過度な期待はせずに気楽に見ていくことをお勧めします。
感想・批評は歓迎ですが暴言・悪口は炎上の原因となりますのでおやめください。
001
001
「知らない天井だ……………」
いきなりネタ発言かよと思った人もいるだろうけれど、マジで冗談抜きでそんな状況なのだ。
あの後―――異世界につながる黒い門を潜り抜けた後、俺は知らないベッドに寝ていて、知らない天井を見上げていたのだ。
情報収集のため一先ず部屋を漁ると、学ランと生徒手帳を発見した。
そこに書かれていた高校の名は『直江津高校』
生徒の名は『阿良々木暦』
ここまで分かれば皆さんもう察しはつくと思うが、そう、この世界は『物語シリーズ』の世界だったのだ。
生徒手帳によれば、俺が成り代わった時点では『阿良々木暦』は高校一年生だった。
「っつー事は時系列で言えば『傷物語』の前ってことになるな」
俺は部屋にあったカレンダーを確認する。
「確かあれは高校3年に進級する春休みの出来事だったから………約一年後か……」
時計やカレンダーを確認したところによれば現在は3月20日、どうやら春休み中のようで、4月には二年生に進級するらしい。
原作開始まではおよそ一年あるということになる。
「さしずめこの一年の空白期間は俺がこの世界に適応するための
しかしまぁ、ありがたいことには変わりない。
「じゃ俺は精々ご厚意に甘えて有意義にこの時間を使わせてもらいますかね」
そう言って俺が行動し始めようとしたその時だった。
バタン!
「兄ちゃん!朝だぞコラ!」
「いい加減起きないとダメだよ………ってあれ………?」
扉を蹴破らんばかりに乱暴に開けて騒がしく入ってきたポニーテールで背が高いジャージの少女とたれ目で和服姿の少女が俺を見るや否や、ポカンとした顔で固まった。
言わずもがな、阿良々木暦の妹達にしてファイヤーシスターズの異名をとる阿良々木火燐と阿良々木月火である。
「あれ?兄ちゃん起きてたんだ……」
「珍しいこともあるんだね」
どうやら、阿良々木暦は結構なお寝坊さんだったということがうかがえたセリフだった。
「全く、人がせっかく起こしに来たってのに何で起きてるんだよ」
「本当だよ、妹の仕事を勝手に取らないでほしいものだよ」
訂正、こいつらもこいつらで原因の一端なようだった。
「…まいっか、起きてるならさっさと降りて来いよ兄ちゃん」
「そうそう、お兄ちゃんがこないと朝ごはん食べられないんだからね」
そう言い残すと二人は心なしかがっかりしたように部屋を後にした。
「さて………」
一人部屋に残った俺は机の上に置いてある手鏡を見た。
そこに映っていたのはこの俺零崎無闇の顔ではなく、男にしては長い黒髪にぴょこんとだったアホ毛がトレードマークのように存在を主張するこの物語の主人公、阿良々木暦の姿だった。
「だが、何もかも一緒って訳でもない」
鏡に映る阿良々木暦の顔には元々の阿良々木暦とは決定的に違う箇所があった。
「は、吸血鬼でも無いのに赤い目なんて、不気味でしかねえよなぁ」
赤く、紅く、緋い、まるで鮮血のように真っ赤な目がこちらを見返していたのだ。
無闇は、この目が自分の異常性の表れの象徴に思えてならなかった。
まぁ、そんな事はさておくとして––––––
「姿形は完全に阿良々木暦だが、肉体のスペックはどうやら俺のものだな、となれば肉体そのものは俺のものだが主人公に成り替わるに当たって外見だけ変えたってところか」
恐らく、この世界に順応するための措置なのだろう。外見さえ変えてしまえば中身が変わったことなど幾らでも説明がつく。
「何はともあれ、先ずはこの辺りの探索だな。直江津高校とか、主要な建物の場所を把握しておくべきだな」
俺は当面の目標を情報収集に定めた。
この街には何があって誰が住み、そしてどういう物語を辿っていくのか、それを知らなければ何もできないのだから。
「まぁでも、せっかく貰ったチャンスだ。この世界、好きに生きてみるか」
そうして俺はようやく湧いて来た異世界の実感とともにこの世界で生きていく決意を固め、部屋のドアのドアノブに手をかけ、外へ踏み出したのであった。
002
あれから一年の月日が経った––––––
勝手にキンクリした事は申し訳ないが二年生のうちは本当に何もないただの
授業の出席数を計算し最低限授業に参加し後は全て探索と情報収集、やったことといえばこれだけだ。
そんなこんなで俺は再び春休みに突入しているのであった。
事が始まったのは終業式直後の午後のことだった。
その時の俺は高校の周辺をウロウロと散策していたように思える。
別に情報収集が目的では無い。
それはもうこの一年で終わっている事で、今となっては必要のない事だった。
ならば何故俺は今もこんな事をしているのかと言うと、言ってしまえば今までの習慣が抜けなくなったのだ。
この一年で俺にはどうやら、放浪癖がついてしまったようだ。
と言うか、これくらいしか楽しみがないのだ。
勉強やスポーツも、俺の前では味気ないものでしかない。
そんな訳で、何も考えずに特に理由もなく徒然なるままに歩き回ることの方が今の俺の趣味となっている。
とは言ったもののそれにも限度があって、そろそろ高校の駐輪場に停めてある自転車を取りに戻ろうと、校門前の交差点に差し掛かった時だった。
何気なく校門に目をやると、一人の女子生徒が出てくるところだった。
「あいつは確か……羽川翼とか言ったっけか」
人に対しては興味が薄い俺にしては珍しく、俺は目の前の女子生徒の名前を朧げながら知っているのであった。
どうやら彼女は長い髪を後ろで一本にまとめている三つ編みの位置を調整しているようだった。
前髪を一直線に切り揃えていて、全く改造していない校則通りにスカート丈はきっちり膝下10センチ。
黒いスカーフ。
ブラウスの上には校則指定のスクールセーター。
同じく校則指定の白い靴下にスクールシューズ。
まるで優等生を絵に描いたような姿である。
というか、実際彼女は優等生だ。それも度を越した。
話に伝え聞く限りではその性格は公明正大なしっかり者の委員長と言った感じ。
五教科六科目で六百点満点を取る学力。
俺が彼女の名前を覚えていたのはこのためだ。
高校のテスト結果が張り出される時にいつも俺と同率一位をキープしてる名前だったからだ。
例外の俺はともかくとして、普通に考えたらどれだけ勉強をしたとしても全教科満点を取ることなどそうそうあるものではない。
にも関わらず彼女の名前は常に例外の俺と同じところにあるというのだから、興味も湧く。
しかしまぁ、だからと言って俺と彼女に接点がある訳でもない。
というか、ロクに話したことすらない。
俺が彼女を一方的に知っているだけで、俺の興味はそこで止まっている。
彼女の方も同様だろう。
ロクに授業に出ていないせいで俺が高校でどのような評価を受けているのかは知らないが(というか興味もないが)彼女が俺に抱く印象などいつも自分と同じところに名前がある人程度だろう。
俺がほとんど学校に行かないものだから顔すらも知らないということもあり得るのだ。
まぁ、言ってしまえば所詮他人同士の関係に過ぎない。
知り合いにも満たないのだ。
だからまぁ、ここで彼女にエンカウントしたこともただの偶然な訳で、これから起こるハプニングも不幸な偶然であり、俺に非はないと言っておこう。
彼女は三つ編みの修正に夢中で正面から歩いてくる俺には気付いていないようで、俺の方もここで偶然会ったからと言って別に話しかけるような興味も抱いていないので俺はそのまますれ違うつもりだった。
その時だ。
何の前触れもなく、風が吹いたのだ。
別段強くも弱くもない、何の変哲も無い普通の風だ。
普段の彼女ならちょっとスカートを抑える程度に止まったであろう風だ。
しかし不幸なことに、彼女の両手は三つ編みの修正するために後頭部に回されていたのだ。
そのため、無防備なった彼女のスカートは面白いように綺麗にめくれ上がった。
こちらから見ると何だか、成年向け雑誌のグラビアのように扇情的なポージングをとっているように見えたので、誠に偶然とは面白いものである。
白い下着だった。
それだけ。
俺がサービス精神溢れる性格だったならここで彼女の下着を一瞬見えただけではありえないくらい事細かに描写するところだが、生憎俺はそこまで親切じゃ無い。
事細かな白い下着についての描写が見たければ原作を読んでくれ。
ともかく、俺が今時古風なラッキースケベの原点ともいえるハプニングに遭遇した際に抱いた感想としてはこれだけである。
下着が見えた程度で発情したりなど俺はしない。
とは言え流石にこんなことが起これば彼女とて前方の俺に気づく訳で。
「………………」
「………………」
変な空気になった。
というか気まずい空気だ。
「………………」
「えっへへ」
ここで笑えるとは器がでかいことだが、しかし俺のほうは至って無言で無表情だったため、かえって妙な空気が漂った。
「………………」
まぁいい、ここは彼女のためにも見なかったことにしておくのが吉か。
そう思って、俺は交差点を渡ってさっさと駐輪場に向かうため、彼女の側を通り過ぎようとした。
だが…
「なんて言うか、さぁ」
この女、あろうことか話しかけてきやがった。
俺の気遣い返せ。
せっかく人が無かったことにしてやろうとしたのに……。
「見られたく無いものを隠すにしてはスカートって、どう考えてもセキュリティが低いよね。やっぱりスパッツていうファイアウォールが必要なのかな?」
「………………」
知らねぇよ。
というかどうでもいい。
なら俺はウイルス扱いかよ…。
全く、たかが下着ごときで何でこんな面倒なことになるんだか…。
不幸中の幸いか、ここには俺と彼女以外人はおらず、あの古き良きラッキースケベの目撃者は俺だけのようだった。
「ちょっと前にマーフィーの法則って流行ったけどさ。そこに付け加えるべきかもね。後ろに手を回しているときに限って前向きにスカートが捲れちゃう、とか––––後ろは普通に警戒するんだけど前は意外と盲点だったり」
「………あのさぁ、さっきから人がせっかく気を遣って無かったことにしてやろうとしてるんだから少しくらいその意を汲み取ってくれませんかねぇ」
「あははゴメンね……でも見えたならいっそ見えたって言ってくれた方が女子的には気が楽なんだよ」
どうでもいい情報だった。
というか、下着が見えた程度のことで大袈裟だ。
「何か女の子に対して失礼なことを言われた気がしたんだけど…」
「…気のせいだろ」
心を読まれた。
マジか。
最近の女子高生は読心術が使えるらしい。
女子力ってすげー。
「……じゃ俺はこれで」
俺としてはもうさっさと帰りたい気分だったので俺は羽川の横を通り抜けて自転車置き場へ向かった。
のだが………
「ちょっと待ってよ!」
と背後から制止の声がかかる。
羽川である。
ええい……こちとらさっさと帰りたいだけなのに何を引き留めてくれとるんじゃい…………。
「まだ何か用か?今日の黒歴史を思い返して布団でうわああああああってするなら誰にも聞かれないようにしろよ」
「どんなアドバイス!?こっそり悶絶するときの注意とか聞いてないよっ!」
「よし分かった、仕方ないから俺も一緒に謝ってやるよ。だから、な、職員室行こうぜ?正直に言えば先生も許してくれるって」
「学校の備品壊した小学生!?」
「ところで女子は『創作ダンス』で何してんの?」
「やめてやめてそれを思い出させるのはほんとに勘弁して!」
「黒歴史を思い返して布団で(ry」
「まさかの無限ループ!?」
「で?結局ユーは何の用なのかな?」
「誰!?もはや誰なの!?」
「ほれほれはよ言えハリーハリー」(ノシ・ω・) ノシ バンバン
「さっきと性格が違いすぎる!?」
「表面だけで人を判断するなど未熟者め……出直してくるがいいわ!」
「理不尽!?せめてキャラぐらいは統一してよ!」
「人は皆仮面を被るものさ………そうしているうちに皆本当の自分を見失ってしまうんだ…………悲しきかな…」
「急に深いこと言いださないで!?」
「それが今回お前が得るべき教訓だ………」
「なぜだか分からないけどそのセリフは今言うには早すぎる気がするからやめて!」
「お前は何でも知ってるな」
「何でもは知らないわよ知ってることだ………ってだから!そのセリフを私に振るのはまだ早いって時系列的に!」
「やだなぁ時系列とか一体何を言ってるんだよ小説の世界じゃあるまいし」
危ない会話だった。
「で?何の用なの」
「急にテンション変えるのはやめて……」
ゼェゼェ………と息切れした様子の羽川。その顔には疲れが如実に表れていた。
「えーっと何だったけ………今のやり取りのせいでド忘れしちゃった」
「そうか、じゃあな」
「ここで帰ろうとしないで!?」
「んじゃはよ話せや」
「阿良々木君帰ろうとしてたのになんで学校に戻っていったのか気になって………」
「自転車通学だからだよ言わせんな恥ずかしい」
「何で!?」
「というか、なんで俺の名前知ってんのさ」
「えぇ?それは知ってるよ同じ学校じゃない」
規模が大きすぎる………。
その言い方だとお前は直江津高校の全校生徒の名前を網羅していることになるが………。
あながちありえなくもないような気がして怖い。
やだ……この子の委員長力、高すぎ………。
「それに阿良々木君は学校でも結構な有名人だよ、知らなかったの?」
あぁやっぱ目立ってたか………。
ほとんど学校に行ってないくせに成績だけいいもんだからなぁ………。
カンニングの常習犯とでも思われてるのか……。
「そうだとしても、俺が阿良々木暦だってなんでわかったんだ?」
そう、俺がどれだけの悪名を轟かせているのかは知らないがこいつと俺はほとんど接点がないのだ。
そんな中こいつはどうやって俺が悪名高い阿良々木暦だと特定したのだろうか。
「それは一年前から急に成績を伸ばした赤目とアホ毛が特徴の男子生徒がたまに出没するらしいって噂だったからね、一目見て分かったのよ」
学校の七不思議に登場する怪異みたいなことにされていた。
マジかよ………。
出没って………そんな不審者みたいに………。
「私、前から阿良々木君とは話してみたいと思ってたの」
実際に話してみたらすごく疲れたけど…………と羽川は小声で付け足した。
フヒヒwwwサーセンwwwww………自分でやっときながらキモすぎワロタww
「ふーん優等生の羽川翼様ともあろうお方がこんな不登校児ごときに興味を持ってもらえるとは光栄だね」
「あれ?何で阿良々木君私の名前を?」
「皆に聞きまわったんだよ【Wanted!】ってな」
「まさかの指名手配!?」
「バッカモーンそいつがル〇ンだ!」
「私怪盗じゃないよ!?」
「奴は大変なものを盗んでいきました。あなたの……命です」
「物騒!?それもう怪盗ですらないよ!」
というのは冗談で本当は三つ編みメガネの巨乳な絵にかいたようなテンプレートな委員長がいるらしいっていう噂を去年情報収集しているときに耳にしたことがあるのだ。
というか………
「有名人といやぁお前もかなりのものだけどな」
何せ、情報収集をしていたとはいえほとんど学校に行ってない俺ですら知っているのだ。
こいつの知名度もなかなかのものだろう。
「ちょっと、やめてよ」
羽川が心底嫌そうな表情を浮かべた。
彼女がここまで不快そうな表情を浮かべたのはこれが初めてである。
「そうゆう冗談は嫌いなの、からかわないでちょうだい」
「………そうか」
なるほど……こいつ、自分が強いことを自覚していないのか………。
いやむしろ、
まあいい、そんなのはこいつの生き方であって、どう生きるもこいつの自由なのだから他人の俺が口を出す筋合いはないか。
そう思い、俺はそれ以上の追及を止めた。
だが………
「気に入らねぇな………」
「え?何か言った?」
「何でもねえよ」
思わず口をついて飛び出してしまった言葉は幸い羽川には聞かれなかったようで俺は適当に誤魔化した。
そう、俺にはこいつの生き方が気に入らないのだ。
俺と渡り合えるほどの能力を持っている時点で、こいつは異常なのだ。
常人とはかけ離れた能力を持った圧倒的強者。
その立場にいながら、こいつはそれを自覚してない。
あくまでも自分は周りと一緒なんだ、異端じゃない、例外なんかじゃないと思っている。
周囲に溶け込むために、それは仕方のないことなのだろう。
そうやって強さに鈍感でいれば、それを周りは勝手に「謙虚」と受け取る。
多くの人間は自分より優れた存在を認めたがらない。
出る杭は打たれるということだ。
こいつは自分で杭を打つことによって周りに打たれないようにしているのだ。
だから………気に入らない。
こういうタイプの奴は自分を正当化するために自分の物差しで無理やり相手を測ろうとするのだ。
言うなれば、メートルの物差しでセンチ単位を測ろうとするようなもの。
自分にできてほかの人間にできないことなどないと思っているのだ。
強者のはずなのに弱者だと言い張る欺瞞。
自分より弱い人間がいることを認めない現実逃避。
俺から見たこいつの生き方は、酷く歪で、気に入らなかった。
あぁ本当に…昔の俺みたいで心底気に入らない。
まぁ、それを態々口に出したりはしないがな。
「阿良々木君はさ………」
そうやって一人、思考の海に沈んでると不意に羽川が口を開いた。
「吸血鬼って信じる?」
「はぁ?」
いきなり何を言い出してんだこいつ……。
一体何を言い出すと思えば吸血鬼ときたか………。
そう思ったところで俺は一つの可能性に思い至る。
ああなるほど、何を突拍子のないことを言い出すのかと思えばこの女、下着を見られて恥ずかしいから俺との会話によって記憶の上書きを目論んでいるのか。
フッ……だが甘いな優等生、黒歴史ってのはいくら上書きしようと鮮明に残るものなのだよ。
今はこうして会話することで気を紛らわすことができるがそれは一時しのぎにしかならんのだよ。
そして一人になったとたんに思い返す羽目になるわけだ。
それでもって冷静になってよくよくかんがえるとほとんど面識のない男子に吸血鬼の話なんてしたことを思い返してさらに黒歴史を増産する羽目になるのだよ。
(ΦωΦ)フフフ…げに恐ろしきは黒歴史スパイラル。
恥の多い人生を送ってきましたとは彼の文豪もよく言ったものよ………。
でもまあ、それでお前の気が済むって言うならその無駄話に付き合ってやるのも吝かではない。
あれはただの偶然であって俺に非は全くないけど。
『俺は悪くない』
「――――で?その吸血鬼がどうしたんだよ」
「いや、最近ね、ちょっとした噂になってるんだけど。今、この町に吸血鬼がいるんだって。だから夜とか、一人で出歩いちゃ駄目だって」
「へー、噂ねえ…しかも吸血鬼…今時古すぎて逆に斬新だな」
「まぁ怪談としてはポピュラーすぎるほどポピュラーだし、今では怪談だけでなくサブカルチャーの至る所で見かける話だしね、正直語りつくされている感あるよね」
「吸血鬼といやあ貴族っぽいイメージが定番だが、こんな田舎町まで何しに来てるんだか」
「それは吸血鬼に会ってみないことには分からないね」
「つーか吸血鬼みたいな人外が相手なら何人でつるもうと結局は意味ないんじゃ……」
「あはは……それは言わないお約束ってやつだよ阿良々木君」
むぅ……こいつ黒歴史の上書きを企んでいる割には快活に笑うな……
これはあれだろうか、黒歴史に耐性がなさ過ぎて恥ずかしさが天元突破するあまり脳内が吹っ切れたとみるべきだろうか……表面上は平静を保ってるけど心の中はヒャッハーしてたりして………ヤダこの娘怖い。
「なんだか途轍もない風評被害を被った気がした!」
「気のせいだ」
だから心読むなって、こえーよ女子力……。
試してみるか。
(ファミチキください)
「こいつ!直接脳内に………!」
「いきなりどうした」
「あれ……私何であんなこと言ったんだろ…………ゴメン阿良々木君、今のは忘れて……」
女子力SUGEEEEEEEEEEE!!
なんてことだ………これが真の女子力……。
そうか……学園都市在住の某『
衝撃の新事実。
私の女子力は53万です。
ガチートなんてもんじゃねえ!?
逃げるんだぁ……勝てるわけがないよぉ………
「この噂には目撃証言もあるらしくてね」
「目撃証言?何か、金髪で貧弱貧弱ゥが口癖の汚らしいアホでも見たのか?」
「誰!?妙に具体的だしいろいろ危ないよ阿良々木君!?」
「え、違うの?俺が知ってる吸血鬼ってこんな感じなんだけど」
「阿良々木君の吸血鬼のイメージがいろいろおかしい!?」
なんでだろう………もはや吸血鬼が実在したとしても女子力の前には無力のような気がする………。
はッ!つまり女子力=波紋ということか!(迷推理)
ということは女子力を身につけたこいつらは波紋戦士と同等の力を持つということに………!(錯乱)
羽川翼………恐ろしい子ッ!
女子高生の力は世界一イイイイイイイイ!!
っべーよ、まじやっべーよ女子力((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
「阿良々木君?急に震えだしてどうしたの?」
「な、何でもないであります!」
「えぇ!?何で急に軍人口調になったの!?」
「うちの学校の女子だけじゃなくて―――この辺の学校に通ってる女子の間では、有名な話。っていうか女の子の間だけではやってる噂なんだけど」
「それはまたありがちな………」
怪談や都市伝説に付属する設定としてはもはや定番と言ってもいい。
まさかこれにも女子力が………。
女子力万能説。
提唱者は俺。
「金髪の、すごく綺麗な女の人で―――背筋が凍るくらい、冷たい目をした吸血鬼なんだってさ」
「えらく細かいディーティールだな。それって単純に金髪の人を吸血鬼って思いこんでるだけじゃねーの?」
何を隠そう、俺たちが住んでいるこの町、ド田舎中のド田舎である。
都会と隔絶されすぎて髪を染めるような人がいないのである。
偶々ここに訪れていた外国人とかを見間違えた可能性がある。
「確かに現実的に考えればそうかもしれない」
でもね――――と羽川は続ける。
「街灯に照らされて、金髪は眩しいくらいだったのに――――影がなかったって」
あぁ、なるほど。
そんな特徴もあったっけか。
「影がない……ねぇ………それ本当に確認したのか?お前が言ったとおりの人物がいるとするなら、影なんて見ないでその人だけにしか意識行かないと思うけど」
「まぁ確かに信憑性には乏しいけれど、飽くまでも噂だからね、でもそのおかげで女の子が一人で外を出歩かないようになるなら治安維持的な側面ではあながち捨てたものじゃないよね」
まぁそうだ。
それには疑う余地はない。
というか俺はそれが狙いで大人の誰かが流した噂じゃないかと思っていた。
「でも―――私はね」
ここにきて、羽川の声にシリアスな響きが入る。
「吸血鬼がいるなら、会ってみたいと思うのよ」
「へぇ………」
怖いもの見たさ………ではないのだろう。
その時の羽川の表情を、俺は忘れない。
何かを渇望する者の目をしていた。
それと同時に、何処か諦めているようにも見えた。
それは以前、俺がまだ俺の世界にいた時のこと、俺が世界に絶望する前の段階にしていた顔とそっくりだった。
だからあえて聞いてみる。
「血を吸われて………殺されてもか」
「殺されるのは……嫌だけど、そうだね、会ってみたいっていうのは違うかも。でも、そういう―――人より上位に存在、みたいのがいたらいいなって」
その時、俺の時間が止まった。
おいおい……それってまさか…俺が思う通りの意味だとしたら………こいつは―――――――――
「―――じゃないと、色々報われないじゃない」
その瞬間、俺の体を電流が駆け巡った。
間違いない………こいつは――――俺だ。
「そうか……お前も……そうなんだな」
羽川に聞こえないような小さな声で俺は思わずそう呟いた。
「いけない、いけない」
羽川は慌てたようにそう言った。
「阿良々木君、話しやすい人なんだね。なんだか口が滑って、ちょっと訳の分からないことを言っちゃったような気がするよ。不思議と親近感がわくというか…親しみやすい人なんだね」
恐らく、今の一言は彼女が胸の奥に秘めておきたかった彼女のアイデンティティにもかかわることなのだろう。
そして、それを俺に吐露してしまったのはきっと偶然ではない。
羽川のほうも、きっと俺が同類であることを無意識的に悟ったのだろう。
この時、俺は生まれて初めて決意した。
羽川翼の物語に、絶対に関与することを。
クソッ……こうなると知っていればもっと早くからこいつとかかわるべきだった…。
「こんなに話しやすいのに、阿良々木君は何で友達がいないの?」
俺の中の名状しがたい感情を知らずして、羽川は聞いてきた。
その問いに対し、俺は
「必要ないからな」
とだけ述べた。
「どういう事?」
「自分で言うのもなんだが俺は普通の人間より優れている、だから大抵のことは自分でできるから誰かとつるむ必要性を感じない。だからつるまない。そういう事だ」
「でもそれじゃ寂しくない?」
「全然、周りのことなんか興味ないからな。だが……」
俺は羽川の目をじっと見ながら言った。
「お前は別だ」
「えっと…なんで?」
「お前と俺は似た者同士って話してて分かったんだ」
「似た者同士……」
「世界が生きにくいんだろう?だから必死に受け入れられようとしてるんだろ?」
「えっ………それってどういう……」
「誰にも理解されないその強さ故の苦しみ………俺なら分かる。なぜなら――――」
俺は羽川のすぐ近くまで近づいた。
困惑というより驚愕したような羽川の表情が鮮明に見える。
「――――俺も、お前と同じだからだ」
「阿良々木君と………同じ…」
「お前のことがもっと知りたい、だから―――――――――俺と友達になってくれ」
我ながら、全く歯の浮くような恥ずかしいセリフである。
完全に告白するときのセリフだ。
あーあこりゃ黒歴史確定だな。
だが、そんなことは知らん。
たとえもう一度やり直すことになったとしても、俺は同じセリフを言うだろう。
なぜならこれが、俺の正直な気持ちであり全てだからだ。
これ以外の言葉を俺は持たない。
「え、えっと……」
羽川は面食らったような表情をしていた。
しかし、すぐに気を引き締めると優しく笑った。
それは、この俺が不覚にも見惚れてしまいそうになるくらい魅力的な笑顔だった。
「分かった、こちらこそよろしくね阿良々木君」
そう言って羽川は手を差し出してきた。
握手のようだ。
俺は何も言わずにその手を握った。
「ねえ阿良々木君、携帯出して」
「何で?」
「何って友達になったんだから電話番号とメールアドレス交換しようよ」
「あ、そっか」
そう言いながら、俺は言われた通りに携帯を出す。
「じゃあ赤外線で送るね」
そう言って羽川はものすごいスピードで携帯を操作した。
いや、マジではやいんだけどアレ………。
なんかもう指の残像とか見えてるんだけど………。
女子力はどうやらクロックアップもできるらしい。
もっと先の世界へ加速するのは少女のほうだったか………。
そうして、俺の携帯の電話帳には『羽川翼』の名前が追加されのであった。
「それじゃあ阿良々木君、また明日ね」
「ああ、またな」
あの後、俺の携帯の番号とアドレスを羽川に送り、明日図書館で勉強する約束をして俺たちは別れた。
しかしその約束は誰もが思いもしないような事態により破られることになるのだった………。
どうも、零崎記識です。
羽川さんはヒロインにするつもりはなかったのに。
うちの主人公ですら落とすとは羽川さんマジぱねえっす。
というか無闇君がチョロすぎィ!!どうしてこうなった。
もっとクールなキャラにするつもりだったのに………。
夜のおかしなテンションに身を任せた結果がこれだよ!
ここからは補足です
原作知識について
無闇君が元いた世界には『物語シリーズ』は存在します。
ただし、無闇君はあらすじ程度しか見たことがありません。
なので原作キャラのことは名前しか知らない上に誰がいつ出てくるどんな奴かは知りません。
せいぜい「あぁそういえばそんな名前の奴がいたな」程度です。
容姿について
無闇君のもともとの容姿は黒髪赤眼の中肉中背です。
顔は皆さんが思い浮かべるクールキャラを想像してください
他にもご質問などありましたら気軽に聞いてください。
尚、ストーリー進行上の理由により答えられない場合がございますので何卒御了承下さい。
それでは最後までお読みいただきありがとうございました。