この素晴らしい世界に祝福を! ウィズの冒険   作:よっしゅん

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エピローグ

 

 

 

 

 

 人生とは驚きの連続だ。

 別にそれが悪い事とは言わないし、むしろ成長に繋がる可能性もなきにしもあらずというやつだ。

 しかし、何事にも限度というやつがある。

 余りにも度がすぎると、それは既にタチの悪い悪戯と同じだ。

 

「どうしたのよウィズ、ボーっとして」

 

「……あの、ロザリー。いや、ロザリーさん……『あれ』があなた様のご自宅で?」

 

「なんで敬語なのよ……もちろんそうよ、嘘なんてついても意味ないじゃない」

 

 少し時を遡ろう。

 まず街の観光を一通り楽しんだ後、ブラッドとは一度家族の元へ顔を出しに行くらしく、一先ず別れた。

 そして自分も、夕食の時間に行う予定のロザリーの誕生日パーティーなるものに参加する前に、今夜の宿を探そうとしたのだが。

 

『別に私の家に泊まっていいわよ? そっちの方が何かと楽でしょ?』

 

 と、ロザリーが提案してくれたので、悩んだ末に甘えることにした。

 余裕がある時でも、お金というのは大事だし、節約出来るのならしておきたい。

 そしてロザリーの跡をついて行くとそこには……

 

「で、でもこれどう見ても……とても大きくて立派な教会にしか」

 

「だから、この教会が私の家なのよ。それに大きいといっても礼拝所とかのスペースが大きいだけで、居住区は結構普通の大きさよ」

 

 街に入った時にも見えた、あの大きな教会だった。

 

「えー……」

 

 しかし、それでもこんな立派で、いかにも街のシンボルの一つみたいな教会に住むだなんて、普通ではあり得ないのではないだろうか。

 もしかしてロザリーの家系は何か凄いところなのか、もしくはこの世界ではあまり珍しくもないことなのだろうか……

 

「何してんのよ、はやくこっちに来なさいな」

 

「あ、うん……」

 

 教会の正門をくぐり、真正面にそびえ立つ扉……ではなく、くぐった先を右にそれて進んで行くと、裏口っぽい小さな扉の前に辿り着く。

 おそらくだが、先ほどの真正面の扉は礼拝堂とかに直接繋がっていて、此方の小さな扉はロザリーの言う居住区の方に繋がっているのだろう。

 

「ただいまー!」

 

 特にノックなどはせずに、扉を開けて元気が良い大きな声を出しながら中へと入ってくロザリーの後ろで、小さくお邪魔しますといって自分も中へと入る。

 すると通路の奥から女性が一人。

 

「あら、お帰りなさい……ローザマリア」

 

「うん、ただいま……お母さん」

 

 その女性はロザリーのような銀髪で、顔立ちがロザリーそっくりだった。

 違うところといえば、髪の長さぐらいなのではないかと思うほどに。

 成る程、この人がロザリーの母親か……あれ、でも何か違ったような。

 

「お母さん、紹介するわ。私達の新しいパーティーメンバーのウィズよ」

 

「まぁ、あなたが……いつも娘がお世話になってます」

 

「あ、いえ……は、初めまして、ウィズリーと申します」

 

 なんだろう、顔立ちがロザリーに似ているのに、深々と綺麗なお辞儀をするものだから、性格が大人しめのロザリーって感じがして変な感じだ。

 どうやらロザリーは母親から、性格までは引き継がなかったようだ。

 

「何か言った?」

 

「言ってない……よ?」

 

 平然と心を読まないでほしい、こわいから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お父さんと弟は今用事で出払ってるから、帰り次第パーティーを始める事にしたのはいいんだけど……どうするウィズ、この暇な時間」

 

「どうするって言われても……」

 

 ブラッドもまだ来ていないようだし、ロザリーの母親はパーティーの支度をしている。

 手伝いも不要と言われたので、必然的に時間になるまで何もする事がなくなってしまった。

 こんな事なら、街の観光を後にしても良かったかもしれない。

 

「じゃあこのまま適当に駄弁ってましょうか、しばらくしたらあいつも来るだろうし……そしたら三人でカードゲームでもすれば良いわよね」

 

 成る程、と言うことはロザリーと二人っきりでガールズトークというわけか。

 それなら聞きたいこともあったし、丁度良い。

 

「ねぇ、さっきロザリーって、『ローザマリア』……って呼ばれてなかった?」

 

「んー? 言ってなかったけ、私の本名はロザリーじゃないわよ。ロザリーってのはあんたと同じ愛称みたいなもんよ、ウィズ」

 

 そ、そうだったのか……しかしそれならそうと普通に教えてくれてもよかったのではないか。

 

「私の本名は、ローザマリア・エレスティアっていうのよ。流石に田舎者のウィズでも、エレスティアっていう名前は聞いた事ないかしら?」

 

 首を横に振る。

 

「……まぁ良いわ。エレスティア家は代々エリス教の総司祭を務めてる家系なのよ」

 

「そうしさい……つまり?」

 

「つまり一番トップってことよ」

 

「へぇ、エリス教のトップ……ええええぇぇぇ!?」

 

 国境として崇拝されているエリス教、国の通貨の名前としても使われているエリス教。

 そんなエリス教の総司祭をロザリーの家系がやっている!?

 

「じ、じゃあロザリー……ローザマリアさんは実はとっても凄い人だったり……?」

 

「肩書きはまだお父さんのものだけどね、まぁ近い将来私か弟が継ぐ事になってるけど……後いつも通りロザリーでいいから」

 

 確かにロザリーは優秀なプリーストだ。

 しかも、聞けば既にアークプリーストになれるくらいの実力があると以前聞いたし、その実力は確かなものだろう。

 しかしそうなると、疑問が湧き出て来る。

 

「えっと……じゃあなんで冒険者なんて危険な事やってるの?」

 

 プリーストとして優秀で、家柄の関係で既に将来が確定されたようなものだというのに、ロザリーは何故かいつ死んでもおかしくない冒険者なんてものをしている。

 それは一体どういう事なのだろうか。

 

「それは……まぁあれよ」

 

 突然歯切れが悪くなるロザリー。

 

「あぁ、そういえば初めて会った日に言ってっけ。幼馴染のためだって……ねぇ、それもしかしなくても、ブラッドのことでしょ?」

 

「……なんでそんなどうでも良いこと覚えてるのよ、あんたは」

 

 あの時のロザリーはおそらく話の話題が欲しくて、自分にその話をしたのだろう。

 しかし、後になってその話をしてしまったのが恥ずかしくなったと言わんばかりの様子のロザリーさん。

 

「この際だから教えてよ、二人の関係」

 

「……そんなに面白いものじゃないわよ?」

 

 何、以前からブラッドとロザリーの関係は知りたいと思っていたのだ。

 それがどんなものであろうと、きっと自分にとっては有意義な話になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ほんの少しだけ、人生が退屈だと思った。

 

 私はエレスティア家の長女として産まれ、その才能は歴代最高とも言われた。

 私の少し後に産まれた弟も、中々の才能を持っていたが、私と比べると少しだけ私の方が優っていた。

 だからきっとお前は、素晴らしい司祭になれると周りから称賛された。

 

 正直、煩わしさを感じた。

 

 別にエリス教に不満があるわけでもないし、総司祭の跡取りとして過ごしていくのは誇りに思えた。

 両親のことも尊敬してるし、その道はきっと誇れるものなんだと幼いながらも確信できていた。

 しかし、同時に退屈を感じていた。

 既に決められた道を進むだけというのは、とても退屈だ。

 将来が約束されている……それだけが私にとって唯一の不満だった。

 もしかしたら、私はどれだけ辛くても、苦しくても、悩んで悩んだ末に自分の道というのを決めたかったのかもしれない。

 

 そんな思いを胸に秘めたある日、偶々散歩でそれを見つけた。

 川沿いの土手で、赤い髪をした同い年くらいの男の子が、木製の剣を振り回しているのを。

 

 ーー不思議と私はその男の子をその場で見続けた。

 何をしているのか、何の意味があるのか……そんな事はどうでもよかった。

 只々、息を切らし、汗を垂らしながらも一生懸命に素振りをしている男の子に、私は釘付けになっていたのだ。

 

「何か用か?」

 

 するといつからか気付いていたのか、土手の上に立っていた私に男の子は突然話しかけてきた。

 

「別に、ただ見てただけよ」

 

「ふーん……まぁ邪魔しなければそのまま見てても良いぞ。面白くもなんともないと思うがな」

 

 と、本人の承諾がでたため、遠慮なくそのまま見続ける事にした。

 その日は夕刻の鐘の音が街に響いたと同時に、男の子は帰ってしまったため、仕方なく私も帰った。

 

 そして次の日、昨日と同じ道を散歩してみると、見覚えのある男の子が同じ場所で同じような事をしていた。

 

「……またお前か、やっぱり俺に何か用でも?」

 

「昨日言った通り、ただ見てるだけよ」

 

 あっそ、と男の子は私から目線を外すと、また素振りを始めた。

 私はそれを見続ける。

 

 その次の日、そのまた次の日もずっと。

 晴れでも、雨でも、風が強い日でも、雪が降る日でも、私と男の子は毎日同じ事を繰り返した。

 

「ねぇ、あなた名前は?」

 

「あー……? ブラッドだよ」

 

 ある日何となく名前を訊ねてみた。

 すると男の子はブラッドという名前という事が分かった。

 

「お前は?」

 

「え?」

 

「だから名前、他人に聞いといて自分は教えないつもりなのか?」

 

 その言葉に私は少なからず驚いた。

 自意識過剰かもしれないが、割と私はこの街では有名だからてっきりこの男の子……ブラッドも知っているのかと思い込んでいた。

 

「……ローザマリア・エレスティア」

 

「長えよ、略してロザリーとかで良いだろ」

 

「ロザリー……? ……うん、ロザリーで良いわ」

 

 一瞬で私はロザリーという愛称を気に入った。

 理由は分からなかったが、嫌な気分ではなかった。

 

「ねぇブラッド、あなた毎日ここで何をしてるの?」

 

「は? 今更それ聞くのか……? 見ての通り特訓だよ」

 

「特訓?」

 

「そう特訓、大人になったら俺は冒険者になるんだ。だからその特訓」

 

 冒険者、それは私でも知っている言葉だった。

 常に危険が隣り合わせの、一種の職業だ。

 

「何で? 親に言われたから冒険者になるの?」

 

「違うよ、俺が冒険者になりたいって思ってるからなるんだよ」

 

「どうして? 死ぬかもしれないんだよ?」

 

「その時はその時だ、大抵の男ってのは街で平和に暮らすより、多少の危険を承知の上で人生を生きた方が良いなって思う生き物なんだよ……まぁ女のお前には分からないかもしれないが」

 

「うん、分からないわ」

 

 分からないけど、何となく羨ましいと思った。

 ブラッドは誰に言われるでもなく、自分で冒険者という道を選んでいる。

 それが私にとって、とても眩しく見えたのだ。

 

 

 

 

 結果として、私も冒険者になった。

 理由は……語るまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何よ、そのにやけた顔は」

 

「ふふっ、別に」

 

「嘘おっしゃい、絶対内心笑ってるでしょあんた! この、このっ」

 

「いたたた! やめて、ちぎれる! ちぎれちゃうから!」

 

 結局、ブラッドが部屋を訪ねてくるまでロザリーに延々と攻撃され続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、そんな事もあったなぁ」

 

 懐かしい思い出の数々にについつい顔が緩んでしまう。

 今思えば、この街アクセルで冒険者をやっていた頃が一番楽しかったのかもしれない。

 

 あの時から既に『十年以上』……時の流れというのは早いものだ。

 

「……あの二人は元気にしてるかな」

 

 ふと思い出にも登場したかつての仲間の二人の事が脳裏に浮かんだ。

 訳あってあの二人とは暫く会っていない。

 というより、お互いに会いにくいというのが理由かもしれないが。

 

「……あ、もうこんな時間」

 

 思い出を掘り返すのに夢中になっていたせいか、いつもより長い時間掃き掃除をしてしまったようだ。

 道具を片付け、店内へ入る。

 

 私が経営しているお店は魔道具メインの魔道具店だ。

 当然のように店内の棚には魔道具が陳列されている。

 ……何故か繁盛はしていないが。

 

「えっと……衝撃を加えると爆発するポーション、フタを開けると爆発、水に触れると爆発、温めると爆発するポーション……うん、全部入荷できてる」

 

 間違いない、この新商品達はきっと売れるだろう。

 その想いを胸に、新商品達を棚に並べていく。

 

 そしてやる事が無くなったので、カウンターの内側の椅子に座り込み、ぽーっとしてみる。

 ……暇だ。

 相変わらずお客さんが来る気配がないので、折角だしもう少し思い出に浸るとしよう。

 

 

 

 

 

 




二章終了です。
いよいよ本番というか、伏線も回収しつつ完結に向かっていきたいです。

『ラーグリス』
アクシズ教の総本山があるならエリス教の総本山的な所があっても良いんじゃない? という作者の安直な妄想からできた街。
多分もう出番はない。

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