東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜   作:糖分99%

47 / 130
狂夢に惑う地獄鴉と桃色玉

「霊夢! お前何を!」

 

 先頭を続ける霊夢に魔理沙は叫ぶ。

 しかし残念ながら、その声は届いてはいないように見えた。

 完全に集中している。

 最早、ここからでは声も届くまい。

 

 そして、相対するお空も最早正気ではなかった。

 浮かべるのは狂気じみた笑み。

 放つのは凄まじい熱線。

 弾幕ごっこの時とは比べ物にならないほどのエネルギーを放出していた。

 

「お空……どうしちゃったっていうんだよ……力を貰った時もここまでじゃなかったっていうのに……!」

「何かの影響を受けているのでしょうか?」

「何れにせよ、普通ではないのぉ。」

 

 暴れ狂う友人を見て、信じられないといった風の顔をするお燐。

 そしてこの状況を冷静に分析する星とマミゾウ。

 

 一体彼女の身に何が起きたのか。

 その原因は、なんとなく予想できたものであった。

 

 メタナイトとデデデ大王は、すぐさまその原因を特定した。

 

「メタナイトよ、あいつのリボンに引っかかっているもの……スターロッドじゃないか?」

「……だな、間違いない。」

「大王様、スターロッドってここにもありましたっけ?」

「何!? スターロッドだと!?」

 

 魔理沙は二人の会話にワドルディと魔理沙が食いつく。

 

 よく目を凝らして見て見れば、なるほど確かに頭のリボンには、白と橙の紐をねじって固めたような柄に星がついた、スターロッドが顔を出していた。

 まさか、間欠泉センターにまでスターロッドがあるとは。

 しかし、一つ疑問がある。

 

「スターロッドを持っただけで、妖怪は狂うものなのか?」

「普通の状態ならありえん。がしかし、私の説が正しいのなら、持っているだけで狂う可能性もある。」

 

 そしてメタナイトは自論を語り始める。

 

「スターロッドとは夢を与える道具。即ち、精神に影響を与える道具といえる。そして、ドロッチェが地上でスターロッドの力を限界を超えて引き出した時、分割されたスターロッド同士の干渉らしき現象が起き、一時的に暴走状態になった。古明地殿の話によれば、炉心が異常に高温になったのはついさっき。そして炉心の温度上昇の原因はどう見ても彼女。……間違いない。彼女は干渉により暴走したスターロッドに精神を侵されている。」

 

 その説に皆言葉を失った。

 つまりは、この事態はいくつもの偶然が重なって起きたことだというのだ。

 ドロッチェとお空、どちらかがスターロッドを拾わなければこんなことは起きなかった。

 ドロッチェとの戦闘があの場所で行われなければこんなことは起きなかった。

 戦闘が長引かなければこんなことは起きなかった。

 なんと恐ろしい悪運か。

 

 友人の精神が毒されていると聞いたお燐はメタナイトに摑みかかる。

 

「待って! それじゃ、お空は! お空はどうなるのさ!?」

「……スターロッドを奪い取れば良い。だがあまりモタモタしていると……」

 

 その先は言うまでもない。

 取り返しのつかない状態になるのは、この狂った笑い声を聞けば嫌でもわかる。

 

 気がつけば、お燐は灼熱の地へと飛び出していた。

 

「お空! 止めてっ!」

「あは、あはは! スゴイ! 炎スゴイ! アハハハハハハ!」

 

 しかしお燐の呼びかけに返ってくるのは、壊れたような笑い声のみ。

 その様子に、魔理沙は何時ぞやのフランと西行妖を思い出す。

 

 しかもあろうことか、お空は親友であるはずのお燐へ向け、熱線を放ち出したのだ。

 いや、お燐に向けてというより、最早無差別に体の周囲から熱線や炎を噴出している。

 しかも本人は壊れたかのように空中で舞うために、それに合わせて放たれる熱線の軌道は無茶苦茶で予想もできない。

 

 しかし、お燐は何度熱線が掠り、服を焼こうとも突き進む。

 なぜなら、目の前で親友が暴れているから。

 なぜなら、目の前で親友が狂わされているから。

 それを放って置けない親友なぞ、この世にいるはずがない。

 

 だがしかし、残念ながらこの世の中というものは残酷にできている。

 お空とお燐の実力差は大きかった。

 何せ、片や単なる妖怪、火車。もう片方は神の火の力、八咫烏の力を手に入れた地獄鴉。

 突如として、お空の体に光が収束し始めた。

 それと同時に、温度が上がって行くのを。

 

「……あ、まずい。」

 

 爆発する。

 正確には、核熱放射。

 お空が周囲に爆発的な威力で周囲に核熱をばら撒く時の予備動作。

 しかしその予備動作を確認した時には、お燐はお空に近づき過ぎていた。

 

 そして、お空は一際大きな光を放ち……

 

 

 上から巨大な岩が落下し、お空は下に叩き落される。

 さらに、岩とともに金属の塊も落ちてきた。

 その形状に、魔理沙達は見覚えがあった。

 

「ドロッチェ団か!?」

「そういえば、一足先に地面に潜ってましたよね……」

 

 そう。それはドロッチェ団の一人、ドクが操り、他の団員が乗り込んで地底へと姿を消した、ヤドカリ型の機械であった。

 そしてその宿にあたる部分が開き、そこからコックピットにいるドクを除いたドロッチェ団員達がぞろぞろと現れる。

 

「なんだなんだ、火祭りか!?」

「火祭り……危ない。熱い。」

「そんなことを言っとる場合か! 目の前になんかおるぞ!」

 

 呑気なチューリン、スピン、ストロンに対し、ドクは警告を告げる。

 その前には、巨岩に叩き落されながらも未だしっかりと地を踏みしめ立ち上がるお空の姿があった。

 

「もぉお……痛いなぁ!」

 

 苛立ちの混じった声とともに、極太の熱線が放たれる。

 そして光線はドクの乗る機械に直撃する。

 そして豪快に四散爆発する。

 

「ウヒャアアアアアアア!!」

 

 しかし元気に叫びながら吹き飛ばされているあたり、無事そうだ。

 だがしかし、安心はできなかった。

 お空は無慈悲にも、爆発で空を舞うドクに手のひらを向けたのだ。

 

 今のドクに、身を守るものはない。

 スピンが気づき、飛び上がるも間に合わない。

 お空の手から光球が放たれる。

 

 そしてその光球は、空を切った。

 

 ドクに掠ることもなく。

 お空はなぜ当たらなかったのか、ドクはどこへ行ったか探し出す。

 やがて、その原因となったものを見つけた。

 それは、白い竜のようなものに乗った桃色玉と、鼠の化け物、不可思議な翼を生やした少女であった。

 彼らが、ドクを空中で助け出したのだ。

 

 お空は彼らが誰なのか知らなかった。

 しかし、魔理沙達にとってみれば知っている者……というより、探していた者であった。

 

「カービィ! 無事だったか!」

「ぽよ!」

「ぬえも無事そうで何よりじゃ。」

「いやぁ、一時はどうなるかと。」

 

 カービィの他にドロッチェやぬえ、追加でドクを乗せたドラグーンは過積載になっているようで、若干ふらつきながらこちらにやってくる。

 そして、魔理沙達の元で彼らを下ろす。

 

「さて、宝塔を返してもらいましょうか!」

「それならぬえがもう取り返しているとも。」

「星、はいこれ。」

「おや、奪い返そうとは思わないわけか。」

「それはスマートなやり方じゃないんでね。」

 

 宝塔も戻り、行方不明者も戻り、これにて一件落着。

 

 ……そんなわけがない。

 

「すまないが、今はお喋りをしている時間はない。」

「ほれ、アレを見ろ。スターロッドが……異常な光を放っておるぞ。」

「うわぁ、怖い。」

 

 メタナイトとデデデ大王、ワドルディが見る先。

 そこには、ゆらゆらと揺らめくように浮遊するお空の姿があった。

 揺らめいて見えるのは、決して陽炎の類ではない。

 ノイズだ。まるで、壊れた画面に入るようなノイズが、お空を覆っているのだ。

 特にスターロッドが引っかかっているリボンのあたりのノイズが激しい。

 

「なんだ、あれもスターロッドによる現象か!?」

「違いない。スターロッドとはもともと我々の世界のもの。……引き込もうとしているのか?」

「ううむ、そりゃまずいんじゃないのか?」

「ですね大王様。」

「……お前は理解して言っているのか?」

「いいえ全く。」

 

 魔理沙にも理解はできない。

 しかし……取り返しのつかない事になりつつあるのは、理解した。

 

「なるほどな。あの時みたく、スターロッドを引き抜けばいいんだろ?」

「……?」

「おっとそうか。お前達はいなかったな。……カービィ、行くぞ!」

「ぽよ!」

 

 魔理沙はほっかむりをカービィに渡す。

 そして、それを飲み込んだ。

 いつものように光が集まり、そして、いつものように金属のバイザーを被った姿に変わる。

 

「なるほど、『コピー』か。」

「ん? なんだ、知っているのかメタナイト。」

「もちろんだとも。なるほど……カービィ、一つアドバイスだ。」

 

 『コピー』の姿をしたカービィに、メタナイトは助言をする。

 

「霊烏路殿は非常に高い火力を持つ。そのため、真正面から衝突すれば、あたりへの被害は甚大なものになる。ここは攻撃系ではなく、相手を惑わす系統の能力を取得するのだ。」

「うぃ!」

 

 頷いたカービィは、そのバイザーから光を放つ。

 その光が包み込んだ者は。

 

「うわっ! いきなりなんなのさ、カービィ!」

 

 封獣ぬえだった。

 そしてカービィの周囲に再び光が集まり、晴れた時。

 そこにいたのは、ぬえの翼を生やし、三叉槍を構えたカービィであった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。