東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜   作:糖分99%

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アズレン摩耶が来ないのね。
でも代わりに明石を迎え入れることができたのね。
念願の明石を早速育成したいのね。
でも金ブリが圧倒的に足りないのね。
しかもサウスダコタも育てたいからさらに足りなくなるのね。
……沼なのね。



醒神と桃色玉

 強烈な引力により体内に引きずり込まれたカービィ達は、その勢いのまま少し柔らかく湿っぽい床に叩きつけられる。

 

「ぶぃっ!」

「いてっ! くぅ、どこだここは!」

 

 見渡せばそこは暗く湿った閉鎖空間。

 しかもうっすらと赤く、妙に有機的で、生理的嫌悪感を覚えてしまうような場所。

 

「……気味が悪いわ。とっとと出るわよ」

「そうしたいが……どこから出るんだ?」

 

 周りを見渡しても、自分達が入ってきたのであろうこの世界への入り口が見当たらない。

 完全に閉じ込められている。

 

 しかしそんな中、メタナイトらは至って冷静であった。

 

「カービィ、そろそろ奴が来るぞ!」

「うぃ!」

 

 ドラグーンから放り出されたカービィはその湿っぽい床を踏みしめ、構える。

 すると上から音もなく、スルスルとソレは降りてきた。

 それは周りの景色以上に嫌悪感を誘うモノ。

 ソレは、人よりも大きな胎動する肉の塊であった。

 それが無数の管に繋がれてて降りて来る。

 ソレのグロテスクさもそうだか、しかしそれ以上に目を引くものがあった。

 

 ソレにつながる無数の管。

 その管に引っかかり、絡まるようにして、藍がぐったりと倒れていた。

 いや、藍だけではない。

 見れば橙も、舞も、里乃も、紫も、隠岐奈も、そしてクラウンピースやヘカーティアまでも、その管に絡められ、捕らえられているではないか。

 その力無く腕を垂らしている姿からして、到底意識があるとは思えない。

 

「姿見ないと思ったら……そういうこと」

「完全にこっち(幻想郷)の敵かよ!」

 

 そして姿を現した肉塊は、天井からドロドロとした気味の悪い液体を垂らし出す。

 床に垂れたそれは不気味に泡立っており、真っ当なものには見えない。

 更には肉塊から謎の言語の形をした魔力弾を飛ばして来る。

 

「皆! エンデ・ニルに、あの肉塊に攻撃しろ! その隙に残りのものが八雲殿達を救出せよ!」

 

 メタナイトが声を張り上げ指示を出し、自らも剣を振るう。

 その声に迷いはなく、まるでこの存在を以前から知っていたかのようだった。

 メタナイトの発言に訝しみながらも、管を切り刻み、紫達を救出する。

 微かに呻き声が聞こえるため、生きてはいるようだ。

 

 肉塊への攻撃も忘れてはいない。

 肉塊からの攻撃は緩く、弾幕ごっこに慣れた者達にとってすればそこまでの脅威ではなかった。

 やがて、その表面に亀裂が入ってゆく。

 

「トドメだカービィ!」

「ぽよぉ!」

 

 カービィは垂れる液体を吸い込み、星型弾に変えて吐き出す。

 その一撃に耐えきれなかったのか、その亀裂が大きく開く。そして中から眩いばかりの光が溢れ出す。

 

 途端、凄まじい勢いで中にいた者達は吐き出される。

 

「ぶょ!」

「ぐあっ!」

「きゃっ!」

 

 勢いよく吐き出され、再び鏡面の大地へと叩きつけられる。

 

「皆無事か!?」

「な、なんとか」

「全員いるわ」

 

 メタナイトの安全確認に皆が答える。

 救出した紫達も健在なのを確認し、ひとまず安堵する。

 だが、すぐにメタナイトはその声を渋くし、独白する。

 

「くそ……しかしなぜエンデ・ニルがここにもいるんだ? また亡霊と化したのか? 星の夢と同じようにマルク達と分離したのか?」

「……違うわよ」

 

 そしてその独白に答える者がいた。

 それは、ヘカーティア・ラピスラズリの声であった。

 赤い髪はほつれ、身を起こすので精一杯という様子であった。

 

「久しいわね、メタナイト……ポップスターの幻想化計画に手を貸して……以来かしら?」

「ラピスラズリ殿! 幻想郷の縛りから外れた神たる貴女ならば知っているはず! なぜエンデ・ニルがこの幻想郷にいるのです!?」

「……貴方は勘違いしているわ」

「何?」

「アレは……エンデ・ニルは貴方達の世界にいたものじゃないわ」

「つまりそれは……?」

「ええ。私と同じように、幻想郷の域を超えた真性の神よ。それも全ての世界遍く同時に存在する至高の神。虚無が……0(ゼロ)がその世界にある限り、何処にでも現れる」

「では、カービィが倒したのは!」

「貴方の世界……1と0の『0(ゼロ)』に住まうエンデ・ニル。それが『シナリオ』の強制力で表層に現れただけ。エンデ・ニルは外の世界にも、この幻想の世界にも、同時に存在するわよ」

「待って。理解できないわ」

「つまりは……このデカブツはカービィの世界にいたものではない、って事か?」

「そう。このエンデ・ニルは間違いなく、元から幻想郷にいたものよ」

「嘘でしょ!? こんな神知らないわよ? 声も聞いた事ないし……」

「エンデ・ニルは虚無の神。本来なら触れてはならない神よ。特に、“貴女は”」

「ど、どういうことよ」

「カービィ、アレと一戦を交えた貴方ならわかるんではなくて?」

「ぽよ……」

 

 ヘカーティアは霊夢を見て、警告した。

 それと同時に、驚愕の声が上がる。

 振り向けば、地に伏したはずのエンデ・ニルが再び白磁の仮面をはめ直し、その赤き巨体を持ち上げていた。

 そして再びその巨躯が立ち上がる。

 だがそれだけでは終わらない。その両腕は大きく開かれ、まるで劈開のある薄い結晶が連なったかのような白い翼に変形した。

 巨躯を支える脚は消滅し、代わりにハートが連なったような尾が生え、宙を舞う。

 

 さぁ、飛び立つのだ、覚醒せし神よ

 幻喰らい、(ぼう)を滅せよ

 さぁ、天翔ける(ぼう)よ、現実から降る光よ、審判を

 幻の子等祈り、叫びの音を奏

 幻想の楽園に、忘却を……永遠に

 

 虚無がある限り何処へでも、無数に存在するエンデ・ニル。

 かつてハイネスが復活させた個体は、その邪な心のままに破壊の渦を巻き起こした『破神エンデ・ニル』として顕現した。

 

 では、この個体は?

 誰がこの個体を顕現させたのかはわからない。

 だが、確かな意志は感じられる。

 この『幻想郷』という夢を覚まさせんとする強固な意志を。

 

 かの個体の名は『醒神エンデ・ニル』。そは夢を砕く神なり。


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