東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜 作:糖分99%
対抗しようと思ったら直属の上司のハデスやインド三神やクトゥルフ神話の外なる神あたりのモチーフキャラが出ない限り無理ですね。
カービィもぶっちゃけ無理でしょう。異世界にカービィ世界も含まれることになりますし。
……ヘカーティアのコピー? それならまだ互角かも……?
炎の龍はカービィを包む。
蜷局を巻くように、逃さぬように。
豊姫と依姫は肉の焼けたような臭いを嗅いだ気がした。
……いいや、気がしただけだった。
カービィを包み込む炎の龍。その実体なき姿が、歪んでいるのだ。
まるで、尻尾から啜られているかのように。
やがて、炎の龍は細く、弱々しくなる。
そしてついに、その姿は掻き消えた。
残ったのは……業火を冠のように頭に戴くカービィの姿であった。
その炎は神の火に違いなかった。
「食った、だと? 神の火を?」
「なるほど……どうやら私達が思ってた以上に悪食のようね」
「姉上、作戦変更です。遠距離攻撃は非実体によるものでも避けるべきです」
「そのようね。金砕棒も食べられちゃったしね」
カービィの脅威度をさらに上げ、刀を構える依姫と、近距離における攻撃手段が乏しいために、徹底して依姫の援護に回る豊姫。
そして、縮められたバネが飛び出すように、依姫は地を蹴り凄まじい初速で飛び出した。
人間では成し得ない、超速の突き。
近距離にのみ特化したからこそ、成し得たもの。
当然、神降ろしによるバックアップも受けている。
降ろしたのは、かの有名な武神、
雷撃を纏った刀はまさに稲妻の如く荒々しさを誇る。
そして武神を降ろしたことによる、筋力の大幅な増強。
その突きは、ドラグーンの機動力を上回った。
カービィの体に、確かな傷を負わせたのだ。
恐らくは、今までで最も大きなダメージ。
無論、カービィとてタダでダメージを受ける気は無い。
頭に戴く炎の冠。
それが揺らいだかと思うと、そこから龍が現れたのだ。
そう、かの炎の龍。
その顎門が依姫の体を上から食らい付いた。
そのまま叩き落される依姫。
しかし、雷神でもある建御雷神を降ろしているからか、その威力の割にダメージを負っていなかった。
痛み分け、といったところか。
「なるほどね。炎の龍までも取り込んじゃうのね」
「厄介極まりない。それに不浄なものが高貴な神の力を使うなぞ……」
「ちょっと不愉快ね」
『お喋りに興じる余裕があるのかね?』
カービィの腕に取り付けた無線機から、またメタナイトの声が聞こえてくる。
豊姫と依姫はそれには答えず、ただ依姫は刀を構えるのみ。
炎の龍が顎門を開く。
依姫は刀を上段に構える。
濁流の如き炎の龍、清流の如き依姫。
その濁流は、清流を呑み込むかに見えた。
だが、清流は濁流と交わる事を良しとしなかった。
刀身を小手に当てて固定し、炎の龍を横から受け止めたのだ。
炎の龍は依姫を呑むことは能わず、体の横を滑るかのように交わして行く。
炎の龍に触れることのできる実体はない。
しかし、相手を吹き飛ばす力はある。
爆炎が龍の形になっている、と言うのが正しいか。
依姫が行ったのは、迫り来る爆炎に真正面から受け止めるのではなく、横から受け止めることにより、ダメージを最小限に抑え、かつその爆炎の押し出す力でさらに横に移動する、という高等なテクニック。
形なき爆炎をいなした。そう表現するのが正しいだろう。
人のできる技ではない。永き年月を生きてきた月人であるからこそなせる技。
そして鍛えられた体幹により、その姿勢はほぼブレていない。
だからこそ、即反撃に移ることができた。
さらに豊姫のバックアップにより、瞬時にカービィの元へ斬りかかることもできた。
これにはカービィも反応できなかった。
出現とほぼ同時の斬撃には、流石に対応できなかった。
豊姫と依姫の二人だからこそできる攻撃に、カービィは為す術がなかった。
依姫の刀は、カービィをしかと捉えた。
カービィの体に傷はつかない。だが、今まで以上のダメージを受けているのは確かであった。
『カービィ!』
また無線をもぎ取ったのだろう。魔理沙の悲痛な声が聞こえてきた。
しかし、元より依姫も豊姫も無線の声なぞ気にしてはいない。
ドラグーンから吹き飛んだカービィを、依姫は空中で地面に叩き落とした。
瞬間、かねてより仕掛けてあった罠が作動した。
フェムトファイバー。月の都にある由緒正しき、決して切れない縄。
それがカービィの体に雁字搦めになるように絡まったのだ。
その罠を設置したのは、豊姫。
そう、この時を待っていたのだ。
豊姫は身動きの取れないカービィに扇子を近づける。
「私達月人相手に良く闘われました。その健闘を讃え……浄化します」
『ま、待て豊姫……ちょっ、何をする! おい! 待っ……』
『すまんな、霧雨殿。……さて、綿月豊姫殿、貴女はカービィを殺す……いや浄化する気か?』
「無論。この浄土に足を踏み入れた時点で、決まっていたことです。それは許されざる大罪なのですから」
『なるほど、生あるものの否定、か……』
「言いたいことは以上かしら? ではさよなら、桃色の傀儡よ」
扇子から光が溢れる。
その光が収まった時、そこには地面に転がる無線機のみが転がっていた。
呆気ない、余りに呆気ない最期であった。
「さて、それじゃ本題……侵入者の目的の打破と行くわよ」
「はい、姉上」
●○●○●
未だ魔理沙の怒声が聞こえるブリッジを後にして、メタナイトは艦内を移動する。
向かったのは、貴賓室。
そこには一人の女性がソファに座っていた。
「遅かったねぇ、メタナイト」
「申し訳ありません、ラピスラズリ殿」
「ヘカーティアでいいんだけど?」
「いえ、貴女様をそのように呼ぶわけには」
「そう? 気にしないんだけどねぇ」
その女性はヘカーティア・ラピスラズリ。
地球と、月と、異世界全ての地獄の女神。その異世界にはスキマ空間すら、そしてカービィ達の世界すら含まれる。まさに絶対的な神。
首輪から伸びた鎖にはそれぞれ地球と月と異世界を模した球体が繋がっている。
月の球体が頭部に乗っており、今の姿は髪の色が黄色く染まっている。
「で、今どんな感じ?」
「……カービィが戦線離脱しました」
「あー……そうか。まぁ相手が相手だからねぇ。一人ならなんとかなったろうけど、二人はキツイわぁ」
そうは言っているが、ヘカーティア自身、きっと月の民が束になっても歯牙にかけない力を持つ。
それは慰めでしかないのだろう。
「それで、私は貴女達の望みを叶えるためのバックアップとしてきているわけだけど……多分、あの夢の泉はあなたの願いを叶えるのには不十分よ。あなた方と同じ、虚構の存在でしかないわ」
「そうですか……ですがどちらにせよ、回収すべきです。こちらの世界でもスターロッドがある程度の願いを叶えてしまうことは証明済みなのですから」
「……メタナイト、覚えているわね?」
「もちろんですとも。たとえ私たちの望みが叶ったとしても、スターロッドを使ってあなた方を排除しようとはしません」
「ならいいわ。あなたを信用して、あなた方に手を貸しているのだから……ところで、いつまでもここにいていいの?」
「そうですか。では、お暇させていただきます」
頭を下げるメタナイト。その頭上からヘカーティアの声が聞こえる。
「それじゃ私も仕事しに戻りますか。一応神様だしね」
そう声が聞こえ、顔を上げた時には、すでにヘカーティアの姿はなかった。