Fate / 「さぁ、プリズマ☆イリヤを始めよう」 作:必殺遊び人
と言っても今回はまぁまぁはやく出しましたかな?
次からペース戻ると思いますが・・・・・・
そんなことより!! 今回はちょっと長いです!
いろいろシーンがとびますので読みづらければ感想でご指摘いただけると助かります。
始点変更の時に何かマーク入れるべきだろうか・・・・・・
それではどうぞ!!
時間は深夜。
先ほどルヴィアの家から逃げ出してたクロがいる場所は、士郎の眠る病室だった。
ここに来たのは最後のけじめのためだ。
士郎は、イリヤとクロ、二人が殺し合うところなんか見たくないだろう。それでも自分はそれを選んでしまった。
だから。
まずは。
「ごめんね、お兄ちゃん。ごめんね、ごめん、ね・・・・・ごめん、なさい」
謝ることしかできない。
士郎の体に顔を伏せて、涙を流す。
こんな選択しかできない自分に対してなのか、それとも・・・・・・。
それからクロは話し続けた。
たった二日間の出来事。それは、普通の生活とは程遠いものだった。
それでも・・・・・・自分の成長を、その会話を、すべての出来事を、こと細かに話し続けた。士郎はまだ起きてはいない、そんなことは関係ないと言うように、クロは話し続ける。
イリヤをからかったことや、イリヤの言葉にイラついたこと、凜からもらった自分の名前や、美遊へのちょっとしたいたずら、ルヴィアの家を壊してしまったなど、本当に何でも、どこまでも話した。
話し続けた。
失いたくない、この日常を。そんな思いが見え隠れしている。
それでもクロは気づくことはない。
最後まで・・・・・・・・・・・・自分の流している涙には気づくことはなかったのだ。
もう何時間になるだろうか。
クロが士郎の病室に足を踏み入れたのは昨夜だったはずだ。今はもう、朝日が昇っている。
何時間でもいたかった。
これで最後になるかもしれないのだ。本当は、もう一度話したい、怪我の事を謝りたい、もっと一緒にいたい。けれど、そろそろ時間だ。
イリヤを殺す前にやっておきたいことがある。
それは美遊の存在。
直感でしかない。だが、確信がある。美遊は自分と同じようにクラスカードの使い方を知っていると。そして、それはイリヤを殺すにあたって最も邪魔な存在になると。
今のクロでもさすがに邪魔なものを全員抹殺、などと言う
ただ、美遊なら戦わずに何とかなるかもしれないと、そう思ったのだ。
似ている。
彼女は自分に似ていると、クロは思った。
イリヤと同じように、巻き込まれてしまった一人の少女。それにしては異質すぎると。
その戦闘に迷いはなく、魔術の事にも疑問を抱かない。自分と同じ、元からこちら側の人間だったかのようだと・・・・・・。
それならば可能性はある。
イリヤの発言。その意味を、その言葉の可能性を教えれば、美遊が邪魔をする可能性はなくなるかもしれないと。
クロは士郎のベットの隣に立ち、その顔を愛おしそうに眺める。
本当に寝ているだけのようで、胸は微かに上下し、軽い呼吸を繰り返している。
「(最後だから、私のわがまま許してね、お兄ちゃん)」
そして。
クロは――――士郎の唇へ、自分の唇を重ね合わせた。
ただ静かに、士郎の事を想って、自分の事を少しでも覚えてもらえるように、そのささやかな時間を楽しんだ。
魔力の回復ではない。
クロの気持ちを伝えるだけの、だからこそ本物の、本当のファーストキス。
唇を離すクロの顔は、やはりどこか恥ずかしそうで・・・・・・悲しそうだった。
それでも、これで思い残すことはなにもないと、
「さようなら、お兄ちゃん」
病室の窓から・・・・・・クロは静かに、その姿を消した。
時は戻り。
「まるで、初めて海を見たような反応ね、美遊。ちゃんと一人で来てくれたのね、嬉しいわ」
その言葉を聞いて、美遊は声の方へ目を向ける。
「要件は何? なんで私一人を呼び出したの?」
「ふふ、私の話を聞いてくれるなんて、やっぱり美遊は優しいのね」
クロのからかうようなその態度で美遊は確信する。
やはり”気づかれている”。
それでも、何とか動揺を抑えて聞き返す。
「・・・・・なんで、私一人を呼び出したの?」
美遊は、クロの事をどうにかしたいと思っていたのは事実だが、探す手段はどこにもなかった。ここで会うことができたのは、クロから”ここで待っている”という手紙をもらったからである。
しかし、ここで疑問が残る。なぜ自分一人なのか・・・・・・。
そこから美遊が導き出したのは。
唯一、話し合いが可能な人物であるから。
それはつまり、イリヤが言った、”あの時のセリフの可能性”に気付けていたかどうか。
気づいているということは、それが自分自身に強く関係しているからであると。
つまるところ、イリヤが日常に戻るにあたって、その場所へ一緒に行けない人物。それはクロであり美遊である。
その答えはそのまま、クロと美遊が同じ側の人間だと物語っていることになるのだ。
そして、クロはすでにそこに行きついている、と。
「まっ、座って話しましょ?」
後ろから。
先ほどまで前方の岩場に立っていたクロが消え、声が後ろから聞こえる。
それと同時に、どこから用意したのか、クロに肩を優しく引かれることで、美遊は椅子へと座らされた。
「・・・・・・ッ!?」
咄嗟に飛びのき距離をとるが、何が起こったのかいまだに理解が追いつかない。
魔術? しかし、そうだとするら、あれはキャスターが使っていたのと同じ・・・・・・。そこまで思考した美遊を。
「やっぱりね。そうだと思ったわ。今の現象を見て、冷静に、そして真っ先に魔術だと断定して思考していた。なんでわかったのかって顔ね。気づいてないの? 美遊って結構顔に出るのよ? それに”あの時”のセリフに私と同じぐらいショックを受けていたしね」
やってしまった。美遊は思わず顔を歪める。
ここへクロが来た理由。それは確信を得るためだったのだ。
「美遊は最初からこっち側の人間だったのね。出会う前から・・・・・・最初から。ふふっ、そんなに身構えなくていいのよ。今の私たちには敵対する理由なんてないもの。私たちは分かり合える、そうでしょ?」
「・・・・・・分かり合える?」
「そうよ。美遊も気づいたんでしょ。イリヤのあの発言、それは・・・・・・・・・・・・今までの出会いすべての否定。・・・・・私ね、今日中にイリヤを殺そうと思っているの。でも、それを美遊には邪魔をしてほしくない」
そこまで言われて初めて気づく。
クロは、似ている境遇だった自分へ”話し合い”に来たわけではないと。
そうじゃない。
確かに、話し合いは行う気だったのだろう。
しかし、それはあくまで過程。それをしたうえで、それでもイリヤを助ける理由はあるのか? それを問いに来たのだ。
「美遊は私の邪魔をする、それは分かるわ。でも、その必要はあるの? イリヤは私たちを否定した。今までの時間を否定した。そして・・・・・・私たちとのこれからを否定した。それなのに美遊はイリヤを守るの? まぁ、私以外ならそれもいいかもしれない・・・・・・けど、今回は、今回だけは、私はイリヤを殺す権利がある。そして、私と同じように否定されたあなたに・・・・・・それを止める権利はない」
納得のできる理由だった。
確かに。
あの時のイリヤの発言は、美遊自身も辛かったし悲しかった。
特にクロは美遊とは違う。
イリヤにその気があったにせよなかったにせよ、その場で死ねと言われているようなものだ。
クロの言い分はとても正しい。
でも。
それでも。
「一つ質問する。クロ、あなたはここでイリヤを殺してどうするの? これから先どうやって生きるの? それに、その魔術刻印がある限り、イリヤを殺せばあなたも死ぬ。あなたの本当にしたいことは何?」
「一緒に死ぬわよ。私がイリヤを殺せば二人とも死ぬ、私が死ねばイリヤが助かる。それだけだもの」
そんなものは認められない。
「そう・・・・・・なら、やっぱり私はあなたと戦う」
「それは・・・・・・イリヤを守るってことでいいのね? 怪我じゃすまないかもしれないのよ・・・・・・」
期待半分。
その程度だったのだろう。その声は残念そうではあるが、どこか納得もしている。
しかし、クロの言っていることは美遊の考えとは違う。
「違う。私が守るのはイリヤじゃない」
「・・・・・・?」
初めて、クロが訳が分からないといった顔をする。だが、その答えはすぐに、美遊の口から紡がれた。
「私が守るのはイリヤ一人じゃない・・・・・・イリヤとクロ、二人とも守りたい」
「ふふふ、あははははははは。・・・・・・まさか美遊がそんなこと言うなんてね」
思わず笑ってしまった。
予想外過ぎる。
ふー、と落ち着くように息を吐く。
美遊は本当に優しい。
優しいなぁ。
「どうやって・・・・・・?」
静かに、それでいて強い口調で。
「どうやって・・・・・・どうやって助けるの? 言葉? 力ずく? でそれってお互いが納得できるもの? 全員が納得できるような素晴らしい結末なの? ・・・・・・二人とも守る、とってもいいと思うわよ。正しいし憧れる。でも、そんなことは絶対にない。イリヤが望むのは過去の日常。私の望むのはイリヤが否定した日常。・・・・・その二つは絶対に交わらない・・・・・・! 良い言葉なんて求めてない! そんなことで・・・・・・その程度の事で私が手を引くなら、こんなことになんかなってない!!」
我慢できない。思わず怒鳴り声をあげてしまうほどに・・・・・・。
「最初はイリヤを殺せば終わり、その程度の気持ちだったわ。けど、その後散々考えさせられた。自分が何をしたくてどうしたいのか、それは本当に正しいのか。美遊が望む未来も考えなかったわけではないの、でも・・・・・・! それを否定された!! ・・・・・・美遊、あなたに分かる? 自分のすべてを奪った人物が、何も知らずにのうのうと生きて、好きな人の隣に立って、こっちが一緒に生きる未来を考えたら、最後にはオリジナルなんて必要ない、そう言ってるのよ」
美遊は何も言ってこない。
言えないのか、言わないのか。美遊の表情に変化はない。
「もう無理なのよ。終わってるの。だからこれが最後の忠告・・・・・・邪魔をしないで美遊、あなたとはできれば戦いたくないの」
これは本心だ。
何もできなかったにせよ。二人の事を真剣に考えてくれる人物なのだ。そんな人物とは戦いたくない。
それでも。
「断る」
その思いは届かなかった。
「なんで・・・・・・なんでよ! 意味がないことだって分からないの!!? あなたが私の前に立つことなんて時間稼ぎ以外のなんでもない! ただ悲劇を伸ばしてるだけなの!!」
美遊は言った。
「あなたはそれを悲劇と言った。」
「――えっ?」
「これが悲しいことだって、クロはちゃんとわかってる。だからこそ、私はあなたを見捨てられない。自己満足で十分。それでクロの言う悲劇が無くなる可能性ができるなら」
クロは美遊が何を言いたいのか分からない。
「私は、クロを犠牲にしてイリヤを助けるなんてことはしない。・・・・・・確かに私には二人の最適解なんてわからない。だけど、それを止めることはできる。クロがイリヤを殺しに行くことで自分も死ぬというのなら、私がクロと戦うことであなたを死なせない」
なるほど。と、クロは美遊の言わんとすることを理解する。
けどそれは。
「できるの? 美遊はそれでいいのかもしれないけど、それは私を傷つけない、そう言っているようなものなのよ。それは、戦いにおいては大きすぎるハンデになる」
クロの言っていることは正しい。
だが、クロは忘れていた。美遊もまだ、本領を見せていないと・・・・・・。
「問題ない。今度は私も本気で戦う」
そう言って美遊は懐から一枚のカードを出すと。
「『
その言葉と共に、二つの魔法陣が美遊を包む。直後。強大な魔力の光が美遊の元から溢れ出す。
「イリヤは殺させない。そしてクロも死なせない」
光から現れたのは青い騎士。
自分の体に宿す、セイバーの疑似召喚。
「あなたがいくら認めなくても構わない。助ける理由なんて、助けたいだけで十分!!」
「そう、嬉しいわ、美遊。・・・・・・でも、ここで倒れて」
そして、二人は同時に動き出した。
その少し前、美遊と学校で別れたイリヤは、そのまま士郎の病室に向かった。
この二日間、いろんなことがありすぎた。
そのせいで、士郎の病室に行くのも二日ぶりになってしまった。
毎日セラやリズが行っているとはいえ、そろそろ自分も行くべきだ。いいや、自分が会いたいのだ。この疲れを、士郎に癒してもらいたいと。
病室にいる士郎は先日あった時と変わらないように、静かな寝息を立てて眠っている。
「私、どうすればいいのかな・・・・・・お兄ちゃん」
「・・・・・・」
「ねぇ聞いてる? お兄ちゃ・・・・・・あっ」
つい。
思わず出てしまった。
寝ている士郎に話しかけてしまうほど、今のイリヤは参っているのだ。
「イリヤさん、士郎さんは寝ていますけど・・・・・・頭大丈夫ですか?」
「そんなことわかってるからね、てゆうか今の流石にひどすぎると思うんだけど!?」
ルビーのいつも以上の辛辣な物言いに、思わずツッコミを入れてしまう。
「まぁ、それはそれとして、何か悩み事ですか、イリヤさん」
軽く流すあたりはいつも通りなのだが、どこか普段より態度が素っ気ない。
「えっ、んーまぁ、ルビーでいいか」
「ちょっとなんですかーそれ、大事な大事な魔法少女のパートナーに向かってちょっと冷たくないですかー」
いつもこんな感じと言われればそうなのだが、どこか違和感をぬぐえない。
まぁいいか、とイリヤは今の自分の悩みの方を優先する。
「なんか、もう、どうすればいいのか分からないんだよね。昨日のクロも、なんで急にあんなこと言ったのか・・・・・・」
イリヤは本気で分からなかった。
クロの存在も、なんで命を狙うのかも、何がしたいのかも。
本当に・・・・・・わからない。
「イリヤさん、これは可能性の話です」
唐突に。それでいて真剣にルビーが言う。
「昨日のお風呂でのイリヤさんの望み、あれにクロさんは腹を立てたのではないでしょうか?」
「どういうこと」
「『元の生活に戻りたい』それは、聞きようによっては、凜さんたちと係わってからの生活、そのすべての否定と捉えられても仕方がありません。それにクロさんの存在がどうであれ、魔術的な何かがあるのは確実。クロさんからしてみてたら、存在の全否定にもなりえます」
「・・・・・・ッ!? そっそんなこ、と・・・・・・そうだね。だからクロは・・・・・・」
「はい。実は私も少し怒っています。私と出会ってから本当に何も楽しくなかったのですか? 辛い事ばかりでしたか? 何か得たものはなかったのですか? 魔術の世界に入るべきだとは言いません。それでも、今までの生活を、出会いを、過去を、なかったことにしたい、そのような発言は言ってほしくありませんでした」
ただ真剣に、いつもの様なおチャラけた様子などなく。
だからこそ。
もし。
本当にイリヤの気持ちが、昨日言った通りなのだとしたら、契約の解除まで視野に入れて。
士郎のベッドに顔を伏せていたイリヤが顔を上げた。
そして、そのイリヤの答えは。
涙だった。
「えっ!? ちょっ、なんで泣いてるんですかイリヤさん!? これではなんか私が泣かしたみたいに・・・・・・!」
「うう、ん。そうじゃ、ないの。ルビーに言われて、初めて自覚して、私本当にひどいこと言ったんだって・・・・・・。きっとクロだけじゃない。凜さんもルヴィアさんもルビーも、そして美遊も、みんなを傷つけた。だから・・・・・・私は謝りたい、私はみんなとの時間が大好きだったって、これからだってみんなといたいって!! もう遅いかもしれない。自己満足になるかもしれない。それでも! 私はみんなに謝りたい!!! それが私のできる唯一の償いだから・・・・・」
イリヤは真っすぐに、心の迷いなどなく言い切った。
そんなイリヤに対してルビーは。
「全く、可愛いだけではなく格好いい魔法少女なんて今まで見たことないですよ。でも、それでこそイリヤさんです。最終確認です。イリヤさんの決断が間違っている可能性もあります。クロさんが言った通り、イリヤさんの言ったことは、別に間違ってなんていません。それでも、イリヤさんはこちらを選ぶんですか?」
ルビーらしくない、イリヤを試す発言に、
「大丈夫、魔術かどうかなんて関係ない。私はただ友達に謝りに行って、もう一人友達を作りに行くだけなんだから」
自分の意思を、しっかりと。
「ほんと格好いいですねー。なら行きましょう。実は数分前からクロさんと美遊さんが会っているとサファイヤちゃんから連絡が来ています。今のイリヤさんなら何の問題もありません」
「ちょっ! それ、なんで早く言わないの!? いくよルビー・・・・・・っとその前に」
「どうしたのですか? イリヤさん」
「ううん、ちょっとお兄ちゃんに伝言を――――」
「それじゃルビー転身お願い!」
「了解です!!」
イリヤが書いた手紙には一言。
『また来るから』と。
ただ、今度は”みんなで来る”、そう誓って。
そしてほぼ同時刻、その手紙は読まれることになる。
美優とイリヤ、セイバーとアーチャー。
自身にそれぞれの英霊を宿している二人の戦闘は、ある種次元を超えていた。
英霊なのだ。二人がその気になればそれは戦争と言われる域にまで発展する。二人の戦闘に入り込めるものなど、この世界には数えるほどしかいないだろう。
宿した英霊はお互いに三騎士。
それ故に、美遊とクロそれぞれがある条件下での優位性を発揮する。それぞれ、至近距離、遠距離、両方の攻撃手段を持っている。
だが。
至近距離では美遊が。
遠距離ではクロが。
それぞれ優位性を発揮する。
本来の英霊同士の戦いであれば自身の弱点など真っ先に対応策を持っていてしかるべきだ。
しかし、今の二人は借り物。
クロの投影魔術ならともかく、美遊にそこまで高度な経験。つまりは技量を得ることはできない。
だからこそ、いかに自分の有利な状況に持っていくか、それこそが重要になってくる。
わずかに確認できる二人の影は、真正面から衝突した。
美遊が剣を振り下ろし、クロが双剣で受け止める。
「くっ・・・・・・!」
宿した英霊のステータスに差があるのか、僅かにクロが押され始める。
この一合は二人にとって大きな意味を持つ。
それによって、クロは美遊が本当に英霊の力を扱っていることを。美遊は今までと違い、クロの動きについていけることを確認する。
それを把握した二人は、それぞれ真逆の行動をとる。
つまりは、美遊は追いかけ、クロが逃げるという構図。
セイバーの力は自身の剣に魔力を纏わせることで、圧倒的な破壊を生み出す。その理不尽なまでの破壊力はクロの剣でも簡単に受けることはできない。
力がではない。武器がなのだ。
確かに数回なら問題ない、それでも投影品と言う性質上、簡単に壊れ消えてしまう。
再び投影するまで、そのわずかな隙。
それこそが美遊の狙い。
士郎の力を誰よりも理解している美遊だからこその作戦。
だが。
それではクロには届かない。
美遊の一撃一撃は、強大すぎる。それ故にそれを制御できない。
剣技は継承されている。それでも、その技術が思考に追いつかない。それは言ってしまえば美遊の弱さそのものだった。
戦い方、と言う面ではクロの動きは完璧だった。
木々や岩場に隠れながら移動し、自身の転移と言う圧倒的武器を最大限生かしながら戦ってる。
またしても、クロと言う存在を一瞬見失ってしまう。気づいた時には空中からクロの剣の雨が降り注ぐ。
「・・・・・・くっ!」
そして、その攻撃をかわした時には、すでにクロの姿はない。
「なかなかやるじゃない、美遊。ちょっと驚いてるのよ、これでも、ね」
声がするのは背後。
木に寄りかかり、無邪気に言うその姿は、余裕そのものだ。
「予想はしていたけど、まさか本当に使えるだなんてね。セイバーをその身に宿しての疑似召喚。でも、それじゃダメかな。それじゃ結局・・・・・・」
その瞬間。
クロの姿が視界から消える。
「なにも救えないわよ」
またしても背後から。今度は剣を振るって。
クロの優勢は揺るがない。
しかし、クロの剣が空気を斬る。
セイバーの直感スキル。それがあれば、『背後から』程度の攻撃見なくてもよけられる。
「確かにクロは強い。それでも、私は負けない」
いける。と、美遊は直感的に判断する。そもそも地力が違う。
力、速度、反射、肉体的な強さ。すべてにおいて、セイバーはアーチャーのそれを凌駕する。
確かに翻弄されてはいる。それでも美遊もまだ一太刀もくらっていないのだ。
(・・・・・・なんて思ってたら、一生私には勝てないわよ、美遊)
美遊は攻め続ける。前へ、前へ、前へと。
それでも、クロの余裕を崩すことはできない。
「どうしたの美遊、私はこっちよ?」
(なんで・・・・・・なんで、なんで攻めきれないの)
ここに来て、初めて美遊が焦りを感じる。
その不安はわずかな隙となって美遊へ牙をむく。
「だからね美遊。戦闘中に油断はダメよ」
「――!」
クロの双剣が美遊の前で光る。
何とか防御はしたが大きく弾き飛ばされた体は、それだけで大きなダメージを受けてしまう。
しかし、なぜか追撃はやってこない。
「・・・・・・なんで攻めきれないのって顔ね」
美遊の心の疑問に答えるように、クロは語る。
「だって美遊全然だめだもの。力、速度、反射、すべてで勝ってしまっているからこそ、それにしか頼らない。身体的能力ってね、技量があって初めて真の力を発揮するものなのよ。でも美遊にはそれがない。単純な攻撃。思考。そして何より・・・・・・圧倒的戦闘経験の差。運がなかったわね、もし私が疑似召喚した英霊がアーチャーでなければ、勝負は分からなかったのにね」
士郎に聞いたことがあった。
投影魔術は、投影した剣の担い手が、その技術を得るまでの過程を習得できると。憑依経験。
確かにこのままでは敗北は確実。
それでも、セイバーの宝具を使えば勝機はある。しかしそれはできない。
助けることが目的の美遊にとって、相手を殺してしまう攻撃を放つことはできない。
つまるところ、詰み。
「どう? 今すぐ降参するなら。美遊には手を出さない。もちろんカードとステッキは貰っていくけどね」
「それは無理。私はあきらめない」
即答。
手はない。策があるわけでもない。それでも、こんなところであきらめるなら、そもそも誰かを助けるだなんて言いださない。
「私は二度と、あなたを一人にしないと決めた。敵でもいい、私はあなたの側にいる」
「そう。美遊、ありがとう。・・・・・・なら。殺すのは私であるべきよね」
クロの弓に今までとは比較にならない魔力を持った剣が投影される。
その時。
クロと美遊のちょうど真ん中、そこに一つの攻撃が放たれる。
煙が止む。そして。
「クロ、美遊。遅れてごめんね。でも、もう逃げたりしないから」
イリヤは姿を現した。
突然やってきたイリヤに、最初は困惑したものの、すぐに冷静さを取り戻す。
「急に何? いきなりやってきてお姫様気取り? いい加減にして、あなたのわがままは聞き飽きたわ」
「ごめんなさい!!!」
「は?」
頭を下げてきた、イリヤの突然の謝罪に、クロは意味不明だという風に声を上げる。
「わたし、みんなに酷いこと言った。凜さんたちにも美遊にも、クロにも。あんなこと言ったら怒るのは当然だよね。でもあれが私の心のすべてじゃないの! たしかに元の日常は危険なんかないし、今まで通り楽しいかもしれない・・・・・・けど! 私は、みんなと一緒にいたい! だから、ここへは謝りに来たの、私を許してくれなくてもいい、それでも! 私はみんなと一緒にいたいから!!」
その言葉に、美遊の顔は安堵の表情を浮かべている。
だが、クロは。
「それだけ。なら、ここで殺すわよイリヤ。わざわざ殺されに来るなんて馬鹿ね」
クロの決意は揺るがない。
「クロっ!」
美遊の叫ぶ声がする。
関係ない。
クロの手には一本の剣が投影される。
それは今、美遊が手にしているものと全く同じ聖剣。美遊の聖剣で防がれても絶対に仕留め損なわないように。
クロはそのまま『
それを見て、流石にやばいと思ったのか、美遊も宝具発動の準備をする。
問題はない。美遊の『
「それじゃ、さようなら。イリヤ、美遊」
その声と共に、引かれる剣。
『
その破壊力は余波だけで森の一部を消しとばしている。
「『
クロの攻撃を相殺するため、美遊も自身の宝具を放つ。
しかし、それでは止まらない。
自身の心を締め付けながら、クロは最後の工程を行う。
『
それは、美遊の『
が、その瞬間。
「『――――ゼロにする』」
一瞬しか見えなかった。
それでも、その言葉と共に現れた、赤い髪の男。その姿は、その少年は。
「(お兄ちゃん!?)」
クロの呼吸が止まる。
だが、クロの思惑とは外れるように、最後の工程が実行された。
巨大な爆発と共に、あたり一面が光に包まれる。
誰もが思った。自分たちはここで死ぬと。結局何もできないまま終わるのだと。もちろん・・・・・・クロも。
――だが、光が止むとそこには、誰も・・・・・・傷ついてなどいなかった。
それどころか、確認できているという事実が、自分が生きていることを証明してくれている。
その現象の答えは、一つの魔術。
『ソーロルム』の術式。
元になった伝承は、すべての剣の切れ味をゼロにするというもの。
その伝承をもとに”『とある』の世界の魔術師が構築した”魔術。
認知したあらゆる武器の攻撃力の初期化。
能力。それは、その武器が弾丸だろうと、核兵器だろうと・・・・・・最高級の聖剣だろうと。その武器の攻撃力を『ゼロにする』。
それは異世界の魔術。投影した剣から得た、その剣の持ち主の魔術。
理不尽で、不条理で、不可解な魔術。
「さてと”クロ”、ちょっと
それはまさしく『正義の味方』のように――。
――衛宮士郎は現れた。
今回も読んでいただきありがとうございます!!
ちょっと今回無駄にセリフが多いですね・・・・・・文才がほしイ(涙)
士郎の初キスは知らぬ間にクロがかっさらった!? まぁ満足している展開なのでOKです!!(セイバーは抜きで)
お分かりの方もいると思いますが、士郎の最後のセリフは某ツンツン頭の主人公から貸していただきました。これが二次創作の醍醐味ですしね(笑)
さて今回は久しぶりに『吾輩は猫である』を行いたいと思います。
議題は、最後に出てきた士郎の魔術です。
文中にも書かれていますが、士郎が使ったのは『とある魔術の禁書目録』で使われていた魔術です。
『認識した武器の攻撃力を問答無用でゼロにする』。恐ろしく強い魔術ですが、武器以外には作用しないところが難点ですね。
さらに、どの武器であろうと、攻撃力をを無効化できる時間は10分程度。ほとんどの戦闘ではほぼ無敵なのですが。
キャスターみたいに魔術師や、ギルガメッシュのように大量の宝具を持っている敵とは相性が最悪ですね。もちろん使えないわけではないのですが。10分と言う時間制限のため、それ以上戦いが伸びる相手にはなかなかきびしいものがあります。
ちなみに、この術式を使う魔術師が負けた方法は、武器と認知できない部位での攻撃でした。『武器の認識』しなけらば発動しない、意外と使い勝手の悪い魔術かもですね(笑)
でも今回はそのおかげで助かったので感謝しましょう
今回はこれで終わりです。
そして今回も感謝の言葉を述べたいと思います
まずは新しく評価の方をくっださった。
Cream様 ラーク様 桃華乱壊の鬼様 tyler様 いのりょう様 alpha1397様
(´・ω・`)ショボーン様 gizeny様
大変ありがとうございます
続いて誤字の報告をくださった方です
天月神夜様 緑 緑様 (´・ω・`)ショボーン様 ラーク様 クマ64様 かなた様
おい、その先は地獄だぞ様 ミイヤ様 関節痛様 ちきぐうぃ様 ケットル様
千本虚刀 斬月様 OGINE様 竜皇帝様
本当にありがとうございます!!