東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜 作:糖分99%
寒空の中、絶えずうめき声のような音がどこからか聞こえてくる幻想郷の空を飛ぶ。
先頭は霊烏路空の体を借りているドローン、その後にカービィを箒に乗せた魔理沙、人形を複数引き連れたアリスが続く。
「ぷぅ、寒いぜ」
「この大異変時に呑気なものね」
「心に余裕を持ってる、って言って欲しいぜ。なぁカービィ?」
「ぽよ?」
「ほら、カービィもそう言ってる」
「カービィをダシに使わないで」
この幻想郷の存亡をかけた状況であるというのに、三人は中々能天気である。
しかし、それもある種才能であることは間違いない。『緊張しない』ということは『精神的プレッシャーがかかっていない』ということ。冷静な判断を行える能力が生きているということ。
魔理沙の才能はどうあがいても凡人だと、以前にも何度もしつこく語ってきた。
しかしそれでありながら霊夢と肩を並べられるのは、その精神が人間離れしているからに他ならなかった。
その能天気な会話を一刀の下斬り捨てるようにドローンが口を挟む。
『間も無くSanity 0 systemの防空圏内に侵入します。抵抗に遭うと予想されるため、十分警戒してください』
「おっと、もうそんなところに来たのか」
魔理沙は遥か下界を見渡す。
そこにあるのは名前も知らぬ荒野。人里離れた、畑すらない痩せ地。
人は勿論のこと、無聊を慰めるものが何もないために妖怪もあまり集まらない土地。
「まぁ、危険勢力が隠れるにはちょうどいい場所なのかしら?」
「だな。どうする? ここら一体を焼き払うのか?」
「また荒っぽい方法を思いついて……ていうか、そんなのが効果あると思ってるの?」
「炙り出しには使えるかもしれないぜ?」
荒地を見て、人がいない事を良いことに好き勝手宣う魔理沙。
が、その時。
『Alert! Alert! 敵機確認。敵影一体────識別コード取得。『Caster・core』。前方135。接敵します』
それは、どこからか舞い降りて来た。
ぱっと見、それは針金が無数に絡まりあった金属塊にしか見えなかった。
だがちがう。違うのだ。
それは、身体中に無数のアンテナを取り付けられた、優曇華だったのだ。
無数のコードでアンテナと繋がれ、四肢は拘束され、アンテナの影からわずかに見える顔に正気は無かった。
そして、それが現れた途端、魔理沙の気分は悪くなる。
「ドローン、確かあいつは能力を使わされて電波とかなんかを増強させているんだろう?」
『その通りです』
「なるほど、通りでまたムカムカしてくるわけだ」
改造された優曇華はただ浮遊しこちらを見ている。
出方を伺っている。そのように見えた。
そういう油断しない相手に対しては、こちらも不用意に動くわけにはいかない。
……が、残念ながら魔理沙はそういうまどろっこしい事は考えない。
考える頭がないわけではない。ただ、そういうチマチマした戦い方を好まないのだ。力を得る為に地道な努力を惜しまない彼女だが、戦闘において簡潔明瞭さと派手さはなによりも大切らしい。
結果、一人突撃することになる。
「ひゃっほう! 一番槍は貰ったぜ!」
「ぽよー!」
「ばっ……引き返しなさい! 絶対罠よ!」
「なら罠ごと焼き切ってやるぜ!」
魔理沙は八卦炉を構え、魔力を込めて放出する。
放たれたのは当然マスタースパーク。星を撒き散らし、極太のレーザーが同時に放たれる、魔理沙の十八番。
マスタースパークはたしかに、アンテナの塊と化した優曇華の方を向いていた。
だが、その軌道は突如として折れ曲がる。
「なっ!」
「ぽょ!?」
「魔理沙、水よ!」
「くそ、屈折か!」
暗闇でよく見えなかったが、たしかに魔理沙と優曇華の間には水の層がある。マスタースパークの熱量を吸収したのか、少々茹っているように見える。
空気と水の屈折率の違いにより、その境界で屈折が起きる……当たり前の物理現象だ。
だが、この現象において物理的にありえないのは、なぜ水が宙に浮いているのかということ。
『Alert! Alert! 敵機確認。敵影三体────識別コード取得。『Deep one』二体、『クラッコ type-blood』一体。右方一体、左方一体、光学迷彩を用いて接近中。高度500より一体降下中』
ドローンが新たに現れた者の存在を警告する。
そして、突如虚空から強力な水弾が放たれた。
「うおっ! どこだ!」
「光学迷彩……もしや、河童?」
「なるほど、通りで水が浮いているわけだ! 河童を洗脳して兵器化とは、中々えげつないことするな!」
姿の無い狙撃手は、その身を隠して魔理沙を何処からか狙撃する。
弾が飛来した方へ魔理沙もアリスも魔力弾を飛ばして応戦するが、立ち位置を頻繁に変えているのか、全く手応えがない。
そしてついに、夜空にかかる雲を割ってそれは姿を現した。
それは数メートルほどの雲であった。
だが、その色は血のように赤く、不自然なもの。
そしてその中央にはこちらを睨むぎょろりとした眼球が覗き、その四方からは金属質な棘が生えていた。
一目見てわかる異形の怪物が、その姿を現したのだ。
「なんだ、あんな妖怪見たことないぞ」
「私もよ。というか、あれは妖怪なのかしら?」
『否定。あれは妖怪と洗脳装置が一体化した存在です』
「つまりは洗脳された優曇華や河童と同じ、ってわけか」
「中に取り込まれているのかしら……っと、来るわよ!」
「おう!」
紅い雲の怪物はその4本の棘に光を纏う。
それはバチバチと火花を飛ばしており、高圧電流であると予測できた。
そしてその高圧電流を纏ったまま、その巨体を活かしてタックルを仕掛けてきた。
しかし回避は二人とも───霊烏路空の体を借りているドローンも入れて三人とも────得意であった。
『弾がデカけりゃ当たる』なんて甘い考えは通じない。
「ふん、中々単調だな」
「そうね。でも……」
「ぷい!」
「ん? どうしたカービィ?」
何かカービィが空に向けて声を発する。
魔理沙が疑問に思った途端、何かが魔理沙のすぐ傍を掠めた。
それは、あの時見た現存する伝説。無類の機動力と力を備えた神器。それの再臨。
カービィはドラグーンを呼び出し、騎乗したのだ。
「ほぉ、それを見るのも久しぶりだな。カービィも本気ってか!」
「ぽよ!」
「よし、その意気だ!」
ドラグーンは空を切り、紅い雲の怪物の周囲を周回する。
撃墜せんと、紅い雲の怪物はその4本の棘から雷撃を無差別に放つ。
だが、雷撃は当たることはない。当たってもなお、ドラグーンより放たれる衝撃波なようなものが弾き飛ばす。
「ほら、こっちよ!」
そして雲の怪物が気を取られている隙に、アリスが人形を介して魔力玉を飛ばす。
紅い雲の怪物はそこまで敏捷性に優れてはいない。的も大きいため、外れることなく当たる。
だが、やはり雲だからだろうか。妙に手応えがない。
「そら、喰らえぇ!」
間髪入れず、魔理沙はマスタースパークを放つ。
当然、紅い雲の怪物に命中するのだが、やはり効果は見られない。
「やっぱ形がないから効かないのか?」
「雲の怪物だしね。一理あるわ……でも……」
「ん? どうした?」
アリスは口ごもり、訝しげな顔をする。
「私には、あの怪物が魔弾とかレーザーを飲み干しているように見えるんだけど……」
「は?」
その時、カービィが攻勢にでた。
ドラグーンのウィングを掠めるように当ててタックルするつもりだ。
そこまで加速もしていないために威力は弱いが、それでも現存する伝説級のマシンのタックルだ。無傷では済むまい。
カービィはドラグーンを横倒しにし、その翼で切るように、タックルした。
そして、甲高い金属音のような音が辺りに響く。
それは四方に伸びる金属の棘に当たって発生した音ではない。
もっと別の……そう、雲の怪物より現れた、“ソレ”とドラグーンの翼が当たった音。
「ふぃ!?」
「な、なんじゃありゃ!?」
「……驚いたわね」
ソレは、雲の怪物より這い出した。
それは人の姿をしていた。一糸纏わぬ姿は艶かしい。それが上半身を露わに紅い雲の怪物の雲を破るように現れたのだ。
だが、その腕は左右非対称で極端に大きく、凶悪な鉤爪が生え、その目に瞳は無く、何を見据えているのかもわからない。逆さ吊りに現れたその姿は狂気すら感じられる。
そして。カービィと、魔理沙と、アリスが何よりも驚いたのは。
その顔が、レミリアのものに酷似していたことだ。
吸血鬼は窓の隙間も通り抜けて血を吸う、という伝説があります。
最近の創作物の吸血鬼はそれを『体を血の霧にして通り抜ける』と解釈していることが多いようです。
ならば紅い霧を指先から出せるレミリアも、やっぱり体を血の霧にできるのかなー、って思ったので、カービィシリーズで不憫なボス代表、クラッコと悪魔合体させました。
つまりは、クラッコの雲の部分そのものがレミリアです。
ちなみにこのクラッコ、クラッコ部分は機械です。つまり、ドロッチェ団と同じくニセモノ。本家涙目。