それから2日かけていろいろ調べたり、切継から愚痴を聞いたりしたよ。
なにあんた、聖杯で世界改変する気だったの?やべーなあんた。
人から闘争本能とか悪性とかとっぱらって世界平和?
んー・・・・・・気持ちはすげえわかるわ。嫌だよね、人間の中の獣の愚かさ。
あんたもあれだろ?クズい魔術師いっぱい見てきたんだろ?
え?あんたの親もそういう魔術師で?初恋の幼なじみはもちろん、故郷の皆をゾンビにしちゃった?
うわあ・・・・・・解るよその気持ち。スゲーわかる。
そっから師匠に出会ってしばらくは楽しく魔術師狩りしてたけど、飛行機の中ゾンビだらけになって師匠ごと撃墜しなきゃならなくなった?
ふーん・・・・・・
同じ様な出自なのになんでこんな差がついちゃったんだろうって?さーね、俺は単に運が良かっただけかも。
しんどくなかったらもうちょい愚痴聞くよ。大変だったろあんたも。
ふんふん、そっから「天秤の選択」って奴をしてきたわけだあんたは。
少ない方をぶっ殺して数が多い方を助ける、ね・・・・・・あちゃー、そうなっちゃったんだ。やっぱり間違いだったのかって?
うんまあ、間違っちゃいないけどそれだけが判断基準だったらそらおかしくなるよ。
あんた真面目すぎるんだって。クソ魔術師のボケ共見ろよ。あいつら馬鹿なりに楽しそうだろ?
人間、ノリに任せたり馬鹿になる時は馬鹿にならなきゃおかしくなっちまうよ。なっちまったんだろ実際。
ふんふん、いろいろやってたら札付きになって?世界平和が欲しくてあんたはついうかうかとアインツベルンにそそのかされて聖杯の話受けちゃったんだ。
あんた、疲れてたんだよ。彼女いたんだろ?半年くらい引きこもってずっと食って寝てやる生活くらいしなきゃ駄目だったんだよ。
どう考えても冷静じゃ無かったってあんた。
わかってる?そうかなあ・・・・・・え、その後奥さんとって?子供こさえて?えっ、さっきの彼女は?愛人?
あんたなー・・・・・・そういう所ではっちゃけちゃうわけ?病んでるよあんた・・・・・・知ってる?そうか。
で、あんたはアインツベルンのアハトジジイの話に乗って、そんなんしちゃったんだ・・・・・・
奧さん生け贄にして、世界平和ね・・・・・・間違ってたのかなって?当たり前だ馬鹿野郎。
あんたなあ、自分の家族も救えない男が世界を救えるかよ?おかしいだろどう考えても。
改革に生け贄は必要だし、それは身内から出すべきだと思った?あんた・・・・・・やっぱこだわるところおかしいわ。
あんたどういうノリで狩りをしてたんだ?そんなんじゃ楽しくなかったろ。
えっ。感情は余計?機械になりきった?そこかあー・・・・・・多分そのへんだわ差がついたのは。
俺の所はあれだったんだよ。獣になるか、狩人になるかって感じだったわけ。狩人も血に酔ってるものだしな。
動物的だったんだよ。ある意味生き物らしかったんだ。血と涙の結晶みたいな。
人間、血も涙も無い機械になりきれるわけないじゃん。飯だって食うしやるときはやっただろ?子供出来たんだから。
人間が人間味を捨てられるわけ無いんだよ。だってそれってあんたが言う人間の悪性とか愚かしさそのものだから。
ああ、解るよ。だからこそ捨てたかったし、根絶したかったんだろ?俺も時々そんな気分になるよ。
でも人類が二千年以上かけてできなかったことが今すぐできるわけないじゃん。
ましてやお釈迦様じゃないんだから、そんなにすぐあんたが悟れたり捨てられるわけもないじゃん。
実際捨ててみて駄目だったろ?なに、聖杯の中の人のアンリマユにも言われた?
少数を切り捨てて多数を生かすってそれってつまり多数決だし、突き詰めていったらお前一人しか残んないよって?
腹立つけど、俺もそう思うよ・・・・・・
じゃあどうすればよかった?いっぱい他の道も間違いもあったと思うよ?あんた他の道が見えなくなるくらい疲れてたんだろうよ。
だってそうじゃん。おいしい話には裏がある。魔術師相手の戦いの基本だろ?
それも忘れるって相当ヤバいよ。疲れたらほかの選択を考える余裕なくなるじゃん。
過労の典型的な症状だよそれ。
まず家庭なり安らぎなりを手に入れたらその時点で立ち止まってよく考えるべきだったんだ。
あとあんたは真面目すぎで頭固すぎだ。多数と少数どっちを助ける?なんて質問、馬鹿真面目に答えちゃ駄目だ。
駆け引きなんだよああいうの。こんなん出題者が条件決めてるじゃん。マジシャンズチョイスって手口だよこれ。
ほら、手品でカードを選ばされるじゃん。でもあれって手品師の誘導でどう選択しても決まったカードを選んじゃうんだよね。
つまりそういうイカサマじみた質問なんだよ。出題者がどうとでも条件追加できるんだから。そりゃ論破されるわ。
だって相手が問題を押しつけられる状況ってそいつギャンブルで言えば胴元じゃん。
ルール作れるなら自分が有利なルールにするに決まってるじゃん。
だから相手の土俵に立たない。あんたも戦場でさんざんそういうのやってきたはずじゃん。簡単な応用問題だぜ?
あー、はっきり言ってやろうか。
相手の押しつけたルールで勝てるわけ無いじゃん。ルールは自分で作るもんなんだよ!
多数や少数なんて二択だの数だのだけじゃないんだ。善悪とか好嫌みたいな他の基準もあるじゃねえか。それを忘れたら駄目なんだよ。
なにそんなん主観だ?相対的にみれば正義も悪も無い?うるせえ主観上等じゃねえか。人間所詮てめえの二つの目でしか物事みれねえんだよ!
何度も言うが思いあがんな。身の程を知っとけ。
模範解答さっさと言え?あー、じゃあ言うよ。俺だったら俺についてくる100人だけ最初に選んで残りは海に突き落とす。
もしくは俺好みの100人だな。そんで次もどーせ故障するに決まってるから船の残骸で救急用ボート作っておく。
じゃなきゃあ、俺だけ最初に身内だけで真っ先に逃げる。
だってそうじゃん?なんで俺に頼ってくるばかりの赤の他人を助けなきゃならんのよ。
てめーの世話くらいてめーでしやがれ。ネズミだって死にそうになったら泳ぐくらいはするじゃねえか。そいつらはそれ以下か?
もし何百人いて誰一人どうにかしようとしないボンクラ共だったとしたらだ。
仮に陸地にたどりついてもそいつら何かあったらあんたに甘えるだけで何もしねえぞ。
あんたそんなん助けるの?そんなんが人類の生き残りならもう滅んでよくない?
逆に言ってやろうか?何百人いるんだから、仮にその暗黒馬鹿神様の言うとおりに船を修理できるのがあんただけだとしてもだ。
あんたがいなかったらそれはそれでそいつら結構なんとかするもんなんだよ。思いあがんな。
あんたは他人は頼れない自分がなんとなしなきゃ、ていう英雄願望につけ込まれたのさ。
何百人もいんだから、スキルなくってもなんとかしようとする奴らは出てくる。ちっとは他人を信用しろ。投げちまえ。難しいだろうけどな。
ちなみに回答はもう一つあるぞ?たまにはあんた自身でゆっくり考えてみな。
別にこれは世界だのそんな大げさなもんがかかった話じゃねえんだから。
・・・・・・まあ、いろいろ説教しちゃったけどさ。あんたはただ不幸で選択肢がなかった。他のあったとしても考える暇が無かったんだ。あんた過労だわ。
だから、最初に言ったとおり運が悪かっただけなのかもな。同情するし、助けもするよ。
俺だって一つ間違えばあんたみたいになったかもだし。
どういう意味だ?あんた、まだ人の心が残ってるならこれが終わったらアハトジジイから娘さん取り返すんだろ?
協力するよ。どうもアハトジジイの話を聞くにそいつもろくでもないアホみたいだからな。
ああ、もちろん俺に得はあるよ?その馬鹿の財産山分けな。俺が6であんたが4だ。
かちこんで娘さん取り返して財宝を持って帰る。ゴキゲンなおとぎ話じゃねえか。
あんたが主役の英雄譚さ。少なくともあんたは娘さんのヒーローにはなれるわけだ。なんだかんだでなりたかったんだろ、ヒーロー。
ああ?その母である嫁さん殺したのは自分だ?そいつはその子が大きくなるまで黙っとけ。正直に言うことだけが誠意じゃねえんだよ。
そんでその子が事情を解るくらいになったら土下座でもなんでもして謝りやがれ。まずはそれからだろ。
え?俺が9で自分は1でいい?その1は娘?
いいじゃん。かっこいいぜあんた。少しはマシな顔になったな。
じゃあ、明日もがんばろうか。そうだな・・・・・・冬木市の平和のために、とか。
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結局いろいろ調べて、どうも中にいるアンリマユの残りカスがいかんらしい、と解った。
ミネラルウォーターをドラム缶一杯に苦労して貯めても、うんこを1グラム投げ込んだらもう飲めないのと同じだ。
聖杯をぶっこわしたらこのうんこがあふれ出てそれはもうヤバイって解った。
まず土地は汚染されるわ、そもそも量がヤバいので洪水になるわ、引火もするので火事になるわでしゃれにならん。
サーヴァントに対してはもっと深刻で霊体を浸食してうんこ色に染め上げてしまうらしい。
放っておいてもそれはそれでやばいんだそうだ。
なにしろあれは今、泥が一杯に入った肥だめみたいなもので、何かの拍子に即暴走しかねないものらしい。
なにこれヤバイ。ほぼメルトダウン中の原子炉心じゃねえか!この泥ってほぼ放射能汚染水じゃん!
アハトの馬鹿はヌカ・コーラ・クァンタムでもきめてんのか!?馬鹿じゃねえの!?
結局とれる方法はいくつもなくって、一番ましなのが聖杯戦争の勝者が自害せよと命じるのがいいとかなった。
ただその場合は怒ったアンリマユが何するか解らないし、そもそもこれはもう祟り神の類いでむしろ神道の人らに鎮めてもらった方が良いのかも・・・・・・とかいう意見も出た。
そこで俺はちょっとしたアイデアを思いついた。
もうこいつ受肉させちまわねえ?ただし俺らが狩れるような形で。
いやいや案外ありかもだよ?まずこう、ノート1冊くらいに曲解しようのない形でびっしり条件っていうか、受肉するときのスペックのレギュレーションを決めてやる。
そんで出てきたアンリマユを皆で囲んで棒で叩く。アンリマユは死ぬ。どうよ?
いやでも皆、この馬鹿に言いたいこと一杯あるだろ?この際だから殴ってすっきりしようぜ。
あと現実的なメリットもある。こうすればアンリマユの思考を誘導できるんじゃねえかな。まずあの汚染水みたいなので来られるよりはずっとましだ。
獣とか英霊もどきみたいな肉のある形を指定すれば出来ることは限られるぜ。
だけど奴も怒るに怒りにくいだろ?だって生まれたいって願いを叶えてやったし、暴れたいんならちゃんと殴れる手もある。
ってことは逆に汚染水を無限にあふれさせるみたいな抑止力案件もできないわけだ。まず最初に俺らにかかってくるだろうからな。
まあ、長々と言ってみたけどさ。あいつなんかムカつくじゃん?性格悪いしこっちを舐めきってる。
だから、切継にやったことをやり返してやる。今度はこっちがルールを決めて殴ってやる。どうよ?すかっとするだろ?
オイオイオイ意見通っちゃったよ。マジか。でもそれはそれでアリだな!よーしやろう!
この際だからさ、生き残ってるマスターたち全員に声かけようぜ!あの馬鹿神様とアハトジジイにみんな一杯食わされたんだからな!