Fate / 「さぁ、プリズマ☆イリヤを始めよう」   作:必殺遊び人

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原作知らないところはオリジナルになってます。

ここは違うというものがありましたら、教えてくださるとうれしいです。






3話目とかとか〜 ♪キャスター編

 

 

『違う世界での俺の妹』

 目の前の人はそう言ったと、美遊は頭の中で繰り返す。最初は顔を見た瞬間に抱きついてしまった。でもその人は自分の兄ではない。別の人の兄であり、自分のことなど知っているわけがない・・・・・・そう思っていた。しかし目の前の彼は・・・・・・目の前の衛宮士郎は自分のことを知っている。それだけで、美優の心は限界だった。

 

 

 

 士郎は、別の世界にいた衛宮士郎の妹が、こちらの世界にやって来た。その程度のことしか覚えていない。

 原作知識と言ってもそこまで深く記憶していたわけでもなく、別の世界と合わせて20年は経っているのだ。覚えているのも難しい。

 覚えているのは大まかな流れと主要キャラを少しだけだった。

 だからこそ今、泣きながら抱きついている美遊の過去になにがあったのか、どれほど辛かったのかわからない。

 それでも。

 この姿を見れば、美遊の力になろうと、この涙の力になりたいと、そう思えるのは必然だ。

「・・・・・・っとその前にサファイヤ、ここでの話は誰にも話さないと今ここで約束してくれ」

「それはなぜでしょうか?」

 美遊の髪から出て来たサファイヤが、三人目としてここの会話に加わった。

「それは美遊のためでもあり、俺のためでもある。もし守れないならここでお前を破壊する。周りに話でもしたらそいつらが美遊に危害を加える可能性があるからだ。それで、どうする?」

「分かりました・・・・・・以外の答えはありそうにありませんが、そのようにしましょう。現在のマスターは美遊様であり美遊様以外とマスター契約は行うつもりもありません。仮にマスター契約を解いても私は口にしないと誓います」

 予想以上のしっかりした返事に、「壊す」とシリアス風に口にしたのが恥ずかしくなってくる。

 だがこれで気兼ねなく話せる。

 

 ――ただ、悲しそうにしているから。

 

「美遊聞いてくれ、俺はお前の知ってる衛宮士郎じゃない。俺は美遊が並行世界で衛宮士郎の妹だと知っているだけだ。だから話せる限りでいい、美遊のことを教えてくれないか」

 

 ――ほおっておけない。

 

 士郎の言葉に、美遊ゆっくりと顔を上げる。

 そして。

 自分のことを話し始めた。

 衛宮士郎の妹としての生活、なぜここに来たのか、自分を逃がしてくれた兄のこと、兄が心配だと言うことを。

 

 ――こんなはずじゃなかった。

 

 すがるように。ゆっくりと。少しずつ。

 

 今まで抱え込んでいたのだろう。

 とても長い時間、美遊は話してくれた。

 それを聞き終えた士郎は、美遊を抱きしめ口をひらく。

 

 ――それでも手を伸ばしたいと思った。

 

「俺は、美遊の知ってる兄じゃない・・・・・けど、それでも、この世界にいる間、この世界の衛宮士郎が美遊の兄になってはだめか? 違う世界での衛宮士郎の代わりに俺が美遊を守る。一緒に生きる。美遊はもう一人じゃない。これから楽しいこともたくさんある。友達もできる。すべて俺が保障する。何があっても決して美遊を一人にしない。だから、俺が兄ではダメ・・・・・・かな?」

 プロポーズのようだ。

 それは結婚ではなく、兄妹になってくれと言う意味の。

 それを受けた美遊はその目にあふれんばかりの涙をためながら「お願いします」とその言葉を受け取った。

 

 

 

 

 美遊を家に送り、自分の家へと帰ると、そこに鬼の顔をしたセラが待っていた。

(おぅ・・・・・・ジーザス)

 その後、セラの説教を受ける羽目になる。途中から何が間違ったのか、夜遅くに帰って来たことではなく、なぜ士郎の方が料理が上手いのだとか、どこでそんな技術をつけたとか、全く別の話になったのは仕方がないと受け入れるしかないだろう。

 

 一時間ほどグチと言う名の説教を受けた士郎は、イリヤの部屋の前で扉を叩いた。

「イリヤ、俺だ、入っていいか?」

「あっお兄ちゃんおかえり、どうぞ入ってください」

 かしこまった言い方でドアを開けたイリヤに、士郎は疑問を浮かべるがそのまま部屋に入る。

 士郎は知らない。士郎が帰るまでの間、イリヤが恥ずかしさのあまり、部屋の中で叫び続けていたのだ。コスプレともとれる衣装を着て外に出歩き、あろうことか自分の兄に見られてしまったのだ。ぺちゃんこの枕を見る限り、息が続く限り枕に頭を埋めてたのだろう。

 そんなこととはつゆ知らず、士郎ゆっくりと口を開く。

「イリヤ、お前の意見を聞きに来た。お前はどうしたい?」

「どうしたいって?」

「今回巻き込まれたことはとても危険なことだ。お前が辞めたいと言っても誰も文句は言わない。むしろ俺は辞めてほしいとさえ思ってる。ルビーとの契約もお前が望むなら俺が解く。それで聞くが、お前はどうしたいんだ」

 イリヤは少し悩んだような顔をすると、しっかり目を見て言葉にする。

「えーっと、私ははっきり言ってよくわかってない。急に魔法少女になって、怖い敵と戦って、そしたらお兄ちゃんが魔術? を使っていて、ハッキリ言ってパニックになってる・・・・・・。でも、お兄ちゃんが一緒なら、やって見てもいいかなって思ってる、魔法少女は憧れでもあったから」

「そうです! 私がいれば大丈夫です、魔法少女のことはお任せください!」

「そうだね、ルビーもいるし・・・・・・でも戦闘前の訓練に可愛いポーズの練習だけさせるのは辞めてほしいかもだけど」

 微笑みながらイリヤが言う。

士郎も思うこともあったようだが、イリヤの意見を尊重した。

「そうか分かった。なら俺はお前を守ろう・・・・・・それが俺の役目だ」

 笑顔でそういう士郎に、イリヤの顔が赤く染まる。

 そのあと、話すべきは話したというように、士郎が一息つく。

 「さて」と口にした士郎は、そのままルビーと向き合う。

 その姿はここからが本題だ、というように、その目は本気だ。

 

「ところで”カレイドステッキ、貴様覚悟はできているのだろうな”?」

 

 口調が変わる。明らかに。

「ど、どどどうしたんですか急に!? ま、まぁ言いたいことはわかります・・・・・・が、しかし! お兄さんもイリヤさんの魔法少女姿見れて嬉しかったでしょ!」

 ルビーは、詐欺まがいにイリヤと契約した。士郎にとって、それはもう有罪である。

 

「それに関しては完全に同意だが「お兄ちゃん!?」それとこれとは話が別だ! 俺の愛する妹を危険な戦闘に巻き込んでおいてただで済むと思うなよこの戯け!」

 突然始まった先ほどとは似ても似つかない雰囲気に、イリヤの頭は混乱を極める。

「危険な戦闘に巻き込んでしまったのは謝りますが、可愛いい魔法少女とパートナーを組めるなら、詐欺だって働いてしまいますよ!」

「この変態ステッキが! 自分が今この状況で悪だということがまだわからないか!」

「・・・・・・お兄さん、あなたはなにも分かっていません、なぜ魔法少女がなぜ正義なのか、何故イリヤさんだったのか、それは可愛いからです! 可愛いは正義です”!! そのためなら私が悪になろうとも関係ありません!」

「戯け! その理論なら魔法少女にならなくともイリヤは可愛い、つまりイリヤが戦う必要はなかったのだ!」

 もはや理論の”り”の字もなく、完全に変態性癖のステッキとシスコンバカ兄貴の会話なのは確定的だが、そこに二人は気付かない。しかもイリヤは先程から連発される兄の可愛い発言で完全ノックアウトである。

 結果、その言い争いを止めるものなどいるわけもなく、争いは深夜まで続き・・・・・・。

 

 二人の戦いは、お互いを認め合うまでと言う壮絶なる時間をかけて・・・・・・。

 朝日が昇るころ、やっと終戦することになる。

 

 

 

 

 次の日の放課後。

 士郎は家へ帰宅すると、家の目の前にどでかい屋敷が建っていた。エーデルフェルト家である。

「・・・・・・・・・・・・」

 絶句。

 昨夜は美遊と途中で別れたため、士郎にもこの展開は読めなかった。

 今日、ルヴィアの家で作戦会議を行うと言っていたがまさか目の前だとは思ってなかったのか家の前で呆然としていると、イリヤが学校から帰ってくる。イリヤも驚き屋敷を見ていると、その屋敷の門をくぐる人影があった。

「美遊さん? お向かいさんだったんだね・・・・・・」

「おかえり美遊、まさか向かいだったなんてな、それじゃまた後でな」

 美遊は恥ずかしがりながら士郎に向けて手を振ると屋敷の中へ入って行く。

 士郎は美遊を見届けると、自分の家へと入っていく。昨日とは違うイリヤと美遊の関係に疑問を覚えながらも・・・・・・。

 

 

 時間になり屋敷の中へ入るとそこに建っていたのは老人の執事だった。

 この人確実に何人かやっちゃってるよね、怖いんですけどーと、適当にも頭の中で様子を見ていると、

「士郎様とイリヤ様ですね、お嬢様がお待ちです中へどうぞ。すでに遠坂様もいらっしゃってます」

 そう言って終始、士郎のことを観察しながら部屋へ案内する。

 案内された部屋には、すでに先客がいた。

「待っていましたわシェロ、イリヤ、そこにお座りになってください」

 用意されてた椅子に座ると、メイド服を着た美遊が紅茶を持って部屋へとはいってきた。

 美遊は部屋に入ってくると「えっえっお兄さん!? なんでここに」と、うろたえ始める。恐らくはメイド服を見られたのが恥ずかしいのだろう。だが、それに関していえば、妹大好きな士郎からすれば可愛いい以外のなにものでもない。

「美遊、その服よく似合ってるぞ、でもどうしてメイド服を? まさか趣味か?」

 デリカシーもくそもない発言だが、これは二人の距離が近づいている証拠なのだ。

「いえ、あの・・・・・・これは、こちらで働かせてもらってるので、その使用人の正装で、趣味とかではなくてっ・・・・・・」

「ちょっと待って!? 今、美遊さんお兄ちゃんのこと『お兄さん』って言わなかった?!」

 美遊がメイド姿の事よりも『お兄さん』発言のほうがイリヤにとっては重要だ。

「ああ、そのことなら昨日美遊と話してな、俺が兄になることになったんだ。仲良くするんだぞイリヤ、もちろん美遊もな」

 

「「「いや、それはおかしい」」」

 

 それ話聞いてた3人、イリヤと遠坂、ルヴィアの声が重なる。

「なんでイリヤと美遊が仲良くするのがおかしいんだ?」

「そこじゃないわよ!! なんで昨日まで他人だった二人が、今日には兄妹になってるのかって聞いてるのよ!!!」

「昨日何があったのか説明して下さい!! 美遊は私の家の者、簡単にはあげられません。というか、美遊に先を越されるわけにはいきません!」

「そうだよ! お兄ちゃんこれはどうゆうことなの!?」

 まるで浮気がバレたような展開に、士郎は呆気にとられる中、ルビーの爆弾発言が落とされた。

 

「あっ私わかっちゃいましたー、お二人は一目惚れだったんですねー! ルビーちゃんのラブラブメーターがビンビンですよー。でもバレたら困るから兄妹プレイと、いやーなかなかマニアックですねー」

 

 いつものルビーのおふざけ発言。普段ならそれで終わるのだが今日は違った。

 唐突にその場は静寂に包まれる。

 唯一、事情を知るサファイヤのため息だけがこの場に響いた。

 

 その後、なぜか美遊による「満更でもない顔」という味方による誤射を受けながらも、士郎は誤解を解くことに成功する。もちろんルビーを殴ることは忘れていない。

「はぁー、つまり昔仲が良かったお兄さんに衛宮くんが似てたから、そう呼ばれてるだけなのね」

「流石遠坂! いつも冷静に物事を判断するその姿勢、そこに痺れる憧れr「そういうのいらないから」・・・・・・はい」

 衛宮士郎を辞めてからキャラがぶれぶれになっているが、士郎はそんなことは気にしない。

 そして話は終わりとばかりにパンっと手を叩くと、凛は本題へと入っいく。

「今日は作戦会議というより衛宮くん、あなたの力を教えて欲しいの」

 士郎は一呼吸置くと、「そうだろうな」と呟き、ある程度までなら話しても良いと判断する。これが全く知らない相手ならば問答無用でお断りだが、幸いここにいる二人は少なからず信用していた。

「わかった、だがここで話したことは他言無用で頼む、それで構わないか?」

 少し考えるそぶりをするルヴィア、だがすぐに顔をあげる。

「わかりましたわ、シェロは恐らくわたくしたちを信用してこの話をしてくださるのでしょう。ならば期待に応えなければエーデルフェルト家の名が廃るというものですわ」

「私も了解したわ、少なくとも衛宮くんの危険になりそうなことだったらしないと誓う」

 それに連なりイリヤと美遊も同意する

「お兄ちゃんのお願いなら私は言わない!」

「私もです」

「えールビーちゃんはあくまで魔術礼装ですからねーもしかしたら喋ってしま「今ここで解体されるか?」・・・・・・うわけないじゃないですかー。妹のサファイヤちゃんにも絶対喋らせません!」

 士郎の声の余りの冷たさに、ルビーもすかさず同意する。先ほどの恨みが少なからず残っているためか思わず本気の殺気を向けたのだ。サファイヤに関していえば、昨日すでに脅し・・・・・・話し合っているから大丈夫だろうと判断した。

「まず俺のできる魔術はそんなにない。昨日も言ったが三流だ、なんてったって物の復元すらままならないからな。だが衛宮士郎が唯一得意な魔術があった、それが投影魔術だ。剣限定だけどな」

「やっぱり昨日の武器は投影だったのね。でもあんな投影見たことないわ」

「ああ、俺の投影魔術は俺が自分の意思で消すか、壊れるかしなければ消えない。特に剣の投影は得意で・・・・・・と言うか剣以外は魔力を使いすぎる上にそこまで精巧でもないんだけどな」

「なるほどね、でもそれだけじゃ説明がつかないわ。昨日の武器は宝具だったわ、それについても説明してくれるのよね?」

 さすがにこれだけ話して終わり、というわけにはいかないようだ。

「・・・・・・わかった。俺が得意な魔術でもう一つが解析があるんだ。剣であれば見ただけでどんな剣か解析できて、解析した剣であれば宝具でも投影可能なんだ。もちろん俺のできる範囲ならばだけどな。恐らく『ゲイ・ボルグ』も投影可能だ。ただ剣じゃない分、ふつうの投影より魔力が必要なうえにランクも下がるけどな」

 話を聞いていた、凛とルヴィアは驚きを隠せないでいた。それもそのはず。英霊の宝具など、クラスカードが見つかり、始めて人が使うことができたのだ。それもカレイドステッキありきでだ。

 それをあろうことか、剣限定だとはいえ、見ただけで投影できるなど規格外にもほどがある。

 そこに「実は固有結界も持ってる」なんて言えば、二人は倒れてしまうだろう。士郎も、固有結界までは言うつもりはないが・・・・・・。

「はっきり言って信じられないけど、昨日見たから信じないわけいかないわね。衛宮くんが話したがらないのもわかったわ」

「ええ、こんなことが時計塔の魔術師に知れれば大変なことになりますものね」

「でもこれで衛宮くんの魔術についてはわかったわ、それで英霊の方も話してもらえるのかしら?」

「英霊については、なぜ知っているかは言えない、今回出てくるであろう英霊もなんとなくわかるが話すつもりはない、敵と遭遇した後に教えるようと思っている」

「衛宮くん、ふざけてる場合じゃないの、英霊については知っていても損はない、それともなに何か別に話せない理由でもあるの?」

「理由は三つ、一つ目は、英霊を知っての戦闘メリットは弱点の露見だけど、今回出てくるであろう英霊にはそこまで、はっきりした弱点は存在しない――」

 アーサー王、神代の魔術師。さらにはギリシャ神話の大英雄。ここまでの敵をいきなり教えることにメリットはない。

「――二つ目は、対策を立てたが違う英霊で慌ててたら負けましたじゃ話にならないからだ。こっちはほとんどか英霊との戦闘は初めてだ、即座に対応できるとは思えない」

 ただでさえ経験のないイリヤや美遊がメインで戦うのだ。対応できずに負けましたではすまされない。

「――そして最後に・・・・・・いや、これは言わなくていいな、とりあえずそんな感じだ」

  最後の理由それは自己満足だ。今回は敵とは言えセイバー・アルトリアの倒し方など話したくない。士郎が前の世界で唯一生きる意味となった彼女は、士郎の中ではとても大きな存在なのだ。

 ついでに言うと、今回の理由はほとんどでっち上げだ。無駄に知識を与えることで、危険が増えることもある。

 凜たちは、イリヤ達を主軸に作戦を立てるだろう。士郎は、そんなことさせる気などさらさらない。

 教えないのはそういうことだ。

 もちろん状況と相手次第では士郎も教えるだろう。

「衛宮くんの言い分もわかったわ。でも敵がわかったら即座に教えなさい。そこでもぐずったらお仕置きだからね」

 凛の有無を言わさない恐怖の笑顔にコクコクと首を振ると、切り替えるように話しを振る。

 

「そう言えば、イリヤと美遊は空飛べるのか? 確かカレイドステッキのつまずくのがそれだったと思うけど・・・・・・。二人はなんだかんだこっちの最高戦力だ。戦うにしても、逃げるにしても最も必要な能力だろ」

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

 その問いに、今日何度目かの沈黙。

 士郎の視線に、二人は期待に応えららないのが辛いのか、

 「「とっ飛べません」」と、小さく呟いた。

 「なら今から特訓だな」と笑顔で言ってくる士郎に、二人は黙って頷くのだった。

 

 

 特訓を始めて開始10分、なぜかイリヤはグルグル空を飛んでいる。

 飛行能力の難しさを知っているのか、ありえないとすら遠坂たちに、イリヤは、「えっ魔法少女は飛ぶものでしょ?」と言う言葉を聞いて恐らく全員『なんて頼もしい妄想力』と思ったことだろう。

 しかし、イリヤに比べ、賢いのがためか、現実主義の美遊は「人は飛べません」と、浮くことすらできないでいた。

 練習続け一時間。

 それでもなかなか成果が上げられない美遊は、士郎の顔を見ると泣きそうな顔をする。

 もはや言うまでもなく。

 そんな顔を見た士郎が美遊のために全力を尽くすのは当然であり、それを見たイリヤが不機嫌になるのもまた必然であろう。

 

 結果としては、足元に魔力を固定することで、空中移動を行うことに成功した。単純な回避力はイリヤに比べて落ちるが、使い方次第では面白いだろうと士郎は考える。

 

 

 

 時間がたち、そろそろ日が変わる時間。

 大橋が付近の河川敷にいる五人の人影。

 言うまでもなく士郎たちであり、目的はカード回収だ。

 前回と違い、準備万端という状態で戦いに挑みに行く。ここで原作知識があれば、と自分の記憶に文句をつけるが、無い物ねだりをしても仕方がない。

 それに必ずしも原作どうりに進むとは限らない。士郎の言ったように全く別の英霊が出てくることも考えられる。

 

「イリヤ、別にルヴィアを巻き込んでも大丈夫だから安心して攻撃しなさい」

「美遊、遠坂凜をなるべく巻き込むように攻撃しますのよ」

 

 遠坂とルヴィアがイリヤと美遊に、なにやらいらぬことを吹きかけているようだが、まあいつもの事だ。

「それじゃあ、ルビー、サファイヤお願い」という、遠坂の声で二つのステッキの空間転移が始まる。

 光に包まれ空間転移を終えると、空一面に魔法陣を展開させたキャスター・・・・・・メディアが空に浮いていた。

「・・・・・・っ!? できる限り高魔力の防御結界を作れ!」

 士郎の言葉に凛とルヴィアが反射的に攻撃を加える。

 流石に早い。危険度の理解も申し分ない。その証拠に、先ほど放った宝石魔術はかなりランクの高いものだった。しかし――、

 

 ――その攻撃は届かない。

 

「なっ!? 魔力反射膜!?」

 お詫のつもりか、空に広がる魔法陣から赤いレーザーポイントのようなもので身体中がロックされる。

「『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』!!」

 士郎は迷うことなく自身最高の防御礼装を使う。だが、展開されたのは4つの花弁、急な展開によって中途半端になってしまった。

 一枚、また一枚と、アイアスの盾が削られて行く。士郎はアイアスを全員に被せるように張っている。そのため、ダメージそのものはうけていないが、それも時間の問題だ。

 恐らくは弾幕がやんだと同時に飛び出せば、空を飛べる二人はメディアに近づくことができるだろう。

 先ほど凛がはなった魔術は、メディアの前方広範囲に広がっている、魔術反射幕に当たって跳ね返っていた。つまり下からの攻撃は届かない。

 だが二人は違う。

 空を飛び、背後に回れば攻撃を当てることができる。

 そこまで考えて士郎は一つの方法を実行するためにルビーに確認をとる。

「ルビー、ここにいて美遊や遠坂たちを防御結界で守れるか?」

「恐らくは可能ですが、イリヤさん次第かと、それでも長くは持たないと思いますが・・・・・・」

「わかった、遠坂とルヴィアはイリヤのサポートを頼む、敵は俺が倒してくる」

「ちょっと待って衛宮くん! ここは一旦離脱したほうがいいわ!」

 凜の判断は正しい。

 キャスターはあきらかに準備して待ち望んできた。魔術工房内でキャスターとやり合うなど、自殺行為の何物でもない。

 しかし、士郎の顔は「それがどうした」というように薄く笑みを浮かべている。

「確かにな、けど勝てる勝負から逃げることはないだろ? 信じろ遠坂、すぐ戻る」

「美遊、弾幕がやんだら頼めるか? ぶっつけ本番だ、怖かったら逃げるってのもありだぞ?」

「できます。 私とお兄さんなら、必ずし成功させます」

 迷いはない、即答。

だからこそ士郎も迷うことなく命を預ける。

「それじゃ、俺の命預けたぞ」

 アイアスの花弁の最後の一枚が割り終える前に弾幕がやむ。メディアはすでに次の攻撃に入っているが、構わず士郎は前に出る。

 言葉でなく物理的に・・・・・メディアとの距離を詰める。

 より詳しく言うなら、士郎は空を駆け出していた。そう、士郎は空を走りながら接近していたのだ。

 今の士郎に空を飛ぶ魔術などない、この魔術は美遊によって作られている。美遊が作った空を飛ぶための手段。それをあろうことか士郎に使っているのだ。美遊が士郎の足場を魔力で作りイリヤたちがその美遊を守る。美遊がイリヤたちを信じ、足場形成に集中するのはもちろん、士郎と美遊二人の息が合っていないとできない芸当。少しでもタイミングを間違えれば落下の可能性すらある。しかしその状況でも迷いなく士郎は進む。命を捨ててるわけではない。単純な信頼が士郎を前に進ませる。

 士郎を脅威と感じたのか、巨大な魔法陣から士郎に向けて特大魔術が放たれる。迫ってくるそれを見ながら、士郎は一本の剣を投影する。

 空中で体をひねり、自由落下に身を任せながらも、士郎は弓を構える。

(この程度、ハンデにもならないぞキャスター)

 不安定な足場による高速異動。空中による不安定な体制。

 それでも。

 事弓においては、士郎にとって――ハンデにすらなりえない。

「――我が骨子は捻じれ狂う《I am the bone on my sword》」

 士郎の持つ剣が姿を変える。

 それを弓に構えると、迷うことなくそれを引いた。

 

「『偽・螺旋剣《カラドボルグⅡ》』!!」

 

 二つの攻撃はぶつかり合う。轟ッ!! と、空にすさまじい振動をまき散らす。互角と言っていいほどの衝撃。だが、今の衛宮士郎に勝つにはそれでは"足りない"。

 メディアの背後。

 頭からの自由落下。視界を反転させながら。

「悪いなキャスター・・・・・・。敗因があるとすればお前に思考が存在しなかったことだ」

 衝突しあう二つの攻撃に、一つの剣が飛来する。

 『破壊すべき全ての符(ルールブレイカー)』士郎の弓から放たれたそれは、本来ならばメディアが持つべき宝具。

 聖杯戦争時にすでに固有結界に登録されたその剣は、士郎の投影でも破格の性能を持つ。

 そしてその能力は――、

「――”あらゆる魔術を初期化する”。それはお前の魔術でも変わらない。そうだろキャスター」

 剣は吸い込まれるように魔法陣ヘ当たると、継続的に増し続けていた魔術を消した。それによってぶつかり合っていた士郎の剣は、そのままメディアへと向かって行く。だがそれだけでは終わらない。

 本来『偽・螺旋剣』は、最後の工程を持って最大の威力を発揮する。

 

「『壊れた幻想(ブロークンファンタズム)』」

 

 そのつぶやきと共に、メディアの目の前で巨大な爆発が起こる。

 メディアを巻き込んだその『偽・螺旋剣』に宝具の爆発は、アーチャーに「当たれば並の英霊は死んでいる」と言わせるほどの威力を持つ。

 これで終わったと、あれに巻き込まれてただで済むはずがない。誰もがそう思ったはずだ。その手に二つの剣『干将・莫耶』を持っている士郎以外は・・・・・。

 突然、士郎は後ろに向けて剣を振るう。そこに現れていた”メディア”は先ほどと同じ方法で、一瞬にしてその場から移動した。だがこの言い方は正しくない。正確には”消えた”、が正しいだろう。

 当たれば確実に倒せる宝具。だが逆に言えば当たらなければ問題ない。

 そしてメディアはそれを行える魔術があった。

 空間転移魔術。これが、士郎がイリヤと美遊に行かせなかった理由だ。これが二人ならば、さっきの攻撃でどちらかが怪我あるいは死んでいただろう。

 空間転移による移動、それに比べていつ失敗してもおかしくない魔力固定の移動法。明らかに不利な状況だ。それでも士郎は止まらない、正確には疑わない。美遊を信じて疑わず、最後の一手へ向かう攻撃を仕掛け続ける。

「『投影_開始(トレース_オン)』」

 弓に投影されたのは16本の無名の剣。

 無名の剣と言ってもあくまでそれは”宝具として無名だった剣”だ。それを士郎は同時に放つ。本来ならば16本の同時投擲などできるわけがない。しかし士郎にとっては弓は当たれと思えば当たるもの。外すことなど、

 

 ――ありえない。

 

 ただ、その剣はメディアへと向かわなかった。

 それぞれ独特の弧を描きながらメディアの周りへと放たれたそれは、『壊れた幻想』によって同時に爆弾へと姿を変える。

 それによって引き起こされたのは煙の檻。

 それは、メディアの周りは煙で覆うことで、空間転移を止めるそのための手段。

 本来の姿のメディアならば問題はなかっただろう。だがこれまでの攻撃で確認したメディアの空間転移は単純すぎる。

 つまり見えない範囲への転移は不可能。

 チェックメイトと言わんばかりに投影されたのは、全体が真っ黒の魔剣。

「追え、そして仕留めろ。――『赤原猟犬(フルンディング)』」

 真名とともに放たれたそれは「放てば標的を変えられない」絶対の原則を覆し、発出後に軌道を変更できる。

 アーチャーほどの技量があれば、同時に複数人に当てられることも可能と言われるその剣は、士郎によって最適な形へと変わり、煙中に突っ込むとメディアに叫びに声をあげさせた。

 

 煙が晴れそこにいたのは、黒い矢が心臓へと刺さっているメディアの姿だった。

 

「流石にアーチャーのように都市一帯が私の射程だとは言えないが・・・・・・。このぐらいなら射程範囲だ」

 

 士郎が弓を消すとそれと、同時にメディアはクラスカードへと変わっていき、戦闘の幕が下りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は戦闘シーンを頑張ってみました

自分ではよくわからないのでコメントくれると嬉しいです

なぜ美遊の過去を書かなかったのか・・・・・・すいません。わたしまだ知らないのでアニメ見てきます、
とりあえずローアイアスは便利!!

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