東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜 作:糖分99%
東方……神霊廟まで終了。
カービィ……ゲーム版設定に準ずる。ロボボまで終わっている模様。
命蓮寺は人にも、妖怪にも人気がある寺である。
人に対しては、迷える者達を正しき道へと導き、大きな信仰を得ている。
聖白蓮の人格によるものも大きいだろう。
そして妖怪に対しては、門下に入ったか弱き妖怪達をも救済している。
それは白蓮の人妖平等主義によるものだ。
一見すると幻想郷のルールに反しているように見える。
人間に恐怖を与える妖怪。妖怪に怯える人間。そしてその妖怪を退治する一部の有力者。
この構図があるから、幻想郷は外の世界と隔離された『幻想』であり続けることができる。
だが、白蓮のように妖怪と人間が手を結ぶようなことがあっては、その構図が崩れ、『幻想』が消え、幻想郷は消滅してしまう。
そうなれば管理者の紫は黙ってはいないだろう。
だが、そうはならないのは、白蓮がその辺りもしっかり理解しているから、であろう。
保護する妖怪はあくまでも門下のみ。無尽蔵に門下にするのではなく、人に害を為そうとする意思を捨てない妖怪は決して門下に入れない。
そのけじめをしっかりつけているからこそ、命蓮寺は命蓮寺たりえた。
さて、その命蓮寺では現在少々……いやかなり面倒なことが起きていた。
任侠……ではなく、巫女の襲撃に遭っていたのだ。
「でてこい鼠妖怪! ここに入り浸っているのは知っているのよ!」
「ちょっと霊夢さん! そうずかずかと入ってこないで!」
普段は静かで厳粛な命蓮寺をドカドカと盛大に足音を鳴らしつつ突き進むのは我らが博麗の巫女、博麗霊夢。
そしてその後ろから制止しようとするのが、門下の入道を操る妖怪、雲居一輪。
青い尼の姿をしており、その衣服の隙間から青い髪の毛がなびいている。
「相変わらず独走癖があるな、あいつ。」
「ぽよ。」
そしてその後ろをのんびりと歩く魔理沙とカービィ。
魔理沙がここに来たのはあまり期待はしていないものの、スターロッド探索に協力してくれるのではないかという淡い期待から。
そしてカービィが来たのは魔理沙が来たから。それだけである。
別に霊夢を止めに来たわけではない。
はっきり言ってここで霊夢が暴れて命蓮寺がどうなろうと、ここと関わりの薄い魔理沙としては知ったこっちゃない。
ぶっちゃけ面白いものが見れそう、と言った感覚だ。
酷い話だが、幻想郷にまともな者はほぼいないので仕方があるまい。
閑話休題。
霊夢は適当に襖を開け放ち、目的の鼠妖怪を探す。
その際絶賛昼寝中の封獣ぬえや絶賛着替え中の村紗水蜜、何やら怪しげな作業をする二つ岩マミゾウなどに遭遇するも、ことごとく無視する。
ここまで迷惑な巫女がこの世にいたのかというほどの暴挙。
ふと魔理沙が霊夢を追う一輪の顔を覗き見て見れば、そこには青筋を浮かべた一輪とそれに呼応して雲山もモコモコと現れだしていた。
どこからどう見ても爆発寸前である。
だがしかし、起爆寸前で導火線の火は消し止められた。
「あっ、姐さん!」
現れたのは、法衣を着た、グラデーションの美しい紫の髪をもった女性。
紛れもなく、命蓮寺の主、妖怪たちを引きつける僧侶、聖白蓮である。
彼女がすっと奥から現れ、霊夢の前に立ちはだかったのだ。
「霊夢さん、寺の中で走らないでください。皆驚いています。」
「あら、ちょうどよかったわ。鼠妖怪いるでしょ? だして欲しいんだけど。」
「うちは妖怪を配給する場所じゃありません。それに、今はナズーリンは居ないわ。」
「なんでよ。」
「うちの星が宝塔を失くして、探しに行っているのよ。」
「宝塔を失くしたぁ?」
前も宝塔を失くしたのではなかったのか。
二度も神の道具を失くすとは、一体どういうことか。
「まぁまぁ、よくできた代理だこと。」
「まさか二度も同じ失敗をするとは思わなかったわ。真面目な子なんですけどね。」
どうやら今回の失敗は、白蓮としても予想外なものであったらしい。
と、ここで霊夢はふとあることに気がついてしまった。
一番気がついてはいけないことに。
「ん? ちょっと待って。あの鼠妖怪が探し物しているってことは……まさか、鼠を使っているのはアイツなわけ!?」
「あ……確かにそうですね。」
ナズーリンの探索方法。それは自身の力と鼠による人海戦術。
そしてその人海戦術に使われる鼠たちはなかなか勝手なところがあり、もし探し物が食べ物なら、見つけると食べてしまうことがよくある。
迷惑極まりない。
いやしかし、霊夢にとってはそんなことどうでもいい。
もしかしたら霊夢の米を食ったのはナズーリンの使役する鼠の可能性が高い、ということだ。
力を借りようと思っていた者が、実は犯人だっただなんて。
裏切られた気分だ。許せん。
……と、霊夢は思っているのだが、はっきり言って単なる八つ当たりである。
やはり幻想郷にはまともな巫女はいないようだ。
「今すぐやめさせなさい。今すぐ!」
「星の宝塔を探してもらっているんだけど……」
「そんなんどうだっていいわ! こちとら食料の危機なのよ!」
もはや命蓮寺の事情なぞアウト・オブ・眼中である。
そしてついに、白蓮も怒りの炎も少しずつ滾ってきていた。
「霊夢さん、今はお客さんがお見えになっております。静寂を好む御仁なんですよ?」
「ああ? また新種の妖怪か!」
命蓮寺に来る客なぞ、妖怪に違いない。
なかなかの暴論ではあるが、あながち間違いではない。
なにせここまで敷地内で妖怪がウロウロしているのだ。普通の人なぞ呼べるはずがない。
だからそこに関しては白蓮も何も言わない。
だが、話を聞かずにまた大声で騒いだことは別だ。
静かに怒りの炎が大きくなりつつある。
「霊夢さん……私、さっきなんて言いましたっけ?」
「客でしょ? そういうのいいから! ああもうわかったわよ! こうなったら私一人で鼠妖怪をとっちめて来るわ!」
完璧な逆ギレで霊夢はドスドスと床を踏みしめ、外へ出ようとする。
そしてついに、白蓮の堪忍袋の尾が切れようとしていた。
だがそれは、ある者のたった一言で止められた。
「聖殿。私に構わず。」
「……あら、すみませんね。」
聞こえたのは、ダンディな声。
しかしその声の発生源はひどく低い位置からだった。
その声の方を向けば、そいつはいた。
青い球体の体、藍色のマント、肩パッド、そして、白い仮面。
そのシルエットは、酷くカービィやワドルディと似ていた。
「……また一頭身……」
「最近増えたな、一頭身……」
「一頭身で悪かったな。故郷ではこれが普通なのだよ。」
霊夢と魔理沙の失礼極まりない発言に、少しばかりの嫌悪を示す仮面の一頭身。
その仮面の一頭身に対して、白蓮は先ほどの般若から一転、笑顔を見せる。
「紹介します。この方は『ぽっぷすたー』なる場所から来られた騎士、メタナイトさんです。」
「訳あって命蓮寺に居座らせてもらっている。」
メタナイトと名乗った仮面の一頭身。
そういえば、どこかで聞き覚えがあるような。
そう。確か早苗が何かそれっぽいことを言っていたような……
「そうか! メタルナイトか!」
「いやそれをいうならダメナイトでしょ。」
「メタナイト、な。変なあだ名で呼ばないでくれ。」
出会い頭にかなり失礼なことを言われているが、特に取り合わないのは大人の度量か。
そしてメタナイトはカービィへと向きなおる。
「久しいな、カービィ。あの日出てから一ヶ月……いや二ヶ月か?」
「ぽよ!」
「そうか……ぼちぼちか……」
「ちょっと待った。」
突然カービィと馴れ馴れしく会話し始めたメタナイトに、魔理沙は待ったをかける。
「なんでお前はカービィのことを知っているんだ?」
魔理沙の質問に、メタナイトはああ、失念していた、と呟き、答える。
「私は過去、何度もカービィと戦い、また共闘したこともある……まぁ、戦友のようなものなのだ。」
「うぃ!」
「はぁ……」
いまいちピンと来ない。
どう見ても子供のカービィとどう見ても一頭身騎士のメタナイトが戦友?
親代わりの間違いではなかろうか。
だがまぁ、今の所そんな細かいところはいい。
今ここで最も重要なのは、『カービィを知る、意思疎通が可能な者が現れたこと』だ。
「つまりお前は……カービィのことを知っていると?」
「左様。」
「ちょっとちょっと! っていうことは、カービィがここで暴れている理由も知っているっていうこと!? 教えなさい!」
「……暴れている……まぁ、暴れているんだろうな。まぁ、理由は私もしっかり把握しているとも。」
だが、肯定だけしておいてメタナイトは黙り込んでしまった。
それをじれったく思った霊夢がさらに問い詰める。
「あんた、カービィが来た理由を知っているんでしょ? あんたらが『げーむ』とやらの住人であることは知っているのよ! 早く目的を答えなさい!」
「……断る。」
「そう、なら力づくでも……」
「まて霊夢。早まるな。なんか面倒ごとになる気がする。」
嫌な予感を察した魔理沙が慌てて霊夢を制する。
霊夢は霊夢で暴走癖があるから、気が抜けない。
不満そうな霊夢を尻目に魔理沙は一つ質問する。
「なぜ、理由を教えられない? 私たちに知られるとまずいことでもあるのか?」
「ない。知っても知らなくても、君達にはなんの実害は及ばない。……しかし、過ぎた知識とは身を滅ぼす毒だ。我々の目的を知ることによって真実を知れば、正気を失うかも知れないぞ?」
「……なるほど、わかったぜ。」
「……どういうつもりよ、魔理沙。」
あっさり引き下がる魔理沙に、霊夢は納得いかない様子だった。
だが、こればかりは仕方がない。
魔術とは世界の裏側を覗くようなもの。
中には研究過程で知ってはいけないものを知ってしまい、正気を失うこともある。
そういった事例があることを理解した上で魔術を研究している魔理沙だからこそ、おとなしく引き下がったのだ。
……神とつながる巫女たる霊夢も同じようなことをしているはずなのだが、霊夢は巫女としての仕事をほとんどしていないので、そういったことを理解していないのだろう。
ただ、ある程度の探りは入れる必要はある。
「我々、といったな? 他にも行動している奴がいる、ってことか?」
「左様。幾分か前にワドルディ達……橙色の一頭身達が大挙して来ただろう? 彼らは主にカービィのサポート、および情報収集係としてやって来たのだ。」
「……情報収集しているようには見えないんだがなぁ。」
「……まぁ、プププランドの住人は総じて呑気だからな。カービィや我々と幻想郷の住人の間を取り持つ、という役目は果たせているようだが。」
「私も一ついいかしら。本当に幻想郷に害を及ぼす事は無いのね?」
「この世に100%というものはない。結果的に何が起こるかは最後までわからない。だが、我々は決して幻想郷の破壊者ではないことは断言しておく。」
「……ま、後は覗いているだろうアイツの対応次第かしら。あんまり目立たないで欲しいものだけどね。」
霊夢の感想としては、怪しいことこの上ない。
仮面で表情が窺えないのも大きい。
しかしこの場で退治したところで、相手の規模が正体不明なだけあって下手に動きづらい。
結局、霊夢はメタナイトの追及は諦めざるを得なかった。
そして、それと同時にここに来た本来の目的を思い出す。
「もうカービィらの事についてはいいわ。今解決すべきは鼠妖怪よ!」
「……元に戻りやがった……」
「どうしようもない御仁ですな。」
「怒りは煩悩の一つなんですけどね。」
全員が呆れ、どうやって卸そうかと考えていたその時。
一匹の鼠が走り寄って来た。
それも、普通の鼠ではなく、背中に紙束を背負った、あからさまに誰かの使いのような鼠が。
それを白蓮はなんの抵抗もなく、掴み上げる。
「あら、ナズーリンからの伝文だわ。」
どうやらナズーリンは普段からこういう方法を取っているようである。
その伝文を読む白蓮。
しかしその顔は見る見るうちに青ざめて行く。
「どうした?」
「……『未知ノ敵トノ遭遇。応援求ム』……ですって。」