憧れ、妬みは紙一重。
キリトが《月夜の黒猫団》に加入してから、黒猫団は明らかに攻略速度を上げていた。
アキトとテツオ、そしてキリト。前衛が増えればそれだけでパーティバランスは大幅に改善された。
キリトは戦闘中はひたすら防御に徹し、スイッチで背後のメンバーと交代、モンスターへのトドメは彼らに任せる事によって経験値ボーナスを譲り続けた。
そんな事を続けていくうちに、ケイタ達のレベルは凄まじい速度で上昇し、キリトがギルドに入って僅か一週間で、彼らがメインの狩場としていた場所とおさらばしたのだった。今はその場所よりも1フロア上の層でレベリングをしていた。
それから暫くはそこで狩りをする事で、今まで戦ってこなかった敵との経験を積む事が、黒猫団の新しい課題だった。
小さな一歩でも、それでも堅実に進む。仲間の命が第一だと言う、ケイタの言葉は、アキトにとってとても輝いて見えた。
だからこそ、アキト自身も周りに置いてかれないように、レベル上げを怠らない。この手のジャンルのゲームに疎いアキトは、他のみんなよりもレベルを上げ、多く知識を身に付ける事で漸く対等になれると思っていた。
そうすれば役に立てる。みんなの目標に近付けるかもと、そう思っていた。
けれど、自分よりも強くて冷静で、その役に適任なプレイヤーが、新しくギルドに入って来た。
キリトが入ってからというもの、アキトの一人行動は変わらなかったが、黒猫団での狩りを怠る事がめっきり少なくなった。いきなり入って来たキリトに対して、何か思うところがあったのかもしれない。
だがアキトの目から見て、キリトはとても戦い慣れをしていた。敵対するモンスターの動きを完全に把握しており、攻撃は全て受け流せていた。
仲間のフォローも素晴らしく、その姿はまさしく、アキトが目指していたものだった。
自身と正反対の色を身に纏う片手剣使いの少年。何処か自分に似た雰囲気を感じさせる。けど、似ているというだけで、きっと自分とキリトは全く違う。名前に関しては同じだけれど、何もかもが違った。
キリトは黒猫団のみんなを考えて、周りを気にかけて、そうして前でみんなを守るべく立っている。
そんな姿が、アキトにとっての理想と重なって見えたのだ。
それを口にはしなかったが、みんなを守る為に必要なもの、アキトに足りないものを、キリトは全て持っている気がした。だからこそ羨望だけじゃない。僅かに嫉妬さえしていた。
自分のいない間にキリトは自分の居場所に入り込んだように見えた。みんなは、自分よりもキリトに声を掛けている気さえした。
自分が思う憧れの姿に、キリトが重なって見えたのだ。
●○●○
「────っ!」
刀を横に振り抜き、その場の敵を一掃。四散するポリゴン片を風圧で吹き飛ばし、そこから前に足を踏み込む。
目の前のゴーレム型のモンスターの懐に入り込んだアキトは、寝かせた刃で一気に斬り上げる。眩い光が刀を覆い、ゴーレムのHPと共にその身体を消滅させる。ガラスが割れるような音だけが迷宮区にこだました。
辺りをひと通り見渡し、モンスターの気配が近くに感じない事を確認すると、休憩がてら安全エリアへとその足を進める。
すぐに辿り着いたその場所に腰を下ろし、ポーションを飲み干す。表情は特別暗くはないが、その顔は疲労が見えるものだった。
黒猫団での集団レベリングは終わり、みんなが宿屋で寝静まる頃合い、その深夜帯にアキトは一人で迷宮区に潜っていた。
しかしその階層は、今日メンバー達とレベリングした場所よりも何層も上だった。
それは明らかに、アキトが他の黒猫団よりも先行しているという事実に繋がっていた。そして、彼らはアキトが深夜にソロでレベリングしている事には気付いていない。まさか就寝時間後に起きて動いているなどとは想像していないだろう。
こんな深夜にレベリングをしているという事実だけ見れば、みんなを出し抜いているように見えなくも無いが、アキトは違った。
この一人での行動は、黒猫団を守る為に強くなると決めたアキトの意思表明だった。
アキトは黒猫団の誰よりも自分が劣っていると思っている。この手のゲームは初めてな上デスゲーム、右も左も分からなかったアキトに手を差し伸べられる程に余裕のあった黒猫団のみんなとは天と地程の差があると認識していた。
だからこそ知識を身に付け、黒猫団の誰よりも強くなる。みんなの危機を極力減らす、それだけの為のレベリングだったのだ。いつかみんなで来る場所に予め来て情報と知識を得る。危険な事が起きても、対処出来るだけの強さを身に付ける。
これが、黒猫団のみんなに出来る、唯一の恩返しだと思った。
手に入れたアイテムや装備はそれとなくメンバーに配分した。勿論、武器のレベルと実力に差が出来てしまったらそれこそ本末転倒なので、狩りの際は浮き足立たないよう告げ、新しく装備しての初レベリングは必ず同行した。
そうしてまで、アキトは黒猫団を大切に思っていたし、だからこそ彼らの攻略組参加の目標を誰よりも叶えたかった。
けれど一番はきっと、黒猫団の心の強さに対する劣等感が大きかった。彼らに認められる自分になりたかったのだ。レベルを上げて、強くなれば、大切なものを守る事が出来る。そうすれば、仲間だと認められるし、仲間だと思う事が出来るから。
だがこの一人行動は、アキトが仲間という自分にとって未知な存在を持て余した結果でもあった。勝手が分からないとでも言えば良いだろうか。
初めて長く続いた他人との関係に、戸惑いや困惑を抱かずに居られなかった。手に入れてしまったら、もう引き返せない。
彼らがいない生活は有り得ないと思いつつ、生まれて初めての仲間達への接し方が分からない。
故に一人の時間を作っているというのもソロプレイの理由の一つ。つまりは、怯えていたのだ。
付き合い方、話し掛け方、接し方。言い方は色々あるけれど、大事なものが壊れないように、壊さないようにと必死になってしまう想いがあった。そう、ソロプレイはその方法が分かるまでの先延ばしとも言える。逃げ道とも言える。
だけど、逃げ出したくもなった。
自分の目標が、目指すべき理想に近しいものが、人の形をして黒猫団の前に現れたのだから。
キリトが来てからというもの、黒猫団全員でのレベリングは欠かさず出るようにしていた。キリトという要素が入った事により、彼の実力を知らないアキトにとって言えば、キリトは不安存在だった。
けれど、彼の戦う姿を見て思った。そんな考えは失礼極まりなくて、寧ろ不安要素は変わらず自分だったという事を。
黒猫団のみんなよりもレベルが高くなりつつあるアキトだからこそ分かる。黒猫団が対峙するモンスターの殆どをきっと、キリトは既に知り尽くしている。剣を握る強さ、対処の正確さ、瞳の動き、声音。そういった情報を備に観察してしまうアキトは、彼が黒猫団のメンバー達との戦闘時においては一切慌てていない事実を示していた。彼は率先してモンスターを倒す事はせず、敢えて他のメンバーに倒させ経験値ボーナスを得る手段を取っていた。
リソースの奪い合いであるこのゲームでそんな行動を何度も行える理由。それは、自分が倒してもそれほど経験値が上がらない──つまり、黒猫団のメンバー達よりもレベルが高いという事だ。
きっと、現黒猫団の中で一番の高レベルであるアキトなど比較にならない。それをアキトが知る由もないが、だがそれ抜きでもかなわないと思ったのは確かだった。
キリトのおかげでレベリングの効率が上がったのは事実。みんなそれが分かっていたから、キリトに感謝の気持ちを送っていた。その光景を遠目で見ていたアキトは、何とも言えぬ複雑な感情に襲われたのだ。
自分がなろうとした未来の姿が、既に黒猫団にいて。自分という存在が、キリトに奪われたような気がした。彼らがどう思っているかなど、自分に関係ない。キリトはもう黒猫団の仲間なのだから、こんな風に感じてしまうのは間違いで、劣等感を勝手に抱いている自分が悪いのかもしれない。
けれど、常々思ってしまうのだ。
「……サチも、キリトくらい強い方が安心するのかな……」
「──俺が何だって?」
「っ!」
アキトは咄嗟に背中の刀へ手を持っていく。すぐ後ろから気配を感じ、その場から距離を取る。
だがその声の主の姿を捉えると、アキトは目を丸くした。
「き、キリト……」
「……なんか驚かしたみたいで、悪い」
しかし、そこに居たのはアキトが先程まで脳裏で考えていたばかりの少年キリトだった。安堵の息を吐くと同時に、思わず目を逸らす。
アキトのその反応に罪悪感を感じたのか、キリトは申し訳なさそうに謝罪した。
だがキリトはそれよりも気になる事があるらしく、周りを見渡すと、アキトを真っ直ぐに見据える。
「……どうして、ここに」
「どうしてって……アキトを探しに来たんだよ。……ここ、いつもの狩場より上の層じゃないか。一人で行動する事が多いってケイタ達から聞いてたけど、いつもこんな上でレベリングしてるのか?」
「……まあ、うん」
黒猫団のみんなにすら隠していた深夜帯のレベリング。よりにもよってキリトにバレてしまうとは。
アキトはこちらを見つめるキリトの視線に耐えかね、思わずあさっての方向へと目が動く。そのまま視線の先に続く道を見据えていたが、それに気付いたキリトが前もって忠告する。
「そこからはソロだと危ないぞ」
「え……?」
「ここの迷宮区は1体で行動してるゴーレムが多いけど、このまま進むと集団でのゴーレムがいるんだ。ソロでは厳しいと思う」
「……僕らとレベルはあまり変わらないって聞いたけど、随分と上層の事まで知ってるんだね。それもソロの君が」
「っ……情報は、大事だろ」
「……まあ、そうだけど」
キリトにそう詰め寄る自分に嫌気がさした。これは八つ当たりだと、アキトは自分を責める。言葉に詰まっていたキリトの戸惑った顔を見て、自然とアキトはその視線を下に向けた。
────何してるんだ、キリトは悪くないじゃないか。彼は態々僕に情報をくれたんだぞ。感謝こそすれ責めるのはお門違いだ。
キリトの装備がレアなものだというのはひと目見て分かっていた。上層に行き、知識を得れば、それだけ装備の善し悪しが分かるようになっていた。だからこそ、キリトが自分よりも高いレベルなのかもしれないとは初めて会った時から少なからず感じていたのだ。
けれどキリトは何も言わない。だからこそ不信感があったのだが、ここ数週間のキリトの黒猫団に対する行為を備に見てきた結果、キリトはただ優しくて強い、アキト自身の目標そのものだった。
いつまでも凝りを抱えているのはアキトの方だった。近くにいれば、それだけ彼に憧れてしまいそうで。
アキトは刀を鞘に仕舞い、そのままキリトに背を向ける。取り敢えず劣っていると感じさせるその対象人物が目の前にいる事実をどうにかしたかった。
背を向けた彼を見たキリトは、慌ててその背に声を掛けた。
「お、おい……?」
「教えてくれてありがとう。もうちょっとしたら帰るから」
「待ってくれ。どうして君は、一人でこんな事をしてるんだ?」
躊躇いがちに問うたキリトの声は震えて聞こえた。その質問の奥に、何か別の意味を含んだように、アキトには聞こえた。それが何かは、 知る事が出来なかったが、彼の質問に対する純粋な答えは、これに限った。
「……強く、なりたいんだよ」
「……俺達はギルドなんだから、一人で攻略するよりみんなでやった方がずっと効率は良いはずだ」
そんな事、本当はキリトが言える立場ではなかった。だが、そんな事はアキト自身知る由もなく、キリトの言い分は最もに聞こえた。
自分一人だけレベルが上がっても、それが黒猫団のメリットに繋がるとは限らない。寧ろ、アキトが強くなる事で、パーティメンバー自身の強さを過信させてしまう可能性だってある。
それは分かっていた。けれど────
「みんなで一緒に強くなるんじゃ……意味無いんだよ。それじゃあ、僕はいつまで経っても……」
「……アキト……?」
アキトの声音に僅かな焦り。それを感じ取ったキリトは、不安げに彼の名を呼ぶ。
その二人の距離は遠からず、けど近くもない。これが今の、キリトとアキトの心の距離だったのかもしれない。
「うわああああぁぁぁああ!!」
「っ……!」
「な、何だ……!?」
突如、男性の悲鳴が耳を劈く。アキトとキリトは身体が強張るのを感じた。その只事では無いような様子と、剣の削られる音が前方で聞こえる。
その中聞き取れるのは、男性だけでなく女性の声。襲われているのは複数だと理解した。
アキトは考えるよりも先に、足が動いていた。
「お、おい、アキト!」
アキトの突然の行動に、キリトは慌てて呼び掛ける。答える事無く声の聞こえた方へと走る白いコートに向かって、キリトは後から追い掛けた。
ここから先はゴーレムが大量に発生するエリアだと、先程言ったばかりにも関わらず、アキトは無我夢中でキリトの前を走っていた。アキトよりもレベルの高いキリトは、その敏捷性により段々とアキトに追い付き、走りながらもふとその横顔を見る。
彼の目には焦りと恐怖、それらが綯い交ぜになった感情が渦巻いているように見えた。
やがてひらけた場所に出ると、その声の主がいるフィールドだった。
呼吸を整える間も無くそこを見やると、そこにはキリトの言う通り、ゴーレムの集団に囲まれたプレイヤー達がいた。
男性と女性それぞれ三人ので編成された六人パーティで、それぞれ固まる訳でも無く散り散りでゴーレム達とやり合っていた。
あれじゃあ誰もが一人でゴーレムと相対しているようなものだと、キリトは歯噛みする。
「……?」
しかし、剣を構えたキリトは、そんな彼らに焦点を合わせて一瞬だけ固まった。
彼らをよく見ると、どうやら彼らはNPCのようだった。誰もが恐怖の色をその顔に滲ませながら、モンスターと戦っている。
そしてそのNPCの中で一人だけ、本物のプレイヤーがいた。片手剣を手にした、赤髪の少女。
何かのクエストだろうか、邪魔してはいけないのではと、思考がそちらへ働き、剣を引き抜く行動が止まった。
だが、アキトは違った。
「せあっ!」
その黒刀を鞘から取り出し、その赤髪の少女の背後から迫るゴーレムを斬り飛ばした。斬属性の攻撃はゴーレムに強力なダメージを与える事は無かったが、目の前の彼女を助ける事は出来たはずだ。
「大丈夫!?」
「ぁ……」
アキトが見下ろしたそこには、戦闘の疲労とそこから連想する死への絶望で挫けそうになっていた少女が、瞳に涙を溜めながらこちらを見上げていた。
その表情と涙に、アキトは既視感を覚えた。まるで、怖いのを必死に我慢している、あの時のサチのようで────
「っ……危ない!」
「きゃあっ!」
今度は別方向からゴーレムの腕が襲って来た。アキトはすぐさま身を翻し、少女を抱き込み背中を向ける。
ゴーレムの強力な一撃は、少女を守ろうと盾になったアキトの背中に刻まれた。
「ぐあっ……!」
「ぇ……!? な……」
HPが確実に減少している事実と、背中に与えられた不快感がアキトの顔を歪ませる。
自身を庇ったアキトの事を見て、その赤髪の少女は僅かに声が震えていた。
そんなアキトの行動を見て、キリトの身体を僅かに震えた。その瞳が揺れ、彼の行動に困惑する。
だけど、目の前でギルドのメンバーが殺されるのを、キリトは黙って見ていられなかった。
「っ……はあああぁぁっ!」
片手剣斜め切り《スラント》が、アキト達に再び迫るゴーレムの顔を吹き飛ばす。その筋力値にものを言わせた一撃が、ゴーレムを四散させる。
「アキト、大丈夫か!?」
「キリト……」
自分を助けてくれたキリトの姿を思わず見てしまう。
自分が情けなくなるくらいに格好の良いその立ち姿に思わず固まった。
キリトはアキトに近付き、剣を周りに向けながら口を開いた。
「ゴーレムに襲われている彼らはNPCだ。多分、彼女のクエストなんだと思う」
キリトは未だアキトの腕の中にいる赤髪の少女を見下ろす。
そう言われてアキトは周りで別々に戦っているプレイヤーを見渡した。よく見ると、確かに彼らはNPCだった。そして、自身が助けた目の前の少女だけが本物のプレイヤーだと確認出来た。
「転移結晶は持ってる?」
「ぇ……は、はい」
少女は困惑気味ではあるが、小さく頷いた。
アキトは自身も動揺しながらも、目の前の彼女に悟らせてはならないと、全力で己を律する。
何より、すぐ近くで立っているこの黒の剣士に、なんとなく負けたくなかった。
「キリト、彼女を逃がす時間を稼ぐの手伝って欲しい」
「……言っとくけど、ここのゴーレム集団かなり面倒だぞ」
「さっき聞いたよ」
アキトは小さく笑って立ち上がる。
少女は戸惑いながらもアキトを見上げていた。そんな彼女に対しても小さく笑ってみせる。大丈夫だと、そう思わせる。
黒刀を構え、キリトと自身で少女を囲う。背中合わせに感じる互いの気配。周りにいるゴーレムを退けるのに、不足の無い仲間だと理解した。
「まずはNPCの周りのゴーレムを退けてくれ!」
「分かった!」
キリトの指示で互いに飛び出す。
アキトはすぐ近くにいた両手剣使いの男性NPCの目の前のゴーレムの顔を刃先で突き飛ばした。返す刀でそのNPCの横にいたゴーレムをソードスキルで薙ぎ払う。
紅く煌めく刀身が、周りゴーレムを僅かではあるが確実に退けて、NPCと彼女の間に空間を作る。
「しっ!」
二人が合流するのを確認したキリトは、《ヴォーパル・ストライク》の突進力で一気に地面を駆け抜け、短剣を持った女性NPCと、曲刀を装備した男性NPCの間にいたゴーレム達を片付けた。
その二人が合流した後、周りのゴーレムを《ホリゾンタル》で斬り付ける。筋力値が高いキリトの攻撃は、たとえ初期スキルだとしても絶大な威力を誇る。ゴーレムの何体かは一撃で四散した。
「アキト、そっち行ったぞ!」
「了解!」
キリトが取り逃したゴーレムがアキトの背中に迫る。残りのNPC二人を合流させたアキトはその身を翻し、刀を両の手に持ちながら敵共を見据える。普段からは考えられないような冷たい視線が、ゴーレムを突き刺す。
刀の単発範囲技《旋車》が、アキトを中心として円を描く。キリトが減らしたHPにより、アキトのソードスキルでゴーレムが吹き飛ぶ。
既に何体ものゴーレムを倒しているにも関わらず、数が減った様子は無い。まるで、何かのトラップのようで、このままでは全滅も有り得る。
キリトが危険だと言っていたのはこういう事だったのかと、アキトは焦りを隠せない。
「キリト!」
「分かってる!みんな転移結晶を使え!」
キリトは集まった6人のパーティにそう呼び掛ける。その指示を理解した彼らは、各々転移結晶を取り出した。NPCのその賢さに関心するも束の間、その中で一人だけプレイヤーである赤髪の少女はその提案を飲めずにいた。
「で、でも……!」
「早く!」
「っ……」
アキトのその声に、少女は言葉を詰まらせるが、申し訳なさそうな表情を浮かべ、最終的にその転移結晶に行き先を告げていた。
罪悪感を感じさせぬよう、アキトは最後、少女に笑ってみせた。少女はその瞳に涙を溜めながらも、目を見開いてこちらを見ていた。
動揺でその瞳が揺れていた彼女に送る、精一杯の強がり。大丈夫、心配無いと、そう言葉を告げた。
消えゆく彼女達のその姿を見届け、刀を斜に構える。
ゴーレムの集団なんていう珍しい団体に、アキトは額に汗すらかいていた。
思えば今まで、こんなモンスター達を相手にしていたのかと、今更身体が震えていた。こんな得体の知れない集団相手に人を助けに入った、その自分の無謀さに笑えてさえきていた。
けれど、それを突破出来たのはきっと、後ろで片手剣を構えている、キリトのおかげ────
「……キリト」
「え?」
「……ありがとね、僕の我儘に付き合ってくれて」
キリトの忠告を聞かず、レベリングを続けようとして、そしてその先で出会った彼女達の救出の手伝いまでさせた。
迷惑ばかりかけた自分に、キリトへの劣等感も相成って、不甲斐なさがアキトを襲う。
けれど、そんなアキトの謝罪を驚きながら聞いていたキリトは、次第に口元を緩め、小さく笑っていた。
「……いや」
「……?」
「君は正しい事をしたと思う。謝る事なんか何も無いよ」
「……そっか」
アキトはそう言って笑う。キリトは、そんな彼の背中を振り向きざまにチラリと見た。
彼の行動に、キリトはなんとなく魅せられていたからだ。
悲鳴に真っ先に駆け出し、顔も知らない相手に向かって、理由も無く助けに入るその姿勢。
自分ではなく、他人の為に動いたアキトのその姿に、キリトは僅かに劣等感を感じていた。
(……けれど、今は……)
キリトはアキトから目を離し、剣を構える。
(このゴーレム達をどうにかしなきゃ……)
アキトは黒い刀身をした刀を周りを囲うゴーレムに突き付けた。
助けるべき人達は助けた。後はこのゴーレムの集団を片付けるか、何処かのタイミングで離脱するだけ。
互いがそれを理解し、頷いた。
白いコートと、黒いコートが翻る。
とある迷宮区の暗がりで、そんな二人の戦いが始まろうとしていた。
けれど、何故か二人は負ける気はしなかった。
何故だか、背中を守ってくれる存在が彼なら、と互いがそう思っていた。
二人が一緒なら、きっと今まで以上の力が出ると、そう思った。
誰かが共に戦ってくれる事以上に、心強い事は無い。
それをこのゴーレム達は、後に知る事になるだろう。
小ネタ 『キリト、初めて見る《
アキト 「────っ!」
刀三連撃技《緋扇》
コネクト・体術《閃打》
コネクト・刀二連撃《幻月》
コネクト・体術《衝破》
キリト 「なっ……え……!?」
キリト (何だ今の……あんなスキル見た事無いぞ……いや、刀スキルと体術スキルを交互に発動したのか……!? スキル硬直はどうなって……!?)
アキト 「っ!? キリト危ない!」
キリト 「え……ぐはぁ!」←ゴーレムの一撃!急所に当たった!
アキト 「キリト!?」
END√(辿る道にさほど変化はないが、導く結果は変化する)
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√HERO(キリトが主人公ルート)
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√BRAVE(アキトが主人公ルート)
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√???(次回作へと繋げるルート)
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全部書く(作者が瀕死ルート)