東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜   作:糖分99%

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最下部に挿絵があります。爆煙ムズカシイ。表情もムズカシイ。


超能力者と桃色玉 ☆

「お、おまっ、お前お前お前! なんでカービィを抱いているんだっ!?」

「そ、そっちこそ! なんで幻想郷の住人がカービィを知っているわけ!?」

 

 魔理沙と宇佐見菫子のお互いに思わぬ所で出くわした二人は、音の反響するトーチカで構わず絶叫をあげる。

 当然、内部でぐわんぐわんと二人の声は唸るように反響し、周囲にいたワドルディやカービィまでもが耳……がありそうな部位を押さえる。

 

 しかし当事者二人は一切構わず論戦を始める。

 

「カービィは私の親友だ! おいでカービィ!」

「ぽよっ!」

「あっ、ちょ、返しなさい!」

「嫌だね! 私の方がカービィとの付き合いは長いんだよ!」

「嘘だ! 私は幼い時からカービィシリーズ遊んできたんだ! 私の方が長いもん!」

「そりゃ『げーむ』だろうが!」

「何を!」

「何だと!」

「やるか魔法少女!」

「おうよペテン師!」

「こいやアバズレ!」

「んだとコノヤロウ!」

「はーいはーい、淑女のお二方落ち着いて下さーい」

 

 なにやら物騒な単語が飛び出してきたあたりでバンダナのワドルディが割って入る。

 若干手遅れ感はあるが、狭い上に火薬満載のトーチカ内部での弾幕ごっこを阻止できたのだから十分だろう。

 世の中の紳士諸君が見れば100年の恋も冷めそうなものだが、まぁ紳士諸君は淑女の方々に期待しすぎな部分もあるのでそういう面もあるさと広い心で許してほしい。

 

 ひとまずは鳴りを潜めた二人だが、未だ両者の間では火花が音を立てて飛び散っている。

 ワドルディ達はそれを不安そうに見つめ、バンダナのワドルディは胃が痛くなるような思いで間に立ち、当のカービィは図太くも早速魔理沙の腕の中で眠っている。

 眠っている間に来られるという幻想郷で眠りだすとはこれいかに。

 

「……取り敢えず、カービィは元々外の世界の『げーむ』だから、外にいるお前がカービィの存在を知っているのは理解できる。だが、なんでお前が幻想郷にいるカービィ達と知り合っているんだ?」

「偶然この辺りでわにゃわにゃしてたのを見つけたのよ。で、この子(バンダナのワドルディ)とか、デデデ大王とか、メタナイトとか、人の言葉を話せるキャラとも出会って色々話を聞いているうちに、ちょっと親近感湧いて、最近ここに通っているのよ」

「親近感? なんでだ?」

「眠っている間だけ幻想郷に来られるんでしょ? 私と同じじゃない」

「ああ、なるほど。そういうことか」

 

 魔理沙の脳裏に浮かぶのは、あの時菫子が撒き散らしたオカルトボールの異変。

 結局あの後散々暴れまくった菫子は元の世界に返された……はずだったのだが、どういうわけか眠っている間だけ幻想郷に来ることができるようになったという。

 たしかに、これはカービィ達と同じ境遇だし、親近感も湧くだろう。

 

 と、ここで魔理沙はある単語が引っかかった。

 

「……ん? さっきデデデ大王とメタナイトって言ったか?」

「ええ。……知ってるの?」

「当然だ。世話になったからな」

「……ちょっとタンマ。何、どういうこと? 本当になんで魔理沙が彼らのこと知ってるわけ?」

 

 菫子の疑問に、魔理沙は意味で起きたことをざっくりまとめて語る。

 その間、菫子の目が『信じられない』とばかりに見開かれてゆく。

 

「じゃあ、ここにいるカービィは本物そのものなんだ……」

「そりゃそうだ。こうやってしっかり触れるわけなんだからな」

「うーむ……まぁゲームに縛られているのに、こうやって幻想郷で自由に動けるわけないよね」

「ま、そういうことだね。ボクらはほとんど外の世界の枷から外れたようなものだからね」

「……あ、そういやもう一つ質問があるな。菫子は一体ここで何しているんだ?」

 

 魔理沙の質問に菫子は少しばかり首をひねり、そして呟くように答える。

 

「……兵器開発?」

「うげ、物騒な。もしかしてこの物騒な建物もか? 不思議な力を使うとは思っていたが、ここまでとは……」

「ふふん、外の世界の力をなめないでもらおう! 今ではポケットの中のグーグル先生がなんでも教えてくれる時代だからね!」

「正確に計算して設計して作り上げたのはボクらだけどね。あと、菫子さんみたいな前例があるとわかった以上、多分ボクらが寝ている間に幻想郷に来てしまうのは誰かの攻撃の可能性は低いわけで……ぶっちゃけ、この『とーちか』も必要ないんだよね」

「アレ!? じゃあなんで私に色々と調べさせたわけ!? 」

「ボクらの世界には無い技術だから、色々教えてもらおう……ってメタナイトが言ってた」

「あの青仮面……思いの外腹黒い!」

 

 騙されたと言わんばかりに地団駄を踏む菫子。

 なんだか色々と可哀想なのでそっと目を逸らしつつ、『とーちか』なるものに目を向ける。

 

「で? これって何ができるんだ?」

「ああ、せつ────」

「よくぞ聞いてくれた! 私が説明しよう!」

「おう復活早いな」

 

 一瞬でその活力を取り戻した菫子は、バンダナのワドルディを遮り踏ん反り返る。そんな菫子を無言で見つめるバンダナのワドルディの心境はいかに。

 しかしそんなことも無視し、菫子は魔理沙とバンダナのワドルディを引き連れ、一つ広い部屋に着く。

 屋根はドーム状で、パカリと割れ、空が見える。

 そしてその割れ目から、黒金の巨大な筒が、空に向けそびえ立っていた。

 

 その筒の根元をバンバン叩きながら、自慢気に解説しだす。

 

「これぞ! 列車砲アハトアハトを元にプププランドの科学力と私の超能力で作り上げた革新的大砲! 威力はそのままに、排気を抑え、爆音も抑えた環境に優しいクリーンな戦争を! 名前を『アイゼンゴッド・SuMiLeKo=DXⅡ』!」

「なるほど、わからん。てか名前が絶望的にセンスがないな」

「な、なんですってぇ!?」

「もう『アゴたん菫子デラックス』でいいだろう」

「何よその渋谷のデカいパフェみたいな名前は!」

「……おいしそう」

「うぃ」

「あ、カービィ起きた」

 

 菫子のネーミングセンスをなじった声によって眠りから目覚めたカービィは、腕の中で伸びをする。

 そして魔理沙の方を向き、「はぁい!」といつもの挨拶を交わす。

 

「ああ、おはよう。そして久しぶり、カービィ!」

「ぽぉよ!」

「むぅ! さっきまで私に懐いてたのに!」

「はっ! 残念だったな! 言っただろう? 私の方が付き合いが長いんだ」

「ならもう十分でしょ! 私にもが、じ、な"、ざ、い"、よ"!」

「ちょ、やめ、引っ張るな!」

「ぶぃい〜」

「あー、カービィが桜餅のように……」

 

 菫子がカービィの体を掴み、ぐいと引っ張る。

 負けじと魔理沙もカービィの体をギュムと引っ張る。

 当然弾力溢れるもっちりボディのカービィは餅のごとく伸び、非常に困惑した表情を浮かべる。

 しかし、カービィの体はつるりとしている。

 つまり、引っかかる場所がない。

 そんなものを引っ張り合えば当然……

 

「うおっ!」

「きゃっ!」

 

 つるりと滑り、自分が引っ張っていた力のまま、後ろに倒れるだろう。

 

 ここまでは、まだいい。

 問題はこの後。

 菫子の肘はアイゼンゴッドにあたり、何かのボタンを押した。

 そして。

 

 

ドォゴォォオオオオ!!!

 

 鼓膜を突き、腹の底を揺るがす大爆音が鳴り響く。

 その音に慄き、しばらくこの場にいたものは皆固まり……その後、急激に慌ただしくなる。

 

「ヤバイヤバイヤバイ! 撃っちゃった、撃っちゃったんだけど!?」

「私は知らんぞ! 知らんからな!」

「そんな薄情な!」

「ぽよ?」

 

 あたふたと慌てまくる二人。

 しかしそこに、今の二人には神の声にも等しい言葉が投げかけられた。

 

「あー、大丈夫大丈夫。射線の近くに人里はなかったから」

「本当? 本当に!?」

「……ああ、焦った」

 

 そして急激に力が抜けたようにへたり込む二人。

 しかし安心したのもつかの間。

 

「でもあんなもの勝手に撃ったら……霊夢さんか紫さんあたりは怒るんじゃないの?」

「げ」

「げ」

 

 カービィとの再会。

 これから何をしようか。

 妄想は膨らむ。期待は膨らむ。

 だが何をするにせよ……まずする事は謝罪巡りである事は確定してしまったようだった。

 

 

●○●○●

 

 

 神は残酷な事に、『運命』というものを作り上げた。

 

 全ての事象は確率で決まる。

 

 中には0.000000000000何%という天文学的確率で起こる幸福、天文学的確率で起こる不幸がある。

 

 当然、そんなものに見舞われることなんて確率論的にそうそうない。

 

 だが、『運命』というものは、その確率論さえ無視して幸福を、不幸を呼び込むのだ。

 

 一発の列車砲の弾丸。

 

 呼び込むのは、天文学的確率の不幸。

 

 それが引き起こした不幸もまた、『運命』だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紅魔館は爆発した。

 

 

 

【挿絵表示】

 




※咲夜さんのお陰で怪我人はでませんでした。よかったね。

レミリア→SAN値チェック1/1d6失敗 SAN値5減少 一時的発狂『硬直』

咲夜→SAN値チェック1/1d6失敗 SAN値4減少

フラン→「いい爆発ね。でも破壊能力を持つこの私が、この程度で狼狽えると思って?」

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