東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜   作:糖分99%

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明日、明後日の更新は厳しいかも……


廃品と夢と桃色玉

 文は掴んでいた手をパッと離す。

 当然、魔理沙は万有引力の法則により地面へと落下する。

 

「痛っ! もう少し優しく降ろせよ」

「助けてあげただけ感謝して欲しいんですけどねぇ。……それよりなんなんですかあれ」

 

 文は自前のカメラのシャッターを非想天則へ向けて切りながら魔理沙を問い詰める。

 いつもなら嬉々としてシャッターを切るはずが、今は無表情で切っているのは、自らの領地たる妖怪の山が荒らされているからであろう。

 

 魔理沙も詳しくは知らないので、にとりから聞いた話をそっくりそのまま文に話す。

 その話を聞いた文の顔はさらに厳しいものとなる。

 

「あやや、そりゃまた……厄介な」

「だろ? 破壊しちゃいけないなんて……私の出番はないなこりゃ」

 

 二人はただ呆然と暴れ狂う非想天則を眺める。

 今も霊夢や神子、萃香や守矢の面々が押さえ込もうとしているが、先ほどよりも出力が上がった非想天則は手がつけられない。

 

 一体、どうすれば良いのか。

 

 と、その時。何かが魔理沙向けて飛び出してきた。

 

「そこにいたのかカービィ!」

「イタタタ……大丈夫なのチルノちゃん?」

 

 飛び出してきたのは、吹き飛ばされる際見かけた氷の妖精、チルノと大妖精だった。

 チルノの問いかけにカービィは「はぁい!」と元気よく返す。

 

「ん? なんだ、知り合いか?」

「そうだよ! ダイダラボッチを手下にするために仲間にしたんだ!」

「無理だってチルノちゃん……」

 

 どうやらカービィも魔理沙の知らないところでいろんな者と関わりを持っているらしい。

 変な感心をしていると、魔理沙を追ってきたのかにとりが空からやってくる。

 

「魔理沙、無事かい!?」

「おお、こいつのおかげでなんとかな」

「ああ、文か。久しいね。……って、いつの間にカービィがいる!」

 

 と、にとりも文と同じような反応をカービィに対して見せる。

 どうやら軽いトラウマらしい。

 だが、にとりはカービィをしばし見つめた後、独り言のように呟いた。

 

「……カービィは変幻自在と聞く。なら、何かしらの手を持っているんじゃないか?」

「カービィが、か?」

「カービィが、ですか」

「ちょっと! あたいを無視するな!」

「入っても私達じゃわからないって」

 

 三人の注目がカービィへと集まる。

 確かにカービィは変幻自在。様々な姿を見てきた。そして今まで見たものが全てとは限らない。

 手が多いということは、それだけ対応力があるということ。

 もしかしたら、という淡い期待がカービィへとま寄せられた。

 

 その注目をカービィは理解したのだろうか。

 ピョンと魔理沙の腕から飛び退くと「ぽよぉっ!」と森へ向けて声を上げる。

 それからしばらく間を開けた後。

 木々の影から、草葉の中から、彼らは現れた。

 

 オレンジ色の下膨れな球体ボディ。

 そう、ワドルディたちだ。

 

「あ、ワドルディが。そういえば妖怪の山にも住んでいるんだって?」

「そうだよ。時々資材運搬とかやって貰ってるよ」

「うちも新聞の配達を手伝って貰ったことがありましたね」

 

 どうやらワドルディは妖怪の山の社会にも順応しているらしい。

 ワドルディの万能っぷりに感心する中、現れたワドルディ達はカービィを取り囲み、ぽよぽよとしか聞こえないカービィの言葉をまるで理解しているかのように相槌を打つ。

 そして、カービィとワドルディたちは一斉に大きく頷いた後、一斉に同じ方向へ走り出した。

 

「あっ! ちょっと待て!」

「な、なんだいいきなり!?」

 

 突然の行動に意表を突かれる三人。

 しかしカービィとワドルディ達はそれに構わず疾走する。

 しかも、どこからかやってきた新たなワドルディと合流しながら。

 そしていつの間にか、ワドルディの列は大名行列さながらの大人数による進行と化していた。

 

「なんなんだ、これは……」

「どこに向かっているんですかねぇ」

「この方角は……河童の倉庫じゃないか!」

「そうなのか? ……なぜ河童の倉庫なんかに?」

「さぁ……」

 

 魔理沙の疑問は何も解決されないまま、カービィとワドルディ達はなんのためらいもなく河童の倉庫へと入り込んだ。

 そこにあるのは埃をかぶった使われなくなった様々なものが置かれた廃品倉庫であった。

 そこでワドルディ達はどこからか取り出した三角巾で口元を覆い、ドライバーやニッパーを手に取った。

 そして、埃をかぶった廃品をめちゃくちゃに引っ張り出したのだ。

 

「一体何をする気だ? ここには使えるものは残っていないはずなんだけど」

「やっぱりカービィとかワドルディの考えることはわかりませんねぇ」

「……いや、わからんぞ」

 

 ワドルディ達のしていることに疑問を覚えるにとりや文に対して、魔理沙はなんとなく思い当たるものがあった。

 ワドルディは独力で集落やロケットを作ってしまうような謎の高い技術力を持つ。

 そしてここには工作するための道具や材料は揃っている。

 

「あ、魔理沙さんお久しぶり」

 

 と、その時、あるワドルディが前に出てきて、人語を話した。

 青いバンダナをかぶった、旧地獄であったワドルディに違いなかった。

 しかし、にとりや文はこのワドルディに会ったことはないはず。

 だからか、ワドルディが人語を話したことに対し、驚愕していた。

 

「お、おお。久しぶりだな、バンダナのワドルディ」

「ウソ!? ワドルディって喋るのかい!?」

「あややや! これはスクープですねぇ」

「別に驚くことないですよ。ボクの個性が『喋れる』ってだけだよ。って、そんなことどうでもよかったんだった。」

 

 頭をぽりぽりとかき、ワドルディは本題に入る。

 

「この後、近づき過ぎると危ないかもしれないから、もう少し下がってね」

「それってどういう……」

「見ればわかるよ。あ、できたできた」

 

 ワドルディは作業の音が止むのに気がつくと、出来上がったものに向き直った。

 そこにあるのは、金属の塊。1メートルあるかどうか。

 その左右には金属のアームらしきものが付いていた。

 そしてその上に、カービィが乗り込んでいた。

 

「なんですか、あれ?」

「ロボットのつもりかい? でもあれじゃ……到底動かないと思うぞ?」

「まあ見てて」

 

 作業をしていたワドルディは魔理沙達の近くまで退避する。

 避難したのを確認すると、カービィは口からあるものを取り出した。

 それは、四本のスターロッド。

 それを掲げると、カービィの乗る金属の塊は輝き出した。

 

 スターロッドは夢を見せるという。

 スターロッドは夢に力を与えるという。

 スターロッドは夢を叶えるという。

 四本の不完全なスターロッドは、しかしその力を発揮し、カービィの願いを正しく受け止めた。

 カービィが願ったもの。それは、ある時冒険を共にした相棒の作成。

 その光が収まった時、その姿を現した。

 

 無骨な金属は桃色にペイントされ、綺麗な球体へと生まれ変わる、

 アームは樽のような形のたくましいものへと変わり、力強い大きな手が装着され、肩の方にはドライバーのようなものが付いていた。

 足は小さいながらも、しっかりと地を踏みしめ、高いジャンプ力を実現。

 背中に背負うのはブースター。

 そしてその桃色ボディは、カービィの顔を模したデザインになっていた。

 

 あの時。機械の軍勢が侵略してきた時。

 その時であった新たな相棒。

 それこそが、この『ロボボ』であった。

 

 唖然とする幻想の住人をよそに、ワドルディは飛び跳ね喜ぶ。

 

「やったねカービィ! 予想通りスターロッドの制御に成功したね!」

「ぽよ!」

 

 ヘルメットを被ったカービィは頷き、バンダナのワドルディに相槌を打つ。

 そして、背中のブースターから火を吹かし、外へと飛び出した。

 

 

●○●○●

 

 

「いよいよ手がつけられなくなったな……」

「どうする神奈子? もう辺りの被害には目を瞑って破壊する?」

「いや、それは……」

「さしもの山の神もこれにはお手上げか」

 

 外で交戦していた者たちは、暴れる非想天則をいなすことしかできていなかった。

 判断がここまで後手になったのは、やはり内部にたまった蒸気。

 爆発の被害に目を瞑ることはできない。

 

「……一つ手はあるわよ」

 

 だが、ここで霊夢は諦めてはいなかった。

 やはり幻想郷の巫女としての意地があるのだろう。

 

「非想天則を結界で覆う」

「待て待て。巨大化した私を切り倒したヤツだぞ? そう即席の結界じゃ破れる」

「それくらいわかってるわ。防ぐのは非想天則じゃない。非想天則が爆発した時の爆風よ」

「……なるほど、被害を止めるわけか。それならなんとかならんわけでもない。しかし……」

 

 その案は良策に見えた。

 だが、問題もあった。

 顎に手を置く神奈子に代わり、早苗がその懸念を口にする。

 

「閉所での爆発は、よりその威力を高めてしまいます。つまり、その結界の内部はより完膚なきまでに破壊されることに……あそこらへんは河童の研究所や、山から流れる沢もあります。それが破壊されるのは……」

「むむ……じゃあどうしろってのよ」

「それは……」

 

 これには頭を抱えるしかない。

 結局のところ、何を犠牲にするのか、ということだ。広範囲への被害を選ぶか、局所的な壊滅を選ぶか。

 小を切り捨てるのは、果たして正しいのか。

 

 その判断に有力者が悩んでいた時。

 

 桃色の流星が、非想天則へと向かっていた。


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