Fate / 「さぁ、プリズマ☆イリヤを始めよう」   作:必殺遊び人

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まず初めに・・・・・・大変申し訳ございません!!

個人的意に忙しかったり、内容が思いつかなかったりとなんやかんやでこんなにあてしまいました!(見苦しい言い訳)

頑張っていつもより長い話数にしてみましたので楽しんでいただけると幸いです。

お世辞にも出来がいいとは言えませんが、これでクロ編は終了になります。
楽しんでいただけると幸いです。
それではどうぞ!!



18話目とかとか~♪ 2way クロ編 本当の気持ち

  

 

 

 

 賭けではあったがうまくいった。

 士郎はこの状況を理解するとともに、安堵の表情を浮かべている。

 振り向くと、美遊とイリヤが駆け寄ってくる。

 士郎が宝具の攻撃力をゼロにする直前の余波を軽く受けたのか、無傷と言うわけではない。だが、先ほどに攻撃は傷がつくつかない程度の話ではないかった。

 だからだろう、二人の・・・・・・そしてクロの無事を心から安心している。

「ギリギリだったな、無事でよかった。・・・・・・にしても・・・・・・派手にやったな、美遊」

 周りを少し見渡すと、あちらこちらに戦闘の被害が出ている。

 木々が倒れているなどまだかわいいほうだ。地面は人が埋められるほどに陥没し、何十メートルもある大岩は半分以上がえぐられている。

 いいや。 

 お互いにクラスカードを使って戦ったのだ。この程度で済んだのが奇跡の様なものだろう。

「お兄さんが遅いからです。私は頑張ったもん・・・・・・」

 ふてくされるように呟く美遊も、緊張の糸が切れたように素の自分を見せている。

「そうだな、よく頑張った。後は俺がやるよ」

「待って・・・・・・!」

 クロの方へ向き直る士郎の腕を、イリヤが引いた。

「イリヤ?」

「お兄ちゃん、私がやる。私が、悪かったの・・・・・・だから、ここは私がやらないといけないの・・・・・・!」

 士郎には理解できる。なぜなら二人は似ているから。形は違う、それでも・・・・・・二人とも・・・・・・。

 

 ――誰かを犠牲に生きていた。

 

 士郎は本物の衛宮士郎を、イリヤはクロを。

 悩んだはずだ。訳が分からなかったはずだ。それでも、イリヤは答えを出したのだろう。

 今のイリヤを見れば分かる。 

「・・・・・・イリヤはどうしたいんだ?」

 士郎はイリヤの出した答えを知らない。

 だが、あの手紙を見ればどんな答えが出たかなど容易に想像がつく。だからこれは確認だ。

「ちゃんと伝えたのか? イリヤの気持ちを」

「・・・・・・言った。でもどうにもならなくt「なら大丈夫だ」・・・・・・え?」

「イリヤの言葉はちゃんと届いてるよ。ただ・・・・・・ちょっとクロも困惑してるだけだ。それに――妹たちの喧嘩を止めるのは兄の務めだろ?」

 本来なら、士郎も時間をかけて二人の仲を取り持つつもりだった。

 しかし、今のクロはどう見ても時間がない。

 自分のせいだ、と士郎は自覚している。

 だからこそ、これは自分の仕事なのだと、士郎はクロへ向き直る。

 

 ――体は剣でできている。

 

 その言葉通り、士郎の剣は士郎の心を体現したものだ。

 そして、それはクロも同じ。クロの剣も、クロの心を映している。

 士郎とクロだからできる意思の疎通。言葉ではなく剣で語るということ。

 過去の士郎がアーチャーの固有結界を経て、アーチャーの過去を・・・・・・心を見たように。

 二人は本気で対峙する。

 クロも答えを出したようだ。その証拠に、クロは士郎に剣を向けている。

 と言っても、士郎はクロを傷つける気などない。

(クロを傷つけない、そんな剣が俺には必要だ)

 士郎は記憶をたどる。自身が知っている。クロを守る・・・・・・対象を傷つけない剣を。 

 

 

 

 

 そこには、森と称してもいいほどの木々が生い茂る場所。

 だがおかしい、とクロは思う。 

 自身が放った・・・・・・そして、美遊が放った宝具がぶつかり合って、ここがまだ森としての原型を保っているはずがないと。

 いいや、それを言うなら、この場に自分たちが生き残っているのも不可能なはずだ。

 だが、と。

 もしかしたら、と思う。

 目の前に現れた、来てくれた兄ならば、その不可能すら可能に変えてしまえるのではないかと。

「お兄ちゃん!!」

「お兄さん!!」

 イリヤと美遊が、士郎に抱き着くように駆け寄っている。

 それを見て、思わずもそこに加わりたい衝動に駆られる。それを証明するように、一歩、また一歩と、無意識に足を進めている。

 その行動を認めない、そう言うように、

「あらお兄ちゃん、すごくいいタイミングね? でも、やっぱりお兄ちゃんはそっち側なのね・・・・・・」

 思わず悪態をついてしまう。

 ほんとは、すぐにでも謝りたい。駆け寄りたい。抱き着きたい。だが、それを行うことは、クロ自身が許さなかった。

 それをしてしまえば、自分の決意が揺るいでしまうことを、誰よりも理解しているから。

 クロは、イリヤへ剣を向けたことを後悔などしていない。

 今の・・・・・・今までの感情は間違ってなどいなかった。

 矛盾。

 みんなと一緒にいたい、仲良くしたいという気持ち。そして、イリヤを許せない、この怒りをぶつけたいという気持ち。

 相反する二つの感情、それをクロは抱えている。

 だが、それは決して間違ってなどいない。

 矛盾など抱えて当然。問題はその後、それを知って・・・・・・何を行動するのか。

 感情の天秤。

 ただ、クロにとって士郎と言う存在は、天秤を傾けるにあたって無視できない存在なのだ。どちらにも傾けられる。士郎の選択次第で・・・・・・。

 それほどに、士郎と言う存在は、クロの中で大きいものなのだ。美遊と対峙しても、イリヤの本当の気持ちを聞いても、揺るがなかった。

 それでも、士郎の姿を見るだけで、これほどまでに感情が動かされてしまう。

 わからない・・・・・・。

 何を選べばいいのか、わからない。

 なら。

 だったら、と。

(選べないなら、両方選ぶしかないわよね)

 イリヤを殺せればそれでよし。殺せず自身の魔力が尽きればそれまで。

 何が正しいかなどわからない。しかし、行動しなければ答えは得られない。一かゼロか、はたまた全く別の道があるのか。

 ただ、その答えに後悔しないように行動しよう。それだけは誓って。

 静かに。

 クロは、自身の剣を士郎へ向けた。

 

「お兄ちゃん、ほんとにいいのね。今度は私も本気でやるわ。例えお兄ちゃんと戦うことになっても、イリヤを殺して私も死ぬ。それが私の出した答えなの」

「・・・・・・」

「もしイリヤを殺せなくても、私は最後まで戦うわ。この体が消えるまで・・・・・! だからこれは最後のお願い・・・・・・・・・・・・もう私の邪魔をしないで」

 死を覚悟している、だけではないのだ。自分の死を使うからこそ、クロは答えを見つけられる。

 士郎がアーチャーと戦うことで、美遊と出会うことで見つけた本当の自分を、クロは違う方法で見つけようとしている。

 士郎と本気で対立してでも。

 だが、士郎は。

「断る」

 予想通りと言うべきか、士郎も美遊と同じ答えを返す。

「・・・・・・・・・・・・、」

 クロは何も言わない。

 わかっていたのだ。もともと美遊の考えや発言の背後には士郎の姿がチラついていた。それなのにその本人がクロの死など許容するはずがない。

 

 ――一歩。

  

 また一歩前へ進む。

 足の回転は速度を増す。士郎との距離はまだ遠いい。それでも、お互いが剣を交えるのは数秒後の事。

 が、瞬間。

 士郎の目の前で、クロは剣を振り下ろす。

 転移による速攻、さらには助走をつけての剣の加速。士郎は投影すらしてなかったのだ。

 自身の影が士郎を覆う。 

 躱せるはずがない。一瞬で終わらせる。そのつもりだった。いや、確実にそのはずだった。

「――!?」

 クロの剣を防いだのは、士郎がいつも使っているような剣ではない。

 それは白いマント。

 いつ身に着けた? そんな疑問を持つと同時にクロは気づく。士郎の変化に。

 全身を覆うような白いマント。背後を見ればフードが見えている。袖などは腕に合わせたような細い形状。そして、何より目を引くのは”首元に光る銀色の仮面”。

 士郎がクロを見る。

 威光をとばしたとか、威圧がどうのと言うことではなかった。単純に目を向けただけ。しかし、クロは後ろへ全力で飛んだ。

 ”あれが何かは分からない”。

 だが、クロが知っている士郎の魔術とは違う。”それだけは直感的に理解した”。そこまで考えて、クロは初めて自身の違和感に気付く。

 『普段士郎が使っている魔術とは違う』”それしか理解できない”? それがおかしい。クロと言う聖杯は未知の魔術が『よくわからない』なんて曖昧な状態でしか理解できないほどちんけなものではない。

 知らない魔術、クラスカードと同様に、士郎が使っている魔術が何であれ、”わからないはずがない”。

「お兄ちゃんそれは何?」

 そのマントも、その得体のしれない魔術も。

「・・・・・・借り物だ」

 借り物、と言うことは投影品なのだろう。だが聞きたいのはそれじゃない。クロの考えを無視するように士郎は語る。

「人を助け、そして悪魔も救済しようとした。そんな主人公(しょうねん)がたどり着き、得た力だ」

 そして、行った。

 クロが知らない詠唱を。

 

「『異界同調_開始(トレースクロス・オン)』」

 

 次の瞬間。

 士郎の左腕が輝く。

「『イノセンス・発動』」

 そのまま、その光の中にある物を掴むように、士郎は右手を添える。

 士郎が右手を引くように動かすと同時にそれは姿を現した。それをすべて取り出した士郎が手にしているのは、士郎の身体の半分以上はあるだろう大剣。

 解析できない。

 剣である以上、絶対の力であるクロの宿した英霊の力が届かない剣。

「(あれは何なの?)」

 当然の疑問だった。

 それに答えるように士郎が呟く。

 

「『神ノ道化(クラウン・クラウン)』」

 

 もし、本来の衛宮士郎とギルガメッシュの戦いを知る者がいたなら、これほど士郎にあった武器もないだろうと思ったかもしれない。

 十字架が刻印された白亜の大剣。

 見る限り特に変わった事はないように見える、本当にシンプルなもの。ただ、その剣に装飾された白い十字架だけが、クロの目には怪しく光る。

 だが、それより驚いたのは士郎の左腕。

 なくなっているのだ。

 肩から先。士郎の左腕がなくなっている。

 まるで、左腕がその剣へと変化したように・・・・・・。

 

「さぁ続けるぞクロ。お前の選択の中から、自分の死なんてものが消えるまで」

 

 

 

 

 

 士郎が投影したのはアレン・ウォーカーのイノセンス。

 本来イノセンスは剣ではない。武器として加工されたとは言えダダの”力そのもの”だ。

 しかし。

 それがどうした? と士郎は笑う。衛宮士郎のこの力は、その程度の認識の誤差などたやすく突破する。その本質がなんであれ、剣であるならば、その投影は可能なのだ。

 だが士郎にも驚いたことはある。それは、アレン・ウォーカー同様に左腕がイノセンスに変わりその腕自体が剣となったことだ。予想では、剣と言う存在のみの投影だと思っていた。しかし現状はこれなのだ。

 士郎はここである仮説を立てた。

 もしかして逆なのではないかと。

 イノセンスの力は後からついてきたものではないのかと。

 士郎が投影したのは『左腕が剣に変わるという情報を持った剣』そして、その剣が投影されたことによって、その後からイノセンスが宿ったのではないのかと。この力は士郎の記憶、そしてその知識がかなり重要になってくる。つまり、士郎の記憶通りに再現したという可能性すらあるのだ。

(まっそれが何であれ、関係ないか)

 関係ないのだ。この剣の在り方がなんであれ、今の士郎には関係ない。

 この剣の能力、本質。それさえあれば・・・・・・士郎はクロを傷つけることはないのだから。

 

「『投影(トレース)』」

 士郎の思考が終わると同時にクロが動く。

 投影されたのはまだ記憶に新しいギリシャ神話の大英雄、その英霊が使っていた斧剣。

「取り敢えず手始めに・・・・・・!」

 クロはその剣を盾にするように迫り、そのまま。

「『偽・射殺す百頭(ナインライブス)』」

 そのクロの背丈以上にある斧剣を、片手で、圧倒的攻撃力を持って繰り出す。

 神技ともいえる攻撃。

 その武技を最上までに極めた男の技。隙のない、圧倒的速度での9連斬撃。

 バーサーカーとかしたヘラクレスには使うことがかなわなかった技。知識として知っていてもそれを目にするとその凄まじさに息をのむ。

 ありえない初速度とそれから加速。それだけでも化け物じみたその剣技は、それ程度では終わらない。避けられる、弾かれることまで想定した軌道なのだろう。一手目を防いでも二手目で、二手目をかわしても三手目で・・・・・・『確実に相手を殺すため』の攻撃。それ相応の筋力が必要とは言え、体重の載せ方は完璧。さらには99.9%ありえない、自身がよけることまで想定された重心移動。魅せられる。そんな技。

 そして、それほどの技を“取り敢えず”程度で繰り出すクロの、その本気度がうかがえる。

 振り下ろされるその剣を、その技を・・・・・・。

「・・・・・・なっ!?」

 士郎は防いだ。

 声を発したのはクロ。

 だがそれもそのはずだ。

 一呼吸の内に繰り出されたその連撃を、受けられるはずがないその攻撃を、士郎は自身のもつ大剣ですべて受けたのだから。

「くっ、流石に重いな・・・・・・腕一本を犠牲にして何とかか・・・・・・」

 腕一本? ありえない。本来なら士郎がその攻撃を受け止めることなどありえない。筋力とか強化魔法程度では受け止めることすら困難だ。士郎が投影した剣にはイノセンスと言う力が宿ってはいるが、それはそもそも本来の世界で悪魔を救済する力だ。特別な身体能力が宿るだとかそういったことはない。

 だが、士郎は通した。

 あるかないかの針を作り、その穴に通して見せた。

 『道化ノ帯(クラウン・ベルト)』。

 士郎の右腕から延びる白い帯。士郎が投影した『神ノ道化(クラウン・クラウン)』のその一部。そのマントと同様のもの。本来それ自体に攻撃力はない。体を守る防御機能か、敵に巻きつけての捕縛程度にしかならない。

 だから士郎が使った方法はそれじゃない。それを、その帯を、自らの体に巻き付けていたのだ。

 いや、もっと正確に言うならば、大剣を持つその腕に巻き付けていた。

 『道化ノ帯(クラウン・ベルト)』は自分の意志で動かせる代物だ。それを自分の腕に巻き付けることによって、”本来なら弾かれる”はずの攻撃には無理やり耐え、”剣の防御が追いつかない”攻撃に対しては無理やり動かしていたのだ。

 それは上から垂らされる一本の糸で動く人形のごとく、士郎は自身の腕を脳からの命令ではなく、『道化ノ帯(クラウン・ベルト)』を間に挟み、間接的に動かした。

 痛い、と言う感情によって腕を下げることはなく、単純な筋力により弾かれるといった状況をもなくした。

 それは自身のからだを完全にマニュアルで操作するということ。故に『余すことなく潜在能力を引き出せる』。

 まぁその重さを耐えるのに、腕には最低でもヒビが入ってしまったが。

 そんなことは関係ない。

 そもそも英霊の速度、パワーに対応するには体全体を『道化ノ帯(クラウン・ベルト)』で行動を制御しなけらばいけないのだ。

 この程度想定済みだ。 

 クロは動揺しているのかわずかながら体が硬直している。

 そんな隙を士郎が見逃すはずがない。反射的にクロの持つ斧剣を後方に弾く。いくら耐えられるとは言え、あんな攻撃を何度も受ける気などない。

 そこで初めてクロは我に返ったのか、その姿を消す。

 無理には攻めない。

 それは、クロが士郎の力を正しく認識したということだろう。

 背後に目でもあるのか、士郎は振り向きざまに剣をふるう。クロが放た無数の剣、アーチャーとしての本領。そのすべてを弾き飛ばす。。

 だが、

「・・・・・・っ!」

 その程度では防いだことにはならない。

 『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』。士郎の弾いた剣は弾かれた瞬間、熱と衝撃波がまき散らされる。

 いくらランクが低いとは言え、本質は宝具。至近距離でくらえばただでは済まない。

 連続的な爆発の檻ができる、その瞬間。

 周囲を覆いつくす煙の檻から、士郎が飛び出す。

 爆発が起こる直前。士郎は『道化ノ帯(クラウン・ベルト)』を背後に飛ばしていた。『道化ノ帯(クラウン・ベルト)』を木々に巻き付け、それを縮めることでの緊急脱出。さらに、大剣とマントを同時に防御に回したため先ほど受けた攻撃の被害は少ない。

 しかし、音速にも迫る勢いでの脱出によって、士郎は自身の体を傷つける。

 今の士郎はあくまで人の体、その限界を超えるような動きには、それ相応の負荷がかかってくるのだ。

「ぐっ・・・・・・ぐはっ!?」

 士郎の口から少なくない量の血が吐き出される。

 膝をつく士郎にクロは問いかける。

「なんでそこまでしてイリヤを守るの? お兄ちゃんだから? 本当の兄弟でもないのに、そこまで傷ついて・・・・・・何でなの?」

 士郎は理解する。

 クロが聞いているのはなぜ守るかどうかなのではない。その真意は、『なんで私じゃなくてイリヤなの?』クロがこちらを見る瞳は、そう訴えかけてる。

「なんでだろうな・・・・・・」

 クロの思いにこたえるように、士郎は示す。

「理由を考えたことはなかった。助けたい、ほっとけないって気持ちはあっても、それがどこから来ているかわからなかった。それが、俺の本質なんて良いものじゃないのは知ってる。けどさ、思うんだよ。・・・・・・もしかしたら、それはただの二択なんじゃないかってさ」

「――? 二択?」

「そうだ。どんな理由で・・・・・・なんかじゃない。ただ助けたいかどうか。その二択だ。俺は妹が泣いているのを見て助けないなんて選択肢は選べない。俺が耐えられない。・・・・・・笑うか? 俺は別にそんなたいそうなものを持ってここに立ってるわけじゃない」

 士郎は思う。

 誰かのために戦うのに理由が必要なのかと。何か大義が必要なのかと。力を持っていなければいけないのかと。

 そんなわけない。士郎は否定する。

「俺が・・・・・・イリヤのために、美遊のために、クロのために戦うことに理由なんていらない。俺はただ、妹たちのために剣を握れればそれで十分なんだよ。迷ってるやつがいるんだ。どうすれば良いかわからないと泣いている子がいるんだ。・・・・・・だったら、そこから先は俺の仕事だ。俺はその迷子(クロ)の前に立つ。俺はその迷子(クロ)の手を握る。離したりなんかしない。俺が、クロの側にいる。俺がそうしたいと思ってるからだ」

 理由だのなんだのはこの際どうでもいい。

 それが士郎の本音だ。

 これは誰かのためだなんて大層なものじゃない。助けるだなんておこがましい。

 ・・・・・・そう。

 これはただのわがまま。

 けどそれでいい。

 今度は士郎が、その英霊を纏ったクロに問う。

「決断の時間だ『正義の味方』。お前の選択は本当に正しいのか?」

 士郎は一度、クロの手を掴めなかった。

 だが今度は違う。

 今度は掴んで離さない。

 クロが今潜ってる、沈んでいる絶望から・・・・・・絶対に引きずり出す。

 

 

 

 

 その感情はやはり嬉しいというものだろう。

 士郎の言葉が、その思いが、今はクロ一人に向いている。

 士郎の言葉に嘘はない。

 けど、

「お兄ちゃんは、私が間違ってると思うの? 私を消したそいつより私のこの思いが間違ってるって言うの? ・・・・・・確かに、私はまだ迷ってる。それでも・・・・・・死ぬ覚悟ならできてる」

 この思いの行き場だけは提示してくれなかった。

 これからみんなと一緒に生きる。その意味はクロが今まで抱えてきた思いを、その感情を封印するということだ。

 イリヤは、クロを受け入れる覚悟ができたのかもしれない。美遊は、クロのために全力を尽くした。士郎は自身のすべてをクロと共にするといった。

 その未来は楽しいだろう。

 それでも、抑え込んだ感情は、いつかどこかで崩壊する。

 それを分かっているからこそ、クロはそちらへ歩けない。

「死ぬ覚悟ができた・・・・・・か」

 確認するように・・・・・・。

「やっぱり分かってないな。死ぬことが何か・・・・・・クロは本当の意味で理解してない」

 士郎はそれを否定する。

「そうかもしれないわね」

(なんで?)

「それでもね、私は消える存在なの」

(なんでわかってくれないの・・・・・・!?)

「だから、・・・・・やっぱりわからないよ・・・・・・生きるってことが何かなんて・・・・・・・・・・・・」

 想像ができない。

 クロ自身が、一番自分の生きている姿を想像することができない。

 一番恋焦がれている者が、それを一番わからない。 

 だから。

 クロは再び剣を構える。

 それでしか、自分の在り方を示せないならと。

「わからないから、知ってる方に逃げるのか?」

 士郎が問う。

「世界を知らない? 生き方を知らない? 自分の未来がわからない? そんなことは当たり前だ・・・・・・」

「・・・・・・えっ?」

「正しいよ、クロは正しい。自分を奪った相手に復讐したい・・・・・・何も間違ってない。あやふやな存在で、自分の未来が想像できいない・・・・・・・そんなことは当然だ。・・・・・・それでも、俺はお前に生きてほしいんだよ!! 復讐することで自分の居場所が無くなるというのなら、いくらでも俺が邪魔してやる。クロが消えていなくなるというのなら、100でも200でも消えない方法を考えてやる。それでも安心できないなら、俺がお前の側にずっといてやる」

 士郎はそうやって手を伸ばす。

「・・・・・・ありがとうお兄ちゃん」

 一言。

 それでも。

「でもやっぱりわからないみたい」

 枯れる寸前の花のようにはかない笑みを浮かべながら、クロはその手をとらなかった。

 士郎の言葉を受け入れてなお、クロにはそれがわからない。

「そうか」

(やっぱりだめか)

「なら仕方ないな」

 静かに。

 士郎はクロへと足を進める。

「お前が消える運命から逃れられないのなら・・・・・・」

 次の瞬間。クロの体を士郎が包む。

「・・・・・・!?」

 驚くクロを士郎はさらに強く抱く。

「怖がらなくていい。俺はお前の事をもう離さないと誓った。それでも助けられないのなら、せめて一緒に死んでやる。安心しろ、クロ。お前はもう一人じゃない。こんなことが贖罪になるとは思ってない・・・・・・けど、これしかできない俺を許してくれ」

 どうなってる? クロはなんで士郎がこんなことを言い出したのかわからない。

 士郎らしくない。

(だって・・・・・・なんで・・・・・・? これは私一人の問題で、私が消えておわりのはずなのに・・・・・・)

 クロの思考がまとまらない。その時。  

 グサリと。背後で何かが刺さる音がする。

 恐る恐る背後を見ると、士郎の手にしていた大剣が地面に突き刺さっている。

 ただ。

 士郎とクロ。二人を貫く形で。

 

 

 

 

 その光景を見ていたイリヤと美遊は声が出せなかった。

 二人が何やら話していたのは分かった。すると突然、士郎がクロを抱き寄せたのだ。どうやって移動を? そう思う前にその光景を見た。

 士郎から伸びている白い帯が剣に巻き付き士郎たちへと迫っていたのだ。

 声を出す時間などなかった。

 思わず手を伸ばした瞬間。

 二人は、それに貫かれた。

 

 

 

  

 士郎は自身に刺さっている剣を見ながら、クロへと目を向ける。

「クロ、これが死ぬってことだ」

「なん、で・・・・・・お兄ちゃん、まで」

 クロの瞳は涙を浮かべ、理解できないこの状況を、必死に理解しようとしているようだ。

「クロ、お前は心の中で思ってたんじゃないのか? 消えても自分はイリヤの中に帰るだけだと。元の状態に戻るだけ、そうやってお前は、俺たちを助けようとしてくれてたんじゃないのか?」

 わずかにクロが動揺を見せる。

「優しいな。でもそれはだめだ。だって。俺たちはすでに、クロっていう少女を知ったんだから」

 士郎が語り聞かせるように、優しい笑顔を浮かべる。

「わ、私はただの聖杯として創られただけなのに・・・・・・なんで、こんな私なんかと・・・・・・」

 それとは対照的にクロの顔は涙でぬれていた。

「聖杯だから? ただの偶然? その程度、俺がお前を見捨てる理由にはならないよ」

「でもこんな事・・・・・・!」

「なぁクロ。最後にお前の本当の気持ちを聞かせてくれ・・・・・・」

 士郎はクロの心がわかっていた。

 クロの作る剣製にはすべて、どこか士郎たちを気遣う心があったのだ。

「クロには本当に生きる未来が見えなかったんだろう。でもそれが死ぬ理由にはならない。・・・・・・だから、本当はどう思ってるんだ?」

 士郎の問いに答えるように、ゆっくりと。

 クロの口が開く。

「い、や・・・・・・だよ。いやに決まってるよ!!」

 ここに来て、クロはやっと本音で話せる。

「お兄ちゃんと会えないなんて死んでも嫌! イリヤなんかに渡したくない・・・・・・! だって、やっとここまでこれたのに」

 死ぬとわかって、すこしづつクロの本音がこぼれ落ちる。

「死にたくない、よ・・・・・・! 消えたくないよ!! これから先も・・・・・・お兄ちゃんと一緒にいたい!!!」

 瞳から涙を流しながら、

 クロはその小さな腕を、士郎の背中へと回した。

 離れたくない。その思いを証明するように。

 クロが士郎の胸で泣いているのを感じながら。

「ああ、それでいい」

 士郎はクロの頭を包み込む。

「仮面をつけて、辛いことを受け入れる必要なんてないんだ」

 すでにクロと士郎を貫いていた剣はその姿を消していた。それだけじゃない。士郎が投影したすべてが消えている。すでにそれは必要ない。

「よく頑張ったな」

 そこにはクロの泣きじゃくる声だけが響きわたった。

 

 

 士郎の後ろから、二人の少女が飛びついた。

「うおっと!」

 クロを庇うように倒れこんだため、三人の少女が士郎の上に倒れこんでいる形になる。

 イリヤと美遊の二人は何を言うわけでなく、ただただ涙を流していた。

(前もこんなことあったな・・・・・・少し無神経だったか・・・・・・)

「二人とも落ち着け、ちゃんと生きてるから、な?」

「あ、れ・・・・・・? な、んで?」

 真っ先に顔を上げたのはクロだった。自身を確認し、体のどこにも大剣に貫かれた痕がないことを確認する。

 イリヤと美遊も同じように困惑したような顔を浮かべている。

「あの剣は人を斬らないんだ。悪を斬り人を救う剣。それがあの大剣の本質。あれでは決して人は傷つかない」

 

「『神ノ道化(クラウン・クラウン)』」は対悪魔用イノセンス。悪魔だけを斬り人を傷つけない。

 悪魔などが存在しないこの世界では、後者だけの特性が残る。だからこそ、士郎はこの剣を選んだのだ。

 

 士郎は三人を引かせると、そのまま立ち上がる。

 未だに疑問を浮かべている三人に士郎はその疑問に対する答えを言った。

「クロが消えないようにするには、魔力ともう一つ。クロ自身の消えたくない、生きたいっていう意思が必要だった。俺の見た感じ、今までの戦闘で魔力がかなり減ってたからな。ちょっと荒療治になったが・・・・・・上手くいって良かった。手を打っていた魔力の貯蔵量がかなりやばかったからな」

「ど、どういう・・・・・・こと?」

 やっと現状を飲み込めてきたのか、クロが辛うじて声を出す。

「クロの中にあるクラスカード。外から俺とリンクすることで魔力を渡す予定だったんだ。本来なら俺がいないとできなかったんだが・・・・・・まっ、お人よしと言うか何と言うかさすがは『正義の味方』と言うべきか、クロの魔力がつきそうになる寸前に魔力を少しづつ渡してたみたいだけどな」

 過去にアーチャーと交わした令呪。

 それがなければクロの魔力はもっと早くになくなっていただろう。

「絶対に助けるって決めたからな。クロに刺されたときはさすがに焦ったが、美遊達がクロの事を助けようとしてくれて助かった」

 笑顔を向ける士郎とは対称に、イリヤ達の顔はだんだんと冷えきっていく。

「すごく怖かった」

 最初に声を出したのは美遊だ。それはもう冷たい声で・・・・・・。

「私、本気で死んだかと思ったんだけど・・・・・・お兄ちゃん?」

 クロは美遊とは逆に、満面の笑みを浮かべている。それはもう怖いくらいに。

「ルビー」

 静かなイリヤの声が響く。

 それを合図に、イリヤと美遊が転身する。

「ねぇイリヤ知ってる? 女の子同士が仲良くなるには誰かを虐めるといいらしいわよ」

「へぇそうなんだ。なら私たちすぐに仲良くなれるね!」

「――? ・・・・・・!? ちょっ、ちょっと待って!? 実は俺魔力切れててもう動けないと言いますか」

 士郎の慌てる声が響くが、士郎にはわかっていた。この叫びがなんの意味もないということを。

(えっ、あれ? この展開はおかしくね? ここで俺死ぬの? 流石に耐えられないんだけど!? そして美遊のためてる魔力が割とマジでやばい!)

 士郎は逃げた。

 それはもう全力で。

 三人はすぐに士郎に向かって走りだす。

 さっきまでどうとか、言っている場合じゃない。

 でも、これでいい。

 士郎は走りながらそんなことを思っていた。

 日常とは少し違うかもしれない。それでも、イリヤと美遊、そしてクロが、三人が笑っているのであればそれで・・・・・・。

 

 士郎が戦う理由は、この日常のためなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 




読んでくださった皆さん本当にありがとうございます!!

再度時間が空き申し訳ございませんでした。
今回の『吾輩は猫である』は士郎が投影した。『神ノ道化』について軽く説明します。

今回出した剣のアニメはD・Gray-man(ディー・グレイマン)と言うアニメの主人公アレンの使っていた剣になります。
そんなアニメ知らないという方は、本当にすみません。
この剣は悪を斬り人を斬らない退魔の剣となっています。似ている物ですと、ぬらりひょんの孫の『祢々切丸』などが同じ部類に入ると思います。イノセンスってなんだよ、と思っている方もいるかもなので少し説明します。
イノセンスは神が人に与えた悪魔を倒す力となっています? 少し曖昧・・・・・・。人に宿る寄生型と武器に加工する装備型があり、今回は前者になります。
寄生獣と似てるもの? と思われた方は似かよった作品の認識でいいと思います。
腕そのものがイノセンスとなっている今回の武器は、寄生型でありながら、唯一武器としての具現化が行えるイノセンスなのです。
だから腕がそのまま剣になったのですね(笑)
軽くではありましたがこの辺で・・・・・・知らない方はぜひ原作を見ていただけるとうれしいです!

最後に誤字報告をおこなっていただいた方への感謝を!

御門 暁様  ラーク様  sevenblazespower様  加賀川 甲斐様  御久様
ブルーフレーム様  関節痛様  8週目様 N2様  弄月様

本当にありがとうございます!
誤字が多くて申し訳ない気持ちでいっぱいなのですが、これからも頑張っていこうと思います

また次回もよろしくお願いします!!

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