東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜 作:糖分99%
カービィとワドルディの一行は寄り添い集まりながら冥界を進む。
カービィが黄色いスターロッドを掲げながら先導するため、ツアー客のようにも見えなくはない。
しかも、そのスターロッドの光に興味を持った霊達が集まってくるので、それはもうなかなかカオスな様相となっている。
当の本人達は集う霊なぞ全く気にはしていないようだが。
スターロッドの光を頼りに、分裂したスターロッドを探すうち、あたりはだんだん暗くなってくる。
そろそろ日も落ちつつあるようだ。
そういえば、カービィ達は夜飯どころか昼飯も食べていない。
ぐぅうう、とカービィの腹の音があたりに響く。
「ぽよ……」
「……」
と、ここでカービィをワドルディの一体がつついた。
そのワドルディの背中には大きなリュックが背負われている。
さらにその後ろには、同じようにリュックを背負ったワドルディが三体ほどいた。
計四体のリュック持ちワドルディはそのリュックを下ろし、中のものを取り出して行く。
中にあったのは、大量の食料であった。
バゲット、サンドウィッチ、冷や飯、ステーキ、唐揚げ、焼き魚、各種野菜……
それらが籠や箱に入れられ、所狭しと並んでいるのだ。
夕飯タイム、といったところか。
ワドルディの二体が協力してシートを敷き、その上に食料を並べて行く。
そしてそれをカービィと十体のワドルディが取り囲むように座る。
「いたぁきあす!」
「……」
カービィの舌足らずな号令のもと、各々夕食を楽しみ始める。
周囲には鬱蒼と木々が生い茂るのみで開放的な景色を楽しめるわけではないが、それでも仲間と美味しい食事があればどこでも楽しく過ごせるというものだ。
皆談笑しながら夕食を楽しむ。
……ワドルディ同士ならともかく、カービィとワドルディが何故会話が成立しているように見えるのかは疑問だが。
ともかく、彼らが楽しい時間を過ごしているのは間違いない。
やがて腹ごしらえも終え、元気を取り戻したカービィは再びスターロッドを旗印としてあげる。
後片付けを終えたワドルディ達も一斉にその突起のような手をあげる。
そしてまたわらわらと歩き出すカービィとワドルディ一行。
その先には、霊達の集まる優美な建物が鎮座していた。
●○●○●
「ロケットってこれか?」
魔理沙は冥界の入り口付近にそびえ立つ流線型の塔を見て呟く。
妙に画力の良いワドルディが描いた絵と酷似しているあたり間違いない。
「……って、コレまであるのか……」
さらに、その脇には守矢の神二柱を吹き飛ばした竜のような物体まであるではないか。
こんなところに放っておいて、大丈夫なのだろうか?
若干躊躇したが、さすがに背負っていけないと判断し、置いておくことにする。
そしてまだ誰か残っているのかと思い、ロケットの中を覗いてみる。
すると、いた。
椅子の上で眠る一体のワドルディの姿が。
彼がお留守番ということなのだろうが、寝てしまっては意味がない。
魔理沙は腕を伸ばし、つついてみる。
嫌そうに身をよじるが、起きる気配はない。完全に熟睡している。
呆れつつも、起こすのは少々かわいそうなので、放っておく。
ただし、筆でワドルディの顔に勇ましい太眉を落書きしてから。
「落ちやすい墨だし、大丈夫だろう。……さて、カービィ達はどこに行ったか……考えられるとしたら……白玉楼だよなぁ。」
もとより予感はしていた。
いつまで経っても特定の季節にならない、という異変は前にもあった。
そしてその異変の発生源は、ここだったのだ。
紅い霧の再発という現象が起きている以上、考えるまでもない。
魔理沙の脳裏に浮かぶのは、一人の艶やかな亡霊の姿。
箒にまたがり、白玉楼へと一直線に向かったのだった。
●○●○●
白玉楼の漆喰の壁の前に、カービィとワドルディはぽかんとした表情で佇んでいた。
目の前にあるのは高い壁。
カービィはホバリングで飛べるとして、ワドルディにこの壁を越える術はない。
さて、どうしよう?
カービィとワドルディ達は顔を見合わせ、相談らしきものをしだす。
すると、ふと一体のワドルディが思い出したようにリュックの中を漁り出す。
そしてその手を引き抜いた時、その手にはあるものが握られていた。
それは赤い紐と青い紐。
そのワドルディは少し思案した後、赤い紐を納め、青い紐をカービィに渡した。
するとカービィは合点がいったように、青い紐を吸い込み、飲み込んだ。
すると、どうだろうか。カービィに淡い光が集まり、晴れた時には既にカービィの姿は若干変わっていた。
青い鉢巻をその頭に巻いているのだ。
見た目の変化は些細なものだが、しかし内包する力は全く違う。
ワドルディ達はコクリと頷き合図を送る。
カービィも応じて頷く。
そしておもむろにワドルディの一体に凄まじい速度で接近した。
そしてそのまま、ポイと投げた。
壁の上に乗るように優しくではあるが。
そして他のワドルディも同じように掴んでは投げ、掴んでは投げを繰り返し、めでたく全てのワドルディが壁の上に上がることに成功した。
そしてカービィもホバリングで壁の上に登り、待っていたワドルディ達と喜びのハイタッチを交わす。
一通り喜びを分かち合うと、ポテポテという擬音がふさわしい様子で敷地内へと降り立つ。
そこに広がるのは、美しい日本庭園であった。
まるで水面のように滑らかな枯山水。しなやかにくねる赤松。そして日を反射する朱の橋。
その庭を管理するものは、さぞ腕の良いものなのだろう。
そして、主人は相当の有力者に違いない。
ワドルディ達はその美しい庭に見惚れる。
だが残念ながら、カービィには庭の良し悪しはわからない。
特に何の感情を抱くことなく、キョロキョロと目的のものを見つけ出そうとしている。
そうやって無遠慮に歩いたからか。
「曲者!」
怒声とともに、金属の煌めきが目に入る。
それを目にしたカービィは、その素早い動きで無理やりかわす。
いきなりの攻撃に、カービィもワドルディも動揺を隠せない。
しかしあからさまに人の家に侵入して、住人が怒ることを予想できなかったのだろうか?
おそらく、元いた世界がそういったところがおおらかだったからだろう。
文化の違いというものは、常に衝突の可能性を孕んでいるのだ。
閑話休題。
カービィに斬りかかったのは緑色のワンピースを着て、日本刀を両手に持った二刀流の剣士。
その髪は銀のおかっぱに、黒いリボンをつけたもの。
そして、その周りにはひときわ大きな霊が浮かんでいたのだ。