東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜   作:糖分99%

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マントルと桃色玉

「あっつ……なんでこんなに暑いんだ……?」

「マグマだまりが近いのかもしれないな。だとすると相当深くまで落ちてきたようだ。」

「うぃ!」

 

 ぬえは汗を流し、それを振り払いながら文句を言う。

 ドロッチェはそれでも涼しい顔で灼熱の地を歩く。

 カービィはこんな状況でもスキップをしながら進む。

 

 この地底を進む様子は三者三様。しかもその三者とは、一人はおかしな羽の生えた少女、一人は巨大な鼠、もう一人は桃色玉である。

 なんともシュールな光景である。

 

 しかし、見た目も様子も性格もバラバラとはいえ、目的こそは一致している。

 目的は地上への脱出。

 相当な深層まできたのだ。脱出にどれだけの時間がかかるかわからない。

 しかし停滞していては何も始まらない。

 だからこそ、危険を冒してでも進むことを決意したのだ。

 

 とはいえ、延々と歩き続けているだけでは暇で仕方がない。

 しかも、身を焦がすのではないかというくらいに暑いとストレスも溜まって来る。

 だからこそ、それを発散させるために三人、いや実質二人が身の上話を始めた。

 

「こう見えても私は凄かったんだぞ? 平安の都を正体不明な恐怖と不安で覆い尽くしてさぁ。」

「ヘイアン? すまん。わからん。」

「もう一千年以上昔の人の都市さ。いやぁ、あの時は私、輝いてたわぁ。」

「ふむ、見た目の割に、歳食っているんだな。」

「その言い方はどうかと思う。」

「はっはっ! スマンスマン!」

「ったく、幻想郷には私みたいな奴ばっかだから別にいいけど……お前はどうなんだ?」

「ん? なんだ、オレの話か?」

「ああ、そうだ。」

「怪盗のオレに個人情報を喋らそうとするとは、お前さんは相当な大物らしい。」

「だから言ったろ? 私は大物だったんだって。」

「それもそうだな。しかしオレが語れるのは少ない。せいぜい仲間に恵まれて怪盗を始めるようになった、ってことぐらいだな。」

「つれない奴だなぁ。……カービィはどうなんだ?」

「ぽょ?」

「うーむ、やっぱり喋れないのか。」

「会った時からこんな感じだ。まだまだ子供だからな。」

「そっちの世界は子供も戦闘能力を持つんだな。」

「カービィが特別なだけさ。なぁ、カービィ?」

「うぃ?」

「だめだ、こりゃ。」

 

 カービィは自分のことを話されていると理解しているのだろうか。

 ……多分理解してはいないだろう。

 やはり所詮は子供ということか。

 

 円らな瞳でこちらをじっと見て来るカービィ。

 その瞳を見ていると、自然の口元が緩んでくる。

 

 ……いやいや、そんなのではいけない。

 こんな桃色玉に魅了されるなぞ、大妖怪ぬえの名が泣く。

 

 しかしそうは言っても……

 

「……お前、可愛いな。」

「ぽぇ?」

「なんでもない。」

 

 ちょっとつついてみると、非常にモチモチしている。

 少し押してみると、むにむにしている。

 抱っこしてみると、ふわふわしている。

 

「……お前、面白いな。」

「うぃ?」

「なんでもない。」

 

 ぬえは残念ながら、その光景を見て帽子を深くかぶり直し笑みを隠しているドロッチェに気づくことはできなかった。

 カービィはといえば、ぬえに抱っこされて悪い気はしていないようだ。

 むしろ、嬉しそうである。

 手をパタパタと動かし、上機嫌そうに笑っている。

 

「うわっ! 暴れないでよ!」

「ぽよ〜!」

 

 しかしカービィは聞く耳持たずはしゃぎ続けている。

 こんな灼熱の地でよくもまぁここまで呑気でいられる。

 『悩みのないヤツ』とはよく言ったものだ。

 愚かしくも、純粋な桃色玉。

 そんなカービィにぬえが夢中になりかけた時。

 

「伏せろ!」

「……はっ?」

 

 ドロッチェの突然の怒声が、ぬえの鼓膜を揺らす。

 そして腕を掴まれ、乱暴に下に引かれたのを感じた。

 

 それと同時に、目の前が白く染まったのだ。

 

 

●○●○●

 

 

「なんであたいが案内なんか……あたいを命蓮寺に帰依させてくれるならともかく……」

「あなたを帰依させるかは白蓮様次第です。というか、あなた死体を集めるのその行為をやめる気は無いのでしょう? ならば無理な相談です。」

「ちぇ。まぁ、あたいもいつかは様子を見に行かなきゃと思ってたし、丁度いいのかもしれないけど……」

 

 ぶつくさと文句を言いながら魔理沙達の先を歩くのはお燐。

 あの後主人のさとりに起こされ、そのまま魔理沙達を案内するよう命じられたのだ。

 敬愛する主人の命なら仕方ないと従ってはいるものの、やはりお燐自身思うところがあったようだ。はっきり言ってあまり乗り気では無いのは見え見えだ。

 

 しかし魔理沙はそんなこと気にせずヅカヅカと質問攻めにする。

 

「そういえばさとりは間欠泉センターの温度がどうのこうの、とか言っていたが、それってもしかしてあいつが原因か?」

「……十中八九そうだろうね。あいつ忙しかったからこっちも遠慮してあまり会いに行かなかったんだけど……やっぱり会いに行くべきだったかなぁ。」

「で、その温度が上がったのは?」

「あんたらが来るほんの少し前にそういう情報が入ったのさ。温度の上がり方が尋常じゃないって、山の神社から。」

「ふうん……」

「おっと、そろそろ間欠泉センターかな。」

 

 進む道は洞窟じみたものから、金属で囲まれた、いかにも研究所じみたものへと変わって行く。

 カツンカツンと足音が反響する中、着いてきていたデデデ大王がやっと口を開く。

 

「さっきから言っている『あの子』ってどの子だ? わからんのだが。」

「それは私も思っていたことだな。」

「あ、ボクもボクも。」

 

 その質問に、メタナイトもバンダナを巻いたワドルディも知りたげにお燐を見る。

 さらに、言葉こそ発しないが、着いてきた他のワドルディもじっとお燐を見る。

 その様子にギョッとしつつ、お燐は答える。

 

「えっと、霊烏路空……お空ってやつでね。地獄鴉の一人で私と同じさとり様のペットなのさ。……少し頭が弱くて、山の神から力を貰ってすぐに有頂天になるやつなんだけど……まぁ、そんなところが可愛いというか。」

「なんだかロクでもなさそうなやつだな!」

「デデデ大王がそれを言うか……」

 

 デデデ大王のブーメラン発言に、メタナイトは呆れたように首を振る。

 そうこうしているうちに、一つの扉の前にたどり着いた。

 

「さて、この先にお空が居るはずなんだけど……」

 

 ダイヤルを回し、鍵を開ける。

 そして大きなハンドルを回し、扉を開けた。

 瞬間、凄まじい熱風が襲いかかった。

 

「熱っ! なんだこれ!?」

「ひぃい、髪が焼ける!」

「みんな! 水かけるよ!」

 

 水蜜が機転を利かせ、全員に冷水をかける。

 しかしそれでも、暑さはなかなか和らがない。

 火車という火に強い種族たるお燐も、この暑さには驚いているようだった。

 

「な、なんだい、この温度……普通じゃない!」

 

 目を剥くお燐。

 そしてその後ろから様子を覗いた魔理沙は、あるものを見つけた。

 

「あっ、霊夢!? いつの間に!?」

 

 見れば、空気が熱で揺らめく中、札を構え戦闘状態の霊夢が浮遊していた。

 そして、その相手は知っている相手。

 癖のある黒い長髪を緑のリボンで結び、黒い翼に不思議なマントを羽織った少女。

 その右腕にはオレンジ色の角柱がはめられ、右脚には鉄の塊のようなブーツを履き、左足首には光球が回っている。

 そして、胸には赤い目玉のようなものが輝いていた。

 その少女こそ、霊烏路空、通称お空。お燐と同じ、さとりのペットである。

 

 普段なら明るく陽気な彼女。

 しかし今は……猛禽のような凶悪な表情を湛えていた。


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