのだと悟った。

 キリトは、自分のした事の意味を、今漸く思い知ったのだった。

 

 仲間なら、失敗も責任も、分かち合うものなのに。

 

 アキトに責めて欲しかった、それだけの理由で放った言葉全てが。

 黒猫団のみんなを、あの場を大切にしていたアキトを、下に見ていたような言葉の数々。

 結局、責められた方が楽だったから、自分に都合の良い様になって欲しかったから、呟いた言葉。それだけで、アキト達の事なんて、全く考えていなかった。

 

 

 ────アキトはキリトに最後まで、“憎んでない”とは言わなかった。

 

 

 「うああ……あああああ……」

 

 

 キリトの口から、獣にも似た呻き声が漏れた。

 再びその場から崩れ落ち、真下の雪を、何も考えずに見下ろした。

 

 

 「あああ……ああああああ!!」

 

 

 “俺の”仲間、とアキトは言った。その仲間に、きっと俺は含まれていなかった。完璧なまでの、拒絶の意思だった。

 あれが、アキトがずっとひた隠しにしていた本音だったのかもしれない。自分は最後まで、全てを勘違いしていた。

 

 

 

 

 ────最後の最後まで、キリトは間違えたのだ。

 

 

 

 

 「ああああああああぁぁぁあああぁああああああああああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁあああああぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 

 

 絶叫しながら、何度も何度も地面を叩く。雪が全ての衝撃を吸収し、痛みは全く感じない。身体全ての力で泣き喚き、咆哮した。

 地面に両手を突き、雪を全力で犬のように掻き毟り、やがて転がり回って叫び続けた。

 

 

 ────この世界に、何の意味があるの?

 

 

 かつてサチが、キリトに向かって問い掛けた、この世界の真理。

 その問いの答えを、キリトは漸く導き出せた気がした。

 

 

 その答えは、“無意味”だ。

 

 

 サチが怯え、苦しみ、恐怖に涙を流し、縋るように願った末に死んだ事、キリトが《蘇生アイテム》の為に奔走し、友情さえもを捨て去った事も。

 この世界が生まれ、万の人間が囚われた意味も、全て、意味なんて無い。

 

 それだけが、絶対不変の真実なのだと、キリトは今完全に悟った。

 

 

 分部不相応にも憧れ、目指そうとしたから。

 近付く事で認められ、悦に浸ってしまったから。

 ぬるま湯だと馬鹿にして、憧れたヒーローよりも頼られた事に、優越感を感じてしまったから。

 

 

 

 

 ────キリトは今日、親友を失ったのだと知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●○●○

 

 

 第一層《はじまりの街》

 

 

 その層も、やはり雪が降っていた。

 普段からどの層と比べても人が多いこの層は、クリスマスというのもあって、やはり最前線同様に人で賑わっていた。

 ここには、年齢が低い子ども達の面倒をみる場所があるとかで、雪合戦をしている子どもでもいるのではと、なんとなく視線を辺りへと向け、見渡して漸く、思えばまだ深夜だった事を思い出す。

 それでも聖夜だからか、人はいるようで二人組の男女がチラホラと視界に入った。

 

 しかし、何も感じる事なく、ふらふらと歩く。

 足取りは、やはり重い。ここに来るまでの道のりすら、あまり覚えていない。

 一歩ずつ踏み締める毎に、どうでも良い記憶が飛んでる気がする。もう何も考えたくなくて、そんな風に感じるのかもしれない。

 もはやここに来るのは習慣になっていて、生きる為に必要なルーティンだと海馬に刻み込まれているのかもしれない。

 

 石造りの街並み、凍った噴水、それら全てを掻き分けて、目的地へと足を動かす。虚ろな瞳は耐えず何かを見ているようで、何も見ていない、そんな繰り返しだった。

 

 

 「……」

 

 

 アキトはやがて、視線の先に映るものを見て足を止めた。

 そこは、黒光りする巨大な建築物、《黒鉄宮》が存在していた。はじまりの街最大の施設。ただのゲームとしてのSAOでは、この場所が死亡したプレイヤーが蘇生する場所だったらしい。

 

 

 ────そしてこの場所は、半年間、アキトが毎日のように赴いている場所でもある。

 

 

 アキトは無言のまま、そこに足を踏み入れる。

 薄暗い闇色の内部、冷たい空気。クリスマスである今日この日に、ここへ来るような酔狂な人間は居ないだろうと、アキトは自嘲気味に笑う。

 コツコツと、アキトのブーツの音だけが響く。正面入口を歩いて、ひたすら真っ直ぐに歩く。

 やがて、開けた場所に出る。その広間の中心に、アキトの求めるものがあった。

 

 

 

 

 ────そこには、プレイヤー全員の名前が刻まれた、《生命の碑》が設置されていた。

 

 

 

 

 死んだプレイヤーには、横線が引かれる。アキトは《生命の碑》の目の前で止まると、いつものようにそれを見上げた。

 探すのは、いつだって仲間の名前。ケイタ、ダッカー、テツオ、ササマル。

 

 

 ────そして、サチ。

 

 

 毎日のように見に来る為、誰の名前がどの辺りに記されているか、正確な位置さえすぐに分かる。決して褒められた事じゃない。アキトは、ただ俯いて息を吐いた。

 ここに来るのは、ここにしか、彼らの名前が無いから。死体も何も残らないこの世界で、黒猫団が確かにここに居たと、そう証明できるものが、目の前の碑にしか無かったからだ。

 彼らの死を認めてしまったアキトは、ここを彼らの墓に見立て、毎日毎日ここへ来ては、何時間も立って、何かを呟いた。

 

 外の雪に当てられて、中も肌寒くなっていた。吐く息も白くなり、空で消えていく。

 誰もいないこの場所で、アキトはただ、クリスマスの夜を過ごしたかった。

 

 

 「……みんな。メリークリスマス」

 

 

 アキトは、小さく笑う。

 その言葉はきっと、黒猫団だけでなく、死んでいった全てのプレイヤーに向けての言葉だった。

 

 

 「ここじゃあ分からないかもしれないけど、外は雪が降ってるんだよ。ホワイトクリスマスってやつだね」

 

 

 カラカラと乾いた笑みを貼り付け、名簿を見上げる。黒猫団だけでなく、横線を引かれた知らないプレイヤーの名前すらも、逐一見ては頭に記憶していく。

 そして、アキトは光を通さぬ瞳を上げ、何かを思い出したように口を開き、ウィンドウを開いた。

 

 

 「……そうそう、黒猫団のみんなにだけなんだけど、プレゼントがあるんだ」

 

 

 瞬間、色々なアイテムがオブジェクト化した。武器や装備、宝石類、そこには《背教者ニコラス》からドロップしたものが沢山あった。

 

 

 「ダッカーは、この片手剣。敏捷値が高めだから、君によく合うと思う。テツオはこれ、ちょっと重たいけど、鎧防具だよ。前衛のテツオには、どっしり構えてもらう必要があるからね。ササマルは……これかな。ふふ、綺麗な指輪でしょ?女の子扱いしてる訳じゃないよ。実はこれ、筋力値を底上げできるんだ。与えられるダメージが少ないって言ってたの、思い出したんだ。だから……」

 

 

 徐ろにアイテムを取り上げては、碑の真下にお供え物のように置く。笑ってそれぞれのアイテムの効果や選んだ訳を説明し、その度に一人、儚げに笑う。

 どれだけ声をかけても、返って来る事は永遠に無い。分かっているのに、辛くのしかかる事実に、唇を噛み締める。

 そうして三人のプレゼントを纏めて置くと、今度はリーダーの名前呼んだ。

 

 

 「……ケイタには、新しい武器が手に入ったんだ。リーダーはやっぱり、みんなよりちょっとだけ優秀な武器が無いとね。……ねぇ、ケイタ。あの日買ったギルドホーム、色々考えたんだけど、売る事にしたんだ。残して置くのもアリかもとは思ったんだけど……もう、あの家に帰る人は誰も居ないから。最近、漸く買い取り手が見付かったんだ。昔の俺達を思い出させるような、少人数のギルドだった。あまりにも似てたから、安値にしちゃったよ、はは」

 

 

 途切れ途切れになりながらも、これまでにあった事を楽しげに話す。勿論返事は無いけれど、もし彼が生きていたら、笑ってくれただろうか。

 責任感が強くて、仲間想いで、心配性で。ケイタが、一番リーダーに相応しかったと思った。

 誇りだと、そう言い切れた。

 

 ケイタのプレゼントをみんなのプレゼントの上に重ね、アキトは笑った。こうして集うと、絆の象徴みたいで、少し憧れた。

 

 

 

 

 「っ……」

 

 

 

 

 ────そうして、最後の一人。

 

 

 彼女の名前を、石碑から見付ける。

 この半年間、忘れた日などありはしなかった。ずっと君を、生き返らせられたらって、そう思ってた。

 

 

 「さち」

 

 

 アキトの声は、震えていた。

 ボス戦後の疲れも、絶望も疲労も、喪失感さえも、今は無い。

 ゆっくりと、その手にしたものを持ち上げた。

 

 それは、ピンクと赤を基調にした、可愛らしい手袋だった。

 

 

 「君にはこれ。防具とかも考えたんだけど、どうせなら女の子らしいものをあげたくて。……凄く、あったかいんだから」

 

 

 ポツリポツリと呟く。

 彼女には戦うよりも、街で過ごして欲しかった。

 そう言えば、他のみんなに反対されるかもしれないと、あの時は恐れた。関係が崩れるかもしれない事を、恐怖した。

 それを、今では何度も悔やんでる。

 

 

 「あ……あと、さちにはもう一つあるんだ」

 

 

 そう言って、アキトはアイテム欄からとある綺麗な輝きを放つ宝石を手にした。それを優しく手に取って、石碑の前に掲げる。

 ────《還魂の聖晶石》。それは、アキトがずっと望んでいたものに近い、奇跡の光。

 

 

 「……これ、蘇生アイテムなんだ。ボスは、俺一人で倒せたんだ。ずっと『強がり』だったけど……少しは、『強さ』に変えられたかな」

 

 

 アキトは、確かに強くなった。

 現時点で、レベルだけで言うならば、アキトはこの世界の頂点だった。

 クリスマスボスも、たった一人で倒した。もはや、かつてのアキトとの違いは明白だろう。

 だけど。

 

 この半年間、何をしても、何処にいても。

 心が満たされた日は一日も無かった。

 

 隣りに、サチがいない。

 強くなりたい理由となった彼女が、何処にもいない。

 なら俺は、何の為に。

 いつだって、サチの事を考えた。彼女を守る事ばかりを考えた。

 サチの拠り所になってやりたかった。サチの拠り所になりたかった。

 それだけなのに。

 

 

 「っ……」

 

 

 涙が出そうだった。けれど、ぐっと堪えた。

 石碑に刻まれた彼女の名前が、自分を見ているような気がしたから。

 サチの前で、格好の悪い姿は見せたくなかった。

 

 アキトはずっと、サチや黒猫団のみんなに、強がりという名の仮面を付けていた。せめてみんな前では、強いプレイヤーとしてありたかったから。

 臆病な自分を殺して。嘘を吐いて。何もかもを偽って。強者のように振舞って。みんながいれば、何でも出来そうな気がして。それこそ、世界を変えられる様な、そんな気がしたのだ。

 それが演技だとバレていたとしても、強がる事がアキトの意地であり、アキトの信条だった。いつか本当に強くなれる気がして、そう信じ続けた。

 

 

 ────泣くな俺、サチの前だぞ。

 

 

 だからアキトは、精一杯堪える。嬉しそうに笑う。

 けれど、笑おうとした顔が何故か引き攣る。震える声が抑えられず、上手く笑えない。半年前から思い出せない、その笑い方。

 どんな風に笑っていたっけ。もう、それすらも忘れてしまった。

 ここ半年間、アキトはただの一度だって、ちゃんと笑った事は無かった。

 でも、この強がりを止めちゃダメだ。

 

 

 「サチ……これを使って、もし君が生き返ったら、伝えたい言葉があったんだ。だから、頑張ったんだ。俺は、強く、なったんだ」

 

 

 そんなアキトの言葉を聞いたら、サチはなんて言うだろう。どんな表情をするだろう。

『凄い』って褒めてくれるかな。

『馬鹿みたい』って、一人で行った事を怒るかな。

 それとも、『ありがとう』って、帰ってきてくれた事を、喜んでくれるかな。

 自分の為に笑ってくれたら、怒ってくれたら、泣いてくれたら、どんなに嬉しいだろう。

 どれだけ、サチのそんな顔が見たかった事だろう。

 その笑顔を見せてくれたら、その声で名前を呼んでくれたら。

 それだけで救われるというのに。

 

 だが、それは叶う事のない願い。

 その願いの為に生き続ける事すら、もう出来ない。

 願うべき相手は、もうこの世にいない。

 だから、もうこの世に留まる意味も、もう無いのかもしれない。

 

 

 ────これ以上は、頑張れない。

 

 

 彼女の前で弱音は見せたりしないけれど、その心はもう、諦めの境地に立っていた。

 生きる理由が、失せてしまった。

 何をするにも、気力が湧かない。

 これから、どうしたら良いのかさえ分からない。

 どうしようかな。

 生きてても、仕方無いし。

 

 

 「……はは。しんみりしちゃったな。さて、そろそろ帰るよ、サチ。明日から、また頑張らないといけないし」

 

 

 そんな、嘘で塗り固められた言葉を、石碑に投げ付ける。八つ当たりに近い感情の高ぶりが、アキトの胸中を襲う。

 けれど、愛しい人の前で弱気な姿は見せられない、そんな小さな小さな決意だけで、アキトはこの場に立っていた。

 

 

 

 

 ────瞬間、聞き慣れないアラーム音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 「っ……」

 

 

 

 

 静寂の中、いきなり鳴り出したそれに身体を震わせながら、アキトはその空間を見渡す。しかし、音源らしいものは何も見つからない。

 ほんの少しだけ困惑した後、漸くその音の原因を見付けた。

 視界の端にウインドウの開示を促すマーカーが点滅している事に気付いた。

 咄嗟に指を振ると、そのウインドウのタブが開示される。

 

 

 「……これ」

 

 

 そのタブは、サチといつかに作った共通アイテムウインドウだった。何か異常があったらすぐに飛んでいけるようにと、ギルドのものとは別に、アキトがメンバー全てと個人的に作っていたタブだ。

 その中で、《サチ》の名前が記されたタブだけが光っていた。

 恐る恐る、その指を伸ばし、触れる。

 

 少ないアイテムの中、たった一つだけ目に止まったのは、タイマー起動の記録結晶。

 メッセージが、既に録音されたクリスタルだった。

 サチとの共通タブなのだ、誰の声が記録されているかだなんて、一瞬で分かった。

 

 

 「……サチ」

 

 

 アキトはすぐさまそれをオブジェクト化させ、手のひらに乗せる。ゆっくりと触れれば、その結晶は光り出す。

 

 

 懐かしい、愛しい人の声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●○●○

 

 

 メリークリスマス、アキト。

 

 

 結晶越しだし、アキトの声は聞こえないけど、こうして話すのは久しぶりだね。

 

 これを君が聞いてる時には、私はもう死んでると思います。もし生きてたら、このクリスタルは取り出して、自分の口から言うつもりだから。

 

 

 なんでこんなメッセージを残すのか、その理由だけ先に説明するとね、えと……こんな事言ったら、アキトは怒るかもしれないけど、私はきっと、長くは生きられないと思います。

 けど、それは勿論、アキトや他のみんなの所為だとかって事は全然無いから、安心してね。キリトもアキトも凄く強いし、他のみんなもドンドン強くなってるもん。

 これ……は、キリトにも伝える事にしたんだけど……この間、ずっと仲良くしてた他のギルドの友達が死んじゃったんだ。私と同じくらいの怖がりで、安全な場所でしか狩りをして来なかったのに、運悪く一人の時に死んじゃったんだ。

 それで、私思ったの。この世界でずっと生きて、生き続けていくには、どんなに仲間が強くても、自分自身の、絶対に生き残るって強い気持ちが無ければ、ダメなんだって。

 

 だって、私は臆病だから、いつ死ぬか分からないもの。アキトは初めて会った時からずっと、私が無理してフィールドに出てるのに気付いてたもんね。

 黒猫団のみんなとはずっと一緒だったし、楽しかったけれど、狩りに出るのは毎日怖かった。だから、こんな気持ちで居続けたら、きっと死んじゃうよね。

 アキトは人一倍責任を感じやすいから始めに言っておくけど、それは君の所為じゃなくて、私の問題だからね。

 

 私が死ぬ時、アキトもその場所にいてくれてるかもしれない。けど、今私、アキトに避けられちゃってるし、もしかしたらアキトのいないところで死んじゃうかもしれないから、これを残す事にしたの。

 

 ……えへへっ……でもいざ話すとなると、何を話したらいいか分かんないや……言おうとしてた事は決めてたのに、何だか言葉に出来ないっていうか……。

 

 ねぇアキト、初めて会った時の事、覚えてる?

 名前を聞いた時、うっかり本名とか、誕生日と、スラスラと喋っちゃう程のネトゲ初心者だった君を見て笑ってしまったのを、私は今も覚えてます。偶に思い出しては、笑っちゃったりして。

 

 ……実はね、君をパーティに入れたいってみんなにお願いしたのは私なんだ。

 初対面の人相手にって、自分でも驚いた。どうしてだろうな……ううん、ホントはもう分かってる。

 あの時、周りが混乱して動けなかったあの時、一人で怯えている君を見て、私は貴方を他人だと思えなかったんだと思う。

 なんだか、私にも理解者が出来るかもしれないって、無意識にそう思ったの。

 それも、顔も名前も知らなかった君にだよ?笑っちゃうかな。

 自分でもよくそんな事が出来たなって思ってるけど……怖いのは私だけじゃなかったんだ、って安心したかったんだと思う。

 

 ……けどキミはどんどん私達のレベルに追い付いて、追い抜いて……気が付けば私みたいな弱虫を置いて、黒猫団に無くてはならない存在になってたよね。

 いつの間にかみんなを守る、カッコイイ立場になって。

 

 けど、全然悲しくはならなかったんだよ?

 寧ろ安心したの…キミがみんなに黙ってこっそりレベルを上げて、守る為に私達の傍に居てくれる。守ってくれる。

 その事実が、私の心の支えだった。

 ふふ、私、知ってるんだから。

 アキトが深夜に宿から出て、狩りに出掛けてるの。

 えっと……前に一度、私が宿から飛び出した日の事覚えてる?あの日の夜、私、怖くて眠れなくて、アキトの部屋に行ったんだ。恥ずかしい話だけど、もしかしたら、一緒にいてくれるかと思って。

 でもいざ部屋に行ったら、アキトいないんだもん。本当にビックリしたし、焦ったし、泣きそうだったんだから。

 

 けど、アキトのそんな行動もきっと、私達の為なんだって思うと何処か嬉しくて。

 本当ははじまりの街から出たくなかったけど、いつかは攻略組の仲間入りをして、最前線で戦うキリトとアキトの活躍をこの目で見てみたいなって……ちょっぴり思えるようになったんだ。

 

 ……そうやって、あるかも分からない未来を想像しながら、なんとなく寂しい気持ちにもなるんだ。

 もし、アキトがもっともっと強くなったら、いつか私なんかが手の届かない遠くまで行っちゃうんじゃないかって。

 だから、私と二人で過ごしている時に笑ってくれてるアキトを見て、もしかしたらアキトも、私を必要としてくれているのかもって思えて、嬉しかった。

 私は、なんで私なんかがこの世界に来てしまったんだろうって、ずっと考えてた。なんでこんな目に会わなくちゃいけないんだろうって。

 だからね、アキト。君が私といる時に笑ってくれた事、凄く意味がある事なんだって思ってます。

 

 ……それから、最近、私ね。偶に想像するんだ。

 もし、私が怯えること無くモンスターと戦えられたら、いつかアキトの背中を守れるようになるのかなって。

 これって、前の私じゃ考えられないんじゃないかって、自分でもビックリしてるんだ。

 ……臆病な私が……アキトと、一緒に……隣りに立てるようなって、そう思えたのも。

 もう少しだけ、頑張ってみようって、そう思えたのも。

 

 

 ……全部、全部、アキトのおかげだよ……?

 

 

 ねぇ、アキト。君は強いよ。

 私なんかよりも、ずっとずっと。だから、君ならきっとこの世界を生き抜く事が出来ると思う。

 いつか、黒猫団が攻略組の仲間入りをする。もし私が死んじゃったら、きっとその夢は叶わない事になるのかもしれない。

 でもアキトとキリトなら、きっと攻略組としてみんなの役に立てるような、凄い人になれると思うんだ。

 前に、ダッカーが『キリトとアキト、二人揃えば最強だ』って言ってたの、大袈裟なんかじゃないと思うよ?

 二人がいれば、きっとゲームをクリア出来る。ゲームをクリアして、この世界の終わりを二人で見届けて。

 そして、この世界が生まれた意味を見つけて下さい。

 

 

 ……それから……それから、ね。私、他にも……っ。

 

 

 ……ううんっ、何でもないっ。えへへ。

 

 

 私の伝えたい事、まだ沢山あるよ。

 でも、あんまり言っちゃうとアキトも大変だし、もしかしたら生き延びる事も出来るかもしれない。そしたら、ちゃんと自分の口で言える。

 だから、私頑張るね。

 

 

 ……私、アキトに会えて幸せだったよ。君が、私のヒーローなんだって、そう思えたんだ。

 

 

 ……やっと、やっと、伝えられた。この言葉を、ずっと、ずっとアキトに伝えたかったんだ。

 

 

 だから……これからアキトは、何も気にしないで進んで行って貰えると、嬉しいなぁ。

 

 

 私は、この想いを伝えたかっただけだから。

 

 

 ……それじゃあ、またね。

 

 

 もし生き延びる事が出来たなら、この続きは、クリスマスに言うから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしたら、好きだって、ちゃんと言うからねっ。

 

 

 

 

 ●○●○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 聞いてしまった。

 逃げたいと思った、死にたいと思った、その直後に。

 強がり続けると、そう決意したばかりだけど。

 

 

 「……あーあ」

 

 

 諦めた、はずなのに。

 もう、何もかも嫌になったはずなのに。

 

 

 「……ずるいなぁ」

 

 

 無理に笑っていた顔が、歪む。

 泣かないと決めたのに、もう駄目だ。無理だ。

 

 

 「僕も、同じだよ」

 

 

 君の見せる笑顔が。一つ一つの仕草が。

 透き通った声が。時折見せる、赤い頬が愛しいと思えた。

 

 

 そんな彼女はもう、この世の何処にも存在していない。

 愛しい人に、もう二度と、巡り会う事は叶わない。

 

 

 「ほんとうに、すきだったんだ、さち」

 

 

 サチも、アキトと同じだ。ずっと、強がっていた。彼女はずっと嘘を吐き続け、無理をし続けた。

 何が、大丈夫だよ。何が、一緒に頑張ろうだよ。

 そんな事で、誤魔化せるとでも思っていたのかよ。

 

 

 「君の為なら、何だって出来ると思ってたんだ」

 

 

 サチは、最後まで嘘吐きだ。

 本当は圏外にだって出たくないくらいに臆病な癖に。怯えて、それなのに引かなくて。まだ頑張れるから、大丈夫だからって、そう言って。

 誰にも心配かけないようにって。

 

 

 「なのに……何だよ、忘れて、って……気にしないで進んで、って」

 

 

 怖い気持ちを一人で黙って抱え込んで、飛び出して、涙して。

 その癖自分の事よりも他人の事ばかり。本当に、人が良過ぎる。

 

 

 「忘れて欲しくなんか……ない癖に……強がっちゃって……無理だよ……忘れるなんて、出来やしないんだ……出来るわけ、ないだろ」

 

 

 でも、そんな彼女が好きだった。

 臆病で、でも優しくて、笑顔が魅力的な彼女が。ずっと、ずっと好きだった。初めて出会った時から、この感情は小さく芽生えていたのかもしれない。

 仲間になって、共に行動して、彼女の優しさを見て、その想いは募るばかりで。

 彼女の為なら、命さえ張れると思った。

 

 

 サチがアキトの、生きる希望になっていた。

 

 

 「たのむよ、さち」

 

 

 縋り付く。嗚咽を漏らし、願いを乞う。

 地面へと頭を擦り付け、蹲る。その結晶を、強く握り締める。

 

 

 

 

 「置いてって……待たせて、ごめんな」

 

 

 

 

 「モンスターに囲まれて、怖かったでしょ?」

 

 

 

 

 「死の恐怖に、怯える毎日は辛かったよね」

 

 

 

 

 「ずっと一人で、その恐怖と戦ってたんだよな」

 

 

 

 

 「けどもう、大丈夫、だからさ」

 

 

 

 

 「これからはずっと、傍にいるから」

 

 

 

 

 「もう二度と、そんな思いは、させないから」

 

 

 

 

 「もう一度、チャンスをくれよ」

 

 

 

 

 「今度は必ず、助けに行くから」

 

 

 

 

 「今度は絶対、助けてみせる、から」

 

 

 

 

 「死んでも、君を見付けてみせるから」

 

 

 

 

 「キミがいなきゃ、何処にいたって同じなんだ」

 

 

 

 

 「他に俺に出来る事があるなら、なんだってやるからさ」

 

 

 

 

 「命を神に差し出してもいい」

 

 

 

 

 「悪魔に魂を売ったっていい」

 

 

 

 

 「君の存在が、俺の生き甲斐なんだ」

 

 

 

 

 「君がいなきゃ、生きてる意味なんて無いんだよ」

 

 

 

 

 「だから、お願いだ」

 

 

 

 

 「声を聞かせてよ」

 

 

 

 

 「また俺に、笑顔を見せてよ」

 

 

 

 

 「なあ、サチ」

 

 

 

 

 「頼むから」

 

 

 

 

 「サチ」

 

 

 

 

 「さち」

 

 

 

 

 手に持つ結晶体を強く握り締め、蹲って縋る。

 好きな人の前で強がり続けた勇者の姿はそこには無く、あるのはボロボロに崩れ落ち、とめどなく溢れる涙を流すただの少年だった。

 

 

 聖夜に独り、この墓に似た場所で、暗闇に包まれた冷たい世界で、みっともなく喚き散らして。

 地面を叩き、後悔に呪われ、湧き上がる想い全てを吐き出した。

 

 

 改めて理解した。

 神は都合の良い願いなど叶えてはくれない。

 いつだって、末路は悲惨で残酷だ。この世界に、自分の願いを易々と聞き入れてくれるような善人はおらず、縋り付けば、それだけ惨めに見えるだけ。

 

 

 アキトは今日、きっと全てを失った。

 

 

 けれど、それよりも前から、アキトは色々なものを失ってきた。

 

 

 麻痺した身体、凍った脳は熱で溶け、動き出した彼が初めて見せた感情は、半年越しの失恋による涙で。それは回復結晶ですら癒せない、心の傷だった。

 

 

 浮遊城は変わらず、雪で満たされていた。

 生命と、年の終わりを告げるそれは、嫌になるくらい綺麗で、冷たかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────半年前の、六月十二日。

 

 

 その日、ギルド《月夜の黒猫団》は壊滅した。

 アキトの大切なものは、全て消え去ったのだ。

 その日が、アキトの望んだ世界が終わった日。

 絶望に染められ、世界に失望し、神を恨んだ日。

 

 

 そして、その日は不幸にも────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────逢沢桐杜(アキト)の、十五歳の誕生日だった。

 

 

 

 







サチ 「アキト泣き過ぎ」

アキト 「い、いや……好きな人が居なくなったら、泣くでしょ、そりゃあ」

サチ 「そ、そっか……好きな人、か……えへへ」

アキト 「っ……はは」



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