東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜 作:糖分99%
私は亜空の使者のメインテーマかなぁ。あの面目躍如の名シーンは大好きです。
見覚えがない。
そんなもの、見たことはない。
神奈子はカービィの握るものが何なのか、全くと言っていいほどわからなかった。
ただし、この一点だけは、はっきりとわかる。
アレは、ただの物体ではない。
いやむしろ、“伝説”と称されるような、畏ろしきモノ。
神奈子は神と化す前は、人であった。
太古の、曙の人間。
そしてその当時は生きるのに必死で、常に死を隣人として生きてきた。
だからだろうか。
その物体からは懐かしい、かつ忌むべき匂いがする。
「乾よ!」
神奈子は叫ぶ。
それは神奈子の能力による、天からの制裁。
その威力、畏れ、全て神として申し分ない。
だがその声には、多分に『恐怖』が含まれていた。
楔型の雷撃が落ちる。
だがそれが地上へと達するよりも早く、それはこの幻想の地に産声をあげた。
七色の宝石群、白い翼を模した物、白い流線型の物体。
それら全ては一つとなり、元の姿を取り戻す。
そしてその瞬間、伝説は舞い降りた。
その姿は飛翔する竜の如く。
それに騎する勇士は空を支配する。
飛翔する竜に騎する勇士。その姿をみて、誰が呼んだのだろうか。
その名は『ドラグーン』。
今に残る伝説である。
カービィはそれに騎乗し、空を、迫る雷霆を睨む。
カービィの意志により、尾部の宝石が輝き出す。
そして、力は解放される。
この場にいる全員が目撃した。
衝撃波を撒き散らし、凄まじい速度で急発進するカービィを。
そしてそのまま雷霆に激突し、難なく弾き飛ばしたことを。
地を抉るはずの雷霆は、地に達するよりも早く、竜に屈した。
「一撃で、無傷だと!?」
「ちょっとこれはまずいんじゃないかなー……?」
引き攣った笑いを見せる諏訪子。
その足元は赤熱し、グラグラと煮立っている。
溶岩である。
それを諏訪子の能力で操り、カービィへ向け飛ばす。
その姿は地より這い出る炎の大蛇に見えた。
だが、竜とは蛇の長く生きた姿である。
ならば、蛇が竜に勝てる道理なぞ、存在しない。
またも真正面から溶岩の大蛇に挑む。
そして大蛇はなにも為すことなく、その身を貫かれ、四散した。
「……なるほど、な。それが、それが大結界を破った力か!」
「え、そうなのか?」
神奈子の怒声は魔理沙にまで届き、それに反応して素っ頓狂な声を上げる。
その声に応えたのは、霊夢だった。
「でしょうね。っていうか、あれしか考えられないわ。あの突破力、物理的な力だけじゃない。神の創造したものを物理的力だけで突破できるはずがない!」
流石に大結界や神については霊夢が一枚上手であったようだ。
しかし、正体を見破って弱体化するのは妖怪のみ。空の彼方を縦横無尽に駆け巡るは、様々なしがらみを突破したような不可思議存在。
今もなお、神奈子の雷撃と御柱、諏訪子の岩礫と鉄の輪がカービィを追っている。
だが。
「くっ……疾い。あの天狗をはるかに凌駕している!」
「地を這う蛙にはちょっとキツイんだけど!?」
空を隙間なく覆うのは、一撃一撃が弾幕ごっこの弾とは比べ物にならないほどの威力を持つ。
それが本気の弾幕ごっこの時のように、狂気的な密度で飛んでいる。
にも関わらず。
それにも関わらずだ。
カービィには当たらない。
上へ、下へ、右へ左へ、加速と減速を繰り返し、空を優雅に泳ぐかのようにかわして行く。
そして一度急加速すれば、軌道上の雷撃、御柱、岩礫、鉄の輪、全てを粉砕する始末。
さらにもう一つ、忘れてはならないことがある。
神とて、力は有限だ。
不老不死永遠の象徴たる蓬莱人ですら、疲れることもあるのだ。
そして力を行使し過ぎたことによる限界が、刻一刻と迫りつつあった。
そしてそれは攻撃にも現れ始める。
少しずつ、密度が薄くなってきた。
それに合わせ、御柱や鉄の輪、岩礫の速度も遅くなり、雷撃も細くなってゆく。
そして、子供でありながら戦士として完成されたカービィは、それを見逃すはずもなかった。
機首を上げ、急上昇する。
高く、高く、どこまでも。
そして最早点すらも見えなくなった時。
何かを察知した霊夢は、二柱の前に立ちはだかった。
「カービィ、そこまでにしなさい! 『夢想封印』!」
そして無数の札を取り出し、周囲に浮かせる。
博麗の御技、夢想封印。
これでカービィを待ち構える算段だろう。
遥か上空に札は舞い上がり、夢想封印の構えを作り上げる。
ただ札が集まっただけと思うなかれ。既にこの札を超える事は叶わぬ、完璧な壁と化した。
カービィは超速で進むが故に、避ける事はできない。
そして、夢想封印の壁にカービィは衝突する。
そして、あっさりと夢想封印を突き破った。
「っ! む、『夢想天生』!」
夢想封印の突破に固まってしまわなかったところはさすがというべきだろう。
超速で迫るカービィは間違いなく霊夢に衝突する。
たとえ避けても、その衝撃波は間違いなく霊夢を襲う。
そう判断した霊夢は『夢想天生』を繰り出す。
それは、霊夢が天から授かりし生まれ持った力。まさに『天生』。
それは霊夢をあらゆるものから宙に浮かす、不透明な透明人間へと変化させる力。
その状態の霊夢には、何者も触れられぬ、干渉できぬ。
そしてカービィは霊夢に接近する。
最早一筋の光明にしか見えないカービィは、霊夢を通り抜ける。
かに見えた。
だがカービィは、霊夢を華麗に避けたのだ。
そう、衝撃波を発生させるほどの速度を保ちながら。
速度のみならず、その機動力に、霊夢は瞠目する。
そして、気がついた。
あの機動力をもつなら、その気になれば待ち構える夢想封印を避けることができたはずだ。
しかしカービィはそれをしなかった。
しなかった理由は制御が効かないからではなく、自らを止め得るに値しないからだ。
神奈子と諏訪子は神の力で堅固にした岩と無数の御柱で受け止めんとしている。
しかし、それが一体何になるのか。
博麗大結界も、夢想封印も、突き破った存在を目の前に。
ついに機首が神二柱の防御網と衝突する。
結果は、見るまでもない。
「大結界を破った……力」
「はは……ちょっと予想外……」
後に残るは、抉られたような跡と、岩盤に放射状の罅を入れ、その中心で横たわる二柱。
そして、この惨状を引き起こした張本人、カービィ。
乗っていた『伝説』はどこかへと消え、カービィただ一人、佇んでいた。
「お、おい、カービィ……?」
恐る恐る、魔理沙はカービィに声をかける。
するとくるりと振り返り、「ぽょ?」と応える。
この場合、なんと声をかければいいのか。
魔理沙も、空に浮いたままの霊夢も、全くわからなかった。
すると、カービィはおもむろに走り出す。
一瞬魔理沙も霊夢も身構えるが、それは無駄だったと次の瞬間には理解する。
走るその先。そこには雛がいたのだ。
「ひなー、ひなー!」
そして倒れ臥す雛の名を呼び続ける。
その呼び声で意識を取り戻したか、ゆっくりと目を開ける。
「ぅ……カービィ?」
「うぃ!」
その光景を見て、魔理沙は一人呟く。
「……なんとなくわかったぜ、カービィ。お前は純粋無垢だ。純粋無垢だからこそ……『友人』を傷つけられて、許せなかったんだな。」
「あれ、それって私まずいんじゃない?」
それを聞きつけた霊夢が魔理沙に問いかける。
「子供は悪意に敏感だ。霊夢は仲裁に入ったんだろう? だから、お前を避けたんだ。それに、カービィとあらかじめ会っていたのも大きかったかもな。」
「……危ない危ない。」
雛に寄り添うカービィを見て、二人はため息をつく。
だが、ふと魔理沙は思う。
「……結局、カービィは何しに幻想郷に来たんだ?」
それだけは、未だに謎であった。
その時である。
「ちょっと何があったんですか神奈子様、諏訪子様ー。喧嘩ですかー? ……って、ほわっ! もしやそれは、カービィ!?」
あまりに場違いな声が聞こえてくる。
声のした方を見てみれば、そこにいるのは長い緑髪に蛙と蛇の髪飾りをつけ、霊夢と同じように袖が分離し脇の見える巫女服を着た少女。
そう、この守矢神社の風祝であり、現人神である東風谷早苗。
そして昔、外の世界に居た者である。
解説・なぜ経験豊富な人外達は、揃いも揃ってカービィに敵対するのか
天狗の場合・テリトリーへの侵入者には容赦しないという設定から。また、未知の敵であるが故に実力を見誤り、数の暴力で押し切れると踏んだため。
守矢の二柱・自分の領土(だと思っている)妖怪の山でカービィが好き勝手に暴れられては、メンツが立たないため。信仰されようとおもえば、やはり弱みを見せてはならない。強くなくてはならない。故に、暴れるカービィを見過ごすわけにはいかなかった。挑まざるを得なかった。
強者共通・結界を破ったため。おそらくこれが一番の理由かと。現実と幻想の仕切りである博麗大結界が無くなれば、幻想郷は崩壊し、人の恐れや信仰で存在を維持している妖怪や神にとってはまさに生命線が途絶えるといえる。だからこそ、簡単に生命線を破りうるカービィは幻想郷に居て欲しくはなかった。何かの拍子に……という恐怖もあった。だからこそ、天狗と守矢の二柱は排除なり封印なりして無力化したかった。
ぶっちゃけ・原作を見ていると、なんか強者でも短絡的な行動が多いように見えるため。
と、いう考えで書いております。