東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜 作:糖分99%
しかし感想返ししていたらハイドラ更新が危うく……
飛来する極寒の光線。
掠ったところから凍りついてゆく、科学の理を超えたもの。
それがナズーリンめがけて迫りつつあった。
しかし、幻想郷の住人は飛び道具にはめっぽう強い。
弾幕ごっこで鍛えられた回避能力は一級。
初撃を難なく躱す。
しかし、その程度の甘い攻撃で終わらせるはずがない。
続けざまにチューリンが投げつけるものよりもさらに巨大な爆弾を投下しだす。
そして、猛烈な火柱が上がる。
「なんだこの爆弾! こんな爆発の仕方をする爆弾があるのか!?」
「大方、かのドクが作り上げたものだろう。油断するな。」
「分かっている!」
立ち上がる火柱、降り注ぐ星型弾、飛来する光線、投げつけられる無数の爆弾。
しかしそれに臆することはなく、ナズーリンとメタナイトはドロッチェへ肉薄する。
早かったのはメタナイト。
翼を広げ、滑空しながらの斬撃。
しかしそれは金属の杖によって防がれる。
その反応速度は宇宙をまたにかける怪盗団の頭目として申し分ない。
だがメタナイトとて、宇宙をまたにかけるレベルの騎士である。
たった一度の斬撃で終えるはずもない。
むしろ、最初の一撃は防がれるものとして、脳内で剣撃のイメージを組み立てていた。
弾かれた反動を生かした斬り払い、その遠心力を利用した回転斬り、そしてその隙を潰すための軽めの突き、そこから派生する切り上げ、斬り払い……
その時その時の状況から微調整しつつ行われる剣撃は、まさに達人のもの。
しかしそれを受け止めるドロッチェも相当な手練れであった。
と、突然メタナイトは戦線から飛び退く。
あまりに唐突な撤退に、ドロッチェは意表を突かれる。
そして、その隙を狙って交代するようにナズーリンが突撃してくる。
そして放たれる、超至近距離からの弾幕攻撃。
弾幕ごっこなら確実にルール違反な行為。
しかし、これは弾幕ごっこではない。
本気の戦いだ。
だからスペルカード詠唱なんて、わざわざ隙を与えるようなことはしない。
だから逃げる余地を与えるなんて甘い事はしない。
だから殺生厳禁なんて緩いルールには則らない。
ナズーリンは、ドロッチェを弾幕で消し飛ばすつもりであった。
弾幕はようやく晴れる。
そこには、もはや誰にもいなかった。
あの圧倒的熱量により、消えたのか。
しかし宝塔はその程度で傷つくようなものではない。おそらくどこかに落ちているはずだ。
そう思って、降下した時。
「ナズーリン、後ろだ!」
「なっ!」
メタナイトの警告が飛ぶが、間に合わなかった。
背後から強い衝撃を受け、ナズーリンは吹き飛ばされる。
同時に意識も吹き飛ばされそうになったが、そこは妖怪としてのタフさで乗り切る。
一体何が起きたか。
周囲を見回したナズーリンは、その目を剥いた。
「詰めが甘いな、鼠妖怪。」
そこには、無傷のドロッチェがいるではないか。
「まさか、そんな! なぜ、あれを食らって無傷なんだ!」
「ナズーリン、
メタナイトは剣を振り下ろす。
しかし同時にドロッチェの姿は掻き消え、全く別の場所から現れる。
まさか、さっきまで杖で剣を受けていたのは、『誘い』か?
転移はできないと、無意識に我々にそう認識させるためなのか?
「鼠を舐めていたら死ぬ……自分で言っておいて、まさか自分に返ってくるとはな……」
ナズーリンは呆れたような笑みをこぼす。
その笑みは自嘲のもの。
瞬間移動を繰り返すドロッチェにその剣を当てる術はなく、一旦後退するメタナイト。
しかしそれでも容赦なく星型弾をばらまくドロッチェ。
さらには高火力の爆弾や凍てつく光線も時折放ち、さらにはチューリンの援護爆撃もあって、その弾幕密度は酷いものになる。
まさに致死の弾幕ごっこ。
「くぅ……このままじゃ……!」
「……怪盗団の頭目だけあって、さすがに動きに隙がないな。」
「メタナイト! あんたは剣を持っているあたり、近接攻撃が得意なんだろう!? なら挑発してみるのはどうだい!」
「無駄だろうな。直情的な者ならともかく、奴にそんな手は通じない。あいつは誇り高くも犯罪者であるということを弁え、最悪どこまでも堕ちる覚悟を持った者だ。目的のためにはどんなポリシーも捨てる。それこそがドロッチェ団のポリシーだ。」
「それ矛盾してないかい? しかしなるほど、怪盗としては完成した精神だ。」
仲間に恵まれ、力に恵まれ、そして己の目的のために完成された精神。
はたして、そんな奴に勝てるのか?
ナズーリンは胸中で鼠妖怪としての弱い感情が沸き起こる。
がしかし、同時に別の感情も湧き上がったのだ。
いや、勝たねばならない。
かの宝塔は毘沙門天様のもの。
毘沙門天様の部下たる私が、奪われてはならない。
毘沙門天様の部下たる私が、負けてはならない。
湧き上がったのは、毘沙門天の部下であるという自負から生まれた意地。
その意地は、その幼気な体からは似つかわしくない雄々しい声となって表層にでる。
「なるほど、ドロッチェ、お前は強い。だが、私とて譲れないものがあるんだよ!」
「ナズーリン!」
「ォオオオオオ!」
メタナイトの制止を振り切り、飛び出すナズーリン。
小柄な体は、その弾幕を躱すのには適していた。
しかし、無傷で越えられるはずはない。
爆風は小柄な体を吹き飛ばす。
星型弾は擦り傷を作る。
凍てつく光線は凍傷をつくる。
全てはかすり傷だが、それが徐々に蓄積して行く。
前へ、もっと前へ。
敵は、まだ前にいるぞ。
あちこちが痛み、意識が朦朧としてくる中、それでもナズーリンは突き進む。
その体は限界を迎えつつも動くその原動力は、もはや意地の力のみであった。
しかし、意識の混濁が、その力を奪ってしまう。
そしてついに、あとロッド一本分の距離を残して、ナズーリンは高度を落とした。
薄れ行く意識の中、体に感じるは浮遊感。
しかし薄れ行く意識の中で、ナズーリンは確かに声を聞いた。
「ふぉふぉ、天晴れな心意気じゃ、ナズーリン。」
●○●○●
各々で戦闘は継続されている。
常人が一歩足を踏み入れれば、すぐさま肉片と化してしまうような乱闘が。
ドロッチェ団陣営、命蓮寺陣営、両者共に引かず。
その戦いはいつまでも続くかのようにさえ見えた。
だが、その終わりは突然だった。
突如として、全員が電池が切れたかのように動きを止めたのだ。
そして困惑したように周囲を見渡す。
いや、困惑なんて生易しいものではない。
完全に彼らは混乱していた。
鉤爪を振り下ろそうとしたスピンはその場で狂ったように鉤爪を振り回し、ストロンへ襲いかかった星はその場でただ辺りを見回すだけ。機体を乗り換えたドクはその場でグルグル回っている。
一体彼らの身に何が起きたのか。
その答えとなるものが、ひょっこりと姿を現した。
黒い短髪、形容し難い6本の翼のようなもの。
そう、封獣ぬえであった。
手に持つ三叉槍をくるくる回しながら、ぬえは上機嫌に嗤う。
「はははは、うんうん。いい感じに正体不明に慄いているみたいだねぇ。」
この混乱はぬえの能力によるもの。
ぬえはこの乱闘を一時的に止めるため、全員に能力を発動させたのだ。
恐らく彼らには、目の前で戦っていたはずの敵が全く知らない人物に変わったように見えるのだろう。
ぬえの眼下では、マミゾウが撃墜されたナズーリンを救出しているのが見える。
ウィンクしながら親指を立てているのはちょっとした茶目っ気だろう。良い友人を持ったものだ。
さて、残るは宝塔。
未だ混乱しているドロッチェに近づき、手を伸ばす。
自分が奪い返せば、命蓮寺での自分の格も上がるだろう。
全員に能力をかけるという暴挙に出たのは、手柄を独占したいというちょっとした欲望からであった。
いや、むしろ正体不明のトリックスターというぬえの性格の方が重いのかもしれない。
だが、そのトリックスターという役柄は、時折痛い目を見る。
混乱するドロッチェが取り出したのは、ボタンのついた小さなミラーボールのようなもの。
そして、そのボタンを押した。
その途端、溢れんばかりの光が漏れ出した。
その光はぬえを含め、この場にいるもの全員の視界を白く染めた。
そして光が晴れた時、混乱は終結した。
「っ! 今のは!」
「さっきのは……なんだ?」
まるで白昼夢を見ていたかのような面々をよそに、ドロッチェは至極冷静であった。
そして目の前にいたぬえを凍てつく光線で迎撃する。
「なんで!? なんで能力が解けた!?」
「ふむ、幻覚を見せる能力者か? ……どっちにしろ、残念だったな。オレが精神を乗っ取られた時、その後対策として正気を取り戻す機械をドクに作ってもらっていたのさ。備えあれば憂いなし、とはよく言ったものだ。」
そして大事そうに、小さなミラーボールのような機械をしまう。
能力を破られたぬえは、敵意を剥き出しに三叉槍を構える。
ドロッチェはぬえと、そしてナズーリンを抱えるマミゾウを見て溜息をつく。
「しかし増援二人か。なるほど厄介だな。……いや……もっと厄介なのが来たな。」
ドロッチェの視線はぬえやマミゾウから外れ、遠くへと向かう。
そこには、こちらへ猛スピードで突っ込んでくるものがあった。
それは、箒にまたがった魔理沙と、パーティーハットのようなものを被ったカービィであった。