この素晴らしい世界に祝福を! ウィズの冒険   作:よっしゅん

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そういえば、この仮面の悪魔に相談を!がいつのまにかコミカライズされてるみたいですね。単行本買わなきゃ……
個人的にはブラッドとロザリーの容姿が気になりますね……


第3章
この素晴らしい思い出たちに祝福を!①


 

 

 

 

「おらぁ! よし、そっち行ったぞ!」

 

「ウィズ、チャンスよ!」

 

 二人の大声が響く。

 そしてこちらに向かってくる蜘蛛のモンスターに対して、魔法を放つ。

 

「『ライト・オブ・セイバー』!」

 

 すると光の魔法があっさりとモンスターの胴体を引き裂いた。

 

「ふぅ……これで全部?」

 

「あぁ、情報通りなら三匹だけなはずだ」

 

 先程倒したので三匹目、そして魔法による探知でも反応がないという事は……

 

「じゃあ依頼達成ね、はやく帰りましょう。暑いし汗だくだからはやいところ水浴びしたいわ」

 

 ロザリーがそう言う。

 確かに今日の陽射しはかなりのものだ。

 

「よし、じゃあ『王都』に帰りましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この世界に来て早数年、もうすぐで私は二十歳になる。

 今では拠点をアクセルの街から王都へ移し、それなりの成果を上げているため、私達のパーティーは他の冒険者や魔王軍にも一目置かれている……

 名が売れる、それ自体は悪い事ではないのだが……

 

「……いつになったら魔王の所に行けるようになるのよ!」

 

「どうどう、落ち着きなさいよウィズ。そんな事言っても、今すぐ魔王城の結界が消えるわけじゃないわよ? ほら、あんたの好きなジュース」

 

「……ねぇロザリー、私もうすぐで二十歳になるんだけど、なんで未だにお酒飲ませてくれないの?」

 

「あんたには……まだ早いのよ」

 

 何故目をそらすのだロザリーさん。

 

「大体なんで魔王軍の幹部って何人もいるのよ、普通四人でしょ、四天王なはずでしょ……」

 

「その、してんのうっていう基準は解らないけど、確かに多いわよねぇ。けど焦っても仕方ないし、地道にいきましょ地道に」

 

 地道か……確かにその通りだが、一刻も早く私は魔王軍の幹部達を倒して結界を解き、魔王を倒さなくてはならない。

 だって『私』は……

 

「なに難しい顔してるのよ、お腹でも壊した? きっとそんなお腹丸出しのエロい格好してるからね」

 

「す、好きでしてるわけじゃ……!」

 

 今着ている服というか防具類は普通のものではなく、色々と便利な魔法のエンチャントがされてる特注品だ。

 ただ、デザインの方は全て任せてしまったため、中々奇抜なデザインになってしまったが、返品もできないしそこそこの値段がしたから捨てるに捨てれないというか。

 

「そんなウィズに朗報だぞ」

 

 と、ここで受付に依頼の件を報告しに行っていたブラッドが戻ってきた。

 

「朗報? ついにカレンとユキノリが結婚するとか?」

 

 成る程、確かにそれは朗報だ。

 カレンとユキノリは王都に来てから新しくパーティーに加わった仲間なのだが、周りから見てすぐわかるくらいにあの二人は両想いなのだ。

 ちなみにその二人とは今別行動しているため、他の街にいる。

 

「違えよ、幹部だよ幹部。魔王軍の幹部の目撃情報が入ったんだ」

 

「え、うそ!?」

 

 話をすればなんとやら、まさかこうも都合よく話が進むとは思わなかった。

 

「おう、しかも二つもあるんだ。一つは丁度ユキノリ達がいる街の近く、もう一つは最近見つかったダンジョンでだ」

 

「ダンジョン? もしかして王都の近くで見つかったあの新しいダンジョンのこと?」

 

「あぁ、今のところ目撃情報しかないから、完全に信用できるわけじゃないが……どうする?」

 

 どうするも何もない、やる事は決まっている。

 

「行きましょう、魔王軍幹部を倒しに!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話し合いの結果、私達のパーティーは王都近くのダンジョンの方へ行く事にした。

 カレンとユキノリも実力は備わっているし、その街の冒険者達もいるだろうから今すぐに向かわなくても大丈夫だろうという判断のもと、まずはダンジョンの方の幹部を倒し、それから応援に行くという計画にした。

 しかし誤算だったのが……

 

「……というか、一体どれだけ深いのよこのダンジョン、もう一週間くらいははダンジョンの中なんじゃない?」

 

「あぁ、いい加減太陽の光が恋しいな」

 

 ダンジョンが深すぎる、という事だった。

 未知のダンジョンゆえ、それなりの覚悟はしていたが、まさかこれ程までに奥があるダンジョンとは思わなかった。

 

「二人とも頑張って、いざとなったら魔法ですぐに帰還できるから、もうちょっと進んでみよう」

 

 そう二人に励ましの言葉を送るが、かくいう私も少しこたえてる。

 あぁ、あったかいお風呂が恋しい……

 

「てか、本当に魔王軍幹部がこんな所にいるの? いなかったら全くの無駄骨なんだけど」

 

「さぁな、だったら潔くレベル上げのためだったって割り切るしかないな」

 

 食料類ももう少しもつため、このまま先へ進むことに。

 途中に立ち塞がるモンスター達も、幸い王都近くのモンスターの強さと同じぐらいなため、難なく進むことができている。

 

「……まって、敵感知に反応がある。すぐ近くよ」

 

「んー、あの物陰から? 一体どんなやつ……げ、オーガゾンビじゃない!」

 

 オーガゾンビ、ゾンビ系のモンスターの中でも耐久力がずば抜けているモンスターだ。

 

「ブラッドはオーガゾンビを惹きつけて! その間に私とロザリーが魔法で叩いていくから!」

 

「「了解!」」

 

 流石にこの二人とは長年の付き合いだ、今更オーガゾンビなんかに引けをとる筈がない。

 ソードマスターとなったブラッドが敵の注意をひき、アークプリーストのロザリーが浄化魔法、そしてアークウィザードの私が灼熱魔法で焼き払う。

 単純だが、効果的な策だった。

 

 やがてオーガゾンビ達を退けた私達の目の前には、一つの宝箱があった。

 

「大丈夫、罠は無いしミミックでもないわ」

 

「おぉ、それじゃあ早速開けようぜ! これだけ深い階層にある宝箱だ、きっと良い物入ってるぞ!」

 

「ちょっとブラッド、あたしが先に確認してあげるからあんたはそこで休んでなさいよ!」

 

 魔法で宝箱に何も問題が無いことを伝えると、二人が後ろで争いを始めた。

 やはり冒険者という手前、こういった宝箱はいくつになってもドキドキするものだ。

 二人が争っているのを横目に、私は苦笑しながら箱に手を伸ばす。

 すると宝箱は自動的に開き、その蓋を勢いよく跳ね除けた。

 

「ドカーン!!」

 

「きゃあああああっ!?」

 

 ーー宝箱にはお宝など入っておらず、代わりに入っていたのは仮面を付けた大柄な男だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宝箱から飛び出したこの仮面の男はどうやら、私達が探していた魔王軍の幹部の一人らしい。

 しかも地獄の公爵と呼ばれる大悪魔で、名は『バニル』

 その実力はロザリーの渾身の封印魔法をアッサリと破ってしまうほどだった……

 そんな地獄の公爵バニルを中心に、今私達は取り囲むように座ってバニルの話を聞いている。

 

「つまりあんたは、魔王軍の幹部ではあるものの結界の維持を頼まれただけで、人に危害を加えるつもりはないと」

 

 そしてバニルの話をブラッドが一纏めにして口に出す。

 

「そんな事信じられないわ! だってコイツは悪魔なのよ!? 一部を除くけど、基本悪魔といえば卑怯で鬼畜で人に害を与える事しか考えていない連中なのよ!? 悪魔は滅ぼすべきだわ!」

 

 とここでロザリーが大反発、まぁ当然といえば当然なのだが。

 

「そうは言うが、女神という連中も日頃何もしてくれないくせに信じれば救われると嘯き、寄付をすれば天国に行けると言って金を毟り、人に害を与える事しかしない連中ではないか」

 

「神の敵め、滅ぼしてやる!」

 

 バニルの言葉にロザリーが大激怒し、それをブラッドが抑える中、私は深く息を吐きながら言った。

 

「あなたの事情は分かりました。でも私達は王国から魔王軍幹部討伐の依頼を請けてここに来てるの。それに個人的にも、幹部を逃すわけには……あの、何か?」

 

 此方の事情もあるため、このまま逃すわけにはいかないと伝えようとすると、何故かバニルは私の顔をジッと見つめている。

 

「ふむ、我輩の見通す力が通じない……汝、人間にしては中々の腕前を持っているようだな。それと実に不可解な魂の形をしているな……これはまさか」

 

 と、何やら意味不明な事を呟くバニルに、私は困惑するしかなかった。

 

「ウィズ、いいからソイツやっちゃって! あたしのメイス貸すから脳天カチ割っちゃって!」

 

「落ち着けってロザリー、せっかく相手が戦いたくないって言ってるんだし、一旦ここは落ち着こうぜ!」

 

「うむ、そろそろ冒険者を引退して、嫁でも貰ってのんびり暮らしたいと思っているが、長年一緒にいた女と、一目惚れした女どっちを嫁に貰えば良いか割と真剣に悩んでいるその男の言う通りだ」

 

「おいあんた何言ってんだ! さっきからちょこちょこ変な事言わないでくれ!」

 

 バニルのその一言で、ロザリーとブラッドが言い争いを始め、それをバニルが面白そうに見ている。

 何とも混沌とした空気だ。

 

 ……まてよ、もしかして今チャンスなのではないだろうか。

 このバニルは今二人のやり取りに夢中だ、もしやるなら……今しかない。

 良いんだ、たとえ害が無いと主張しても、魔王軍幹部ならば私にとって打ち倒さなければならない敵だ。

 

 そして私はこっそりと魔法を唱え、光魔法を放った。

 

「……不意打ちとはいえ、まさかこの我輩を倒すとは……見事だ、冒険者よ……」

 

 バニルは突如体に奔った光魔法の斬撃跡を驚愕の表情で見た跡、そう言ってその体を土くれのように崩していく。

 ……あれ、もしかして本当に倒したのだろうか。

 

 戦う気がない相手を倒してしまった罪悪感を感じながらも、二人の気遣う言葉を受け取り、地上に戻るための転移魔法を唱え始める。

 

「『テレポート』!」

 

 魔法が発動した、その瞬間それは起こった。

 

「フハハハハハハ! 我輩を倒せたかと思ったか? 残念、またダンジョン入り口からやり直すがいい! 待っておるぞ冒険者よ!」

 

 倒したはずのバニルが、笑いながらそう言ったーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いつ思い出しても、あの時の『バニルさん』は酷かったなぁ」

 

 結局あれから私達は何度も何度もあのダンジョンに出向いた。

 そしてバニルさんはロザリーの体を乗っ取ってブラッドをからかったり、私の姿を模してブラッドをからかったり……あれ、思い返せばブラッドばかりが酷い目に遭っている気がする。

 

「でも、今思えばとても大切な思い出になったかな」

 

 当時はバニルさんの嫌がらせにうんざりしていたが、今では良い思い出だ。

 

「……そして『俺』が『私』になったきっかけでもある。ふふっ、人生何があるかわからないものね、本当に……」

 

 ーーもう少しだけ、思い出に浸るとしよう。

 

 

 

 

 




『カレンとユキノリ』
ハッキリと出すべきか迷いましたが、今更新キャラとして出すのもどうかと思ったので、名前だけの登場となります。
というか、原作だと他の仲間がブラッドとロザリー以外に三人いるような発言がありましたが、ウィズ達のパーティーは全員で六人だったのだろうか……?

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